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7話 曾祖父


 実家に帰って、挨拶等も終わって一段落。

 まあ、実際に落ち着けるのは明日の引っ越し後。生活に必要な物等は揃えられているそうですから、後は俺達の手荷物等。

 だから実質的には俺達が移動するだけです。


 尚、フォルテの嫁入り道具等は後日、実家であるノーゼンヴィット王家から送られてくるそうです。

 クーリエさんの話では、国の誰もフォルテが指名されるとは思っていなかったみたいなので。

 今頃、慌てて準備している事でしょう。

 酷い話だけど、仕方が無いのも現実。言うなれば殆んどが“魔力資本主義社会”なんですから。


 ──とまあ、そんな予定確認も終わり、母上達に誘われてフォルテは一緒に御風呂に行っています。女同士の話、という所でしょう。

 心配は要らないと思いますが、傷心して戻ったら俺が全力でフォルテを癒しますから。


 一方、俺はクライスト家の書庫に来ています。

 実は王国船の中で手に取った本が有ったんですが内容的には結構難しい物だったんです。

 少なくとも今の自分の語学力では読む事は不可能だった筈なんですが、読めちゃったんです。

 自分でも吃驚ですが、兎に角、確認しました。

 その結果、解った事が。

 誓契の宣儀の副次効果なのか。前世の文字情報と現世の文字情報が統合されたみたいで、読み書きがスラスラ出来る様に。

 物凄く有難いんですが、客観的に見ると危ない。

 以前を知らないフォルテは感心していましたが、メレアさんは吃驚していました。俺だって同じ様に吃驚したんですから。


 ただ、飽く迄も俺が特殊なんだと思います。

 そういった恩恵が有るという事例は無いので。

 それでも、これは大いに助かります。この世界の事を調べたりする前に、先ずは読み書きの勉強を。そう思っていたのが、一気に進展しましたからね。御陰で調べ物も捗ります。


 本は別邸にも色々と用意されているそうなので、重複しないジャンルや、マニアックな物、希少本を中心に漁っています。

 こういう時は、女性の御風呂が長いのは良い事。ただ、フォルテが部屋に戻る前には戻っていないと不安に思うでしょうからね。父上に特別に持ち出し許可を貰って部屋で読む事にしました。



「……ん?、何だろ、コレ……」



 大体の本の背表紙にはタイトルが書かれている。タイトルが無い物は大体シリーズ物だったりする為御揃いのデザインなので見分け易い。

 その中に一冊、タイトルの無い物が。両隣に同じデザインの物も無い為、単品だと思う。

 ──と言うか、タイトルの有る中にポツンと一冊置かれていたら目立ちますから。

 気になったので抜き出し、手に取ってみる。

 縦20サニタ、横15サニタ、厚さ5サニタ程。見事な木目調の外装は薄暗い書庫、棚の中に有ると古びた感じも有って一見しただけだと棚の仕切りに見えなくもない。俺、よく見付けたね。

 開けて中を見ようとして──間違いに気付く。

 右開きの本しかなかったから、特に何も考えずに開こうとしたら、ごっそり持ち上がった(・・・・・・)

 慌てて閉じ、ひっくり返して、改めて開く。

 すると其処には縦横均等に格子状に引かれた線とマスの中に刻まれた幾つかの数字。所謂ナンプレの問題が書かれていた。


 ただ、それよりも驚いたのは、この本そのもの。コレ、本じゃなくて、本の様に見せた()だ。

 振っても音もしないから空っぽみたいだけど。

 ごっそり持ち上がったのは、底側から開けた為。それはね、そうなりますよ。逆さなんだもん。


 ──とは言え、気にはなるので父上の所へ。

 他の本は待機していたメイドさんに頼んで部屋に運んで置いて貰う事にします。



「父上、御訊きしたい事が有るのですが……」


「ん?、何だ?、この父に何でも訊きなさい!」



 父上の執務室の扉をノックし、返事を待ってから中に入ったら、左右に詰まれた紙の山に挟まれ俯く父上の姿が有り、思わず後退り。

 だって、アレ、書類タワーでしょ?。嫌と言う程前世では見てきましたからね。判るんです。ええ、身体が無意識に拒絶反応をしていますから。


 そんな苦境に有った父上は俺の声に異常な速度で反応し、顔を上げて笑顔で腕を広げて招く。

 一方、側に控えていた老執事の目が俺を射抜く。一瞬だけど「何故、今なのです?」と父上が仕事を中断してしまうので批難されました。

 普通の子供だったら気付かないんですけどね。



「父上、御仕事の邪魔でしたら改めますが?」


「そんな事は無いぞ!、なあ、エーバス?」


「はい、少しであれば問題有りません」



 父上に、ではなく、老執事──エーバスさんに、俺は御伺いを立て、許可を貰う。

 成る程ね、こういう所は貴族よりも、会社の社長みたいな感じなんだ。……父上が特殊なのかな?。まあ、特に気にしなくてもいいか。



「実は先程まで書庫に居たのですが、見繕っている途中に、この様な物を見付けて……」


「何れ何れ……ん?……ん~……?……おおっ!

そうか、書庫の棚の中に紛れていたのか」



 例の箱を父上に手渡すと不思議そうに見ながら、何かを考え、一人で納得してしまう。

 そうではなくて、説明して下さい。

 あと、エーバスさんも同じ様に納得してないで。補足情報の提供は執事の仕事でしょ?。



「あの、父上、それは?」


「ああ、すまんすまん

これはだな、爺様──御前の曾祖父が収集していた骨董品の中の一つだ

爺様は私が六歳の時に亡くなったんだが、その際に爺様の収集品を納めていた部屋を片付けたんだが、コレだけが見当たらなくてな

当時は「盗まれたのだろう」と父が結論付けた」


「先々代様の骨董好きは有名でしたが、その対象は様々でしたので、その価値も同様でした

幸い、几帳面な方でしたので御自分で収集品全ての目録を御作りになられて管理されていたしたので、後片付けは殆んど問題無く行われました」


「その際の唯一の問題が、コレの行方だけでな

まあ、見ての通り、よく出来てはいるが、骨董品の価値としては微妙な品だ

私も一度見た記憶が有る程度で、他の収集品の方が目を引いていたからな

だから、片付けの際に紛失した可能性も有った為、大事になるのも何だからという事で終わった

まさか、こんな形で見付かるとはな」


「どういった品なのですか?」


「エーバス、まだ目録は有ったな?」


「はい、少々御待ち下さい」



 父上に訊かれ廊下側ではなく右の壁に設けられた執務室の隣の資料部屋に消えていくエーバスさん。しかし、1分と掛からず戻ってきた。

 椅子から立とうとした父上を牽制し、椅子の上に押し留める様な早業には脱帽。執事って()い。

 そして、父上、微妙に格好悪いです。

 まあ、個人的には親近感が持てますけどね。


 父上は手渡された目録を丁寧に捲る。

 少し扱いを間違えたら破れそうですから。

 年数的に考えても大分古くなっている筈ですが、丁寧に保存されているのでしょうね。意外と綺麗。勿論、経年劣化はしていますけど。

 かなりの量を曾祖父は所有していたのか。父上は暫く目を通しながら捲り続け、数分が経過した。



「ああ、コレだ、“智求解匣”という作品だな

少なくとも三百年は経過しているそうだ

製作者は…………不明、という事らしい──って、爺様……こんな物に三百万ニーエも……」


「先々代様らしいと言えばらしいですが……」


「これは流石に表には出せない話だな」



 そう父上達が話して溜め息を吐くのも仕方の無い事だったりする。

 この世界での共通通貨単位は“ニーエ”と言う。前世の価値観に換算する事は難しいが、例の国費で泊まらせて貰ったセンテリュオンの宿の部屋が一泊三十万ニーエするんだそうです。

 その十倍ですから……。

 曾祖父様、遣らかしてるなぁ……。

 そして、そういうスキャンダルは何処の世界でも他人に知られたら不味い事なんですね。

 俺も気を付けて置かないと。

 先ず有り得ない事ですけど。



「でも、父上、見付かって良かったですね

一応、曾祖父様の形見の様な物な訳ですから」


「そうだな……アルト、コレは御前にあげよう」


「……え?」


「今更、爺様所縁の品だって事で宅に置いていても説明するのが面倒だ

それに見付けたのも御前だ

爺様も曾孫が持っていた方が喜ぶだろうしな」


「………………まあ、そういう事なら……」



 尤もらしい理由と御都合的感動で曰く付きの品を押し付けられしまう。

 父上の「要らん、こんな燻る火種は」と忌避する気持ちも判らない訳ではないですけど。

 曾祖父様には申し訳無いですけど、普通、そんな縁起の悪そうな物を新婚の俺に寄越しますかね?。曾祖父様が生きてて、直に贈られるなら兎も角。


 確認の為に見たら、エーバスさんも頷いたから、俺の物になる事は確定したから受け取るけど。

 コレ、お金に困っても売れませんよね?。



「ああ、アルト、コレも持って行きなさい」


「それは……ペン、ですか?」


「そうだ、形はアレだが普通に使えるぞ

確か、作品としての一部だった筈だ

爺様は一緒に飾っていたからな」



 そう言って父上が机の引き出しを開けて取り出し差し出してきたのは木製のペンらしき物。

 ペン先が付いてなかったら、見た目は拾ってきた枯れた小枝ですからね。先ず、普通にはペンだとは思わなかったでしょう。

 尤も、芸術って、そういう物でも有ります。

 どの様に感じるか、何を読み取るかは見る者次第だったりしますから。

 そういう意味だと、解説文って不粋なんですよ。先入観を与えてしまいますからね。作品タイトルは別にしても。


 そんなこんなで、二つを持って部屋に戻る。

 尚、父上には「御仕事頑張って下さい」と笑顔で死刑宣告をして部屋を出ました。決して、意趣返しなどでは有りません。御仕事は大事ですから。


 部屋に戻った後は運んで貰っていた本を読む。

 見繕った本は全部で二十三冊。何れも分厚くて、一冊読み終えるには相応の時間が必要でしょう。

 しかし、俺には数少ない特技が有ります。

 それが速読と瞬間記憶。だから、端から見たならパラパラと捲っているだけですが読めています。

 ただ、集中して遣らないと出来ませんし、座るか寝転がってでないと集中出来無いんですけど。

 それで問題無いんで構いませんが。

 尚、内容を記憶出来ても、理解するのは別です。それは自力で頑張るしか有りません。

 人の名前と顔を一致させて覚えるより個人的には全然、楽なんですけど。

 それと絶対記憶とは違うので、きちんと整理して関連付けて置かないと劣化してしまいます。


 なので、一通り内容を覚えた後、内容を理解する為に優先順位の高い本から改めて読んでゆく。

 二度手間でも、これでも意外と記憶力は高いので手間を惜しまなければ有効なんです。俺の場合は。



「アルト様、戻りました」


「お帰り、フォルテ」



 本を読んでいたら扉がノックされ、返事を待ってフォルテが部屋に入ってきた。

 夫婦だから当然、一緒に寝ます。

 まあ、まだ流石に一緒に御風呂は早いですけど。俺個人としては早く洗いっことかしたいです。


 そんなフォルテが傍に来くると、いい匂いが。

 思わずフォルテを抱き締めてしまいました。

 ちょっと驚いていましたが、フォルテも俺の方に身を委ねながら、抱き付いてきてくれる。

 ……流石に鼻を鳴らして嗅いだりはしませんが。



「コレって、御土産に買ってきた石鹸?」


「はい、御母様が「折角だから」と仰有って……

その、如何ですか?」


「うん、いい匂いだ

石鹸のままだと強いかなって思ってたけど、実際に使ってみると適度な感じになるんだな

母上達とは、どうだった?」


「はい、とても楽しかったです」



 そう言ったフォルテの笑顔は自然で。この笑顔が見られるなら、妻に選んで良かったと思う。

 あまりにも可愛いから、このまま襲いたくなるがフォルテを汚す様な真似はしません。

 俺色に染めはしますけどね。

 取り敢えず、今の所は順調です。



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