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66話 習慣


 時が経つのは早いもので、ミュダの月、30日。レベッカ達が宅に来てから一ヶ月が経ちました。

 すっかり我が家にも慣れ──とは言えませんが、当初に比べたら確実に馴染んで来ています。

 ……「染まってきてるの間違いだろ」と言う様なフロイドさんの視線は無視します。

 結果的には同じ様なものですからね。言い方位は好きな様に言わせて下さい。心の声なんだし。



「ほら、ゆっくりと深呼吸して、肩の力を抜いて」


「わ、判ってるわよ……すぅ~……はぁ~……」



 緊張と強がりでガチガチになりながらも、素直に俺の言った通りにするレベッカ。

 意地っ張りな妹が出来たみたいで可愛いです。


 今、何をしているのかと言うと。弓矢を用いての狩りを実際に遣っている真っ最中。

 木の幹に身を隠し、視線の先──茂みの途切れた場所に姿を現した大人のメルーダ雪兎を狙う。

 「殺すとか、食べるとか、そんなの可哀想」とは思わない辺りは生存競争を経験しているから。

 メアリー様の場合は教育の関係上でしたが。


 そんな事を考えている間にレベッカが矢を放ち、見事に胴体に命中する。

 ただ、即死させるまでには至らない。矢の威力も俺達と比べたら射抜く(・・・)とは呼べない。

 それでも、初めてで命中させただけでも十分。


 そんなレベッカのフォローをする様に、息を潜め様子を窺っていたシルファが飛び出して駆け寄り、手にしている短剣で仕留める。

 元気なら逃げ切られるだろうが、手負い(・・・)であれば今のシルファの脚力でも逃がさずに済む。


 効率的(・・・)にも一撃必殺が狩りの理想だ。

 しかし、必ずしも、それだけが狩り方ではない。複数で連携し、獲物を仕留める。それも狩りだ。

 一人では無理でも、二人でなら出来る。



「レベッカちゃ~ん!、遣ったよ~っ!」


「叫ばなくたって聞こえてるわよ、もうっ……」



 自分達で仕留めた雪兎を手にして笑顔で手を振るシルファに手を振り返しながら呟くレベッカ。

 素直ではないですが、然り気無くガッツポーズをしていたのは見逃しませんでしたよ。

 それを揶揄うと機嫌を損ねるので触れずに腕前を褒めながら頭を撫でる。

 「まあ、これ位は出来無いとね」と。自信満々で胸を張る姿が可愛い。

 シルファの方もサポートに付いているフォルテに頭を撫でられて嬉しそうにしています。


 現在、俺達が居る場所は屋敷の有る街から歩いて30分程の所に有る山です。

 当然ですが、俺達が洗礼式を済ませ、冒険者登録を済ませていても、他は違います。

 其処はアンとエクレだって守っていますからね。俺達にしても違反は遣りません。

 だから、魔獣の棲息域では有りません。

 俺達がクライスト家の別邸にて生活していた時に利用していた裏山と同じ、普通の山です。

 まあ、普通とは言っても危険は有りますけどね。その辺りは入った者の自己責任ですから。


 代官として移り住む屋敷を探す際に重視したのが近くに適度な狩場(・・)が有るか否か。

 以前のエレンさんとの会話では有りませんけど、ずっと当たり前の様に山に入っていましたからね。急に出来無くなるのは違和感が強く──ストレス。それを避ける為に良い条件の場所を選びました。

 特に俺達は洗礼式が終われば冒険者として自由に魔獣の棲息域に入れますが、メアリー様だけは当分無理ですからね。仲間外れにしない為です。


 また、日々の鍛練とは違い、山での狩りや散策は生きる為の技術や知識を実戦を通して学び、様々な経験を積むには最適ですからね。俺の考えとしては止める理由が有りません。

 最近ではフォルテ達と夫婦だけで野宿(キャンプ)をしたり、夜間の活動経験を積んでいます。

 魔獣の棲息域だと形式上でも(・・・・・)同行者が必要ですが普通の山なら不要ですからね。気楽で良いんですよ。

 夫婦だけだから、水遊びとかもし易いので。


 その山にて、今日はレベッカ達のデビュー戦。

 幸先良く結果が出たので楽しそうで何よりです。焦ったら余計に悪い方向に傾きますからね。


 勿論、今日までに屋敷で基礎鍛練に加え、狩りの基本的な技術や知識を身に付け、俺から見て十分に合格点に達したからです。

 いきなり、実戦で遣らせたりはしません。


 次に、先輩という事でレベッカ達のデビュー戦は静かに見届けていたメアリー様が参加。

 俺達は手を貸さず、三人だけで遣らせる。


 前世なら「子供に危険な真似をさせるとは」等と騒ぎ立てる輩が少なからず居るでしょうね。

 ……いや、この世界でも居ますか。

 ただそれは、子供から目を離すから問題な訳で。ちゃんと付いて、いつでもサポート等が出来れば、文句を言われる事だとは思いません。

 失敗したり、怪我をしたりする事も必要な経験。大人の勝手な都合や価値観を押し付け、学ぶ機会を奪う事の方が俺からすれば大問題だと思います。

 経験の無い者が、本当に理解出来る訳が無い。

 それは、どんな事に対しても言える事です。

 想像力も大事ですが、経験も重要。

 そして、その二つだけが人を成長させる糧。

 だからこそ、チャレンジ精神を尊重し、見守る事というのが大きな意味を持つと俺は思います。


 そういう意味でも、目を離したら駄目です。

 それは自由ではなく、無責任なだけですから。


 そんな子育ての持論を考えている間にも、三人は次の獲物を見付け、役割を相談している。

 経験・実力的にも先輩になるメアリー様が指揮しレベッカ達が先程とは逆の役割で挑む。

 然り気無く、メアリー様の視野の広さと理解力を感じさせられる一場面でした。

 多分、本人は「レベッカ達の為には」と考えての事なんだとは思いますが、それは人の上に立つ者に最も必要不可欠な事でも有ります。

 だから、何気無い事ですが。その身に流れる血に刻まれ、受け継がれる資質だと思わされます。


 勿論、血や家柄で務まるのであれば、誰も苦労はしませんし、国や家も乱れたりはしません。

 そうではないからこそ。努力や経験を積み重ねるという事が意味と価値を生む訳です。






「皆様、御帰りなさいませ」


「只今戻りました」



 本日の山歩きを終えて帰宅した俺達を迎えるのはメアリー様付きのメイドのジェネットさん。

 十二歳と近い為、メアリー様よりも異性としては意識し易いですが、フラグめいたイベント的な事は何も起きてはいません。御互いに無用な火種なんて生みたくは有りませんからね。

 ただ、接し易いのは御互いに気楽で良いですね。特にメアリー様の事で相談する場合等で。


 そんなジェネットさんですが初めて宅に来たのは俺の洗礼式後。その為、当初はメアリー様と一緒に山歩きに同行した際には……ええ、吃驚を通り越し唖然としていました。そうなりますよね~。

 驚き、戸惑っていましたが、今では一緒に鍛練に参加してもいますし、山歩きにも行きます。

 要するに、諦めた(慣れた)という事です。

 妥協や開き直りって大事な社会性だと思います。勿論、良い意味でのですけど。

 メアリー様の御付きなので常時居る訳ではなく、滞在中のみですけど。大分、慣れたと思います。


 今日はレベッカ達が優先であり、メアリー様との関係構築の上では大事だったので不参加でしたが。彼女も将来的に冒険者登録する可能性が有ります。だって、メアリー様が成りたがっていますからね。専属メイドは主人と一蓮托生な訳です。



「一般常識の様に勘違いされては困ります」



 メアリー様から今日の収穫物を受け取りながら、然り気無く俺に一言言ってくる辺りは流石。

 伊達にメレアさんに師事してはいませんね。

 彼女曰く、「非常識(アルト様)を知ればこそです」だとか。我が家の中が平和で有れば気にもしません。


 最近はレベッカ達が一緒なので、汗を流しに行くフォルテ達とは別になる事も多い。

 勿論、全く一緒に入らない訳では有りませんよ。大事な夫婦のコミュニケーションなので。

 ただ、レベッカ達への配慮を優先しているから、馴染み易い様に、というだけです。

 毎日、イチャラブしてますから。



「アルト様、二人は如何でしたか?」


「最初こそ緊張はしてたけど、特に問題は無し

今日は俺達も控えてたからね、収穫の七割は三人が狩ったり、見付けた物だよ」


「初日で、それだけ出来れば十分過ぎるな」


「勿論、飽く迄も同伴が有って、だけどね

その辺りは二人も自覚してるから一安心かな」


「変に過信はしてない、か……

まあ、少なくとも自分達の非力さは知ってるしな

無駄な見栄は無いし、強がりもしないか……」


「強がりに関しては気を付けて置かないとね

何だかんだで、まだまだ子供なんだし、本人自身が自覚出来ていないって事は多いんだから」



 そう言えば、フロイドさん達は苦笑する。

 まるで、「誰が言ってるんだ」と言う様に。

 少なくとも俺に強がりをした覚えは有りません。ええ、愚痴や泣き言は我慢しませんから。

 俺に張る見栄は無いし、要りません。自分らしく生きていく上では、常に自分に嘘は吐きません。

 勿論、妥協や譲歩はしますけど。それが社会での生き方であり、関わり方ですから。

 自分の事しか考えない様な者は排除されるのが、集団社会であり、犯罪者になる訳ですからね。

 そういった道徳心や社会性って本当に大事です。


 まあ、そんな話は兎も角として。

 レベッカ達の才能は確かだと言えます。

 勿論、俺の影響が有る事は否めませんけどね。

 二人自身の遣る気や努力が有る事も確かです。



「メアリー様と同じ様にアルト様が責任を持つのが二人の為だとは思うが……」


「それを二人が望むのならね」


「……意外だな、はぐらかすかと思ったんだが」


「その件に関してはフォルテ達と話し合い済み

俺自身、自分の影響力を考えれば、手元に置いて、色々と教える時点で半分は覚悟してたしね

ただ、勿論、最終的には本人達次第だけど

飽く迄も選択肢の一つに過ぎないんだから」



 そう言い、この話を終わらせる様にメレアさんが用意してくれたカップを手に取る。

 フロイドさん達の視線が擽ったいので。


 フォルテ達の時にも有りますが。こういう場面で妙に暖かい視線を向けるのって嫌がらせでは?。


 ただまあ、俺の場合、精神(中身)転生者(中身)ですからね。

 客観的に見たなら、俺も同じ反応をするのかも。そう思うと強くは言えません──と言うかね、その方が無駄に子供っぽくて逆に恥ずかしいので。

 転生人生って、こういう所が難しいと思います。他にも転生者が居たら、色々と話をしている内に、きっと「有る有る」と言ってる気がしますからね。避けては通れない事でしょう。


 ──なんて、思っていると突如、テーブルの上に魔塔が出現したでは有りませんか。何事ぞ?。



「その勢いで、此方等を御願い致します」


「……いい加減、諦めてくれないのかなぁ……」


「それは無理な話だと思うがな」



 「ま、頑張ってくれ」と言う様に手を振りながら自分の仕事に戻るフロイドさん達の背中を恨めしく思いながら見詰める。見詰めても変わりませんが。少しは八つ当たりもしたくなります。

 そして、残された俺と魔塔の一対一(サシ)の戦場。

 本当にね……毎回毎回、きっちりと目を通して、断っているのに。

 何故、新規(・・)ばかりなのに数が減らないの?。

 この国の男女比って、可笑しくない?。ねえ?。誰かマジで教えてくれない?。


 そんな風に呪文を唱えて(愚痴を言って)も魔塔は揺るぎもせず。胸を張り、存在を主張する様に聳え立つ。

 ちょんっ、と突っつけば揺れて倒れれば、少しは可愛げも有るのにね。



「……本当に……貴族って面倒臭いなぁ……」



 溜め息を吐きながら一番上の一冊目を手に取る。開けば、其処には着飾り、笑顔の少女の姿が。

 彼女達には非や責任が先ず無いからこそ。

 これを作り、送ってくる大人達に腹が立つ。

 誰も得をしないと、何時になれば気付くのやら。




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