50話 史跡
見られる可能性を考えて聖短剣は収納。護身用のミスリルの短剣を抜き、右手に握る。
まあ、遺跡内に居るのは怪しい5人だけですが。万が一にも変な証言とかされたら困りますからね。潰せる火種は潰すに限ります。
それは兎も角として。遺跡内に居るスケルトンは遺跡外に居る物よりも格段に強い。それも奥に居る個体である程に。その事から考えても最奥──この史跡の最重要箇所でもある“鎮魂の間”が発生源。何か滅茶苦茶強力な魔法力の反応が有りますから。先ず間違い無いでしょう。
「……ん?」
奥に進む中、スケルトンを倒したT字路での事。進行方向とは逆になる通路の先に違和感を覚える。その先は角を曲がった所に小部屋が一つ有るだけで行き止まりになっている。
確認するだけなら直ぐに終わるし……一応ね。
そう自分に言い聞かせる様に胸中で言い訳をして向かったら──壁の一角が崩れていた。
何かが衝突したり、ぶっ壊された、といった様な訳ではなくて。壁と床の一部が崩落している。
此処まで見た限り、スケルトン達が史跡を破壊し外に出ようとした痕跡は無く、行動も見られない。それを考えると、コレは外部からの侵入の痕跡。
「……史跡の下を掘って侵入したって事か」
位置的に史跡の北西部に広がる森の中からかな。頻繁に出入りしていれば見付かるだろうが、夜間に出入りしていれば警備も居ないから見付からない。加えて、そんな罰当たりな真似をする不敬な輩は、街は勿論、国民には先ず居ない。
まあ、だから隙が出来たんだろうけどね。
つまり、固まったまま移動する気配の無い五人は史跡を荒らしに入った盗掘者。
そして、何か遣らかした。
その結果、スケルトンの大量発生、と。
この忙しい時期に面倒臭い事をしてくれたなぁ。本当に……どうして遣ろうか。
──という憤怒を懐きながら奥へと進み、五人の居る部屋へと到着した。五人全員が男だったのは、ある意味では御約束でしょうかね。
この状況で子供が遣ってくれば事態は収まったと勘違いしても可笑しくはない。──が、俺は部屋を入れ違いに出ようとした一人に対し、カウンターでラリアットを決めて対面の壁に叩き付ける。勿論、史跡を破壊しない程度には手加減をしてね。
一撃で戦闘不能になった仲間を見て驚き、直ぐに俺が敵だと理解し、警戒する四人。
勿論、スケルトンに怯えて動けないでいる訳で。その程度の輩が四人集まった所で、俺を相手に何が出来るという訳でもなく、即終了。
一人を訊問し、一連の経緯や目的を聞き出した。最初に指の一本も折り、「嘘を吐く度に、一本ずつ折っていくからね?」と言えば素直なものです。
所詮、私利私欲で動いている様な輩ですからね。命懸けで貫く様な覚悟は有りませんから。
見立て通り、男達は盗掘が目的で侵入。一番奥の鎮魂の間の祭壇を荒らしていたら、スケルトン達が出現したので、扉の有る部屋に逃げ込んだ、と。
面白味の欠片も無い内容でした。
ただ、男達が居た部屋は史跡内で唯一、扉が有る部屋だけど……何故、スケルトン達が襲わない?。
そんな疑問を懐くも後回し。男達を縛り上げたら発生源である鎮魂の間に向かう。
(──なっ!?、“リッチー”っ?!)
鎮魂の間の真正面から伸びる通路。その角から、そっと様子を窺うと、其処に居るのは溢れ出ている魔法力が黒い靄の様になり、身体を覆うスケルトンよりも明らかな上位種と思しき禍々しい姿の存在。
未だ、モンスター関連の書物は開けない身だが、フロイドさんという情報収集役が出来て以前よりも多くのモンスターの情報を得ている。
実物を見るのは初めてだけど、俺の知識の中では該当する対象はリッチーだけ。
ただ、リッチーはスケルトンと同様に魔物。
仮に、何かしらの形で封印されていたとしても。本物だとしたら、この程度の影響に留まらない。
だから、そう考えると正確ではない気がする。
──という訳で、【鑑定】&【アナライズ】!。気付かれたら気付かれたです。
「────っ!?」
思わず出そうになった声を口を抑え、飲み込む。折角、気付かれてはいないみたいですから。
ただ、結果には滅茶苦茶吃驚です。
表示された名は“ラドクリフ・メルーディア”。しかも、初代国王の兄で、怨霊。
正直な所、頭が痛くなってきました。
知りたくもない情報も付随しています。これって絶対に王国の──いえ、王家の闇ですよね?。
下手に口には出せませんし、俺一人で良かったのかもしれません。
それはそれとして。今の問題は倒し方です。
一応、ゴースト系のモンスターの倒し方だったら判ります。基本的には魔法しか通じません。
ただまあ、モンスターじゃない……と思います。初めての事なので断言は出来ませんが。
悪霊・怨霊という存在──概念は有り、それには魔法の中でも“聖属性”の魔法を用いるそうです。
ですが、残念ながら今の俺の手札には、聖属性の魔法は皆無です──と言うか、聖属性の魔法だけは魔導書が無い為です。
有るには有るそうですが、メルーディア王国には存在しておらず、別の国に、ですから。
そして、聖属性の魔法の殆んどはダンジョンにて得られる特殊な魔法だったりします。
その為、現時点では聖属性の魔法を覚える手段は無いに等しいと言えます。
──で、詰んだ訳です。俺の使える攻撃魔法って威力がショボショボですからねぇ……期待はゼロ。運良く効果が有っても持久戦ですし、俺の魔法力が尽きるまで使って地道に削っていったとしても倒し切れるとは思えませんから。
しかし、此処で退却しても状況は厳しい。
大量に溢れてもスケルトンだけなら耐えられる。だが、アレが動けば状況は一変する。
もし仮に、史跡自体が封印の一助の役割を担い、その効果が完全には失われておらず足止めが出来る程度には機能しているのなら──今しかない。
何をするか判らないし、長期化は危険だ。
何より、目的が有るとすれば王族を狙う可能性は間違い無く、最上位。
そうなると一番近くに居るメアリー様が危ない。当然、そんな事は看過出来る訳が無い。
「────っ!」
──とか考えていたら気付かれた様です。
床に魔法陣が展開され、其処からスケルトン達が俺を挟み込む様に出現。どうやら普通のモンスターではなく、召喚された存在だった様です。
通りで二百体以上も倒しているのに、ドロップが一つも無かった訳です。──なんて知っていたかの様に言っていますが初耳情報ですけど。
原作にも召喚魔法という種類は無い。
そういう意味では、ちょっとワクワクしますね。未知の存在、更なる可能性という物には。
ただ、それもこれも現状を乗り越え、生き延びる事が出来たらの話です。
「物は試しの【ファイアボール】!」
スケルトンの包囲網を一蹴し、通路を走り抜けて一気に鎮魂の間に飛び込み、魔法を放つ。
突き出した左手から発射された火球が命中。
僅かに出来た隙に部屋の端へと移動する。
此処で距離を取って戦っても根負けする結果しか見えませんからね。勝ち目を見出だすなら接近戦。そして、少しずつ情報収集しながら打開策を探す。それしか出来ませんから。
しかし、判ってはいたけど、ショボい威力です。松明でも投げた方が効きそうです。
魔法力の制御技術は有るので見た目は見事なのに威力は……ねぇ……。まあ、一応は火属性だし魔法という事で僅かにでも通用するみたいですが。
もし、相手のHPの数値やバーが見えていたら、あまりの減らなさ具合に戦意喪失していたかもね。それでも諦めはしないでしょうけど。
そんな「無理ゲーでしょ、コレは」な状況で。
もし俺が客観的な──プレイヤーや読者みたいな立場に居れば「神器を使えよ、神器を」と思う筈。しかし、世の中そんなに甘くない。俺が洗礼式前な為なのか、聖短剣は休眠状態。形状変化の能力以外備えている能力は全て“???”の状態。それでも神器だから物理的には世界最強に等しい。
もう御判りでしょう。物理攻撃が効かない相手に今の聖短剣は無力。まあ、楯として使えば魔法でも防げるという点は助かりますけどね。
──という訳で手数重視、【ファイアボール】で弾幕を張りながら聖短剣で飛んでくる怪しさ満点の黒い塊を防御。それが高い魔法力を持った闇属性の攻撃という事は一目で判りますし、ヤバさもです。多分、一発でも当たれば──いや、掠っても終わりでしょうね。即死しなかったとしても結果は同じ事。戦場で動けなくなる事は死と同義ですから。
ただ、此方等に決め手は無い。正面な未練の有るタイプなら、それを叶えてやり……成仏、と。
そういう王道的な展開な手段も有るんですけど。今回に限っては使えません。
(………………あれ?、全然、移動してない?)
先の仮説通りとして、一部が破壊されても史跡が封印効果を維持しているにしても、この部屋の中を動き回る位は出来る筈。
それなのに、移動する様子が無い?。何故?。
接近と退避を繰り返しながら、彼方等此方等から回り込み相手の様子を観察してみると纏う闇と影に隠される様に足元に短剣が見えた。足は無いけど。
御願い!、【鑑定】&【アナライズ】!。
え~と……“地浄の短剣”?。評価はSS、と。あ、聖属性持ちだ。これなら殺れそうかも。他にも魔法装填能力に増幅効果付き……ああ、成る程ね。この能力で封印してたんだ。今も僅かに残った力で逃さない様に縛り付けている、と。
そうなると……短剣を抜いたら自由になる訳だ。
(つまり、短剣を抜き取るのと同時に攻撃に移り、一撃で仕留める必要が有る、と……難易度高っ)
──と思いながらも、状況を忘れて上がる口角。ゲーマーの性、というべきなのか。難易度が高いと燃えてくるから不思議なものです。ゲームじゃなく現実なんですけどね。
こういう所だけは生まれ変わっても変わらないで残っているんだから可笑しなものです。
さて、今、考えるべきは一撃で仕留める為に何の魔法を装填し、増幅させて放つのか。
手持ちの中で考えるなら火属性の魔法が最有力。短剣の持つ聖属性も加わるなら効果は間違い無し。これで決まり──と思いながら、ふと、思い付く。もし、この増幅の効果を短剣の聖属性に対して適用する事が出来るのなら。確実な決め手になる。
そして、それを可能にする術が俺には有る。
我流の魔法、無属性の魔法弾です。
俺の考えが正しいのなら、短剣に無属性の魔法を装填した場合、聖属性と融合し増幅される筈。
勿論、飽く迄も可能性でしか有りませんが。
この装填という能力が無属性の魔法を考慮された能力であるのならば。
無属性のまま増幅されても構わない。無属性なら属性耐性を無視出来るのだから。
「それじゃあ、勝負してみますか」
こんな状況なのに一か八かの賭けに出るのは頭が可笑しいと言えるんですけどね。
多分、如何に評価がSSの装備品の能力だろうと限界は近いでしょう。だから、此処で勝負しないと確実に俺は後悔します。自分の命惜しさに退いたらフォルテの隣には立てませんから。
右手に放出した魔法力を集束し球状に。
魔法弾を待機状態で維持し、左手で目眩まし様の火球を撃ち込みながら回り込む様に見せて直進し、一気に肉薄。初めて懐に飛び込む。
しかし、それは相手も警戒して当然。待ち構える様に突き出される右手に浮かぶ魔法陣が。御互いの視線が重なれば、憎悪に満ちている顔が醜悪嘲笑を浮かべる。今まで使う事をしなかった奥の手を持つのは御互い様。
足元──右足の先に聖短剣を取り出す。
それを蹴り上げ、右手を弾き上げる。
魔法力を纏えば聖短剣の刃も届く。
左手で床に刺さる地浄の短剣を抜き、右手に有る魔法弾を装填し、増幅。
一々見ずとも、その魔法力の爆発的な高まりと、自分が賭けに勝った事を確信出来る。
地に繋がれる鎖を断ち斬る様に。天に誘う様に。
白く光り輝く刃を振り抜いた。




