65話 飼育
ミュダの月、2日。
レベッカとシルファを身請けして家に戻ってから数日が経過しました。
無事、二人の事は身請け出来たので一安心。
それと、ミロード子爵家とペルメーラ子爵に頼み行方不明となっている二人の両親の足取りを調べて貰っています。冒険者なので判り易いかと。
報告はユー姉さんの結婚式で赴いた際に。
その時にはアン達が洗礼式を済ませていますから俺達で探しに行けます。
生存の可能性は無いと判ってはいますが。二人に辛い事であっても結末を伝える為にもです。
さて、そのレベッカ達の事ですが。
話をしていた通りに二人にはメイド見習いとして住み込みながら頑張って貰います。
──とは言え、先ずは宅での生活に慣れて貰う事が最優先になりますからね。取り敢えず一週間は様子見です。
宅の生活、という事で関係各所に挨拶にも。
実家に報告をしに行ったら、母上が母親に。
いや、別に馬鹿にしている訳ではなくてですね。俺が知っている以上に母上が母性が強くて吃驚。
でも、よくよく考えたら、あの甘ったれボディのアーヴェルト君を心配しながらも許容していた訳で母性本能が弱いとは思えません。
俺の知っている恐い母上は俺が遣らかすからで。基本的には素晴らしい母親だと思っています。
……まあ、今の俺になって、変わりましたしね。母上としても一番の懸念が無くなった為でしょう。悩み事の種、という意味では同じですが。
それは兎も角、二人が迎え入れられてはいたので俺達としても安心しました。
当の二人も子供だからこその順応力。精神面でのケアとサポートは俺達が気を配ります。
今の所は大丈夫そうです。
それもこれもメアリー様の存在が大きい。
同い年のメアリー様が二人を引っ張り、俺達への信頼が強く、疑いが無いからこそ、二人の警戒心も自然と緩み、良い感じに馴染んでいます。
「王族だから」と言う訳では有りませんけどね。メアリー様も十分に人誑しだと思います。
そういう風に育っているというのも有りますが。やはり、本人の性質というのが大きい事ですから。愛される人柄というのは天賦の才だと思います。
だからね、他の愛される人に話を回そう?。
「アルト様だからこそ、意味が有るので無理です」
敏腕メイドに一刀両断にされ、留守中に溜まった机の上に積み上げられた魔塔群を睨む。
睨んだら消滅させられる魔眼的なスキルが欲しい今日この頃だったりします。
こんな狭い場所に摩天楼を築いてどうするの?。もっと景観とか考えましょうよ。
本当に……何故、減らない。何~故~だ~。
「所でアルト様、レベッカとシルファの事ですが、本当にメアリー様の御付きで宜しいのですか?」
「うん、その方が御互いの為になるからね」
「御互いの為ですか?」
「メアリーは貴族社会の中でも最上位に居る
それはメアリー自身では、どうこう出来無い事
しかし、それ故に柵や制約も多く、機会が限られる
一方でレベッカ達が置かれていた状況は社会構造で言えば最底辺に近い物だ
世の中の厳しさと理不尽さを押し付けられていた
此方等も本人達に関係無く、どうしようもなくだ」
「……そうですね、どうにも出来無い事です」
「一見すれば、正反対の立場だけど、各々の立場に立って考えてみると意外と似ている事が判る
勿論、それを俺達が教えたら意味が無いんだけどね
御互いに向き合い、自分で考える事が出来るなら、御互いに知らない事を知る切っ掛けになる
それは知る事、学ぶ事に最も必要な姿勢を養う事に確実に繋がってくる稀有な経験になる
誰かに与えられる物ではなく、自らが見付け出して初めて真価を発揮するものだからね
その機会を、日常生活の中で得られるのなら幸運
俺達にしても直ぐに結果を求める理由も無いしね
三人が洗礼式を迎える頃までに何かしら得られれば成果としては十分だと思うよ」
「……アルト様は教師も出来そうですね」
「いやいや、それは無理だと思うよ?」
そう言って苦笑しながら、話を切る様にカップを手に取り、口を付ける。
思わず、「不特定多数を相手にはね~……」等と余計な事を言い掛けました。
この世界には学校という文化は有りません。
ですから、教師というのは家庭教師を指します。昔のアーヴェルト君にも居ましたが……人見知りで引き籠りな状態では……ねぇ……。
まあ、下手に恩師みたいな人が居ない事は、今の俺にとっては良い事なんですけどね。
きっと、当時の両親や家族の心配や心情を思うと笑えない話だったとは思いますから。
この手の話には触れない様にしています。
魔塔群を攻略し、フォルテに癒して貰って回復。我が愛妻の治癒能力は女神級です──という惚気は口には出しませんけどね。
恥ずかしいからじゃないんですけどね。
万が一、それが後々に伏線回収みたいになれば、転生者である可能性を疑われ兼ねません。
それに何より──自分以外の転生者の有無。その可能性を考えれば、悪目立ちは控えたい──とは、思っていたんですけどね~。
あれだけ派手な成果を出しても接触してくる様な存在は今の所、一人も居ないのが実状。
それを考えると、少なくとも原作の知識を持った転生者というのは居ないと思う。
ただ、転生者が居ない訳ではないと思いますから油断は出来ません。味方とは限りませんし、嫉妬や逆恨みされる可能性は高いですからね。
まあ、今更自重しても……ねぇ?。
そんな訳で、油断はせず、マイペースで。
自分らしく生きる事に変わりは有りません。
「──あ!、アルト様、いらっしゃいませ」
「御疲れ様、御邪魔させて貰ってるよ
騎獣としての飼育や調教は順調そうだね」
「はい、思っていたよりも良い子達で助かります」
掃除道具を手に持って遣って来たミーファさんとホースリザードの頭を撫でながら話す。
会話と報告書では知っていても実際に見なければ判らない事も有りますからね。こうして自分で直にホースリザードの厩舎を訪れ、確認する訳です。
信頼と怠慢は客観的に見ると似ていますが、全く別物ですからね。間違わない様にしないと。
そのホースリザードは元々大人しい性格ですが、騎獣に育てる為には本能的な警戒心の強さからくる臆病さを克服し、人に慣れさせる事が重要。
だからと言って、人を脅威に思わないというのも暴走や騒動の原因になる為、如何に普段から自分の側に有る人が信頼出来るのか、という事を学ばせ、背を預けてくれる様にしていく。
言葉や文字にすれば、それだけの事ですけどね。実際には根気強く少しずつ遣っていく事が肝心。
少なくとも、人の都合を押し付ける様な遣り方で本当の意味での信頼関係は築けませんから。
因みに、俺と妻であるフォルテ達には無条件服従だったりしますけどね。
これは最初に捕獲した際の俺の威圧により彼等が本能的に「ア、コノ人ニハ逆ラエナイ」と理解し、フォルテ達には俺の匂いが色濃く付いているから。彼等も弱肉強食には逆らえません。
そんな視察中の俺を一対一で相手にしていても、ミーファさんは緊張しなくなった。
宅での生活にミーファさんも馴染んだ証拠です。それが良い事なのか悪い事なのかは本人次第ですが個人的な意見としてはミーファさんにとってみれば良い意味での劇薬になった様には思います。
才能が有っても追い込まれないと殻を破れない人というのは少なからず居ますからね。
そういう意味では効果が有ったと思います。
何だかんだで、宅に関わると開き直っていないと精神的に耐えられないでしょうから。
そういう意味ではメレアさん達には感謝ですし、流石の人選をしていると感心するばかりです。
王公貴族というのも伊達では有りませんね。
「フロイド様を御探しですか?」
「いや、時間が出来たから様子を見に来ただけ
実用化に向けては俺達が最初になるからね」
「そうですね……あ、そう言えば、アルト様
先程、工房の方が来られていたので御挨拶したら、以前、アルト様が設計された新型の馬車の試作品が近々届くと御聞きしました」
「そうみたいだね、俺も楽しみなんだ
だから、折角だし、この子達に牽引して貰おうかと思ってるんだけど……
ミーファさんから見て、どう思う?」
「そうですね……いきなり馬車を牽引して街中を、というのは段階的に早いと思います
最近、漸く一人乗りで街中を移動出来る様になったばかりですからね
先ずは馬車に慣れる方が優先だと思います」
「成る程ね、ちゃんと見てないと言えない事だね」
「い、いえっ、そんなっ、私はその……~~~っ」
揶揄うつもりは無いんだけどね。
結果的に、誉められ慣れていないミーファさんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
箒を握り締め、モジモジしている姿は可愛い。
ホースリザード達が「何してるの~?」と小首を傾げながらも、構ってアピールしているのもね。
慣れたとしても、そういう所は変わらないでいて欲しいと思ってしまいます。我が儘な事でもね。
尚、話に出ていた新型というのは、馬車で移動を強いられるのが苦痛な上、足回りが硬いのが難点。其処でリーフスプリングとサスペンションを開発。それを組み込んだ馬車になります。
俺達の場合、自分の足で走った方が楽ですから、馬車嫌いな者が多いんですよ。俺とかね。
実際に使って、改良点や修正点を洗い出したら、本格的な生産に入る予定になります。
宅に、王家・クライスト家・フィルヴァンス家、それから、アイドリー家が最優先納品先。
車体は兎も角、上物は各々に異なります。
御用達の工房も各家で違う為、それなりに時間は掛かりますが、仕方有りません。
一方、肝心の車体は全て同じ工房の生産品です。俺が立ち上げた工房なんですけどね。
その工房はアイドリー家の領内に有りますけど。特に問題は有りませんから大丈夫です。
車体が出来てから、各家の御用達の工房に移し、馬車としての上物を乗せていく事になります。
だから、どうしても時間は掛かります。
ただ、ユー姉さんの嫁入りに合わせてミロード家にも贈る予定なので車体の完成は急務。
──とは言え、略完成はしていますから。最後は実際に使用してみて、という感じです。
全てが上手く行けば、ユー姉さんの結婚式の際にホースリザードの騎獣としての御披露目も出来ると思ってはいます。飽く迄も、可能性の話ですが。
何かしらの目標が有る方が、遣る気は出ますし、達成感を味わえますからね。無駄なプレッシャーや追い込む様な重責に為らない程度に、です。
「さてと、それじゃあ、俺も用事を済ませないと
ちょっと、この子を借りるけど大丈夫?」
「あっ、はい、大丈夫──って、ええっ!?
ア、アルト様っ、あのっ、その子は──」
「中々、元気が良いみたいだね」
「……あぅぅ…………私が怒られませんか?」
「大丈夫、フロイドさんにも話して有るから」
軽く泣きそうになっているミーファさんに苦笑を浮かべながら安心させる様にネタバラし。
実は、フロイドさんに「ちょっとだけ手が掛かる気が強い奴が居て……」と相談されていてね。
こうして直に確かめに来た訳なんです。
目を合わせても「一対一なら退かねぇぜ?」的な戦う気を見せている一頭。
群れの安全の為に大人しくしていた、という所も少なからず有るでしょうからね。
賢いだけに、こういう子も居るでしょう。
だから、個人的にも楽しみなんですよね。
本来なら、フロイドさんが遣るべき事ですけど。群れのボスだった子を自分用として訓練中です。
まだエレンさん達には荷が重そうなので、俺が。
たった一頭ですが、その一頭に侮られると、他も侮ってくる可能性が有りますからね。
其処が集団飼育・調教の難しさでも有ります。




