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 50話裏


 末の娘であるメアリー。その婚約者──事実上の夫であるクライスト男爵には驚かされます。

 政治的な意味の強い政略結婚ですが、メアリーの事を本当に大切に想い、厳しくもある。

 フォーコリュナーテ王女が心から彼を愛するのは選ばれたから、夫婦だから、といった事ではなく。純粋に愛しているからなのだと話せば判ります。

 それはクライスト男爵にしても同じ事。

 そんな彼だからこそ、大人達の勝手な思惑を超え数々の功績を成しているのでしょう。

 結果として、という言い方にはなりますが。

 メアリーは将来有望な本当に素晴らしい方の下に嫁ぐと言えます。


 そのクライスト男爵は新しく貴族となった事で、年明けには王国の全王公貴族を招き、新年会を催し貴族の一員となった事を御披露目する必要が有り、様々な理由から王家の別邸を提供しています。

 メアリーも妻として一緒に頑張っています。


 ただ、そのクライスト男爵自身は洗礼式前の身。大人の都合で叙爵し、貴族の一員となった訳です。本来であれば嫡子が家を継ぎ当主となって行う事。そういう意味でもメルーディア王国では三百年以上時を経ての新しい貴族の誕生ですから注目は必然。その為、私達も義息達への手助けは惜しみません。勿論、過度な事は控えます。飽く迄も、親子関係の援助の範疇で、です。遣り過ぎは逆効果なので。


 その様な事情も有り、年内最後となる顔合わせに別邸の有るピトスニアに向かっていた途中の事。

 早馬により報されたのは街の異常事態。

 代官からは「危険ですので避難して下さい」との旨を受け取りはしましたが──そうはいきません。メアリーは勿論、クライスト男爵達に、多くの民を見捨てる様な真似は出来ません。

 そして、その想いは陛下──(キラルド)も同じ。

 私達に迷う理由は有りません。




 ──といった事が有り、現在は日が暮れた後。

 既に事態は収まり、後片付けも終えています。


 報せを受けてから1時間と掛からずに到着。

 私達がピトスニアに着いた時は、街に溢れていた大量のスケルトンを相手にフォルテさんが指揮し、街を防衛している真っ最中。

 私達も直ぐに加勢を──と身構えていた状況で、スケルトン達が一斉に消滅しました。

 流石に驚きはしましたが事前にクライスト男爵が原因である可能性が高い史跡に向かったという話を聞いていたので直ぐに察しました。

 彼の家臣であるフロイド殿だけを連れて、陛下が近衛騎士達数名を伴い史跡へ。


 私は民と街の状況確認と事後処理に。その仕事を手伝ってくれるフォルテさん達の手腕に驚かされ、何よりもメアリーの成長には感動しました。

 まだまだ甘えん坊な娘だと思っていましたけど。騎士達や民の前で見せていたのは正に王族の姿。

 誰が(・・)、そうさせているのか。

 その成長を促し、導いているのか。

 そんな事は考えるまでも有りません。

 勿論、その責任は取って頂きますけれど。


 事が事だっただけに、私達も色々と慌ただしく、ゆっくりと話す時間が取れたのは夜になって。

 「仕方の無い事」と言えば、そうなのですけれど便利な言葉を使い、甘えてはいけません。

 特に私達は国を、民を、背負う身なのですから。


 ただ、そう思ってはいても簡単では有りません。それだけに色々と複雑な思いは有ります。

 如何に所有者は王家でも、現在は貸し出している訳ですから。偉そうには出来ません。

 来訪する事は伝えていましたが、頑張ってくれた皆様に更に負担を掛けてしまう事は躊躇われますがクライスト男爵から「では、カタリナ様も御一緒に料理をされては如何ですか?」と誘われて、参加。久し振りにした料理は楽しかったです。


 母娘で、というのも大きいのでしょうね。

 それから、料理中の話しによればクライスト男爵自身も偶に一緒に料理をするのだそうです。

 普段はフォルテさん達やメイドの仕事を奪わない為に控えてはいるそうですが。

 クライスト男爵は色々な事を夫婦で一緒に遣る。その経験を大事にされているそうです。

 それを聞き、メアリーの成長にも納得しました。メアリー自身の遣る気や努力も大事ですが、一緒に頑張るという体験と、その共有が成長を促す上では非常に大きな意味を持つのだと気付かされます。

 このメアリーの成長は後々の王家の──いいえ、王国の新しい教育方法に繋がるでしょう。


 陛下とクライスト男爵、その他にも数名によって事件の概要が纏め終わり、楽しい夕食も済ませると改めて私達にも説明が行われました。


 事の発端は裏手の森から穴を掘って史跡に侵入し鎮魂の間の祭壇を荒らした五人組の盗掘犯。

 その者達が“冒険者証”を所持していた事から、直ぐに身元が判明。リタロパ聖法国の者だそうで。陛下も既に使者を出されたそうです。

 大きな外交問題に為らなければ良いのですが。


 それはそれとして。

 祭壇を荒らし破壊した事で封印されていたらしいリッチーの様な、或いは悪霊の様な存在が目覚め、街にスケルトンを放っていたのだそうです。

 また、史跡への侵入に際し破壊した史跡自体にも封印の補助効果が有った為、史跡から距離が離れる程にスケルトンは弱体化していたとの事ですが。

 如何に弱体化していても、洗礼式前の身ですし、単独で潜入して事態を解決した訳ですから。実力が如何に高いのかを物語る逸話となる事でしょう。


 信じ難い話も有りましたが、聞いていて思うのはクライスト男爵達が居て良かったという事です。


 並みの貴族が相手であれば、妬み嫉みから有る事無い事を吹聴し、場合によっては、「もしかして、クライスト男爵が災禍を招いているのでは?」等と巫山戯た事を宣う輩も出ていたかもしれません。

 あまりにも影響力が強くなり過ぎて簡単には手出しが出来無くなっているというのが実情です。



「此方等が、その短剣になります」


「ふむ……この様な物が有ったとはな……」


「本来であれば、知らないままの方が良かった物、というのも間違いではないとは思いますが……」


「封印の効果も永久という保証は無いと考えるなら最悪の状況になる前で良かった、か……

やれやれ、何とも皮肉な話だな」



 クライスト男爵が丁寧にテーブルの上に置かれた短剣を見ながら陛下は嘆息。

 頭の痛い話ですが、最悪の事態には至らなかった事を考えれば、不幸中の幸いでしょう。

 それもこれもクライスト男爵達の御陰です。


 しかし、今回、重要なのは其処で有りません。

 陛下を見れば小さく頭を動かされ「良いな?」と訊かれたので私も小さく首肯して返します。



「クライスト男爵、そして、この場に居る皆

これから話す事は他言無用に頼む」


「……判りました、決して他言しないと誓います」


「有難う、心から礼を言おう

……これから話す事は、代々の国王と王妃にのみ、口伝により伝えられてきた話になる

その為、多少は事実と違ったり、欠落や勘違いして変わってしまっている点も少なからず有るだろう

しかし、メルーディア王国の建国以来、只の一度も絶やす事無く語り継いできた話になる

初代国王であるアルフレド・ド・メルーディアには建国に際し共に戦った兄が居た

だが、その存在を知る者は現在は皆無に等しい……

その理由は、国王を決める際、家臣達は兄ではなく弟を初代国王に選んだ為だ

そして……その兄はメルーディア王国を憎み、後に滅ぼさんと戦争を仕掛けたと伝えられている

仲が悪かった訳ではないし、兄は優秀だった

だが、あまりにも優秀過ぎて──他者を見下す様な言動が絶えず、信頼されてはいなかった

優秀だが、他者の心を慮る事には疎過ぎた

その結果、兄と家臣となる者達との間を取り持って纏めていた弟に信頼は集まった

皮肉な話だが……珍しくもない話でもある

そして、建国を前に兄は姿を消し──再び現れた

その力でメルーディア王国に復讐する為に」


「……それでは、あの悪霊というのは……」


「間違い無く、初代国王の兄だろう

あの史跡は建国の頃から存在し、守り続けてきた

この話を知らなければ、只の祖先を祀る場所だが、王家と王国の最も恥ずべき闇を封じ込めた霊廟だ

……ただ、正直な話、本当に初代国王の兄の怨霊が封印されているとは思ってもいなかったがな」


「それは初代国王様から、代々の国王様と王妃様が遺志を軽んじず、受け継ぎ続けたからです

その在り方が繋がっているからこそ、今日まで民は誰一人として史跡を穢す真似はしていません

余所者とは言え、史跡が荒らされた事は残念ですが受け継がれてきた想いは絶えてはいません

王国の歴史を紐解けば財政難の時代も有りました

もし、その時に史跡を荒らす様な事が起きていればメルーディア王国は疾うに滅びていた訳です

今、こうして国が有り、民が有り、王公貴族の血が受け継がれ繋がっている事……

それこそが、代々の国王御夫妻の誠意の証です」


「──っ……そうか、そう言ってくれるかっ……」



 クライスト男爵の言葉に、陛下が──キラルドが思わず涙を溢れさせてしまうのも仕方有りません。この一件でのキラルドの胸中は私にも判りません。王妃と言えども直系では有りませんから。

 ですが、その秘事を生涯共有している身ですから罪悪感や重責感は判ります。

 その為、クライスト男爵の言葉が如何に大きく、心を救ってくれるのかも判ります。


 暫し、間を置いてから話を再開します。

 メアリーやフォルテさん達が貰い泣きしてしまい立て直すのに時間が掛かりましたから。

 まだメアリーとは兄妹の様に見えてしまいますが確かな信頼と愛情は感じます。フォルテさん達とも実の姉妹の様に仲が良いでの大丈夫でしょう。

 一人だけ歳が離れている事が心配でしたが。特に心配する必要は無かったです。



「クライスト男爵、此度の活躍に対する礼は後程、改めてさせて貰う

それから、盗掘犯達の事は王家の直轄地で起きた事なので後の事は此方等で処理させて貰う」


「はい、国家間の関係も絡む案件になりますので、後の事は御任せ致します」


「それから、この短剣だが、其方に委ねる」


「……宜しいのですか?

御聞きした限り、初代王国様に由来の品である事も十分に考えられますが……」


「そうだとしても、そのままで有ったなら誰の眼に触れる事無く、失われていた可能性は高い

その上、王国は滅亡の危機に瀕していただろう

それを防ぎ、過去の災禍を討ち祓ったのは其方だ

であればこそ、其方が持つに相応しい」


「……判りました

メアリー、この短剣を受け取ってくれるかな?」


「え?、あの、私が、ですか?」


「御守り、という訳ではないんだけど……

まだ暫くは時々しか会えないし、俺達の方も色々と忙しくなってくるからね

王家の──いや、王国を永く守護してきた短剣だ

きっと、メアリーの力にもなってくれる」


「……判りました、大切に致します」



 そう話し、メアリーに渡してしまう。

 見方によれば、厄介払いとも受け取れますが。

 メアリーが嫁ぐ事は確定しています。その上で、メアリーに委ねるという事は。

 将来的な事を考えれば、メアリーが産む娘と共に王家へと返還する形が可能になる訳です。


 其処までを想定した上での配慮であるとすれば。クライスト男爵にメアリーが嫁ぎ、縁を繋ぐ意味が更に大きくなると言えます。

 勿論、それだけでは有りませんが。


 ウィンリィやアイリーン様からも色々と将来的な御話が有りましたが……成る程、納得です。

 何処までを意図しての事なのかは判りませんが。意図していなくても、その可能性を生じさせられる直感力は間違い無く、稀有な才能でしょう。

 しかし、既存の範疇に収めようとすれば、折角の才能も翼を奪い、籠に閉じ込める様なものです。

 思うがままに飛ぶからこそ、その翼は活きる。


 幸いにも、新年会で顔を会わせますから。改めて御二人と今後の事を話し合って置きましょう。

 それから、メアリーも出来る限り一緒に居られる時間が出来る様にも考えないと。

 歳の差が後々活きてくる事も有りますから。




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