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48話 継承


 アスタラの月、33日。

 三日間の書類地獄(デス・マーチ)を乗り越え、我は自由っ!。

 ──という訳で、王家の所蔵する書物を読み漁る事で荒んだ心に好奇心という潤いを齎します。尚、愛は十分な程に満たされていますので。


 ただまあ、そうは言っても実家にしろ別邸にしろ同じ国・同じ世界ですからね。全てが違うといった事は無い訳で。六割が重複しています。

 それでも王家や直轄地関連の情報は別ですから。それが全体の四割弱。残りが純粋な未知の知識。

 因みに、書庫の閲覧は話が来た時点で許可済み。メアリー様からなのか、母上か、アイリーン様か。何処かから俺の本好きが知られている様です。

 この件に関してだけは喜んで受け入れますけど。他の事はバレない様にヒヤヒヤしています。


 それから、フォルテ達は街に出ています。此処の蔵書を一通り読み終わったら、俺も合流する予定。待ち合わせ場所が美味しいケーキの御店だそうで。個人的にも今から楽しみです。



「──ん?、何だろ…………本?」



 本棚の奥。ごっそりと並んでいた本を一冊残らず抜き取ったから見付けられたのは本棚の裏の隙間に引っ掛かっていた一冊の本。かなりの年月、其処に有った様らしく積もりに積もった埃の山に違和感を覚えなかったら判らなかった。

 「まだ埃が残っているざます」と指で僅かな量の埃も見逃さない鬼姑みたいな感じでチェックしない限りは普通の掃除で十分なので気付きませんよ。


 それは兎も角として。動かした弾みで大量の埃が舞い散らない様に本を一旦【亜空間収納】で回収。それから取り出せば、あら不思議!。綺麗になって出て来たでは有りませんか。

 ──という謎の便利使いを覚えました。



「タイトルは無し、表装も……無し、と……」



 「何だろ、コレ?」と誰かに聞きたい。この場に俺以外は誰も居ませんけど。

 取り敢えず開いて中を確認しよう──と開いて、自分の迂闊さに気付く。同じ様に姉上の御土産にて異空間に強制転移させられたのに忘れてたーっ!。もう遅いけどっ!。



「────って、アレ?…………何も起きない?」



 ……どうやら杞憂に終わったみたいです。

 反射的に身構えてしまった事が恥ずかしいです。本当にね、誰も居なくて良かったです。もし、今の様子を見られていたら……悶絶級ですからね。

 「おやおや、如何に新時代の英雄殿でも年相応な所が有りましたか」とか言われたら嫌です。

 いえね、自分で思っているんじゃなくて、巷ではそんな風に呼ばれているそうです。

 寧ろ、それで既に悶絶しましたから。


 そんな与太話は置いておいて。

 保護用だろう白いページを捲れば表題が現れる。



「え~と……“大地の騎士と聖樹の森チョーコ・ブーラウン・の物語(サーガ)”?

──って、まさかっ!?、起動式だったっ?!」



 表題を音読(・・)した瞬間に本が光った。






「……………………え?、此処、何処?」



 全てを飲み込んだ閃光。気付けば、手元に有った筈の本は消えていて──目の前には広がる大自然。ええ、パッと見、人工物が欠片も見当たらない程に雄大で広大な大自然が見えます。

 前後左右上下と見回しても、自然が一杯です。

 ──と言うかね、それしかないから判断に困る。モンスターは勿論、真っ当な自然界ならば在るべき動物や昆虫等の姿が一切見えません。

 まあ、だからこそ見た目通りではないと判るのは皮肉と言うべきなんでしょうかね。



「……取り敢えず、あの大樹の所に向かうかな」



 視界の中で唯一、異彩の存在を放つ大樹。多分、高さは5~6ケーラは楽に有るでしょう。幹の方も直径は軽く1ケーラ以上。もっとかもしれません。兎に角、これでもかと言わんばかりの大きさです。

 表題からしても無関係ではないでしょうから。




 ──なんて思っていた浅はかな自分を殴りたい。

 大き過ぎて距離感が馬鹿になってます。しかも、大樹に近付けば近付く程に周囲の草木も巨大化し、余計に距離感が狂わされます。質が悪いです。


 ただ、モンスターは居ないし、罠や仕掛けも無く歩き続けていれば、近付けるみたいですが。それが逆に不気味で迂闊に休憩や休息は取れません。

 気を抜いた拍子に、“振り出しに戻る”みたいな仕様だったら笑えませんから。

 だって、既に丸三日位は不眠不休ですからね~。まあ、今の俺には可能な範囲の事ですけど。なんて嘘ですよ。多分、そういう仕様なんだと思います。全然眠気や疲労感を感じませんから。

 気温や天候も、時が止まっているかの様に一定。風が吹くという事も有りませんが、草木に触れれば動きますから、飽く迄も時の流れが(・・・・・)でしょう。

 完全停止している世界なら草一本でも凶器です。






「……………………え?、何?、コレを登るの?」



 五日近くを費やし、漸く辿り着いた大樹の根元。其処には大樹の幹に絡み付く様に伸びる蔦が有り。御親切に表面が階段状に為っているんです。

 …………判りましたよ。行けばいいんでしょう、行けば。行って遣ろうじゃないですか!。




 そんな自棄糞な憤慨と共に踏み出し──七日。

 衝動的に駆け上って遣ろうかとも思いましたが、流石に止めました。其処まで後先考えない行動は、自滅するフラグですからね。地道が大事です。

 そして、漸く終着点──頂上に到着しました。


 “大聖樹の神殿”とでも称すべき美しくも一切の継ぎ目や切れ目の無い神秘的な木造の神殿。まるで樹自体が神殿の形に成長した様かのに複数の幹枝が絡まり合いながら形作っている。

 「そういう風に造られているからだろ」と言えば風情も神秘も何も無いんですけどね。



「……彼女(・・)がチョーコ・ブーラウン……」



 神殿の奥。木造の中に唯一存在する石像。女神の彫像を思わせる凛々しさと美しさを併せ持った姿は正に生前の(・・・)彼女を思わせる。


 何故、そんな風に思うのか。それは、俺が彼女の事を知っている(・・・・・)からに他ならない。


 それは蔦の階段を上がっている時の事だった。

 大樹の幹の所々には、樹皮の亀裂が出来ている。その中に他よりも大きな物が有り、其処は人が一人入れる程の広さ──トイレの個室位の空間が有り、其処に椅子が一脚、置かれていて。

 その椅子の上は、本が一冊。

 見るからに怪しい。しかも、【鑑定】等が何れも無反応──と言うか、使用不可能で。罠の可能性を考えたら、無視するのが良いのかもしれない。

 しかし、好奇心が勝ったから仕方が有りません。だって、気になるんだもん!。


 そんな訳で椅子に座って本を開いた。

 すると、本が光り、まるで一人用シアターの様に360度、視界が一変。現実の様に再生(・・)される。

 それは表題の通りに、後の世に“大地の騎士”と呼ばれる様になった一人の少女の生の物語であり。語り部であり、友であった聖樹の物語。


 蔦の階段は、その物語を辿る旅路。

 命が、樹が、地より天へと向かう様に。

 途中で、その意図に気付いた。気付いたとしても進む以外の選択肢は無かったけど。



「…………何故、貴女はこんな物(・・・・)を遺した?」



 そう訊いた所で返る答えは無いと判っていても。そう問わずには居られなかった。

 最後の物語──彼女の死後、聖樹が自らを依り代として創造したのが、この世界であると語られた。その直後、頭の中に響いた声。

 【滅人救世】というスキルの獲得。

 その効果は文字通り、人類を滅ぼし世界を救う。いや、正確に言えば、全てをリセット(・・・・)する能力。

 世界の全てを原初へと帰し、再生させる。

 このスキルは、それが出来る。



「…………はぁ~~~~……嫌な予感しかしない」



 彼女は【滅人救世】を使用していない。だから、このスキルは一種の自己抑止力なんだと思う。

 それ程の力を与えられるからこそ。自らを戒め、己を見失わず、御さなくてはない、と。そういった意味が込められている──と解釈出来る。


 でもね、本当に出来るんだとも思います。

 つまり、俺の意思一つで人類滅亡は可能、と。

 ね?、「何で?」って訊きたくなりますよね?。しかも、これから真のラスボス相手に世界の存亡を懸けた戦いをしないといけないんです。人類滅亡を阻止する奴が持つスキルじゃないでしょう。


 まあ、そんな事を遣ろうとしている訳ですから。こんなスキルが無くても遣ろうと思えば出来る筈。そういう意味では、自己抑止になるでしょう。

 でも、万が一にも、うっかりで発動させたら?。うん、1ミクロンも笑えません。


 ──と言うか、遺すなら違うスキルを遺して!。どう考えても死蔵確定ですから!。



「…………?、あれ?、コレって取れる?」



 口には出さず、胸中で色々と愚痴りながら石像を見ていて──ふと、気付いた。

 石像が手にしている杖と楯。それは石の様だが、よく見ると手と離れている事が分かる。


 ………………ば、罰当たりだけど、ちょっとだけ試す位は赦してね?。あんな物、押し付けたんだし少し位は見逃して下さい。

 そんな言い訳をしながら、石像の手から杖と楯を取り外せるか試してみたら──取れました。

 …………取れちゃった。どうしようか、コレ。



「────へ?」



 そんな事を考えていたら、石像が光った。

 眩しさに反射的に楯を構え──気付いたら、元の書庫に戻っていました。杖と楯を持ったまま。

 持って来ちゃったけど…………本、見当たらず。うん、コレも返品不可能みたいです。


 ただ、石だった筈の二つは今は色鮮やかに変化。その違いが明らかに判ります。

 これはアレかな?。何方等も主だった彼女の死と共に石化して眠り、今、彼女の継承者(・・・)と成った俺が手にした事で目覚めた、的な展開?。

 かなり御都合主義だけど……実際、杖と楯を手に取ってから、戻って来た訳だし……あれ?、なら、何方等かしか手に取ってなかったら入手出来たのは片方だけだった?…………うん、止めよう。

 先輩っ、有難う!。大事に使わせて貰います!。俺じゃなくてフォルテ達かもしれませんけど。


 調べると“流星の剣杖”と“天樹の護楯”と出て何方等も評価はSSS。スキルの事を考えたなら、トントン、でしょうか。

 流石に神器では有りませんが……その性能自体は十分にチートでした。助かりますけどね。

 ただ、物に頼り過ぎると実力が伸びませんから。俺自身は勿論、指導方針としても、そういった事は極力避ける様にしています。

 勿論、必要な時には迷わず使いますからね。

 ──という訳で、【亜空間収納】にポイッす。

 出番が来る、その日まで。おやすみなさい。




 そんな長い長い一瞬の邂逅を経て。街に出ているフォルテ達に合流します。



「──で、何を遣っていたんですか?」


「いや、これは何と言うかだな……」



 その道中、全身荷物だらけで前も見えない状態なフロイドさんを発見。しかし、一人なのに……何でそんな状態になるんですか?。

 百歩譲ってメレアさん達に荷物を持たされたり、アンに顎で使われたなら判りますが。いや、アンも流石に其処までは遣らないか。一応、今も尊敬する兄である事には変わらないですからね。


 ──で、結局、何も判っていません。

 まあ、犯罪紛いの事はしていないでしょうけど。



「ふむ……迷子を見付けて送り届けたり、大荷物で困っていた御婆さんを手伝ったり、蓋の外れていた排水溝に荷馬車の車輪が落ちて困っていた商人達を助けたりして、その御礼を貰ったとかかな」


「凄ぇ……何で判ったんだ?」


「まあ、フロイドさんだからね」



 「俺にも似た経験が有るからね」とは言わない。言ったら、何か負けた気がするから。だから黙ってフロイドさんの荷物を受け取り魔法の道具袋へ。

 現在は、俺専用、フォルテ達()専用、それから主にメレアさん達が使う家用と三つも所有しています。これだけは幾ら有っても困りません。

 貰い物では有りませんけどね。




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