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69話 調査


 キゥレの月、19日。

 クライスト家は親も子も幸せな今日この頃。

 我が両親を見ながら、将来の自分達も似た夫婦に成っていそうだと思わされました。

 別にね、それが悪い事じゃあないんですけどね。子供からすると複雑な心境な訳です。それを思うと我が子達には、そういうのは……と思います。

 思いますけど。不可抗力で、そういった雰囲気に為ってしまう事は有ると思うんですよね。だから、意識し注意をしていても起きる時には起きる、と。まあ、言い訳にしか聞こえませんけどね。



「……東の街道沿いのマルダンの森?

確か、王都に向かう途中で右手に見えてた所?」


「はい、メディット山の北側に有る森の一つです

モデフ子爵領になります」



 メレアさんから届いたばかりの急状──前世での速達になる書状を受け取り、開いた所。とある森で最近、異常が見られるという話が記されていて。

 その調査を陛下から(・・・・)依頼された。

 形式上は依頼。でも、実質的には勅命。違い?。関係性を周知させる為の物でしょうね。多分。

 勅命だと、飽く迄も一貴族としての扱いになり。依頼だと、冒険者としての扱いになります。

 ただ、今の俺達に冒険者として指名依頼をすると抜け道(・・・)にもなります。

 ですから、制限が掛けられていますが、それだと俺達の冒険者としての実績にも少なからず影響する事は否めませんからね。

 その為の斡旋(・・)という意味も有るかと。

 まあ、考え過ぎかもしれませんが。浅慮で迂闊な判断や言動をして後悔するよりは良いですからね。考えられる可能性は考える様にしています。


 さて、そんな調査依頼なんですけど。

 その諸事情(・・・)を取り除いても不可解な点が。



「……モデフ子爵家からの依頼じゃないのは彼方に陛下からの「余計な真似はするなよ?」的な言外の圧力が掛かってるって所かな?」



 そう呟いても、メレアさんは知らん顔。

 当然だけど、メイドが口を挟める事ではないし、俺にしても断るという選択肢は無い。

 公的には依頼では有るけれど。実質、命令です。そして、それに気付かない訳が無いと思われている自分の現状が面倒臭くて仕方が有りません。

 まあ、実質的な義父からの依頼でも有りますから断る様な事はしませんけどね。


 気になる点が有るとすれば。態々、俺に依頼を、という事でしょうか。

 勿論、先の様な意味も有るのでしょうけど。


 街道沿い、という事は領主だけの問題ではなく、王国にとっても問題になる訳で。

 先ずは第一責任の有るモデフ子爵家が動くもの。それでも難しい様なら王国が動く訳ですが。

 今回は陛下──つまり、王国から俺に、です。

 王国としても難問だから、という理由で振るには俺達の実力は知られてはいない筈。

 仮に、クライスト家にも話を回し同意を得た上で依頼されているので有れば、危険性は低い筈。

 そう考えると、斡旋の線が強くなる訳ですが。

 …………何でしょうね。このモヤモヤ感は。



「………………モデフ子爵家からは何も?」


「はい、書状も使者も来てはいません」



 陛下からの圧力が掛かっていると考えたのなら。それは別段、可笑しな事ではない。

 しかし、事は自領で起きている異変だ。真っ先に調査している筈。いや、寧ろ、していない場合だと職務怠慢という事で貴族としての地位や戸籍を失う可能性が十分に考えられる。

 それを考えれば、モデフ子爵は調査はしている。ただ、結果としては芳しくはなかった。

 その為、貴族として王国()に報告して助力、または助言を求めた。


 そういった流れで、陛下が俺に話を振った、と。

 無理矢理な感じはするけど、一応は筋が通る。


 しかし、それなら有るべき物(・・・・・)が無い。



「確認するけど、陛下──王国から他の物は?」


「届いてはいません」



 そう、何も無い。

 本来なら有るべき、報告書や資料の類いが何も。依頼として話を振っている以上、機密保持だ何だと言っている状況ではないし、そんな理由で陛下達が情報を渡さないという事は無い。

 また、この書状が偽物という事も無い。

 陛下・王国・冒険者ギルドの署名と押印が有る。これを偽造は出来無いし、本物である確認もした。地味な魔法だけど、専用の確認の魔法が有るので。


 それらを加味して考えると……嫌な予感がする。ええ、物凄く面倒な予感がね。

 取り敢えず、フォルテ達とフロイドさんを呼ぶ。






「──という感じなんだけど……

こんな風に情報を渡されない事って有る?」


「いや、それは流石に有り得ない

勿論、依頼に関しての情報の秘匿や機密保持とかは事例は少なくても有るが……

少なくとも、依頼する時点で情報を渡さないなんて事は有り得ないし、認められない

抑、そんな依頼をギルド側が承認する訳が無い

如何に仲介役だろうと冒険者の命を預かる組織だ

其処を軽んじたり勘違いしていたら、今のギルドは存在なんてしていない」


「……って事は、下手に公表が出来無い案件か」



 フロイドさん(経験者)の意見を聞き、嘆息。

 陛下やモデフ子爵が情報を渡さないのではなく、情報を渡せない(・・・・)のだとすれば。

 万が一の情報漏洩を考えて何も送って来なかったという考えに到る。

 多分、此処までを込みで、でしょう。

 恐らく、「詳しい情報はモデフ子爵家(現地)で聞け」と俺が解釈する事も含めてね。



「…………出来れば無視したいなぁ……」



 そう呟く俺を見て、皆は苦笑と溜め息。同意する様に頷いている者も居ます。誰とは言いませんが。まあ、皆、気持ちは同じでしょうけどね。


 受けるしかないので、切り替えて準備を。

 他国ではないし、近場ですからね。兎に角、早く出発する様に動く事を重視します。




 キゥレの月、21日。

 モデフ子爵家に到着し、応接室に通されます。

 今回は少人数。俺とフロイドさん・メレアさん・エレンさん・ミーファさんの五人。

 必要なら、フォルテ達を追加で呼びます。

 まだアン達が洗礼式前ですからね。夫婦で派手に動く真似は極力避ける事にしています。

 勿論、必要で有れば迷わず動きますけどね。


 エレンさん達が居るのは冒険者として意見を聞き参考に出来ればと考えての事。勿論、戦力としても期待していますし、目眩まし(・・・・)役も兼ねてですけどね。

 取り敢えず、ミーファさんは深呼吸しようね。


 大して待たされる事も無く、モデフ子爵が登場。

 モデフ卿は五十代前半辺りだろうか。雰囲気的に温和な印象を受ける初老の男性。だが、貴族らしく眼光には鋭さを感じますから。油断大敵でしょう。別に敵では有りませんけど。

 顔に見覚えは有ります。それはまあ、当主だから挨拶はされていますよね。何処かしらで。

 ただ、顔と名前が一致していないだけですから。覚えていない訳では有りません。昔の自分にしては頑張っていたと言えます。精神的には悪条件下で、嫌々参加していた訳ですからね。

 勿論、余計な事は言いません。

 下手な発言、詮索する様な会話は墓穴を掘る事に繋がり易いですからね。


 挨拶は簡単に済ませ、本題に入ります。

 無駄話(・・・)は時間の無駄遣いですし、付け入る隙間を作るだけですからね。



「マルダンの森の調査依頼、という事ですが?」


「ええ……先ずは此方等を御覧下さい」



 そう言って差し出されたのは“極秘指定”の印が押されている封筒。正直、開けたくはないですね。開けないと話が進まないので開けますけど。

 もう「やっぱり、止めます」とは言いませんね。言える雰囲気では有りませんしね。


 中に入っていたのは予想通り、調査報告書の束。厚さから……百枚程有りますか。

 取り敢えず、パラパラと捲っていきます。速読が出来ると、これでも十分だったりします。必要なら後で読み直せば済む事ですから。


 内容は兎も角としてモデフ子爵家だけではなく、王国軍による極秘調査の報告書も入っています。

 其方等の内容は………………頭が痛くなる物。

 どうして、こんな件を振ってきますかね、陛下。いや、そうするのも判りますよ。判りますけどね。文句や愚痴の一つも言いたくなります。


 頭を抱えたくなる衝動に耐えながら、控えているフロイドさん達に報告書を手渡す。

 此処に居る時点で他言無用・秘匿事項である事は理解していますから問題は有りません。

 ただ、それでも小さく驚きの声が漏れます。

 ええ、驚かない方が無理でしょう。



「確認しますが、この事は何処まで?」


「幸いにも、最初に発見した者達は我が家の従者で領民は勿論、国民にも広まってはいません

また、マルダンの森(彼処)は滅多に人が入りません

我が家の従者が入ったのも定期調査の為です」


「どの程度の間隔で行っていらっしゃるので?」


「時期は異なりますが、二~三年に一度です

前回の調査が大体三年前になります

それを含めた代々の調査報告書が此方等です」



 卓上に置かれた数冊のファイルの様になっている報告書を手に取り、軽く中を確認させて貰う。

 見開きの左側のページには森の大まかな全体図が描かれており、流れる川の位置や特徴的な岩や崖等地形の情報が書き込まれている。

 右側のページには森の動植物の情報。分布だとか前回の調査、過去の調査からの変化等の情報。


 こういった資料はモデフ子爵家に限らず、領地を預かる貴族家では必ず調査し作成している物です。当然、定期的な確認調査も遣っている事です。

 クライスト伯爵家(実家)も勿論です。

 まあ、基本的には機密情報なんですけどね。俺は例外的に見せて貰っていました。

 代官を務めるアイドリー子爵家の物もです。


 因みに、クライスト伯爵領は農耕地が大半です。その為、手付かずのままの自然が多かった事から、色々と俺が発見する事になった訳でして。

 その辺りの調査を頼まれて遣っていました。

 ええ、何処かのパーティーに連れて行かれるより嬉しかったのは言うまでも有りません。快諾です。とても楽しく遣りましたよ。


 ──という現実逃避を思わずしてしまいたくなる程度には、得た情報から考えられる可能性が高いと思考が結論を出しています。

 勿論、確定では有りませんけど。情報からしても他の可能性は考え難いので。

 本当にね……厄介な依頼が来たものです。

 ──と言うか、フラグを立てた訳ではないです。それだけは言って置きたい。自分自身にね。



「過去、領内でマルダンの森以外で起きた事は?」


「有りません、今回が初めての事です」



 そう言い切るモデフ卿に他意は無い。別に今回の件を意図的に引き起こした訳ではないし、作為的な依頼という訳でもない。

 その冷静な態度は他人事の様にも思えますけど、今回の件が自分の手には負えないと早々に判断し、即座に王国に報告をした時点で対応としては最善だと言えます。

 そして、王国にしても極秘裏にモデフ子爵領にて調査した結果──俺に話を回した、と。

 「何故、俺に?」と言いたい所なんですが。

 陛下からしたら、これが最善策だからでしょう。思う所が無い訳では有りませんが。必然的な選択。そう思うしかないから溜め息しか出ません。



「……判りました

何処まで御力に成れるかは定かでは有りませんが、出来る限りの事は遣らせて頂きます」


「どうか宜しく御願い致します」



 そう言うと席を立って、俺に向かって深々と頭を下げるモデフ卿。

 貴族として、領主として、一家の当主として。

 自らの非力さを気にして見栄を張っても無意味。爵位を理由に偉そうにするのも間違い。俺が此処に来たのは王国を通しての依頼なのだから。

 口先だけではなく、態度と行動で誠意を示す。

 そう遣ってコネ(・・)を繋ぐのが貴族。


 ……俺も貴族らしいって思われるんですかね?。正直、それは不本意ですし不満ですけどね。

 兎に角、引き受けた以上、しっかりと向き合って解決出来る様に頑張るとしましょうか。




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