43話 自招
ティウィーラセア嬢を加えた三人で談笑する中で此方等の様子を窺う視線が増えている事に気付く。
彼女がエルフだからという事ではない。会場には少数とはいえ、参加しているエルフは居る。だから彼女自身が注目を集めている訳ではない。
ただ、彼女も無関係ではない。
エクリノワース嬢に俺が話し掛けたのと同様に。ティウィーラセア嬢が彼女と話している事。それが周囲の参加者の意識を引いている。
ティウィーラセア嬢が言っていた通りであれば、ヒュームとのエルフの関係性はズゥマよりも親く、交流も普通に有るのだろう。
それならば、ムーヴァリア王国の血を引いているエクリノワース嬢に対して距離を置こうとする事は普通の反応なんでしょう。
それなのに、こうして談笑している訳ですから。少なからず興味や関心を持つ事は有り得ます。
まあ、客観的に見たら、年少組が仲良く集まって話しているだけなんですけどね。
其処に色んな情報等が加味されると、こうなる。面倒臭くて、馬鹿馬鹿しい話なんですけど。
その本の僅かな忌避感が、大きな差別や迫害へと変わっていくものなんです。
「そんなつもりは無い」と言っていたとしても。上辺や建前ではなく、本当に無くすという事自体、出来る事では有りませんから。
自分との比較、周囲との比較、社会との比較。
集団生活が根幹に有る以上、多数の方に傾くのが一般的な常識というもの。
そして、それが正しい事だと教えられるから。
一度生じた差別や迫害は簡単には無くせない。
その事を、一人一人が理解し、意識しなければ。本当の意味での、“人権の自由と平等”というのは成り立たない事だと思う。
ただまあ、傲慢な平等ならば。
自分の価値観と意志、覚悟次第だと言えます。
──と、そんな事を考えながら周囲を見ていたらティウィーラセア嬢に声を掛けられる。
「ジャックさん、他に気になる方でも?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……
このパーティーには俺達位の年齢でも参加するとは聞いていたんだけど、意外と少ないなって」
「それは……もしかして、御存知有りませんか?」
「何を?」
「こういった場に参加する子供──特に十二歳以下となると、訳有りの場合が多いです」
「……それでは、貴女も?」
「はい、私もです」
エクリノワース嬢の問いにティウィーラセア嬢が躊躇無く答える。苦笑しながらではあるが。
其処まで気にしている様には見えませんが。
しかし、そう言われてみると、頷けもします。
訳有りでなければ、女子ならば選定の儀に普通に参加出来るでしょう。勿論、前提条件付きの話では有りますけど。
そうではないから、こういう場に居る。
訳有り、というのは、そういう事でしょう。
そんな風に考えていると、ティウィーラセア嬢が俺を見て、訊いてくる。
「ジャックさんは私を、どの様に思われますか?」
「年齢的には可愛いとなる所で綺麗だと思う」
「──っ!?、あ、有難う御座います……──いえ、そういう事ではなくて……
その、エルフを、という意味です」
「ああ、其方か……
う~ん……正直、コレと言っては何も無いな」
「…………何も、ですか?」
「どういった意味で訊いたのかまでは判らないが、俺は俺が見て、話して、触れて、自分で判断する
他人から聞く話も参考にはするけど、それだけだ
結局、俺は俺だからな
だから、どんな事であろうと自分で考えて決める
……まあ、偉そうな事を言ってても子供だけどね」
そう最後にオチを付ければ、二人は笑う。
正直、今の俺に気障な台詞は言えません。
選定の儀の時は失う物が有りませんでしたから。怖い物知らずで遣れましたけど。
今後の事を考えると、もう黒歴史は綴れません。アレは期間限定品ですから。
それでも、二人の表情が変わった。
何かしらの憑き物が取れたみたいに。少しだけ、明るく、気楽になった様に思えます。
俺の都合の良い思い込みかもしれませんけど。
「……実は、エルフという種族は内向的なのです
人見知り、という事も有りますが、排他的です
今でこそ、ヒュームの方々と同じ様に暮らしているエルフも多いですが……未だに名残が有ります」
「自分の生活圏から出たがらないとか、周囲以外の人々には種族関係無く素っ気無いとか?」
「はい、正に仰有る通りです」
「そんな風には見えないけどな」
「そういう意味で、私は変わり者なのです
勿論、誰彼構わず、という訳では有りませんが……
他のエルフ──家族からしても、可笑しいと……
その様に言われてきました」
「それは論点が違うな」
「……え?」
「他のエルフに嫌われたくないから、そんな自分を変えたいと思うのなら、気にするのは頷ける
でも、自分自身は今の自分を、どう思うんだ?
それ次第で考えるべき事は違ってくる」
「私は……私は………………」
俺の言葉にティウィーラセア嬢は瞠目し、視線を外す様に俯いて、静かに考え込む。
彼是言う事は幾らでも出来る。しかし、その上で一番重要になるのは彼女自身の意志だ。
それ如何で俺が言う事も変わってくる。
だから、先ずは彼女自身が答えを見出だす事。
それが正解とは限らないし、必ずしも答えが一つだけとは限らないし、変わる事だって有り得る。
ただ、どの様な答えであろうと、自らが導き出す事でしか意味は無いと言える。
誰かの言葉だったり、思い掛け無い事だったり、何かしらの影響を受ける事は有るにしても。
結局は自分自身の裡からしか答えは出て来ない。
それ故に、考える事でしか答えは導けない。
静かに見守る俺達の前で、ティウィーラセア嬢は今の自分の答えを見付けたのだろう。
顔を上げた彼女の瞳からは迷いが消えていた。
「……私は、もっと知りたいです
私の知らない事を、私の見た事の無いものを、まだ会った事の無い人達を、私は知りたいです!」
「だったら、縛られる必要は無い
誰かに認めて貰いたくて、そう成りたいのではないのなら、自分の遣りたい様に遣ればいい
少なくとも、それが誰かを不幸にするというなら、その辺りの事にだけは気を付ければいい
話を聞いた感じだと、家族から止めらているという事ではないみたいだしな
独り立ちしたら、自分の思うままに歩けばいい
その歩みが、もしかしたら後々のエルフにとっての新しい選択肢になるかもしれないからな」
「エルフの、新しい選択肢……」
「未来は、在り方は、決して、一つではない
違う事は悪い事ではない
誰も彼も皆、違う存在なんだ
違っていて当然、違う事が一人一人の可能性だ」
そう言った所でオチを付けようとして──流石に今は自重した方が良さそうだと感じました。
だってほら、二人の視線が……ねぇ……。
出逢った頃──結婚したばかりの頃のフォルテを思い出させるものでしたから。
此処で茶化す様な真似は出来ません。
──と言うか、こんな娘が多過ぎませんか?。
いや、俺が偶々そういう娘に逢うんでしょうが。それでも遭遇する確率が偏ってませんかね?。
……今までに出逢った女性の総人数で考えたら、確率自体は低いかもしれませんけど。
いやでも、今回は自分から動いた結果ですから、誰にも文句は言えませんよね……。
…………あれ?、そういう風に考えたら、全部、俺が自分で呼び込んでる?。
………………いやいや、そんな馬鹿な事は……。
でも、よくよく考えたら、フォルテを選んだのも自分からだし、アンの件も元を辿れば自分で動いてフロイドさんと知り合った事だし、メアリー様との縁にしても何だかんだで………………うん、改めて考えたら全部、自業自得ですね。どう考えても。
そっかぁ……俺、動かない方がいいんだ……。
フォルテが居たら、その胸に顔を埋めて泣くね。もう恥も外聞も有りませんし、気にもしませんよ。泣かないと遣ってられませんから。
今は空を見上げて誤魔化すしか有りません。
嗚呼、腹が立つ程に良い天気です。
「──きゃっ!?」
「──おっと、悪ぃな、気付かなかったわ」
唐突なティウィーラセア嬢の驚声に我に返る。
すると、其処には見知らぬ顔の男性が二人。
その内の一人が彼女に打付かった様で彼女が手に持っていた木杯が落ちて地面に転がり、染み込んで土を濡らしていた。
「あちゃ~、遣っちまった……」と言いたそうな男性の反応も頷ける。
これが結婚対象に見ている女性なら悪印象だし、此処での対応次第で自分への評価が変わる。
そういう意味では間違えられない場面。だから、即座に動けないと状況は瞬く間に悪化してゆく。
だが、それを連れの如何にも女性人気が高そうな優男が即座にフォローする。
彼女の落とした木杯を拾い上げ、打付かった方のやんちゃ感の有る男性に手渡しながら此方等に対し丁寧に頭を下げる。
「連れの者が失礼を……申し訳有りません
御怪我や御汚れは御座いませんか?」
「はい、大丈夫です、どうぞ、御気に為さらず」
「有難う御座います
せめて、新しい飲み物だけは御持ちします
御希望は御座いますか?、宜しければ、其方等の御二人も、どうぞ」
ちょっと鼻に付く胡散臭い位の紳士的な対応。
婚活用の仮面かもしれませんが、此処で剥ぎ取る訳にもいきません。
ティウィーラセア嬢は「どう致しましょう?」と視線で訊ねてくるので、エクリノワース嬢と二人、顔を見合わせてから小さく頷いて返す。
変に遠慮しても目立ちますからね。
「……それでは、私は冷たい紅茶を」
「私も同じ物で御願いします」
「俺も同じ物で」
「判りました」
そう笑顔で返事をすると優男は、斜め後ろに居た連れの方を見て、「早く取って来なさい」と視線で命令する様に伝える。
何気に二人の力関係が窺える遣り取りだ。
優男は直ぐに笑顔を浮かべ、俺達に向き直る。
「貴方達もパーティーの参加者ですか?」
「はい」
「それでは、御二人の御相手は彼ですか」
「「──ええっ!?」」
「おや、違いましたか……これは失礼を」
「い、いえっ、間違ってはいませんっ!
………………────っっ!!??、~~~~~っっ」
不意打ちの質問に動揺した二人。
「違います」と否定した訳では有りませんけど。そういう反応は地味に気になるものです。
まあ、どう受けるのかにもよりますけどね。
それよりも、反射的に否定を否定し、その事実に赤面するエクリノワース嬢の反応が可愛い。
そして、少なくとも攻略フラグが立つ程度には、彼女の好感度は有るみたいです。
何故か安心している自分が可笑しいですけど。
「フフッ、貴男の方は如何ですか?」
「二人共、俺には勿体無い位に素敵な娘だ
貴男も同じ男なら、どういう気分か判るだろ?」
「ええ、判りますよ」
そう挑発的に言って、態と波風立ててくれた事に遣り返します。此方は、そういうのを抜きで楽しく過ごしていた訳ですからね。当然、邪魔をされれば腹も立ちます。
まあ、気にしている様子も有りませんけど。
プレイボーイ感を漂わせる優男に苛付きます。
「モテそうですけど、何で婚活パーティーに参加しているんですか?。裏の顔が有るから?」なんて言いたい。
其処に意外と早く連れの男性が戻ってきた。
給仕係りの様にトレイに人数分の飲み物を載せ、溢さない様に気を付けながら。
数が五つ、という時点で、ちゃっかりしている。
到着すると、優男が直ぐにトレイから木杯を二つ取り、彼女達に向かって差し出す。
「当然、レディ・ファーストです」と言いそうな笑顔を浮かべながら。
「「────────ぇ?」」
木杯を受け取ろうとした二人の手を遮る様にして俺は右腕を伸ばした。
不敵な笑みを浮かべて見せながら。




