72話 地下
特に大掛かりな準備する必要は無く、作業手順を確認し終えれば、直ぐに作戦を実行に移した。
全員が【暗視】を持っているので照明等は不要。万が一にもガスに引火、という心配は小さいです。絶対に無い訳ではないので酸欠回避の為にも換気は必須。魔法で風を循環させています。
因みに、俺とティアの【暗視】は熟練度の獲得。他の四人はダンジョンにて。メレアさんは俺の所に来る前に獲得していました。
メイドには必須なんだそうですが……謎ですね。でも、追及はしません。危ういので。
──とまあ、そんな訳で地中を進んでいます。
俺が先頭、次にメレアさんとエレンさんが並び、後ろにティア、殿にフロイドさんとミーファさん。実力は勿論、各々の役割を考えた上での布陣。
俺とティアが続かないのは万が一の分断を考え、三人ずつで動く事も想定している為です。指揮権は俺とティアが持っている方が面倒が少ないので。
そうでなくても、こういった状況下での楽観視は恐いですからね。自滅の種は潰すに限ります。
まあ、それはそれとして。
作戦の概要は話した通りですが具体的に言うと、先ずは現場から夜営した場所にまで戻っています。20ミード程離れた場所です。
其処で直径1ミード程の円柱状の穴を垂直に深さ5ミード程掘って、其処から目的地に向けて斜めに掘り下げながら進んでいます。
現場から直下に掘り下げないのは死樹病の影響が現時点では程度が不明である為。用心は大事。
掘り下げ方は、一辺2ミードの立方体にカットし取り除きながら進んで行く。
斜めに進むので自然と階段状になり、その内部をティアに蔓草で補強して貰っています。
この蔓草は夜営地から伸ばし、掘り進む道を全て一繋ぎにする形です。途中で蔓草が枯れたりしたら危険だと見た目にも判りますからね。異常感知用のセンサーとしての役割もしています。
「横でだと、そうでもないが、縦で考えると意外と同じ距離なのに違って感じるものだな……」
「まあ、高さや深さにすると感覚が変わるしね
普段は直ぐ其処って思うけど、横じゃなくなったら途端に距離を感じるんだと思うよ」
そんな事を話しながら進む。
目的地は現場の地表から直下に約100ミード。崖の淵に立ち真っ直ぐに見下ろしたり、切り立った絶壁の真下で見上げたのなら。その距離感が如何に普段の横の視界や体感と違うのかが判る。
たた、斜めに穴を掘り下げるという場合には中々垂直の距離感とは違うし視界も塞がれる。だから、どうしても正確には距離感を掴めない。
勿論、斜めに掘り進む為、距離は延びます。
「それにしても……こんな地下深くに何が居る?
冬眠している訳じゃないんだろうし……」
「休眠していて、目覚めた
或いは、孵化するとかは有り得るかもね」
「孵化って……どう遣って産んだんだ?」
「潜っていって産卵、そのまま親は死に絶えた
残った卵が、長い時間を経て──とかかな」
「それなら確かに……だが、聞いた事も無いな」
「だから、こう遣って調査をしてるんでしょ」
「まあ、そうなんだけどな」
「アルト様は、どの様に御考えなのですか?」
「そうだな~……自分で掘ったなら、痕跡が残る
どんなに年月が経とうとも、土を掘って埋めたら、周囲との間に断層が出来る
けど、俺が調べた限りは見付けられなかった」
「私の方でも同じです」
「つまり、土を掘った可能性は低い事になる
勿論、今、遣ってる様な遣り方なら別だけどね」
メレアさんの質問に俺とティアで答える。
そして、俺と同じ遣り方が出来る可能性を聞いてティア以外の四人は静かに息を飲んだ。
ただ、言っておいて何なんだけど、そんなに数は居ないと思う。だから、全く同じではない筈。
飽く迄も、結果的に見れば似ているというだけで同じスキルを持っているとは考えていない。
だって、【亜空間収納】って名称自体、スキルの話をしたり、関連書を見ても出てきませんからね。それに類するスキル・魔法を使う存在なら専門家や研究者が知らないとは思えませんから。
尚、ティアが平然としているのは同類だから。
ティア自身も伝説のスキル持ちですからね。俺が考えている事は理解出来るという訳です。
スキルを獲得した事は嬉しいんですけど、同時に色々と面倒事が付随していますからね~。その辺の感覚の共有も含めて、という感じです。
「ただまあ、そうは言っても痕跡を残さずに地中に潜って行く方法なら直ぐに幾つは考えられるよ
例えば、幼態だと全長が1サニタにも満たないなら地中深くに潜って、其処で長い時間を掛けて静かに成長すれば痕跡は無いに等しい
或いは、卵その物が水の様な性質で、地中深くまで染み込む様にして潜り、其処で固まって卵になる
他にも、脱皮する様に肉体を棄て魔法力だけになる事で地中を通り抜け、其処で留まる
──とまあ、こんな感じでね」
「いやいや、簡単に言うが、それは……」
「「「アルト様ですから」」」
「あー……うん、そうだったよなぁ……」
常識人振ってツッコミを入れるフロイドさんに、メレアさん達が声を揃えてツッコミを入れ、返せず白旗を上げ、苦笑するフロイドさん。
そんな皆の様子にティアが小さく笑い声を漏し、ほのぼのとした雰囲気が広がる。
其処だけを見れば、平和な日常の一場面。
ただね、和気藹々としているのは良いんですけど一応は敵地だって忘れてません?。
警戒はしているし、緊張感も有るんですけどね。振り幅が大きいと精神的な負担が増えますからね。その辺には気を付けて下さいよ。自主的に。
だから、話題を少し変える事にします。
「個人的には相手の正体よりも現象の不可思議さの方が気にはなるかな」
「現象?」
「現場は見た通りの有り様だったでしょ?
その上で、ああいった状態に為った原因となる物が地下深くに在る、という事が判った
此処までの情報で普通に考えるのなら影響している範囲というのは縦方向に円柱状になっているのか、或いは、球状に拡大している頂上部が接触した為、こういう状況に成ったのか
この何方等かだと思う
しかし、それなら何故、地下の土は無事なのか」
「…………言われてみると、確かに奇妙ですね」
「死樹病と定義した現象は森の砂漠化だ
その点で言えば、今回の現場は間違いない
しかし、実際に現場で調査をしてみると、表面上は砂漠化してはいるが、地下は砂漠化には程遠い
それに、こうして地下を掘り進んで見ても同じだ
つまり、砂漠化は地上部分だけという事になる
普通に考えても、そんな事は有り得ない
そうなるのなら、原因は地上に在るべきだ」
「そうですね……影響が飛び地に出るというのは、普通では考え難い事です」
「ただ、もしも、森が砂漠化しているのが、地下の存在が原因だったとするなら、それはスキル・魔法により地上の植物から生命力を吸い取っている
そう考えると、一応の説明は付く」
スキル・魔法の効果──発現は範囲制限は有るが使用者から離れた場所での発現は可能。
勿論、そのスキル・魔法にも因るのだが。
例えば、火を生む魔法の【ファイア】。習得して間も無い頃は自分の手元や杖の先、近場を発現する場所としてイメージする事が多い。
しかし、実際には100ミード離れた場所にでも発現させる事は可能だったりする。
まあ、これは大人や熟練者でも至難な事らしく、簡単そうに言う俺が可笑しいんだとか。
でも、ティアは出来てまるし、アン達も将来的に出来る様にはなると思うんだけどね~。
まあ、それはそれとして。
人よりも、モンスターの方が、そういった感覚が優れている、という考え方も有る訳で。
それに基づくのなら、そういった事も不可能な事ではないと言う事が出来る。
より高位の、より長寿のモンスターなら尚更だ。
「……原因が未確認のモンスターだったとしても、そういった話は聞きません
ですが、少なくとも前例は居る筈ですよね?」
「ああ、コレが過去の全ての死樹病の原因であり、今まで生き続けている唯一の個体、とかいった様な事ではない限りはね」
「……あー……アルト様?、そういった事を言うと嫌な予感がだな……」
「寧ろ、そうだったら楽な話なんだけどね
要は、そのモンスターを倒せば済むんだから」
「…………はぁぁ~……大物だな、本当に」
「ああ、そうだったら世界に一体の大物だろうしね
不謹慎な事だけど、少しだけワクワクしてるよ」
「……そういう意味じゃないんだけどなぁ……」
この世界にも稀少という概念は有る。
モンスターから得られる素材に品質が有る様に、モンスター自体の稀少性も当然の様に有る。
だから、そういうモンスターは本当に貴重。
勿論、人にとっては自然災害に等しい存在なので倒さずに保護するとかいうのは無しですが。
当然の様に、その素材は世界的にも超稀少です。値段よりも、その効果や用途が気になるので売る訳有りません。ええ、自分達で使いますよ。
──とは言え、そうだったらの話です。
まだ確定した訳では有りませんから。
「……気になる事と言えば、アルト様が資料作りの際に不確定だからと省かれていた点は如何です?」
「あー……死樹病の起きた場所が後にモンスターの棲息域になるって奴か……」
「…………アルト様?、それは初耳ですが?」
「定義するには至らない事だったしね~
だから、フォルテ達にしか話してないし、資料にも記載しなかったんだけど……」
「……その可能性が有ると?」
「正確には、死樹病だと思われる現象が確認された場所の近くで、後々に棲息域になった場所が幾つか該当してるって事は確かだよ
ただ、モンスターの棲息域って消えたり、出来たりしているけど、その要因や仕組みって不明だから
死樹病が原因なのか、偶々なのかは判らない
だから、資料には記載しなかったんだ」
その言葉に嘘は無い。
ただ、記載しなかった理由は他にも有る。
過去の記録から死樹病と考えられる現象が起きた場所というのは全てがモンスターの棲息域ではないという事実。
つまり、モンスターの棲息域では死樹病と思しき現象は一度も確認されてはいないという事。
その一方で、ティアが話した様に、死樹病を経てモンスターの棲息域となった場所が幾つか有る。
しかし、モンスターの棲息域は唐突に消えたり、出来たりする事も事実。
その棲息域の環境が大きく変わる訳ではないが、モンスターだけが綺麗さっぱりと居なくなる。
そんな事が起きるから、下手な記載は避けた。
それから、もう一つ。
これはフォルテ達にも話してはいない事だけど。死樹病の後、モンスターの棲息域には成らなかった場所が砂漠化した可能性が考えられる。
その場合、砂漠と化したのは、棲息域変わる事に失敗した結果ではないのか。
そんな推測が出来るから、話してはいない。
死樹病と思しき現象が確認されても、そのままの普通の森で。砂漠化し掛けていた所も、ゆっくりと時間を掛けて元に戻った。
そういった記録も幾つも残っている事も有って、何処までを死樹病と定義するのは難しかった。
結果、死樹病と定義したのは一部に留まる。
妥協と言えば妥協だが、仕方が無い事です。
「────っ!、アルト様っ……」
「ああ、もう直ぐ其処だな」
何だかんだと話している内に目的地が目前に。
自分のスキルの効果範囲に入った事でティアにも感知する事が出来たのだろう。
そして、ティアに続く様に皆が身構える。
疾うに相手の領域内。これまで何も無かった方が不思議な位。
だからこそ、一層気を引き締める。




