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51話 募集


 時が過ぎ行くのは早いもので。気付けば、今日はシーリェの月、20日。

 もう直ぐ、新人生も二年目が終わりを迎える。

 ……まあ、三年目に入ると今までの生活を卒業し正式に貴族の仲間入りをさせられますけどね。


 だから、年末年始は思い出したくも有りません。

 少々ゴタついた年末は……まあ、許容範囲です。遣らかしてくれた連中には文句の代わりに一撃入れ黙らせましたからね。一応、終わった事です。

 その件の事後処理は陛下に丸投げしましたから、問題が起きない限りは関わる事は無いでしょう。

 自ら関わりたいとも思いませんから。


 尚、メアリー様に渡した地浄の短剣の事ですが。聖短剣と同様に契約主(マスター)登録が有りました。

 前の契約者が亡くなり、未登録の状態だった所で俺が抜いて使用した為、自動的に俺が契約者(マスター)に。

 メアリー様への変更は不可能なのですが。

 地浄の短剣には予備契約者(サブマスター)登録が。

 此方等にメアリー様を登録──指定し、成功。

 まあ、流石に陛下達の居る場で堂々と、ではなく後で俺達の部屋でこっそりと、でしたけどね。

 メアリー様にも口止めは頼んで置きました。

 将来的にはメアリー様の産む娘と一緒に王家へ。在るべき場所に還す方が良いでしょうからね。

 その際には、俺の血が王家に入る事にもなる為、クライスト家とも縁戚関係が深まります。

 ……え?、丸投げする算段なんてしてませんよ。やだな~、そんな事考えてませんてば。


 ──という現実逃避をしたくなる程度には。

 男爵と成った俺の御披露目会である新年会では、否応無しに群がられましたよ。

 女性関係はフォルテ達が上手くガードしてくれて助かりましたが、空気を読まない大人はねぇ……。まあ、それでも陛下達の睨みも有ったんでしょう。数は兎も角、大人しくはしていましたから。


 因みに、新年会の内容自体は大好評でした。

 俺が前世の知識を元にして作ったレシピの一部は王家の料理人や有名店のシェフから頭を下げられた事も有って提供しました。

 その後、料理名の説明文に俺の名前が記載されたという事実は知りません。知りたくも有りません。


 それから、来年は姉上達と共同でアイドリー家の新年会を遣る事が確定なんだそうです。

 ……それ、絶対にワザとですよね?。

 流石に訊きたくても訊けませんけど!。


 そんな新年を迎え、遣る事が終わったら帰る!。帰ったら、引き籠る!──筈だったのに……。

 ピトスニアの件で色々と有りました。

 ええ、隠そうにも緊急事態でしたし、大混乱した街中を堂々と駆けていましたからね。目撃者なんて数えたくなくなる位に居ました。そして、人の口に戸は建てられないものですからね~……。

 陛下から勲章を戴きました。

 まあ、救いはフォルテ達も一緒だった事ですね。本来なら、メアリー様は王族なので対象外ですけど今回は年齢を考慮して特別に──という訳ではなくメアリー様が俺に嫁ぐ──と言うよりも、滞在中は婚約者──いや、事実上の妻としての参加だった。それを口実(・・)にしたんでしょうね。

 要は、メアリー様も俺の妻の一人だと公表する。そういう意図も有ったんでしょう。態々墓穴を掘る趣味は有りませんけど。

 その効果……と言うのも可笑しいのでしょうが。年明けからメアリー様は二ヶ月毎に王城での生活と俺達との生活を交互にしています。

 因みに現在は王城です。来月の頭から二ヶ月間は俺達と一緒に生活します。


 ──とまあ、そんな感じで色々と有りましたが。考える方が精神的に負担が大きいので考えません。これも一種の自己防衛手段です。



「アルト様、此方等が応募者の一覧になります」


「え~と………………え?、何これ……

どう見ても軽く三千人は居るよね?」


「応募総数は三千八百二十七名でした

残念ながら、四千(大台)には一歩及ばずです」



 「いや、十分でしょ」と思わず言い掛けるけど、百名ずつ情報が記載された紙の束を見詰めながら、手渡してきたメレアさんを見て飲み込んだ。

 だって、本気で残念そうなんですから。

 正直、何を其処まで悔しがっているのかが俺には理解が出来ません。

 きっと、メイドの世界の話なんでしょう。


 それはそうと、手元に有るのは応募者のリスト。それが何の応募者かと言うと……俺の興す家の家臣の新規募集の、です。

 俺としてはメレアさん達三人で十分なんですが、流石に少ないんだそうです。

 まあ、その“十分”は、自分達の事は自分達で、という前提条件が有りますからね。


 領地を持たない法衣貴族なら兎も角、将来の事は未確定な以上、ある程度の形は整える必要が有る。

 ──といった旨の話を父上達からされましてね。渋々、募集した訳です。

 尚、新規雇用は公募するのが常識なんだそうで。コネによる採用は控えるものなんだとか。

 「貴族の役目として、就職の機会を公平に与える事も重要なんだ」との事でした。


 ただ、俺は兎も角、奥様方は面子が面子ですから選考には父上達も関わります。

 しかし、最初──第一次選考は新家の当主となる俺の仕事で。此処から多くても百人までに絞り込む必要が有るので簡単では有りません。

 後でフォルテ達にも訊きますけど、その前段階は俺一人で遣らないといけません。

 そういう風習(・・)なんだそうです。


 今回の採用人数は執事二名、メイド十名です。

 その他、専門職として料理人や庭師等も雇うのがオーソドックスな形になるんだそうですけど、俺達の場合は冒険者を兼ねますし、代官からです。

 住む家はアイドリー家の提供で庭師は其方等側の管轄になり、料理に関してもメイドさんで十分。

 取り敢えず必要なのは俺の仕事の補佐役なので、募集内容も相応になります。


 因みに、メアリー様付きのメイドさんが居ますが彼女は募集者に含まれてはていません。

 彼女はメアリー様が俺に嫁ぐ際には同行する事が確定していますので。



「さて、どうしようか……」



 正直な話ね、執事の選考は楽です。同じ男だから考える事も判りますし、能力査定もし易い。

 しかし、メイド──女性の雇用となると難しい。如何に側にメイドが居る環境で育とうとも。それで女性の事が判る様になる訳では有りませんから。

 勿論、怪しい人物は俺の手元に来る前に弾かれ、消されていますから心配は要りません。

 その分、何を以て選ぶのかが難しい訳ですが。



「…………代官として住むのって、この前見て来た屋敷で良いんだよね?」


「はい、既にアルト様の御指摘された箇所の補修やフォルテ様達や私共の要望に沿った改修は始まり、新たに必要な家財道具の調達も行われています」


「──となると、ある程度は分担制かな」



 二ヶ月前、メアリー様も一緒に居る間に、俺達が生活する事になる代官の屋敷を見に行った。

 基本的には代官というのは地方の役職。しかし、俺の場合はアイドリー子爵家の(・・・・)代官。

 領地全体を預かる事になります。

 ですから、その為の屋敷も従来とは異なる訳で。最近は使われていないアイドリー家の所有している屋敷の中からピックアップされた三ヶ所を見て回り決めた訳なんです。

 多少の補修は必要でしたが、俺達には十分です。だって、住むのは子供五~六人が中心ですからね。大人を含めても規模は不要。大きい方が住み難くて嫌になりますから。


 そんな感じで選びましたから、規模は小さい。

 それでも、その辺の街の大きな店舗が二つ程度は入る広さが有る訳ですから。人手は必要です。

 つまり、そう遣って雇用を生み出している、と。

 枠は限られていても良縁が有れば結婚して辞め、次の人に空いた枠を譲る訳ですからメイドさん達の情報網が広がる筈です。

 勿論、辞めない人も居ますけどね。そういう人は最初から地位が高いので嫉妬の対象外なんですよ。メレアさん達もね。

 逆に口添え(・・・)を頼まれたりはするんでしょうけど。深くは訊きませんし、踏み込みません。


 だから、現実を止めて御仕事をしましょう。

 競争率がエグい事になってますけどね。



「…………?…………あれ?……………え?……」


「何か問題が有りましたか?」


「問題っていうか……貴族の御嬢様方が応募してるみたいなんだけど……これは?」


「メイド等から妾に入る事例は御座いますので」


「…………俺って、そんなに好色に見えるの?」


「いいえ、寧ろ、愛妻家で滅多な事では他の女性を意識される事は無いと認識されていると思います」


「……それなのに?」


「側に居ないと可能性も生まれませんので」


「あー……そういう方向なんだ……」



 それはまあ、何と言うか……そうなんだけどね。

 それでも流石に考えようよ。そう言いたいです。滅茶苦茶言いたいです。マジで。

 しかし、応募者は十五歳以上という条件を守って応募しているので違反してはいない。

 しかも、仕事が出来無いという事も無い筈です。形だけで押し込もうとすれば本職のメイドさんから批難囂々でしょうから。

 歳上ですが、だからこそ、手が付き易い、と。

 ある意味、男という生き物の根幹や性質や本能を理解していると言えます。

 多少は、気になる事は仕方有りませんから。

 でもまあ、俺は手を出しませんけどね。



「……でも、実際の話、それって有り得る訳?

奥さん──正妻だけじゃなくても二人以上居るならメイドさんに手を出すとは思えないけど……」


「はい、そういった話は最近は聞きません」


「……それを判ってて?」


「事例は事例ですから」


「………………」



 メレアさんが平然と話す理由が判りました。

 そういう事例が有るにしても、一体いつの時代(・・・・・)の話かさえも定かではないのでしょう。

 それでも、そんな話にすら可能性を求める。

 どんだけなんですか。



「それだけアルト様の妾になれば勝ち組だと世間の皆様は評価されている、という事です」


「内側に居たら違うと?」


「生涯寄り添うとなれば覚悟が無ければ無理です

少なくとも、私には不可能な御話です」



 丁寧に、しかし、容赦無くフラれる。

 いや、別に俺も本気な訳じゃないですからね?。ちょっと傷付いている事は確かですが。

 それに、「メイドさんと……」と思ったら、後々フォルテ達に御願いすれば良いだけですから。


 まあ、それはそれとして。

 メレアさんの言い分は理解出来ます。

 だって、メレアさん達の立場で俺の側に居たら、マジで嫌になると思います。冗談抜きで面倒臭い。そんな主になるでしょうから。

 それが判るから。多少は自覚が有るから。

 その辺の事に関しては何も言い返せません。

 あと、俺でも妾に成りたいとは思いませんから。どんなに将来的な可能性が有っても……重い。

 うん、滅茶苦茶重いよね。機密有り過ぎ。



「今更ですが、そう思うのなら自重して下さい」


「いやいや、基本的には自重してますよ?

俺だって悪目立ちしたくないし、フォルテ達と毎日イチャイチャしながら平穏に暮らしたいんだし

でもね?、時々、何か起きるんです

俺の所為じゃない、予期せぬ事態が」



 そう目を見詰めながら主張すれば、メレアさんは瞑目して溜め息を吐いた。

 「だから、余計に困るんですよ……」と言う声が聞こえてきそうです。


 でも、本当に俺の所為じゃないですから。

 偶々(・・)、俺が居合わせてるだけです。

 起きている事は原作(ゲーム)には無い事なので原作知識を使える事は無いに等しい。

 前半の恋愛パートにしても、殆んど役立たずで。日常の会話や出来事の量は別物ですからね。

 アプロベリーの件や暗殺未遂阻止の件は兎も角。それ以外は俺が動いたからでは有りません。


 でも、スキルの入手や魔法の件は忘れて下さい。アレは将来設計に必要な事でも有りますから。

 ……あれ?、それを考えたら、今までの事程度は気にしたら負けな気が……忘れましょう。

 生きる事は物凄く大変なのですから。




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