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76話 異変


 ボボチチの街から東南東に10ケーラ程の距離にダンジョン・アヴォージェウの魔窟は有る。

 今回は、ミロード子爵家から俺達だけでの移動。その為、総移動距離は違ってきますが、些細な事。大して気にする様な事では有りません。


 ダンジョンであるアヴォージェウの魔窟。当然、其処には出入口が存在しています。

 ただ、ゲームとは違いますし、遺跡型とも違い、自然型のダンジョンには出入口が複数存在します。一つしかない事や、一方通行という事も有ります。要するに本当に自然の洞窟に近い訳です。

 そして、アヴォージェウの魔窟も出入口が複数。現在、確認されている(・・・・・・・)出入口は七つ。


 此処で問題になるのが、何処から(・・・・)入ったのか。

 彼等が此処に来た可能性が最有力では有りますが情報としては其処まで。それ以上は不明です。


 そして、自然型のダンジョンは変化しますから。当然の様に出入口も増減します。

 発見当初は一つだった出入口も新たに見付かる、或いは潰れてしまう。その為、定期的に冒険者への調査依頼が出される事は有ります。

 ただ、この手の依頼も彼等は受けてはいません。その目的は本当に謎のままです。


 話を戻しまして。

 何処から入るのか。それによって探索する範囲が変わってくるので考える必要が有ります。



「……アルト様、本当に有りましたね」


「自分で言っといて、こう言うのも何なんだけど、何て言うか……引く(・・)みたいだなぁ……」



 呆然としながら見詰めるのは、八つ目(・・・)の出入口。少なくとも、まだギルドに報告はされていません。


 事の発端は出発前の探索作戦(スケジュール)会議。

 卓の上に周辺の地図やダンジョンの内部図を広げ飲み食いしながらの、ですけど。

 不人気でも全く人の出入りが無い訳ではないので誰も痕跡を発見していない、という事が引っ掛かり仮説として“新しい出入り”の可能性を考えた。


 勿論、統計(常識)的には非常に稀な事。

 人の出入りが激しい、或いは、未踏域が一定以上残っていると珍しくはないらしいのだけれど。

 攻略が終了(踏破)されたダンジョンに、新しい出入口が出来るという記録は残っていない。

 ただ、自然型であれば、有り得る事かもしない。そう個人的には考えています。

 だから可能性としては有り得ると思う訳です。


 またミロード子爵家・ペルメーラ子爵家に調査を頼んだ際に俺達の事は伏せて貰いましたし、両家で調査依頼を出す事もしない様に御願いしました。

 無駄に話を大きくしたくはない事も有りますが。もしも、何か特異な原因(・・・・・)が有るのであれば。

 二次被害・三次被害を出さない為に、です。

 その為、俺達が聞いた報告は聞き込みやギルドや冒険者からの任意の情報提供。

 しかし、その事からも現在、このダンジョンには人の出入りは少なく、定期調査も行われてはいないという事が窺い知れます。


 故に、可能性有り、と。

 そう考えて、話し合っていた訳なんですが。

 その際に、俺達夫婦は揃って【直感】のスキルを所有している事も有り、「もしも、新しい出入りが出来ているとしたら、何処だと思う?」と考えて、一斉に指差してみたら──満場一致で同じ場所に。偶然にしても凄い確率な訳ですから俺達自身でさえ半信半疑ながらも最初に確かめに来たらコレです。これも、ある意味では数の暴力なんでしょうね。


 因みに、【直感】は稀少(レア)スキルです。

 熟練が無い為、神憑り的な、という事は無いので効果としては当てにし過ぎると危険だと言えます。ただ、過信し過ぎなければ有力なスキルです。

 それから【直感】は先天性(・・・)のスキルになります。この先天性という部分は、“生まれ持った”という意味には限らず、洗礼(・・)以前の経験・結果に基づいた合格者(・・・)に贈られるスキルの事。

 その為、既に洗礼を受けているフロイドさん達が獲得する事は基本的には有りません。

 「無い」と言い切れないのは、一部には、例外なスキルも有るかもしれませんからね。

 俺も全てを知っている訳では有りませんから。


 まあ、そんな現実逃避は程々にして。

 手分けして周辺を確認します。不用意に入って、痛い目を見ても笑えませんから。

 遺跡型のダンジョンの罠とは違い、自然型の方は即座に死に直結する様な危険が常に有りますから。用心に用心を重ねる位の方が良かったりします。

 新人ですが、俺達は馬鹿でも愚者でもないので。出来る事を怠って後悔はしたく有りません。


 結果としては、特に何も無し(・・・・)でした。



「アルト様、これは……」


「ああ、気を引き締めた方が良さそうだな」



 これは仮説に過ぎない。

 しかし、既存の出入口を使って入っていたのなら以前に行われたという捜索で何かしら見付かる筈。だが、現実には何も見付からなかった。

 その為、行方不明(・・・・)となっている。


 冒険者がギルドで貰う冒険者証は魔道具の一つで前世での免許証の様な感じの物。身分証等としての機能は勿論ですが、普段は軍人が身に付けるタグの形状に変化させる事が出来ます。

 これはモンスターに破壊されず、食べられようと消化もされない特殊な代物。

 一時期、その技術を解析して装備品に転用する事は出来無いかと研究されていたとか。

 その結果は言うまでも有りませんけど。


 そんなタグが未発見。だから行方不明な訳です。

 そして、目立った痕跡が存在しないという事からダンジョンの外で何か起きていた訳ではない。

 その為、中に入った可能性が高まりますし、この新しい出入口が危険である可能性も高まります。


 尚、自然型のダンジョンはモンスターの棲息域に出現する事が殆んどですが、極稀に、棲息域以外の場所に突如として出入口が出現する事も有ります。此処も、その珍しいケースの一つ。なので、出入口周辺にも関わらずモンスターの気配は有りません。痕跡がモンスターに荒らされる事も無い訳です。


 自然型のダンジョンの出入口は、洞窟と同じ様な感じになっている事が多い。

 勿論、知識として知っているだけで初体験です。ですから、比較は出来ません。


 ただ、普通の洞窟なら経験豊富です。転生後から一番長く過ごしていたクライスト家の別邸の裏山に幾つか洞窟は有りましたから。俺とフォルテ以外も経験値としては積み重ねています。


 初ダンジョンという事で緊張感を持って挑む。

 何気無く踏み入れた一歩。

 たったそれだけの距離で、外界と全く違う空気を肌で感じ取る。

 自然の洞窟とは違うけれど湿度は低く、肌に絡む様な嫌な感じはしない。気温は残暑の厳しい外とは一転、気を抜いたら鳥肌が立ちそうな程に低い。


 その感覚は初めての体験。

 モンスターの棲息域も各々に特殊な環境になるが飽く迄も自然の延長線上。その為、ダンジョン程の極端な変化というのは滅多に無い。

 それ故に、ダンジョンがダンジョンたると判る。此処は確かに空間を隔てた(・・・・・・)場所なのだと。



「何か問題は?」


「大丈夫です、このままで行けます」


「判った」



 全員が入った所で、状態を再確認。顔を見合せ、フォルテが代表して答える。

 俺は前を向き、暗闇の先に続く道を見る。

 俺達は【暗視】持ちばかりなので、視界は良好。照明に余計な手を割く必要が無いので助かります。片手を塞ぐ事は大きなハンデなので。


 隊列は俺が先頭で、ティア・フォルテ・エクレ、殿をアンに任せ、サブ指揮を担うフォルテを中央に置く事で分断されたりしても対応出来る。

 道は一本道。奥に向かって下る緩やかな坂。

 ただ、坂と言ってもツルツルとした岩肌ではなく踏み固められた様な土。しかし、一定ではない為、足を滑らせる様な感じではない。

 左右と天井は鍾乳洞を思わせる岩肌だが、水分を含んでいる様子は無い為、人が掘った坑道に近い。一応、【鑑定】してみたが、“ダンジョンの壁”と表示されるだけでした。

 道幅は横幅1.5ミード程、高さは2ミード程。平均的な大人一人が通れる程度。勿論、入るだけを考えたなら、無理をすれば三人は並べるが。そんな無意味な事をする馬鹿は居ません。


 注意しながら、3分程進んだ所で足を止める。

 別段、何かが有った訳ではないし、モンスターの気配が有るという訳ではない。確認の為だ。

 だから、隊列は維持したままで話をする。



「途中、人が通った様な痕跡は有ったか?」


「……いいえ、私達には確認出来ませんでした」


「俺も同じだ

勿論、彼等が此処を通ったにしても時間が経過してダンジョンが修復(・・)しているだろうしな

当然、戦闘等の痕跡は残らない

ただ、道標(マーキング)は別だ

初めて入るダンジョンでは欠かせない

それを疎かにする程、彼等は無知でも無謀でもない

勿論、怠った可能性は捨て切れないが……」


「Dランクの冒険者、ですから……」


「ああ、そんな初歩的なミスは遣らない

況してや、新発見(・・・)の出入口だからな

用心に用心を重ねるのが普通だろう」


「それなのに何も無い(・・・・)という事は……」


「その暇も余裕も無かったか、消した(・・・)かだ」



 そう言ったのと同時に、フォルテ達が息を飲む。

 通常、道標に使われるのは魔法具(・・・)の一種。

 魔法具とは、魔道具とは違い消耗品を指す総称。原作(ゲーム)ではアイテムで一括りですが、現実では二つは区別・分類されています。


 その道標の魔法具ですが、ダンジョンに吸収され消えたりする事は有りません。

 しかし、この道標の食べる(消す)奴が居ます。

 ダンジョンに潜る冒険者にとっては悪魔や死神に等しい存在で、嫌われ者で、要注意。

 ただ、其奴が居るのはBランク以上(・・・・・・)のダンジョンだったりします。


 つまりは、そういう事です。

 確か、此処はEランクのダンジョン──の筈が、新たに現れた出入口はBランク以上の物。

 Dランクの冒険者が戻って来なくて当然です。



「……アルト様、これは……」


「ああ、明らかに突然変異(イレギュラー)

複数のダンジョンが同じ場所に存在するなんて話、聞いた事も見た事無い」



 ダンジョンの出入口が増減し、それに伴って内部構造にも変化が起きる事は常識。

 だから、新たに出入口が発見されても、新区画が出来たり、新しく通路が出来たり、繋がったりする程度で、ダンジョン自体が劇的に変わりはしない。言い換えると、それはダンジョンのリフォーム(・・・・・)


 しかし、今、俺達が直面しているのは未知の事。前例の無い──記録等が無い可能性も有りますが、少なくとも常識外れの事態なのは確かです。

 抑、攻略が進み、モンスターが討伐される事で、ダンジョンが弱体化(・・・)してランクが下がる事は有るがランクが上がるという事は無い。

 攻略が進まないダンジョンは成長(拡大)するだけ。

 内部に発生するモンスターの強さは変わらない。


 それが、一般常識な訳ですが。

 いや、確かにランクが上がったという訳ではなく別のダンジョンが同じ場所に出現した訳ですけど。初ダンジョンが、コレとか……ハードモード過ぎる気がするのは俺だけですかね?。


 それから……レベッカ達の両親は運が良いのか、悪いのか。正直、悩ましい所です。

 亡くなっている以上は、運が悪かった訳ですが。

 一冒険者としては、滅多に無い一攫千金(ビッグ・チャンス)ですから運が良いとも言える訳です。

 勿論、口には出しませんけどね。


 それよりも俺達も二の舞に成らない様にしないといけませんが……此処で引き返す様では、これから挑まなければならない困難(みち)を進めません。

 危険は有りますが……挑戦する事から逃げた先に俺達の未来は存在しません。

 改めて、自分が物凄く大変な人生を歩むと決めた事を思い知らせされます。

 だからと言って、今更逃げる気は有りませんから抗うだけです。




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