87話 寄り道
二度目の転移の後、移動した先は──真っ暗闇。いやまあ、【暗視】が有りますから大丈夫ですが。どうやら地下──ではないみたいです。
地平線の向こうから差し込む様に昇る太陽。
山々の影を浮き上がらせながら、暗闇に包まれた世界を照らして色鮮やかさを目覚めさせてゆく。
前世でも特別感が強かった夜明けの景色。
それが現世ではファンタジー要素も加わった為、より一層素晴らしいと感じる様になりました。
正直、何度見ても良いものは良いんですよね。
──という軽い現実逃避は終わりにして。先ずは全員の状態を確認します。まあ、見た感じは問題は無さそうですけどね。
「……夕暮れから夜明けに時間が飛ぶ、というのは少し感覚が狂わされますね」
「そうだな、でも、空腹感や疲労感、眠気なんかも無くなってるんじゃないか?」
「……そう言われてみますと……」
エクレの意見に対し、違う視点での事実を指摘。フォルテ達も自分の身体の変化に気付く。
基本的に規則正しい生活をしている俺達だから、所謂“体内時計”の感覚が正確。感覚的な物だが、染み付いていればこそ、判るもの。
それが、先程の転移を境にして変化している。
この事実は警戒心を強めるには十分な要素だ。
「強制的にという事は罠でしょうか?」
「──と言うよりは、気付く切っ掛けだろうな」
「切っ掛けですか?」
「俺達が異空間に来た事を認識した直後に、丁度、夜明けを迎えるっていうのは出来過ぎだ
なら、そんな演出をする理由は?」
「……夜明け…………もしかして、時間ですか?」
「そう、これは制限時間の存在を示す道標だ
その証拠に此処は亜世界ではなく、ダンジョンだ」
そう言うと反射的に周囲に視線を向ける。警戒を怠れば死に直結するのが、ダンジョンですからね。無意識に行動出来るのは良い事です。
一応、近くには魔物の反応は有りませんけどね。既に此処は亜世界ではないので油断は禁物です。
「制限時間が有るという事は、時間切れで強制退場される、という事ですか?」
「そういった仕様の遺跡型のダンジョンも有るけど必ずしも、そうだとは限らない
条件達成で得られる特別なスキルやアイテムとかが存在する事も有るからな
俺の持つ聖短剣みたいに」
「その可能性の有る場所、という事ですね」
「だから、時間制限としては日没まで、って所かな
何方等にしろ、それを目安にして攻略を目指す」
──という事で、指差し確認をした訳ですけど。全員が一致しているのに、微妙な表情に。
その理由は【直感】スキルが「でもねぇ……」と引っ掛かる様な反応をしている為。
口に出さずとも、その位は意志疎通が出来ます。
そんな訳で、俺とフォルテ達とで別行動に。
フォルテ達には正規の攻略ルートを進んで貰い、俺は単独で寄り道ルートに。
何しろ、進む方向が真逆ですからね。フォルテが神力を覚醒して得る為にも正規ルート攻略は必須。万が一、脱落しても俺一人なら痛くはないので。
その辺りは説明し、納得してくれています。
俺に限らず、フォルテ達も冒険者ですから。
それと……本音を言えば、ゲーマーの性としては手に入れられる可能性が有る物は欲しいんですよ。あと、限定イベントとかもクリアしたいんです。
物凄く個人的な理由なので言えませんけどね。
フォルテ達と分かれ俺が進む方向は北。
これが東西なら、一周して合流する可能性も十分考えられたんですけどね~。……ああいや、此処が地球と同じ構造とは限りませんから、合流する事も有るかもしれません。一周出来る造りなら。
それはそれとして。道中に魔物が出てきますが、その出てくる魔物が何れも原作とは違っています。まあ、こんな場所は有りませんでしたしね。当然と言えば当然です。
強くはないので、フォルテ達も大丈夫でしょう。俺が設計者なら、此方のルートの方が難易度は高く設定しますから。ええ、そういうものです。
「──おっ、海だ」
平原・岩山・密林・砂漠・火山・沼地・濃霧と、まあまあの難色を抜け、視界に広がるのは海岸。
砂浜ではなく、断崖絶壁の方ですけど。
海が有り、【直感】が指し示す方向は更に南下。陸地ではなくても、足場が有ると良いんですが。
考えていても仕方が無いので【亜空間収納】から小舟を出して出航します。
フォルテ達の持つ魔法の道具袋にも御手製の舟と櫂が入っていますから準備万端。アガーラタに来る道中で海上戦闘も経験しましたからね。北ルートが海に出ても進む事は出来る筈です。
「……ただ、食材にならない魚介類って見るだけで地味にテンションが下がるんだよなぁ……」
海の歓迎会の中、ふと思う。
これが食べられたなら。もっと張り切るのに。
何事も、モチベーションって大事ですから。
まあ、珍しい魔素材が得られる事自体は基本的に嬉しい事なんですけどね。
俺達の場合、売り払う事は殆ど有りませんから。俺が溜め込むか、俺が使用しますから。
【亜空間収納】に最大許容量という概念が無くて本当に良かったです。有難う。これからも宜しく。
見上げると頭上に太陽が有る。現在の位置的には可笑しな事だけれど、此処はダンジョン。自然界と直結しない場所なので気にしない。太陽は飽く迄も時間感覚の目安。その為のオブジェクト。
現在地は所謂、南極点の直ぐ側。足元に有るのは氷だけで出来た大地…………大地?。まあ、それを深く考えても仕方が無いので、そう称します。
氷の大地には氷山に裂谷が有るだけ。襲って来るモンスター達は居ますが、一面の氷の世界。普通の冒険者なら凍死している極寒地獄です。
俺は【環境適応Ⅹ】の御陰で平気ですが。これはフォルテ達も持っています。熟練度は下ですけど、Ⅴは越えていますから十分です。
そんな過酷な環境なのも難易度の一部と考えると否応無しに期待値が上がります。
ただ、此処まで6時間程で来られたのは単独行動だったからなのは否めない。フォルテ達が居ない分警戒も必要最低限でガンガン突き進めますからね。その点は一人の利点です。
問題──という程では有りませんが、一人なのを寂しく思う自分が居る事は否めません。
──とか思っていたら、目の前に巨大な大穴が。直径は1ケーラは有るでしょう。無駄にデカイ。
その大穴の真ん中。奥底にポツンと見える何か。何故か、周囲が光を通さず真っ暗だから目立つので一目で判ります。怪し過ぎますけどね。
でも、【直感】が「それゆけ!」と言ってるので飛び降ります。高さ?、20ケーラ程ですかね。
【ウインド】と魔力の足場を作って下りますから危険は有りません。でも、真似はしないでね。
──とか考えている間に到着。
直径100ミード程の広さの円柱の頂き。
周囲は更に深くなっていて──底が見えません。多分、落ちたら強制退場な感じです。死ななければ結果としては良い方ですけど。
そんな場所ですが……円形闘技場みたいです。
中央に直径40ミード程の舞台が有り、其処から外に向かって1ミード幅の段になって、擂り鉢状の観客席が有る様に見えます。
気になるのは、柱や外壁が無いという事。
場外は即死判定の様です。
「──で、番人も居る、と」
突如として頭上から中央の舞台に落下した氷塊。パッと見でも一辺5ミード程は有るサイズ。それが無音で落下してくるとか……まあ、ダンジョンだし気にしたら駄目ですよね~。──って、無理っ!。流石に言いたい事が有ります。危ないから!。
──というのは置いといて。
落下の衝撃で闘技場全体に亀裂が生じました。
それを見て、即座に理解する。どうやら此処でも制限時間が有るみたいです。燃えますね。
此方等の殺る気スイッチのONに反応したのか。氷塊に罅が入り、内側から破裂。
登場と同時に全体攻撃って悪意が有りますね~。口角が上がるのが自分でも判ります。
氷塊の中から現れたのは──エッ?、ゴリラ?。ああいや、腕が六本に、頭の有る大蛇の尾を持った四つ目の剛毛ゴリラです。
原作には居なかったボスです。……ああもうっ、ワクワクしてきます!。
──という期待に応えるかの様に、ボスゴリラは大ジャンプ!。──からの、六腕組みのアームハンマー。
円形が揺れる程の強烈な一撃で亀裂が裂け目に。外周部分が何ヵ所か崩壊して落下しました。
やっぱり、足場消失系で正解の様です。
「先手必勝──からの~、目眩ましっ!」
まだ体勢が不十分な所に一気に肉薄し、俺の方を凝視した所に【ライト】の魔法。しかも無詠唱で。範囲や持続力は落ちますが、目眩ましに使うのなら多めに注ぎ込めば強烈な閃光になります。不意打ちという意味でも効くのは実証済みです。
魔物と言えども、その姿形の機能は存在し、目が有れば視覚・視力を備えている。それ故に目眩ましというのは地味に有効だったりします。
──が、それは四つ目に対してのみ。腕が邪魔で遮られない様に懐に入って仕掛けた為、その巨体が死角となって出来る陰には届かない。
回り込む様に接近する大蛇の目には。
しかし、それは想定内。俺に同じ様に独立意思の尾が有るのなら。こういった事が出来るだろうと。予め想像すれば良いだけの事。
勿論、この場で考えていたら遅い。
普段から、こういった相手が居たらと。想像し、どんな動きをするのか。どんな攻略法をするのか。それを構築し、実戦で確立する。
それにより、相手よりも何手も先を打てる。
「貰ッタゾッ!!」と自信満々に口を開け、毒牙を剥き出しにして噛み付こうと迫る。
その大蛇の頭を氷の鎖が絡め取り──氷結。
これは無詠唱ではなく、遅延発動。
事前に発動状態で保留にしている魔法を無詠唱の様に即時発動させる技術。それにより、無詠唱には不足する威力や範囲・持続力を補えます。
……まあ、一応は難しい技術だそうで一般的には理論上の技術という認識です。
でも、エクレとティアは出来てますから。アンは短時間なら何とか……です。
因みに、俺は常時二十個前後は保留しています。今の魔法も、その内の一つです。
視界を潰し、奥の手を潰し、ガラ空きの巨体。
滅多な事では試せない、全力の一撃。
その威力を確認するには絶好の機会。普段は常に人目が有りますから中々出来無いんですよね~。
──という訳で、遠慮無く試せます。
強化スキル全乗っけ、保留強化魔法全乗っけの、収束した上で、一撃特化のスキルも。
放たれるのは、ただの突き。
それが、何れ程の威力になるのか────
《──スキル【氷波衝破】を獲得しました》
《──“氷羅の護衣”が贈られました》
《──神器“天樹の星杖”が贈られました》
《──隠し条件、“一撃撃破”を達成している為、攻略達成者にクリアボーナスが贈られます》
《──スキル【夜刀之蛇】を獲得しました》
《──魔法【コキュートス】を習得しました》
《──咒刃“天邪鬼”が贈られました》
「────あれ?」
振り抜いた右手。その格好のままで固まる。
貫いた手応えは有った。でも……え?、一撃?。これだけの難易度のダンジョンのボスを?。え?、本当に一撃で?。マジで?。
そう戸惑いながらも。無意識に、条件反射的に。魔素材を回収している自分も居て。
足元で光を放つ魔法陣を見て、転移するのだと。現実逃避するかの様に。他人事の様に思いながら。この後、どうしようかなと悩む。
取り敢えず、この事実は暫くは自主規制で封印。フォルテ達にも話さない様に気を付けましょう。
……何か嫌な黒歴史だなぁ……。




