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80話 予定


 時は過ぎ、ディファの月、4日。

 ユー姉さんの結婚式は無事に終了──って、別に不安材料なんて有りませんでしたけどね。

 姉上達が言っていた様に、この結婚は確定済み。俺が父上達の代理で赴き、ミロード子爵家と個人の繋がりも作った上に、ハルモナ王国の再建計画案。これで、どう足掻いても断るなんて出来ませんし、そんな真似はさせません。誰が逃がしますかって。最早ミロード子爵は俺達と一蓮托生です。

 ──という様な気持ちは有りませんよ?。本当にユー姉さんの幸せを願っていますから。

 ただ……そう、ただね。縁戚関係になる以上は。相互利益が有るべきだと思うんですよ。俺達からの利益を享受するだけではなく、俺達にも利益を齎す関係であるべきだとね。


 まあ、ハルモナ王国の件だけは縁戚に限定された事では有りませんから。それに利益という意味では自分達よりも子供や孫の世代が受ける物になるので未来への投資であり、相続遺産みたいな物です。

 ただ、俺達の功績に甘える様なら破滅に向かって驀進でしょうけどね。

 だから、ちゃんと教育しますよ。──と言うか、そんな典型的な俗物な貴族の方が珍しいですから。正しく、悪目立ち(・・・・)します。


 それから予定通りにホースリザードを新しい騎獣として御披露目する事にも成功しました。

 見た目が見た目なので、混乱まではいかなくても見た人達が驚いたのは言うまでもなく。

 しかし、警戒する意味で驚くのは大人が多くて、子供達には大好評でした。

 恐竜や怪獣って子供ウケしますもんね。


 尚、その様子を見ていた母上の目が商人顔負けに敏感だった事は……いえ、多くは語りません。

 ホースリザードの繁殖・飼育・調教の為の牧場はクライスト領に創設していますので。

 母上がパーティー会場で一番忙しそうだったのは見て見ぬ振りをするのがマナーでしょう。

 決して、“触らぬ神に祟り無し”という意味では有りませんからね?。


 ホースリザードはユー姉さんが先入りした時点で御披露目になった訳ですが、本番は父上達が此方に来る際に頭数を揃えての投入でした。

 その為、フロイドさんは一旦単独で戻って一行を率いる形で先頭で遣って来ました。

 きちんと鎧等で着飾った騎士っぽい装いで。

 緊張しながらも誇らしそうなフロイドさんの姿が印象的でしたし、アンも嬉しそうでした。

 「ですが、アルト様のお陰ですから」と水を指す様に呟いていたのは照れ隠しでしょう。

 素直な様で、意地っ張りな似た者兄妹なので。


 まあ、それはそれとして。

 何故か、初参加から毎年参加しているカルニバー秋楽祭も終了しました。

 あれ程、面倒臭かった事も数を積み重ねていけば慣れていくものなんだと判りました。

 それに少なくとも現状では来年は参加しなくても済みそうですからね。気も楽になります。

 ……「それはフラグだな」とか不吉な事を言った心の中の自分を多数派が殴ります。

 何て事を言うんだ、この野郎。


 それから、今月・来月はメアリー様も一緒なのでレベッカ達が楽しそうにしています。

 ええ、癒しです。現実逃避では有りません。



「……ちょっと、聞いてるの、アルト?」


「ちゃんと聞いてますよ、姉上

ですが、招待客の選定は俺達ではなくて、姉上達の管轄だと思いますよ」


普通なら(・・・・)ね」


「言葉に含み()を感じます」


返し(・・)が付いているから抜けないわよ」



 ──という、姉弟ならではの遣り取り。

 まあ、少なくとも他の場所では見せられません。要らぬ噂や憶測を招く事に為りますからね。

 本当に、“口は災いの元”とは、よく言ったものだと思います。正に、その通りですから。


 前世だと、情報化社会の発展で口だけではなく、自身の発言(・・)が、という事になりましたが。

 それを含めても、昔からの人々の教えというのは時代や社会、更に異世界に来ても通じる訳です。

 それも結局は同じ、人だから(・・・・)、なんでしょうね。


 そんな事を考えていると、フォルテが卓に御茶と御菓子を置いて「休憩しては?」と促す。

 流石はフォルテ。俺の遣る気(集中力)が切れたのを察し、絶妙なタイミングでフォロー。妻の鑑です。


 そして、甘い物やケーキに女性は弱い。

 当然、姉上とて例外では有りません。その辺りが匠の技と言うべきでしょう。素晴らしい。


 さて、俺と姉上は何をしているのか。

 それはアイドリー子爵家の新年会の準備です。

 正確には、その前段階の打ち合わせですけどね。これが地味に大変で、面倒臭いんです。

 姉上が宅に居るのは共同開催だからだけでなく、俺達が一応は経験者だからです。

 その為、主軸は姉上達が遣るべきなんですけど。先程の姉上の発言の通り、招待客の選定には俺達も参加しないと色々と面倒になるんですよね~。

 一覧表(リスト)を指差して「此処から、此処までで」って言えたら楽なんですけどね~。

 そうは出来無いから、面倒臭い。


 でも、何だかんだでパーティーとか遣る機会とか多いのが貴族ですし、俺も一家の当主なので。

 面倒臭くても遣って経験値を稼がないと。

 貴族のレベル上げ(・・・・・)の方が大変です。



「この規模での新年会は毎年遣る訳じゃないけど、新年会自体は貴族家の恒例行事だから、これからは私達も遣っていく事になる訳だけれど……

正直ね、まだ未成年だから遣ってはいない貴男達が羨ましいわ」


「毎年って考えると大変ですもんね」



 そう他人事の様に言うけど、遠くない未来の話。一般的な成人は十五歳ですが、王公貴族は十二歳。なので、俺達も他人事ではない。

 ただまあ、領地持ちでもないし要職に就いているという訳でもないので楽なんですけどね。


 領地持ちの貴族は毎回、他の貴族を招かなくても新年会は開く事が慣習。これには家臣や領民、外の関係者との繋がりを意識させ、持たせる狙いが有るという事を母上から言い聞かされました。……父上ではない点には触れてはいけません。




 一通りの話を終えると姉上がフォルテ達と一緒に夫人(奥様)トークを始めたので部屋を出る。

 女子会に男が参加しても居心地が悪いだけだし、女性側にしても邪魔でしょうから。関わらない事が御互いの為です。


 気分転換も兼ね、屋敷の外。裏庭に行きます。

 裏庭は人目に触れない所ですし、人が来ないので一人になるには丁度良い。その為、此処に誰か居る場合には途中の立て札を“使用中”にしておく。

 そうする事で「今、一人になりたいから」と他の人達に示す訳です。

 勿論、サボる為に使えば厳罰ですけどね。其処は一々言わなくても当然の事。設置を提案した最初に説明はしたので「知らなかった」は通じません。

 なので、邪魔は入りません。

 当然ですが、急用等の場合は別ですけどね。


 そんな訳で。誰も使用していない事を確認して、使用中にしてから裏庭に行きます。

 皆が自分が寛ぐ為に色々と置いたりしているので統一感の無い空間になっていますが、物が彼方此方散らかっているという事は無く、片付けられていて不快な気分になる事は有りません。

 まあ、共用する場所なので、その辺りのマナーは一人一人が心掛けていますから当然ですけど。


 俺は手製のロッキングチェアに座る。

 フォルテ達も気に入っている用でサイズを変えて十脚作り、室内に七脚が置かれています。


 此処に来る途中で、クーリエさんから受け取ったティーセットを脇のテーブルに置き、一息吐く。

 程好い甘さが疲れた心と脳に染みます。


 少しの間、何も考えずに御茶を楽しみ、思考等をリセットしてから、切り替える。

 【亜空間収納】から取り出すのは革製の鞄。

 学生やサラリーマン等が使う様なデザインの鞄。これ自体は今では珍しくも有りません。


 まあ、これも俺が使い慣れていた物を再現して、それをがメレアさん見て気に入ったので職人さんに頼んで作って貰い、使っていたのを実家のメイドや執事が見て欲しがり──広まっていきました。

 その職人さんからは感謝されましたが、ネタ元が前世の記憶なので苦笑するしか有りませんでした。悪目立ちしないので広まった事は良い事ですが。


 そんな鞄の中から取り出すのは此方等の日記帳。製紙技術が発展途上の為、品質は落ちますけどね。用途は十分に果たせるので問題有りません。


 ただ、書かれている内容は日記では有りません。俺の前世の記憶──原作(ゲーム)に関する内容です。

 生きていく上で記憶の劣化や勘違いは起こる事。だから、少しでも確かな内に記しておいた訳です。そのままだとは当初から思ってはいませんでしたが参考には為りますから。情報は大事です。


 日記帳を捲り、手を止めたページはボス関連。

 其処にはヘフォルトパスの事が書き記してある。



「よくよく考えてみれば、それは居るよなぁ……」



 フォルテを選んだから、そのルートのラスボスを倒す事を考えればいい──という訳が無い。

 いやまあ、その世界の元となる原作によっては、そうなる可能性も有るんでしょうけどね。

 少なくとも、この世界では違うという事で有り、俺自身が誰よりも理解していた事だった筈。


 フォルテのシナリオが原作(ゲーム)真の物語(メイン・ルート)

 それ以外のルートはサブであり、世界観を物語るツールとして存在しているとさえ言える。

 だからこそ、“たられば”がサブルートどあり、そうでなかった場合の時系列が明確だった。


 ただ、俺が失念していた事は、選択=ルート決定ではない、という事。

 此処は、箱庭(ゲーム)ではなく、現実(リアル)

 ──であればこそ、全てが現実となる可能性が、此処には存在する、という事をだ。



「それに、原作(ゲーム)の主人公が必ずしも世界を救うとは限らない訳だしなぁ……

やっぱり、俺達が動くのが確実か……」



 思い出すのは、主人公(元・王子)の事。

 久し振りに会った感想としては──普通。

 はっきり言って、主人公としてサブルートでさえ攻略出来る様には見えなかった。

 俺を上回る実力が有るのなら、話は違うけど。

 どう見ても、どう探っても。何も無い。

 悪い事もしてないから、人としては十分だけど。決して、世界を救える人物には成り得ない。

 ……別に、「自分が救世主だ!」とか言いたい訳ではないんですけどね。

 正直、他の人に出来る事は任せたい訳ですよ。

 その方が俺達は俺達の戦いに集中出来ますから。出来れば、他にも有力な人物が居て欲しいんです。まあ、今の所、居ないんですけどね。


 これが無い物強請りなのは判っています。

 それでもね、流石に背負うと決めた以上の責任を押し付けられると愚痴りたくもなりますし、何処か他力本願な思考や気持ちも生じる訳ですよ。

 ……無視する、という事は出来ませんけど。



「…………はぁ……現実逃避してても仕方無いか

取り敢えず、色々と見直して組み立て直さないと

今のままだと不測の事態が起きた時に拙いしな」



 サブルートのラスボスが全て実在しているなら。原作の時系列に沿って顕現する可能性は高い。

 ヘフォルトパスの様に偶発的に見付かるにしても即座に大きな影響や混乱が起きないのだから。

 そうだとすれば、ある程度は順番に対処可能。

 問題は時期が近いのが二件。ただ、それでも十分準備しておけば何とかなるでしょう。

 一番の問題は、起因(トリガー)となるのが人災の二件。

 そのルートのヒロインのパートナーが主人公(元・王子)でも俺でもないから、予測し難い。

 加えて、身辺調査を兼ねた監視等を遣るにしても理由が無ければ人を雇ったりも出来無い。

 可能・不可能の話ではなくてね。



「……半分は運任せ、か……

正しく、神のみぞ知る、だな」



 せめて、発生が原作(ゲーム)に近い事を祈る。

 そうなれば、最低でも五年は時間が出来るから。それだけ有れば何とかなると思う。

 だから、こればっかりは運頼みです。




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