64話 衣装
御茶をしながら、一息吐き。落ち着いていた所に姉上達も帰ってきて。
姉上達の母性本能が刺激されたのか。保護欲にてレベッカ達を可愛がりまくり。
シルファは諦めたのか、されるがままでしたが。レベッカは抵抗するから更に過熱しました。
うん。手の掛かる子って可愛く思えるのが保護欲補正だったりしますからね。火に油でした。
そんな感じで賑やかさに一区切り。昼食を食べに皆で出掛けて、和気藹々。そして、再び戦場へ。
ええ、女性陣の活力は無限の様です。俺を含んだ男性陣の貯蔵量は既に空っぽですけどね。
「……なあ、一緒に行かなくていいのか?」
「地獄が御希望なら命令しますよ?」
「すまん、俺が悪かった、勘弁して下さい」
「素直で宜しい」
俺の無慈悲な選択肢の提示に対しフロイドさんは直ぐに頭を下げて謝った。
決して、女性陣には見せられない場面です。
そして、その会話も聞かせられません。
それは同席するマステディオさんとレブノフさんにも言える事なんですけど。その辺りは御二人共に察してくれていますので説明は不要。二人も妻達の機嫌を損ねたくはないですからね。
先程の会話から判るも様に現在、男女で別行動中だったりします。
女性陣はレベッカとシルファの服を探しに街に。メアリーも含めて着せ替え人形の真っ最中かと。
姉上達は勿論、フォルテ達も足取りが軽かった。メレアさん達も遣る気満々でしたからね。きっと、良い物を選んでくれる事でしょう。
ただまあ、その過程が長いでしょうけどね。
だから、俺達は別行動なんです。
子供である俺は兎も角として。流石に大人三人が一緒に混ざっている姿は見ていられませんからね。三人を救う名目で、という訳です。
結局の所、女性達の買い物に男が混ざっていても何だかんだで不評を買うだけですからね。
それなら最初から関わらない方が御互いに楽だし気分良く過ごせるというものですよ。
「──とか言ってる割りには一緒に買い物したり、出掛けたりはしてるよな」
「妻達となら、ね
抑、フォルテ達も姉上達が居る状況で、そういった空気にはならないだろうしね」
「アンは平気な気もするけどな」
「それ、アンに言ったらキレられるよ?
アンって、そういう所は人一倍気にするしね」
「マジでか……気を付けないとな……」
まあ、アンじゃなくても大体がキレますけどね。其処までは言いません。何事も経験ですから。
そんな俺達の遣り取りを見ながらレブノフさんはマステディオさんに確認する様に顔を向ける。
「いつも、こんな感じなのですか?」と。俺達の関係性が不思議そうです。もう慣れましたけどね。やっぱり、端から見たら、特殊な事なんでしょう。今更止めたり、直したりはしませんけど。
御茶して多少は御腹に入っているとは言っても、まだ昼食は取っていません。ええ、まだなんです。女性陣が満足するまで御預けです。
“待て”は躾の基本ですからね。……いやいや、今のは冗談ですからね?。本当に冗談ですから。
「それはそうと……本当に放置で良かったのか?」
「俺達が居ても邪魔なだけだしね
それに、その方が二人も馴染み易いからね
何だかんだ遣ってる内に遠慮も無くなるよ」
「…………そういうの、俺には無理だな~……」
「今直ぐに、とは言わないけど、身に付けてね
宅の家臣の筆頭が無神経なのは困るから」
「本当、はっきり言ってくれるよなぁ……」
そう言いながら難題に頭を抱えるフロイドさん。ですが、事、これに関しては差し伸べる手が無い。こればっかりは自力で頑張って貰うしかないので。だから、応援だけはしています。
そんなフロイドさんの様子を見ながら、諸事情でミロード子爵となったレブノフさんは、その難題が他人事ではない事に気付き、顔を強張らせる。
直系と言えば直系ですが、一度は家を出た血筋。しかも、その当事者は平民の生まれ育ちですから。如何に歴史の有る貴族家で家臣が有能であろうとも当主自身が御粗末では台無しですからね。
その辺りの事を改めて想像すれば嫌な緊張感から背筋を冷たい汗が伝う位はすると思います。
ただまあ、此方等には手を差し伸べますけどね。立場や意味合いが違いますから。
「レブノフさん、色々と大変だとは思いますけど、悪い意味での気負いは空回りしますよ」
「──っ!?、そ、それは……」
「気負いが顔に出てますから、ね?」
そうマステディオさんに振れば、苦笑しながらもレブノフさんを見て首肯してくれる。
姉上と同様に俺の意図を察してくれる方ですから遣り易くて助かっています。
俺達から指摘されたレブノフさんは恥ずかしそうですが、その恥ずかしさは必要有りません。寧ろ、無駄な自尊心に繋がり兼ねませんから邪魔です。
ですから、今、この場で捨てて貰います。
「自分も新米当主という点では同じです
でも、未熟な事を恥ずかしいと思ってはいません
寧ろ、未熟で当然、だから、周りを頼ります
判らない事は判らない、出来無い事は出来無い
それは正直に、はっきり言った方が良い事です
勿論、何もかも全てを、という訳では有りませんが頑張って、どうにかなる様な事ではない
そう判断が出来る事には無理をしない方が賢明です
無駄な見栄を張る必要は有りませんから」
「…………そういうものなのですか?」
「少なくとも自分は、そうしていますよ
勿論、周囲の期待に応えたいと思って努力をする
それ自体は素晴らしい事ですけど、必ずしも努力が結果・成果に繋がる訳では有りません
だらと言って、焦ったり、悔やんだり、苛立つ事は自分にも周囲にも良い事には繋がりません
想像してみて下さい
自分の仕えている人が、そういった状況で苦悩する姿を見て、どうしますか?」
「それは………………何もしない、かと……」
「ええ、普通に考えれば、何もしませんよね
その矛先が自分に向いては困りますから
でも、普段から周囲の声に耳を傾け、様々な意見を知るという事をしていれば自然と繋がりが生まれ、そういう状況でも相談し易かったり、声を掛け易い関係というのが出来ているものです」
そう言いながらフロイドさんを見る。
顔を上げ、話を聞いていたフロイドさんは苦笑。しかし、言外に「まあ、こんな感じにな」と肯定の意思を見せてくれます。
それを見て、レブノフさんも納得。
俺とフロイドさんの関係が、アンを介しての縁戚関係から来ているのではないのだと。
それ以前に、個人としての関係が有るからこそ。この気安い遣り取りが出来ているという事を。
「ただまあ、個人的には真似は御奨めしないがな
アルト様の場合、これが根っこだし、それを貫ける自力が有るから出来てるだけだ
普通に考えるなら、一線を引く事は必要だ
主従関係が近くなり過ぎると隙も出来易い
その隙が火種を生む事は珍しくないからな」
「成る程…………とても参考になります」
フロイドさんの言葉に納得するレブノフさんに、若干の不満を覚えなくも有りませんが堪えます。
俺もね、流石に自分達と同様の関係が作れるとは思ってはいません。飽く迄も一例としてです。
ただ、一番言いたかった事は言いましたし。後は姉上が上手く支えながら導いてくれると思います。だって、姉上は貴族らしさでは俺達以上なので。
だから、「レブノフさん、喧嘩売ってます?」な苛っとした感情は破棄します。中身は歳上なので。
…………うん、思い出したら歳上なんですよね。最近は肉体基準の年齢に馴染んだんで忘れてますが中身は最年長なんですよね~。……何か、ちょっと泣きそうになりました。
「しかしまあ、俺達は兎も角、アルト様は一緒でも良かった気がするんだけどな」
「しつこい男は嫌われるよ?」
「後でアンに文句を言われそうだからな」
「姉上達が一緒じゃなかったらね
抑、女性と同じ感覚で買い物するのは難しいから」
「そういう物かね~」
「別に一緒に買い物をするのが嫌な訳じゃないしね
ただ、理解出来無い部分って有るから」
「それは…………まあ、そうだな……」
「俺だってフォルテ達に限らず、女性が着飾ったり普段とは違う装いだったりすれば気になるしね」
「その辺は男なら誰でも同じだろうしな」
「だから、女性が着飾る意味は理解出来るよ
でも、男の御洒落って理解出来無いんだよね……
何?、パーティーとか有る度に一々衣装を新調する理由って何なの?
俺からしたら無駄遣いにしか思えないもん
女性は判るよ、その華やかさで場を彩る訳だから
だけど、男が新調する意味って有る?
御金を使う事が目的なら別の事に使いたいし、服に幾ら掛けても行き先は知れてる訳だしね
もっと広く行き渡る使い道は他に有るから」
「……マズイ、火に油だったか……」
「…………え?……」
「……この件に関しては愚痴が止まらない……」
何かフロイドさんがレブノフさんと、こそこそと話してますけど無視です、無視。
本当にね、その習慣だけは理解が出来ません。
女性の衣装はバリエーションが豊富ですし、色々工夫したり、流行り廃り、一周回って再ブームとか有りますけど。
男物って種類の幅が知れてますよね?。
しかもね、パーティーとかに着て行く服装なんて大体、何処でも誰でも似た様な物ばかり。変えても生地の色や素材、カフス等の小物程度です。
大胆にスリットを入れたスーツが有りますか?。有っても、男の生足を誰が見て喜びます?。
仮に居るとしても、それなら思い切って海パンで参加したら良いじゃない。見せたいし、見られたい欲求を満たせますから。
でもね?、女性の美を女性が誉めても、男の美を男が誉めるって中々無い事だって思いません?。
ナルシストの集まりじゃないんですから。
それなのに、事有る毎に一々服を…………
「……あの、如何でしょうか?」
「うん、可愛い、各々の髪の色とも合ってるしね
三人共よく似合ってるよ」
そう素直に誉めると不安そうだったメアリー様は両隣のレベッカ・シルファと顔を見合わせて喜ぶ。その様子を見ているだけで此方等も笑顔に。
ですから、姉上。其処で「そうでしょうっ!」と自信満々のドヤ顔はしないで下さい。
三人の可愛さを貴女の面白さが食いますから。
無条件にツッコミたくなりますから。
まあ、姉上に限らず女性陣の力作なのは確か。
何しろ、三時間近く待っていましたから。俺達の胃からチャポチャポと水音が聞こえて来そうです。実際には飲んでばかりじゃ有りませんでしたが。
別行動にした甲斐は有ったので良かったです。
メアリー様とシルファはキャッキャッと年相応の素直な笑顔で楽しそうにしていますし、立場よりも同い年という仲間意識が強いのは良い事です。
勿論、将来的には立場の違いで一線を引く必要は出て来るでしょうけど。今は特に必要ではないので同い年の友人が出来る事の方が良いですからね。
レベッカはツンデレっぽいので一見しただけでは馴染んでいない様に見えますが、フォルテ達に声を掛けられると嬉しそうにしています。
大人不信な所が有る為、反射的に強がりますけど俺達の様に子供の範疇には素直。
目上に対する礼儀も基本的には出来ていますし、無差別に喧嘩腰な訳では有りませんから。
姉上という秘密兵器を投入した御陰です。
ええ、御姉様だけにね。
──とか、あまり余計な事を考え過ぎると無駄に気付かれ勝ちなので程々に。引き際が肝心なので。その位は学習していますとも。
フォルテ達やメレアさん達にも御礼を言ってから延び延びになっていた昼食へ。
此処で「あ~、マジで腹減った~」とか無神経な事を言ったら、どんな風に見られるのか。
目の前でフロイドさんが遣らかしていますから。レブノフさん、よく見て置いた方が良いですよ。




