53話 能力
ちょっとした驚きと過去との邂逅。それを上回る高揚感と好奇心の高まりを抑えながら部屋を出て、一本道の通路を抜ければ、皆の待つ礼拝堂へ。
どうやら、無事に洗礼式は終了した様です。
まだフォルテとティアが残っていますけどね。
「御目出度う御座います、アルト様
これで名実共に一人前の貴族で御座いますね」
「素直に有難うとは言えない祝福の言葉だけどね」
戻った早々に釘を刺す様な敏腕メイドから一言。ある意味、俺を一番理解している証拠でしょうね。流石はメイド長。伊達に苦労はしていません。
「そう思うのでしたら、御自重下さい」と抗議の意思を言外に含んだ一睨みには苦笑で返す。
だって、「もう今更じゃない?」と言いたい。
ただね、俺は気儘に暮らしたいだけだからね?。其処だけは忘れないで下さい。俺を社会の柵の中に引き摺り込んでいるのは大人達ですから。
「それで、もうステータスは見たのか?」
「それはフォルテ達が終わって大聖堂を出てから、何処かで一息吐きながらだね
一応、冒険者登録をする前には把握して置きたい
でも、万が一の漏洩も嫌だしね」
「──っ!」
そう言えば、フロイドさんの表情が強張る。
「まあ、飽く迄も用心だから」と小さく肩を竦め懐いた警戒心を緩める様に促す。
如何に王国の貴族で、王女を妻に迎える身でも。それはそれ、これはこれ。何処に目や耳が有って、何処で口が囁くのか判りませんからね。そういった意味では、今後は更に気が抜けません。
尤も、代官としての仕事が始まれば今までよりは必然的に大人しくなるとは思いますけどね。
それから1時間程で二人も無事に終了。
クレアさんに御礼を言って大聖堂を出ます。
此処で、王都のクライスト家の屋敷まで戻っても良いんですけど、二度手間ですからね。待っている間に相談して決めた店に。勿論、個室有りですよ。情報の漏洩には気を配ります。
注文を済ませてから、俺達は自分のステータスを確認する事に。
「「「祝福されし我が身に宿りし能力を示せ」」」
声を揃えて唱えるのが、ステータスを見る為には必要不可欠な詠唱文。
ただ、声に出さなくても大丈夫なんですけどね。今回は最初ですから。伝統に則ります。
目の前にステータスのウインドウ画面が開く様な形式ではなく、頭の中に直接──脳裏に自己情報が思い浮かぶ様な感じです。
フロイドさん達は勿論、関連書物を読んで事前に知ってはいても個人的には凄く感慨深く思います。此処までが長かったですから。
そのステータスですが、脳裏に思い浮かぶ情報は名前・年齢・性別・種族にレベル。
それから、個人の簡単な補足情報が有ります。
俺の場合、未成年である為、まだ実家に籍が残るみたいで、“クライスト伯爵家の次男”と有って、個別に“クライスト男爵”と有ります。
尚、国籍も補足情報扱いみたいです。
予想通り──と言うか、事前にフロイドさん達に協力して貰って、【鑑定】と【アナライズ】を使う事により、既存の情報量よりも深く見られないかを試していたんですけど……。
やっぱり、自分の事でも駄目な様です。残念。
まあ、無い物強請りをしても仕方有りませんし、現実を見て考えましょう。
ステータスにはレベルは有っても原作とは違い、HPやMP、各種能力値は存在しません。
ゲームとは違う、生命力・魔法力という意味では概念としては間違いでは有りませんけど。
何方等も目には見えないだけで存在はしますし、数値化されないだけで能力も有る訳ですから。
ただ、HPに関しては、ゲーム的な意味合いだと非現実的ですからね。現実でならHPに関係無く、死が有り得ますから。
但し、魔物に関してだけは生物ではない事も有りHPの概念を適用出来無い訳では有りません。
尤も、実際に試してみないと判りませんが。
(判ってはいたけど、そうなるよねぇ……)
レベルは誰しもが洗礼を受ける事で“1”から。いきなり、高レベル、という事は有りません。
レベルは魔獣や魔物を倒す事でのみ上昇します。この辺はゲーム的ですが、獲得経験値や必要経験値とかは不明ですし、個人差も有るそうですからね。深く追及しても時間の無駄な気がします。
レベルが上がれば強くなります。
ただ、レベルが上がったから、強くなるのか。
強くなったから、レベルが上がるのか。
この点は何方が正しいのかは難しい話で、何方も間違いではないと言えます。
だから、気にしないのが楽だと言えます。
ただまあ、それはそれとして。
俺やアンの様に、洗礼式前でも十分に強くても、レベルは1からです。
つまり、今が最底辺な訳です。
“自重”が文字通り、重く圧し掛かります。
次に、スキルや魔法の確認です。
本のページを捲る様なイメージで情報を求めると脳裏に思い浮かんでいる情報が切り替わります。
本当にね、どういう仕組みなんでしょうかね。
「……………………」
静かに瞑目して、先に出されていた紅茶の入ったカップを口に運び、その香りと味を楽しむ。
そして、天井を仰ぎ──改めて、スキル・魔法の一覧を見て、残酷な現実に頭を抱えたくなった。
「漸く、私共の御気持ちが伝わった様です」
「ああ、本当にな、漸く理解してくれただろう」
チクチクと嫌味を言ってくる二人。苦笑しているクーリエさんも内心では反対はしていない筈です。三人の立場なら、俺も同じ様に思う筈ですから。
自分でもドン引きする位の量が並んでいます。
取り敢えず、魔法に関しては習得した記憶が無い様な物は一つも有りません。全て、自分が意識して習得した物ばかりです。
因みに、今更な話ですが、実は【アナライズ】は魔導書は有っても習得した者は皆無に等しいそうで俺も自分以外の使い手は知りません──と言うか、居たら話題になるでしょうからね。
逆に言えば、直ぐには思い付かない程に風化した魔法だから、俺が使える事もバレ難い、と。
そういう意味では助かっています。
既存である、【魔道具創造】【鑑定】【天魔拳】【亜空間収納】【滅人救世】は別にしてもスキルの数は明らかに多い。見るからに異常な量で、到底、洗礼式直後のレベル1の感じでは有りません。
ただ、全てではないにしても複数のスキルを持つ可能性を全く予想していなかった訳ではない。
例えば、【拳術Ⅹ】というスキルが有ります。
数有るスキルの中には“Ⅰ~Ⅹ”の習熟度が存在している物が有り、一つずつ上がっていきます。
【拳術】のスキルは、フロイドさんも持っているスキルですが、最初に手合わせした時点のスキルの習熟度はⅢ。それが現在はⅦに。
その原因は明らかに俺との鍛練でしょう。
そして、俺はフロイドさんより強いのでスキルを獲得していても可笑しくはない、と。
ええ、嫌な方向に予想的中です。
尚、【拳術】は拳での技で、蹴り技は【蹴術】、投げ技や関節技・体捌き等は【体術】になります。この【体術】は総合的な格闘技という感じです。
この【体術】にも習熟度は有り、フロイドさんは以前はⅡだったものがⅥに。メレアさん達も所有し鍛練での結果、ⅠからⅢに。
また、護身術という意味で鍛練していた筈なのに新たに【槍術】と【棒術】のスキルを獲得していて共に習熟度はⅣです。
俺と鍛練をしていた母上も習熟度が上がっている事でしょう。だから、二人の冒険者登録を勧めた。そう考える事が出来ますから。
まあ、下手に人を送り込んで鍛えさせたりしない辺りは母上なりの愛情なんだと思います。
自分が強くなる分は別にしてもね。
──と言うか、その原因が判りました。
何ですか、この【教導Ⅹ】ってスキルは。こんなスキル見た事も聞いた事も有りませんけど?。
それに【指導者】【先導者】なんてスキルまで。俺の平穏を破壊する気ですか?。
尚、この二つは称号スキルの様です。
原作には無かった仕様みたいです。称号という物自体が有りませんでしたから。
それから、【指揮Ⅹ】って……何で?。
フォルテなら判りますよ、持ってても。だけど、俺、何を指揮しましたっけ?。単独行動ばっかりで指揮していた記憶は有りませんが?。
そんな疑問を懐きながらフォルテとティアからも話を聞けば、フォルテは俺と同様にスキルの山。
まあ、俺よりは少なかったんですけどね。
それでも、それらは全てフォルテの努力の結晶。こうしてスキルという形になると実感出来ますから思わず涙が溢れてしまうのも仕方有りません。
貰い泣きで、場の雰囲気は一変しましたが。
ティアは鍛練した期間が短い割りには多いので、やはり、俺が元凶みたいです。習熟度は低くても。
寧ろ、自分の影響力が怖いです。
「アルト様、メアリー様の事は絶対に、です」
「判ってる、不幸にさせる気は無い」
貰い泣きから復帰したメレアさんに念押しされ、誤魔化さず、逃げず、はっきりと答える。
何しろ、フォルテ達ですらコレですからね。
俺の指導の下で三歳から鍛練を始め、二年後には正式に妻となり、一緒に生活を始める。
洗礼式まで約七年。俺の、俺達の影響を受ければ確実に魔改造化されます。
そうなると、色々と利用され兼ねませんからね。俺が責任を持って幸せにするしか有りません。
──と言うか、どんなステータスに成っているか想像出来無いのが怖い様な、楽しみな様な。
その辺りは深くは考えない事にします。
「それで、【麒麟児】は有ったのか?」
「…………認めたくはないけどね」
一息吐いたフロイドさんが訊いてきたので、俺が嫌そうに言うと場は真逆に盛り上がる。
フォルテですら「流石はアルト様です」と笑顔を浮かべていますから。孤立無援です。
話題の【麒麟児】も称号スキルなんだそうです。昨夜、会食後に陛下達と父上達から言われた事で。何でも、洗礼式前に特筆すべき功績を上げた者に、この【麒麟児】というスキルは現れるのだとか。
ただ、前例はメルーディア王国の歴史上で三名。他所の事は定かではないにしても稀少なスキルには間違い有りません。
そして、その所有者は例外無く、王国にとっては無くてはならない存在に。
「歴史的に見れば、ですよね?」なんて捻くれた事を思っても口には出せませんでした。
だって、目が真剣だったんだもん。
どうして、そんな話をされたのか、と言うと。
その獲得には“十歳未満で”という条件が絡むと考えられてはいるものの現実的には検証は困難。
また、意図的な功績では獲得は不可能ならしく、実力的にも難しいとされてきた。
そんな中で、俺という条件を満たす可能性の高い存在が現れたから、真偽を知りたい、と。
まあ、スキルの有無を確かめるだけなんですが。ええ、有りましたよ、残念ながらね。
それに加えて、【異端児】【革命児】【風雲児】なんて称号スキルも有ります。
【異端児】は、要するに変わり者って事ですし、【革命児】は色々遣らかした結果でしょう。でも、【風雲児】って何?。時代の流風なんて吹いた覚え有りませんけど?。
更に更に、極め付けに【神童】って何ぞ?。
獲得している【隠蔽】ってスキルが頼もしい!。最優先で習熟度上げないとね。
尤も、【麒麟児】の件だけは報告しないとね。
言ったら言ったで絶対に面倒臭い気がするけど、此処で誤魔化すと尚更に面倒臭くなるだろうし……コレ、逃げ道有ったのかな?。
……まあ、スキルの一つ位、今更知られた程度で俺の置かれた状況は変わりませんしね。
……よし。そうと決まれば食いまくろう。
一回の爆食で痛む様な懐では有りませんからね。スイーツ食べて、ストレス発散!。
精神衛生管理が長生きの秘訣。




