表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

流れ星のご利益―あの頃は―

作者: 竜堂 酔仙

 今晩は流れ星が見られるらしい。

 最後に見たのはいつだったか。


 見なくてもいいかな、と思う。

 託したいほど強い願いはなく、

 祈るくらいなら今何かする。


 それでも見たいと思うのは、

 最後の一押しが欲しいからか。






「今晩流れ星があるらしいよ」

「へー、ちょっと見に行こうかな~」

「新月だからはっきり見えるんだってー」

「いいじゃん、それじゃ今晩飲みに行って、その足で見に行こうよ」

「おっ、さんせー――」


 聞くともなしに聞こえる会話。

 どうやら今晩は流れ星が見られるらしい。

 とはいえ私には関わりのないこと。

 パソコンへ打ち込みを続ける。

 彼女たちの課と異なり、私の課は今が繁忙期だ。


 作業を続けながらも、ふと思う。

 最後に流れ星を見たのはいつだっただろうか。

 記憶に残っているのは、中学生の頃。

 それ以降にも何かの拍子に見ていたはずなのだけれど、記憶に残るほど印象的ではない。

 流れ星を見ることの特別さ、偶然出くわしたからこその感動、必死に祈って時間が足りなかった切なさ、そして隣にいたあの子の温かみ。

 そういった感情がぎゅっと詰まった、今から思えば特別な記憶。

 思い出すだけでじんわり胸の内が熱くなるようなこの感覚は、ここしばらく覚えがないものだ。


 とはいえ、今晩の流れ星は別に見に行かなくてもいいかな、と思う。

 いまさら星に託すほどの強い願いはないし、祈るくらいだったら今この資料を詰めた方がよっぽど有意義だ。祈るだけで結果が変わると無邪気に信じられたのは、それこそ星を眺めていた中学生の頃までじゃないだろうか。


 それに星が降ると分かっている今祈りに行ったって、そんなの意味がないじゃないか。

 偶然流れ星を見るからこそ、祈れば願いが叶う。

 日頃から思い詰めている願いだからこそ、咄嗟に星に願うことができる。

 そういう切迫感というか、切実さがあるからこそ、星だって叶えてやりたいと思うはずだ。

 星が降ると分かっていて見に行くんじゃ、あのときの特別さが嘘になってしまう。

 そんな風に思ってしまう。


 ……それでも。

 流れ星と聞けば心は躍る。

 これもきっと感傷的になっているせいに違いない。

 今朝までなら絶対にそんな風には考えなかった。

 あの頃とは少し違う気持ちかもしれないけれど。

 今なら素直に祈れる気がする。

 この気持ちを思いだした今ならば。


 やれることは今やっているし、願う空しさは分かってる。

 これ以上、私に出来ることはない。

 そんな切実さをもし、今の私が持っているとするならば。

 最後の一押しとしては、結構なことじゃないか。

 私のあずかり知らない何かの要素が、これでカチリとハマるとすれば。

 私の祈りは、無駄じゃないと言えるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一緒に流れ星を見に行ってくれる人がいたらいいな、なんて思いました!
2023/04/24 18:57 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ