63話 孤児
“盗人少女”改め、レベッカと友人のシルファ。二人を両脇に抱え御風呂に向かったクーリエさんを皆で見送って、一息吐く。
クーリエさんからの「まだでしょうか?」という無言の圧力が半端無かったです。
「──で、どうするんだ?、あの二人の事」
「そうだな……二人共、孤児なんだけど……」
「──っ……アルト様、それでは……」
「ああ、既に御両親は亡くなられているみたいだ
そう出てたからね……」
そう言えば、流石に皆、直ぐに理解する。
俺が隙を見て二人に【鑑定】と【アナライズ】を使って身元の確認をした、という事を。
これは以前に検証して判っている事。併用すれば対象の身元や家族構成、その生死も判る。
まあ、個別に判る訳ではなく、死亡しているのも近親者なら。五親等以内に親戚が居ない場合に限り個人情報に“天涯孤独”と出る。
あまり、好ましくはない事なんですけどね。
実はメレアさんが、そうだったりします。
それは関係無いにしても、非情な事実には沈黙。
場の雰囲気が重くなるが……仕方が無いか。
「関わった以上、放り出すつもりは無いよ
ただ、流石に他国な訳だし、勝手に連れて行くのは不味いかなって思ってるんだけど……」
「いいえ、それは特に問題には成りません」
「そうなの?」
「はい、人身売買では有りませんので」
メレアさんの一言に「あー……」って皆で思う。確かに、それは問題に成りますからね。
そういう訳ではないなら、問題には成らないと。うん、何か可笑しい気がする。
でも、この世界の戸籍って意味が違うしな~。
誘拐なら兎も角、相手は孤児だと……被害届とか誰も出さないし、探しもしないか。世知辛いね。
「でもまあ、一言届けておいた方が良いかな」
「それでしたら、ペルメーラ子爵家に御話しして、処理して頂いては如何でしょうか?」
「実質的に新興貴族に等しいミロード子爵家よりは確実に繋がりが多い、か……
姉上達との関係を考えても、その方が良いかな」
メレアさんの提案に対し、直ぐに意図を察す。
ミロード子爵家に頼むより、ペルメーラ子爵家に頼んで関係性を匂わせる方が後に繋がる。
それに、姉上達との直接の繋がりだけじゃないと思わせれば、俺と直接の縁繋ぎに拘らなくなる。
無くなりはしないけど。減る事は大きい。うん、結果的な副産物だけど俺達にも利になるね。
「……本当、そういう所は超大物貴族だよな」
「そんな事より、ハルモナって孤児が多いの?」
「何処にでも溢れてるって訳じゃないが……他より目に付き易いから、多い様に思えるかもな」
「あー……成る程ね、商売の国だから、か……」
「だから、そういう所だって」
しつこいフロイドさんは無視するとして。
言いたい事は直ぐに理解出来ました。
今は戦争の無い平和な時代です。戦災孤児なんて探しても見付からないでしょう。元は別にして。
しかし、孤児が全く居ないという訳ではないし、生じないという訳では有りません。
実際、二人の様に両親や家族が冒険者であれば、少なからず、そう為る可能性は有る訳で。
様々な理由から孤児にに為る事は有り得ます。
孤児が必ずしも天涯孤独に限定されているという訳だけではないですからね。
レベッカが話してくれた様に、捨て子の可能性も十分に有ります。
偶々、二人は違っていただけで。俺が調べる術を持っていただけで。普通は見分ける事なんて殆んど不可能に近い事ですからね。
商売に失敗したりすれば、十分に有り得る話。
そして、露店商も多いが故に、悪目立ちもする。人目に付き易い場所で、盗む事になるのだから。
本当、皮肉な話なんだけどね。
そう考えるとメルーディアは平和だと言える。
メルーディア王国は農業大国。そういう意味では飢餓とは本当に縁遠い国だ。
勿論、家庭の経済格差、社会的な貧富の差という意味での差は有る。それでも真っ当に働いていれば自身は勿論、家族が困窮する事は稀だ。
加えて、近年は俺が色々と遣らかしていますから雇用という面でも大幅に改善されています。
それに代々の国王御夫妻や高位貴族が父子・母子家庭や孤児に対して手厚い保護や援助を惜しまない政治理念を持っている事も大きい。
孤児院が有るという話は出身者のメレアさんから聞きましたし、見学もしました。寄付もね。
だから、メルーディア国内では滅多に二人の様な劣悪な環境に居る子供は極めて稀。様々な要因から発見が遅れたりする場所は有りますが。そういった孤児の孤独死は皆無だと言われています。
まあ、全ては把握が出来無いでしょうからね。
それは兎も角として。ハルモナ王国は“商国”と称される程の経済大国です。
しかし、その一方で実は自国の特産品というのは殆んどが加工製品だったりします。
腕の良い職人を抱え、商品を生産してはいますが大半の原料は輸入によるもの。
鉱物資源は有る国ですが、土地は不毛の大地。
その為、食料品は殆んど輸入頼り。故に、利益を第一に考え、追及する姿勢は仕方無いのでしょう。彼等も生活する為には稼がなくてはらないので。
ただ、その裏側では孤児や浮浪者等の問題が有るという事なんです。
前世の知識で知ってます。そういった社会問題の数々をね。そして、その解決の困難さも。
それでも。この世界でなら可能性は有る。
前世の社会でとは違う。今の俺だから出来る事。それは確かに有るのだから。
「……根本的な解決の為に梃子入れするか……」
「そんな事、出来るのか?」
「一応、考えられる手は有るよ
まあ、色々と大変だし大掛かりな話になるけどね」
「それは具体的にはどの様に?」
「一番の問題はハルモナ王国の自給率の低さだ
其処を一国の規模で、必要最低限の量だけでも自国生産し、確保出来る様になる事が第一段階」
「それが出来無いから、こうなってるんだろ?」
「今までは、ね」
「それではアルト様には打開策が?」
「俺って言うか、ミロード子爵家にだな」
「ミロード子爵家?」
「まあ、習慣と言うか、癖と言うか……
ちょろっとね、地質調査とかしたんだよね」
そう言ったら、場が静まった。
フォルテ達は苦笑だけど、フロイドさん達は深い溜め息を吐いた。
仕方が無いじゃない。好奇心や探求心というのは自分でも完璧には御し切れないものです。しかし、それが有るから人類は文明を発展させてきた訳で。それを捨ててしまう事は人を止めるに等しい事だと個人的には思います。だから、仕方が無いんです。
ほら、その道を極めようとはしなくても、生活の一部になってると自然と気になったりするでしょ。それと同じ事なんです。
俺自身、他意も無いし、深い意図も有りません。偶々、それが後々意味を持ったというだけの話で。最初から狙っていた訳では有りません。マジで。
そんな無言の弁明の眼差しを受け、メレアさんが一つ溜め息を吐いて視線を切った。
「これで話は終わります」という合図。妻達よ、俺は勝利したぞっ!──ァ、ハイ、スミマセン。
「……それで、実際には可能な事なのですか?」
「最初に俺が直接手を入れる事が必須だけどね
少なくとも五年以内には第一段階は整うと思うよ」
「……そうなると、ユージェニー様の選択は正しく未来に繋がってるって訳か……」
「流石に其処までは考えてないと思うけどね
結果的には大当たりを引いてるかな
ただ、二家や身内に限定して進める気は無いよ
主導権はミロード子爵家に、総括役は宅が遣るけど彼方此方を巻き込まないと話が揉めて滞る事になる事態が目に見えてるからね」
「あー……面倒臭い話、政治的な問題か……」
「宅とミロード家は勿論の事、メルーディア王家、クライスト家、アイドリー家、フィルヴァンス家、ガーガルガン家、パーゼイル家、アルノーシャ家、ペルメーラ家、ハルモナ王家の参加は絶対条件
希望でノーゼンヴィット王家、ケーンブーゼ王家にライガオン獣王国、ダルタルモア帝国、エルフ族
セントランディ王国は話を持っていけば参加すると思うから難しくはないだろうしね」
「…………確かに大掛かりな話だな」
「まあ、一国の基盤を作り直す訳だからね
始める前の根回し・足場固めが出来てからでないと後で容易く綻んで、潰える事になる
そういった意味でも、如何に早く話を纏め上げて、着手出来るかが胆になるだろうね」
──とは言え、そう簡単には話が纏まらないから面倒なのが政治的な問題な訳で。
それを判っているから、皆の顔も渋い。
如何に俺に強い影響力が有ろうとも、其処までの規模の話となると独断では動けない。
今までの“結果良ければ、全て良し”は殆んどが内容的に関わる所が複合する案件が少なかったし、エクレとティアの事も訳有りだったからね。
ある意味、俺が関わろうとしてきた事の中では、これが最大規模の政治的な話になる。
だからまあ、正直ね、物凄く億劫なんです。
出来る事なら、立案と最初だけ遣って、後の事は大人な皆様に丸投げしたい。
そうしたいけど──今まで動かなかった大人達が簡単に足並みを揃えられるとは言えないのも本音。勿論、俺達の関係者に限れば大丈夫でしょうが。
実際には、それよりも遥かに大人数が関わる事は言わずもがな。だから、慎重さが求められます。
「まあ、今此処で悩んでも無駄に頭が痛いだけだし一旦頭の隅に片付けて置くとしよう」
「……やっぱり、アルト様も貴族なんだな」
「“なんちゃって”だけどね」
そう俺が肩を竦めて見せて、話は終了。
メレアさんが一息入れる為、御茶の準備に入る。御茶請けは大量購入したパンが有りますからね。
三人が戻ってきたら一緒に食べましょう。
「それはそうと、混血って初めて見たな
皆は直ぐに判った?」
「エルフの場合、耳の長さが半分に成りますから、知っていれば一目で見分けが付きますから」
そうティアに言われてレベッカの事を思い出すが俺の認識では区別が出来そうにない──と言うか、子供のエルフの耳の長さが判らないからな~。
比較するべき基準が判らないと無理だと思う。
一方、シルファはズゥマのハーフだった。
正直、調べなかったらヒュームにしか見えない。だから、本人の申告か、クーリエさんからの報告で知らなければ判らない所だったと思う。
そんな俺の思考を察したのかアン達が苦笑する。
「御覧の通り、ズゥマの場合は半々です
耳が有る場合はズゥマ、尾が有る場合はヒュームに見えてしまいますから、一目で判りません
私達は匂いで判別できますが」
「エルフと違って少々ややこしい特徴だからな
ただ、古い考えだと“片欠け”なんて呼ばれる」
「耳か尾、片方しか持たないから、か……」
それが実力主義のズゥマの中でも根深い差別だと二人は理解している。だから、表情が曇る。
シルファはハーフで、ズゥマの特徴は兎尾のみ。耳はヒュームと同じ。だから、一番判り難い。
俺も抱き上げた時、偶々触っていたから判るが、それが無かったら気付くのは調べてからだった。
二人の様に犬尾・猫尾は長いから目立ちしね。
ただ、ハーフは基本的に一代のみのものらしい。ハーフの者が何方等かの種族と子供を成すと両親の血筋の強い方に帰純するそうだ。
但し、異なる種族の両親を持つ者が、残る一つの種族との間に子供を成すと虚弱化するらしい。
どういった仕組みなのかは判りませんけどね。
因みに、エルフとズゥマのハーフの場合に限り、必ず、耳はエルフで尾持ちなんだとか。その場合の耳の長さも半分だそうです。
でもまあ、そうじゃないとエルフとのハーフだと判らないですもんね。




