病原菌が漏れた研究所、外部への漏洩は防ぐが、逃げ遅れた研究者も脱出できなくなる
病原菌が漏れていた。
密閉された研究室の中なので外部に漏れる事は無い。
だが、外に出ることも出来なくなった研究員の未来も閉ざされた。
幸い研究員達は汚染されてない隔離室にこもる事が出来た。
病原菌に感染する事は無い。
しかし、決して良い状況というわけでもない。
研究員達も理解していた。
最悪の事態に研究所にどのような処置が下されるのか。
彼らはそれを知っている。
だからわかっている、自分たちは助からないと。
病原菌が漏れたら、施設そのものが閉鎖される。
外に漏れないよう、全ての扉が閉められる。
当然ながら換気口なども。
空気すらも外に漏らさない。
当然、外から取り入れることも出来ない。
全ては病原菌を漏らさないため。
内部で処理するため。
その為の対策だった。
だからこそ、避難は迅速に行わなければならない。
急いで外に逃げねばならない。
設置されてる避難路に向かわねばならない。
まだ完全に閉鎖される前に。
しかし、残された者達はそれに遅れた。
気付いた時には全ての通路が塞がれていた。
逃げる事など出来なかった。
「うわああああああああ!」
泣き叫ぶ研究員。
彼は知っている。
これからどうなるのかを。
外部から隔離されてるから、外に出られない。
そして、空気も止まっている。
待ってるのは窒息死しかない。
「いや…………いや…………」
座り込み静かに泣いてる研究員もいる。
彼女はこの状況を受け入れたくなかった。
優秀な成績をおさめ、栄えある研究員となったのだ。
その人生と経歴がこんな形でおわるなど認めたくなかった。
「…………」
茫然自失となってる者もいる。
この事態を認めたくなく。
でも、否定するほど夢想家でもなく。
行く末をイヤでも認められる性格だった。
だから、何も言えずにただ呆然としていた。
「…………」
別の者はもっと違った事を考えている。
どうせ自分たちは死ぬ、それは避けられないと悟っていた。
ならば、その最後はどうなるのかを考えていた。
まちがいなく窒息するのはわかっている。
問題なのは、この死に方はとてつもなく苦しいと聞いてる事。
どうせ死ぬなら、楽に、苦しまずに死にたかった。
(まあ、二酸化炭素が増えれば)
呼吸によって吐き出される二酸化炭素。
これによる死は苦しまなくて良いと聞いた事もある。
それが事実かどうかはわからない。
だが、せめてそれが真実であるよう願った。
どうせ死ぬならば。
運が良ければ、死ぬ前に救助が来るかもしれない。
そんな希望もある。
だが、それが夢想に過ぎない事もわかっている。
病原菌が漏れた研究所における救助は、病原菌の殲滅がなされてからになる。
それが出来る薬剤の散布などがなされる。
だが、今回漏れた病原菌に効果のある薬は無い。
まだ研究中だったのだから。
そもそも、薬物への耐性の強い病原菌である。
そうなるように作られている。
研究所の目的は、そのような病原菌を作る事なのだから。
可能な限り、感染しやすく。
可能な限り、症状・病状が重く。
可能な限り、感染による症状が長く続く。
可能な限り、対応できる薬がないように。
そういった病原菌を作る。
兵器として使えるように。
いわゆる生物兵器。
それを作るのがこの研究所の目的だ。
今回の病原菌もそんな生物兵器のひとつだった。
薬などへの耐性が高い。
というより、効果のある薬がまだ作られてない。
研究中だったのだが、結果は出ていない。
だから施設が開放される事は無い。
おそらく、薬が作られるまで研究所はこのまま閉ざされる事になる。
それか病原菌が自然に死ぬのを待つ事になる。
どちらもかなり時間がかかる。
それまでに酸欠で研究員が死ぬだろう。
もう研究員達は終わっていた。
死ぬのは確定している。
一応生きてるが、それはまだ死んでないというだけだ。
事実上、死んでるのと同じだった。
緩慢に迫ってくる死。
避ける方法は無い。
運良く病原菌を撲滅する薬が開発でもされない限り。
あるいは、抗体が即座に開発されない限り。
どちらも望みは無い。
病原菌を研究してるこの施設でもそんなものはまだ作られてない。
他のところで作られる可能性など、あるわけもなかった。
「くそ、くそ」
「イヤだよ…………」
「…………」
誰もが思い思いの形で絶望していく。
そうやって気持ちを発散しないとやってられなかった。
それ暫くすると終わる。
空気が淀み、呼吸が苦しくなってきた。
そろそろ酸欠だと誰もが察した。
せめてもの救いは、意識が気持ちよく途切れていく事だろうか。
眠りに落ちるように思考が薄れていく。
それが死の前兆だと誰もが察していた。
察しながらどうにもならなかった。
そのまま取り残された研究員達は死んでいった。
病原菌の中で、唯一の安全地帯で。
その後、施設は数年ほど封鎖された。
ようやく開発された薬が散布され、安全になってから解放される。
当時のままの状態が保たれる施設の中、干からびてミイラになった死体が発見される。
この時になって取り残された者達は、ようやく外に出る事が出来た。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい