61話 訪問
ニュエの月、10日。
三ヶ月振りに会うメアリー様が超甘えん坊さんにクラスチェンジしていました。
当初の予定ではメイヴェの月から二ヶ月でしたが諸事情から色々と調整されて、一ヶ月後ろにズレて今月から再開。
リチェスの件では不参加でしたが今現在、一緒に生活しているメアリー様。その為、パクラチスの試食会には参加しています。
ただ、その一件に関しては途中参加ですからね。フォルテ達の事が羨ましそうでした。
勿論、メアリー様も自分の立場や俺達の状況等を少なからず理解されていますから表立っては不満が有っても言う事は有りません。
しかし、だからこそ俺達も配慮はします。
ただまあ、今のメアリー様は俺を独占するよりもフォルテ達と一緒の中で、皆よりも少しだけ甘えるという感じが嬉しいみたいです。
二人きりでデートをする、というのは簡単です。しかし、不満が有れば正にダイレクトですからね。ある意味、諸刃の剣だと言えます。
その事を最年少のメアリー様から学びました。
ええ、改めて、自分が妻達に恵まれているんだと思わずには居られません。
「そう言えば、メアリーは他の同い年の貴族の娘と交流したりはしてるの?」
フォルテ達と一緒に夫婦の共同作業として此方で育て始めた野菜の中で最初の収穫であるシーバ豆を一つ一つ手作業で処理しながら。ふと、思い付いた事をメアリー様に訊いてみた。
因みに、シーバ豆は前世で言う所のえんどう豆。見た目には似ていますが味は栽培方法如何で変化。宅のは濃厚になる様に育てました。
第一便は既にクーリエさんに渡しました。今頃は塩ゆでされている筈ですから、楽しみです。
失敗したら失敗したで、それも経験ですからね。
人生というのは、死にゲーと似た様なものです。如何に学び、考え、行動するのか。その意味でなら大差は無いのですから。
ただまあ、ゲームは自分の事だけです。
しかし、現実には色んな人達が関わりますから。そういう意味では別物でも有ると言えます。
「いいえ、まだ正式には社交の場には出ていません
アルト様や御姉様達と御逢いしている事が特別な事なのだそうです」
「王公貴族の社交デビューは五歳とされています
その意味では現状が特別なのだと思います」
「成る程ね~」
メアリー様の言葉にフォルテが補足してくれる。この辺りは俺という者を深く知っていればこそだと言えますね。有難う、フォルテ。
──で、ぶっちゃけるとです。俺──と言うか、覚醒前のアーヴェルト君は人見知りで引き籠り屋。正直、同い年の貴族との交流の記憶が有りません。
メアリー様の兄姉には俺と同い年の王子・王女は居ませんが、同世代の子が皆無ではない。
今更な話ですが選定の儀には一緒に参加していたメルーディア王国の貴族の子女は居た訳です。
しかし、俺は同じ男子側の子供と会釈した程度。会話らしい会話は有りませんでした。
これでも一応は伯爵家の息子なんですけどね。
だから、後になって近寄られても嫌な訳です。
そういう意味ではフォルテ達も同じな訳ですが。
メアリー様は今からです。
正直、俺達との直接の縁繋ぎには失敗していてもメアリー様を介して縁を繋げれば大逆転です。
特にメアリー様と親しい友人関係を築けたなら、俺達にも接触し易くなりますからね。
自分で言うのは嫌ですが、側室へ入れる可能性も全く無いとは言い切れませんから。
生々しく、計算塗れの話になりますが。
そういった事も社会という関係の中では必要な事では有りますからね。理解は出来ます。好き嫌いは別にしても、ですけど。
話を戻して。
まだメアリー様が社交の場に出ていない。だが、事実上の俺の妻としては参加している。
しかし、今の俺達を簡単には招待は出来ません。ある意味、代官という御仕事が盾に為りますから。
それでも、考える者は考え抜く訳です。
どうにかして他の競争相手を出し抜こうと。
その為、何だかんだと理由を付けては試みてくる輩が後を絶ちません。
殆んどは無視出来ますし、断れるんですが。
面倒なのは亡くなったケリノス殿の正妻の実家。勿論、彼女を俺の側室に押し込もうなどとはしてはいませんし、考えてもいないでしょう。
幸いにも俺と歳の近い妹や姪も居ません。
しかし、それは彼女の実家と直接はという話。
そういう場を設けるだけでも他の者に恩を売れる訳ですからね。本当、色々と考えるものです。
「ペルメーラ子爵家の御話ですか?」
「別に受けてもいいんだけどね
一度前例を作ると後が断れなくなるからな~……」
今の話題から察したのか、率直に訊いてきたのはエクレ。フォルテ達の中では一番実績が有ります。本人にとっては嬉しくなくてもね。
だから、こういった話では俺に次いで鋭い。
正妻のフォルテが王道・正道なら、彼女は覇道。必要なら謀略という手段を用いる事を躊躇わない。その芯の強さは頼もしく思います。
勿論、彼女に汚れ役を遣らせるつもりなんて全く有りませんけど。そういう覚悟を彼女が持っているという事が頼もしい訳です。
当然ですが、フォルテ達も頼もしいですよ。
「姉上の立場が悪くなるなんて事は絶対に無いし、下手な小細工も遣っては来ない
向こうにしたって「上手く行けば儲け物だな」って位だろうからね
過度な期待はしてないだろうから断るのは簡単だ」
「……と仰有いますと、何か御考えが?」
「ハルモナって貿易面では要所だからね
メルーディアとしては仲良くしたい相手だ
一方で、ハルモナと不仲なのがケーンブーゼ
そのケーンブーゼとはガーガルガン子爵家との貿易で経由地になるからね
宅としては両国に繋がりが有ると助かる」
メルーディア王国が隣接する国はハルモナ王国とケーンブーゼ王国の二つだけ。
件のペルメーラ子爵家はハルモナ王国の貴族で、その位置的にもハルモナ王国は各国の陸路に置ける貿易路の中心地。海路はコストが嵩みますからね。経費が安い陸路は需要も多い。たがら、仲良くして損をするという事は少ない。
そんなハルモナ王国とケーンブーゼ王国ですが、古くからの因縁も有って、不仲なのは周知の事実。流石に戦争をしたり、表立って対立していませんが両国の間に有る溝というのは物凄く根深い。
“商国”と称されるハルモナが利を無視してでも譲れない、という位ですからね。
ただ、それでも選定の儀に参加し、両国の子女が結ばれる事で少しずつは改善している様ですが。
まだまだ時間は掛かる、というのが世評です。
「万が一の時には其処を介して、ですか……」
「そういう事」
俺の意図を的確に汲み取り納得するエクレ。
世の中、唐突に何が起きるか判りませんからね。備えられる事には備えて置きたい訳です。楽観視し何もせずに起きてから後悔したくはないので。
フォルテも理解している様だけど……実家の事で無関係ではないアンは我関せず。少しは興味を持つ努力はしましょうね?。
まあ、こういった政治的な話は聞いて理解をするだけでも面倒臭い事は否めません。俺自身、前世で今程に関心は持っていませんでしたし──と言うか興味すら有りませんでしたからね。だから、アンの事は言えない立場です。
ただ、それは俺自身の問題だけではなく、社会や政治家等が期待を懐かせなかった為。
別に万人に優しい世の中を作って欲しいだなんて無理難題を押し付けはしません。
しかし、真面目に働き、誠実に生きている人達が不当な扱いを受けたり、不幸になる。
そんな世の中だった訳ですからね。一体何を以て未来に希望や期待を懐けと言うのか。
自分の生活さえ保たれれば、それで十分。
そういった思考や価値観になるのも当然な話だと今だから判るし、言う事が出来ます。
「それでは、御話を?」
「そうだね、姉上にも相談して、だけど
取り敢えず、受けてみる方向で話してみるよ」
──と暢気に話をしていたのが一週間も前の事。今日はニュエの月、20日。
その話をしに行ったら姉上は二つ返事で了承し、アイリーン様にも直ぐに話が通され、議論等をする間も無く、滞り無く、準備され──出発。
何処のメイドさんや執事さんも優秀な事です。
ただまあ、俺達と一緒にメアリー様が居ますから其処は無視して通過する訳には行きません。如何に婚約者で、事実上の妻だろうとも陛下達の許可無く国外にメアリー様を同行させる事は無理ですから。ちゃんと王城にも出向きました。
公式には社交の場にも出ていないメアリー様だし許可は出ないと思っていたら──あっさりと許可。俺の方が「え?、良いんですか?」と思わず陛下に訊き返した位ですからね。吃驚です。
ある意味、信頼の証なのでしょうけどね。重い。陛下達や父上達の期待や信頼が重過ぎます。
まだ愛が重い方が俺は良いです。
そんなこんなで、ハルモナ王国に初入国。
まあ、こうして皆で旅行をする分には楽しいので其処に関しては文句は有りませんけどね。
「……やっぱり、可笑しくないですか?」
「何?、まだ言ってるの?」
「いや、言いますよ、気にしますよ
だって、俺、末っ子なんですよ?
それが何で姉の婚約の場に親の代理で出席を?」
「貴男が男爵で、先方にとっても良い餌だからね」
「…………言い切りましたね」
「事実だもの」
ハルモナ王国の南西部。メルーディア王国と唯一接しているピチャノフ伯爵領にあるポポックの街の宿の俺達の部屋で姉上を前に愚痴る。
今回の旅行──いえ、来訪には、宅は普段通りの面子にメアリー様が。アイドリー家からは姉上達に先方から嫁いだノイラさんを含む側室の方々と皆の世話をするメイドさんが三名。
其処に、ユー姉さんが加わっています。
ええ、ユー姉さんの縁談が纏まるか否かが決まる顔合わせに父上達でも兄上達でもなく俺が。
まあ、姉上も同席はするんですけど。
何故か、クライスト伯爵家の代役は俺が。
何が「丁度良い、頼んだぞ」ですか!。話以上に責任が重過ぎますってっ!。
「アルトの心配も判りますが、大丈夫ですよ
この縁談は実質的には既に纏まっていますから
貴男の言動で駄目になるという事は有りません
寧ろ、貴男が顔を見せてくれた方が確実になります
楽しく会食する位の気楽な感じで大丈夫ですから」
そう、俺が持参してきていたポテチ擬きを摘まみながら落ち着いているユー姉さん。
自分の縁談ですよ?。少しは心配しましょうよ。
ただまあ、ユー姉さんの言っている事も正しい。
ユー姉さんの嫁ぎ先は伯爵領の東に隣接しているミロード子爵家。
現在十三歳のユー姉さんですが、側室ではなくて正妻として嫁ぐ事になっています。
それだけで普通ではない、という事は判ります。だから、事前に説明も受けてはいます。
ミロード子爵家ですが、先々代──ユー姉さんの結婚相手の方の父方の祖父の兄が家督を継ぎ、弟は家を出て商人として成功した方だそうです。
御家に特に問題は無いのですが、その兄の直系の御家族が事故で亡くなった為、急遽、家を出ていた弟の家族の方に継承の話が。
兄の方は子供が娘が一人で、二人の孫も一緒に。相続権の関係上、最上位に居るのが弟の息子。
当の御兄弟は既に亡くなっている為、継承の件は王国からしても半ば強制的な感じで。
此処で、ややこしいのが、魔力評価。
弟の息子さんは無空、その長男・次男も同じで、三男が魔力持ちだった為、後継ぎに。
今年の選定の儀も既に済んだ後だった事も有り、そんな経緯の為、婚約者探しも難航──しそうだと思われていた所で、俺が絡む。
アイリーン様に頼んだ姉上達の相手探しの中に、その三男の方が入っていた訳で。
商人らしく利に鋭く、横槍が入る前に、と。
加えて、そのタイミングで今回の話ですからね。それは押し付けられる訳ですね。




