54話 試験
俺達のステータスの確認も滞り無く無事に終了。……え?、問題何て有りませんでしたけど何か?。
「御存知かと思いますが、洗礼式を終えていれば、誰でも冒険者としての審査──採用試験を受ける事自体は可能となっています
勿論、犯罪者や犯罪歴が有る方は弾かれます
冒険者にとって、ギルドにとって、信頼は最重要な付加価値と言えますので
試験に合格された方は冒険者として登録をする事が出来る様になります
即日登録される方が殆んどですが、中には保留して後日登録されるという方も稀に居らっしゃいます
試験の合格日から三ヶ月は有効となっていますが、それを過ぎると再度試験を受けて頂きます
其処で不合格となった場合、半年間は試験を受ける事が出来無くなりますので御注意下さい
冒険者としての活動には“ランク”が関わります
冒険者ランクにはG~A、S、SS、SSSまでの十階級が存在しています
最初は何方でも等しくGランクからとなります
しかし、実力という物は一定では御座いません
判り易い例が、ズゥマの方々の強さです
同じ年齢の初心者でもヒュームやエルフと比べると身体能力に差が有ります
それなのにランクで縛ってしまうと将来有望な者が育ち難くなったりします
勿論、ランク制度は冒険者の安全を守る為であり、その為の依頼の許可の有無が有る訳ですが……
ギルドとしても、実力の有る方には昇級し易くし、より大きくの依頼を受けて貰いたいのも事実です
ですから、試験を行い、個々の実力を見定めます
高い実力を持つと認められた冒険者の方にはランク表記の横に“+”が刻まれます
通常なら自分のランクに定められた範囲の依頼しか受けられない所を、上のランクの依頼も受けられる様になります
尚、表記としては一括りですが、実際にはギルドは細かく実力を分けていますので、同じ“+”持ちの冒険者でも差は存在しています
その辺りの事は御了承下さい」
そう言って丁寧に頭を下げる目の前の女性。
早過ぎず遅過ぎず淀み無く、一定ながらも必要な部分には然り気無く抑揚を付けて印象付ける。
まさにプロの受付嬢の技でしょう。
──と感心している様に現在、冒険者ギルドにて採用試験を受けるに当たっての説明を受けている所だったりします。
知ってはいても最近になって規約等が変わる事は起こり得ますから。事前説明は大事な御仕事です。有難う御座います。
「アーヴェルト様は幾つもの武勲も御座いますし、関係各所から事前報告も有り、“+”評価となる事自体は既に確定しています
勿論、試験は受けて頂く事にはなりますが……」
「はい、それは勿論です
此処で可笑しな前例を作る事はギルドにとっても、王国や社会的にも良い事では有りませんからね
如何なる相手であろうともギルドは公平な立場だと示す為にも必要な事だと思います
ですから、御気に為さらずに」
そう笑顔で言ったら、女性は驚いた様な顔をして暫しの硬直──からの涙。え?、何故?。
そう思う一方、此処は冒険者ギルドですからね。色々と面倒な柵や圧力は有るんでしょう。
「大変苦労されている様ですが頑張って下さい、それからコレを皆さんで……」と言って買っていたケーキの詰め合わせを取り出して渡す。
賄賂ではなく頑張っている皆さんへの心ばかりの差し入れです。遠慮せずに、どうぞ。
文句が有るなら喜んで受けて立ちますから。
一息吐き、仕事に戻る受付嬢の女性。
それ位の切り替えが出来るメンタルをしてないと受付嬢は務まりませんよね。尊敬します。
「それでは試験の申込書と承諾書を御渡しします
書き終わりましたら、御持ち下さい」
そう言って申告していた人数分の書類を受け取り記入台の有る所に移動。
今回は俺とフォルテ・ティアに、メレアさん達で五人が試験を受ける事になります。
アン達も洗礼式が終われば確実に受けますから、記入や規約に関しての予習も兼ねて同席。
事前に聞いたり調べてはいましたが判らない事は素直に訊く事に。特に有りませんでしたが。
書類を提出し、試験までの待ち時間。ギルド内を見学させて貰いながら、先程の説明を振り返る。
アレは“俺の為の説明”だと表向きには思う筈。しかし、実際には違うでしょう。
アンは既に中級ランクの冒険者と遜色無く戦える程度の実力は十分に有ります。経験は別にしても。それに加えて、ズゥマですからね。
ティアとエクレは微妙な所ですが……今回の話のメイン対象は恐らく、フォルテでしょう。
避難誘導や部隊指揮という面では認められているフォルテですが、その実力は不明。魔力評価は無空とは言っても武に関しては別ですから。恐らくは、その辺りに対する配慮──いえ、措置でしょう。
母上は知っていますから、それとなく話している可能性は十分に有ります。
まあ、万が一にも、俺に不満を持たれても困る、という意味での配慮かもしれませんが。
その辺りは追及しない方が御互いの為ですから。良い事なら黙って受け入れますよ。
「本日の試験官を務めます、エレンです」
「ォおお、同じく、試験官を務めさせて頂きます、ミーファです!、よ、宜しく御願い致します!」
対象的な挨拶をしている二人。
エレンさんは二十代半ば、ミーファさんは二十歳前後に見えますが、流石に【鑑定】は使いません。必要の無い情報収集はしません。
長身のエレンさんと小柄なミーファさんが並ぶと大人と子供に見えます。先輩後輩の関係である事は二人の遣り取りを見ていれば判ります。
何気に仲良さそうですから。
恐らく、エレンさんは俺の為の試験官。──で、ミーファさんはフォルテ達の、と。
俺の実力を見る為には中級では役不足と考えての事なんでしょうけど……。
ミーファさんの方は大丈夫なんですかね。
一応、これは予想していた事では有りますから、ちゃんと準備はして有ります。
先ず、最初はティアが受けます。
試験を受ける俺達の中では一番実力は下なので。相手の力量を見て、合わせる為に。
色々と前歴の有る俺は兎も角、フォルテ達までが目立ってしまうと動き難くなりますからね。
その辺りを話し合って決めた事です。
模擬戦用の木製の武器が並んだ中から、ティアが選んだのは短剣で──二振り。
その様子を見ていたエレンさんの眉尻が動く。
別に複数の武器の使用は禁止されてはいません。ただ、剣と楯なら兎も角、短剣の二刀流というのは試験の段階では珍しいでしょう。
その位は調べています。我が家の敏腕メイドが。ええ、メイド網の凄さを改めて知りましたよ。
「宜しく御願いします」
「此方等こそ宜しく御願い致します!」
まだ緊張が抜けていない様子のミーファさん。
だから、此方等を見たティアに小さく頷く。
エレンさんによる開始の合図と共にティアが前に出てミーファさんに仕掛ける。
短剣ではなく、右足での飛び後ろ回し蹴り。
ミーファさんが防げる程度の速さと威力。
それを両腕を交差させて受けたミーファさんだが受け止め切れずに、軽く後ろに飛ばされる。
しかし、その一撃で十分。
緊張による萎縮や混乱が消え、落ち着かなかったミーファさんの気配が変わる。
追撃をせず、構え直すティア。
それを見て、気付かない程、鈍感ではない。
初めてかもしれないが、試験官に選ばれた人物。決して、実力が低いという事は無い。
「目は覚めましたか?」と言わんばかりの仕草のティアを見ながら深呼吸を一つ。
それだけで、アワアワしていた姿は何処へやら。其処に居るのは間違い無く、死線を潜り抜けてきた本物の冒険者であるミーファさんが。
見ている此方等としてもワクワクしてきます。
ティアが終われば、クーリエさん、メレアさんと順に試験は終了。
ただ、彼方等にしても想定外だったのは此方等の平均的な実力が上回っていた事でしょう。
ティアとの一戦で高揚し、クーリエさんとの一戦でも勢いは継続。しかし、メイドとしての仕事上、日々鍛え上げられる観察力の前に丸裸にされた末、メレアさんの試験が終わった時点で膝から崩れ落ち動けなくなってしまったミーファさん。
我が家の敏腕メイドは手加減を知りませんから。スミマセン、何デモアリマセン。
そんな訳で急遽、フォルテの相手はエレンさんに交代しました。特に問題は有りませんが……折角の機会ですからね。フォルテに「勝ちに行こう」と。腕試しの意味で言ったんですが。
それが不味かったと気付くのは──事後です。
ただ、冷静に考えてみれば当然と言えば当然。
俺と一番長い時を過ごし、鍛練を積んできたのは他の誰でもなく、フォルテです。
練度は勿論、様々な状況を想定した鍛練の総量も比較にはなりません。
普段は特に気にしていませんでしたが……うん。よくよく考えてみれば、こうなりますよね。
俺達の目の前では動きを止めた二人の姿が在る。
フォルテの伸ばされた右手の延長線上には喉元に突き付けられている片手用の木剣の切っ先が。
エレンさんは回避も防御も出来ず、首筋を流れる冷や汗が自然と目を引く程に微動だにせず。
勝敗が決っしても尚、残心を怠らないフォルテの視線にエレンさんが思わず息を飲む。
多分、プライド云々の話ではなく、生きた心地がしていないでしょうね。
その様子に、臨時で審判になったフロイドさんが溜め息を吐きながら、フォルテの勝ちを宣言。
木剣を下げ、姿勢を正して一礼するフォルテ。
綺麗な所作で戻ってくるフォルテの背中越しに、茫然と立ち尽くすエレンさん。
フォルテに悪気なんて有りませんが……圧倒的。正直、俺達は声を掛けられません。
そんなエレンさんの肩を同情するフロイドさんが軽く叩き、声を掛けます。
「一応言っとくが、アルト様は更に上だぞ?
仕事だから遣らない訳にはいかないだろうけどな
考え方は真逆にした方が良いぞ」
「…………その様ですね」
そんな会話は聞こえない振りです。
「アルト様、勝ちましたっ!」と言わんばかりの笑顔のフォルテを言った手前、誉めてハグ。
俺も皆も余計な事は言いません。だって、本気で勝ちに行ったフォルテの姿を見てたら水を注す様な不粋な事は出来ませんて。
──と言うか、過ぎ去った日々を振り返ったら、フォルテって俺とアンとしか手合わせをしてない。アンとは力と技、という関係も有りますが、二人の勝敗的にはフォルテが六~七割で勝ち越している。俺とは言わずもがな。
だから、フォルテの本気って客観的に見る事って殆んど無いし、基準が俺達になってる訳で。
それは強いですよね~。
本当にね……エレンさん、何か御免なさい。
実際ね、始まった当初はフォルテも自分の実力を確かめる様に動いていました。
これはティアにも言えますが、洗礼を受けた事でレベルの恩恵や発現しているスキルの効果も有り、変化した感覚の修正の為です。
それを怠ると全力の制御が出来ず、自他の怪我に関わりますからね。
だから、フォルテの行動は必要な作業。
ただ、その状態でエレンさんを翻弄していたので修正が済んでからの攻勢は一方的で──瞬殺。
殺してはいませんが、あっと言う間の事でした。それだけの実力差がレベル1で生まれる訳ですから俺が挑もうとしている真のラスボス。そのヤバさが改めて判るから嫌になります。
殺らないと俺達も世界も終わりますけど。
ただまあ、その前に俺は自分の試験ですかね。
待っている間に少しずつ確認して修正してますが把握と制御は完璧には程遠いです。
元より適当に手加減するつもりだったんですが、フロイドさんが余計な事を言うから、エレンさんの遣る気が違う方向に傾いていますからねぇ……。
何かもう、長引きそうな気がしてなりません。
しかも、遣り過ぎない様にしないとね……って、それももう今更ですかね~。




