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41話 吃驚


 自分を落ち着かせる意味も有り、一旦視線を外し地面を見詰めながら目立たない様に深呼吸をする。長くなり過ぎると無駄に注意を引く為、短く。

 ゆっくりと、自然な動きで顔を上げる。

 それから凝視しない様に注意しながら視界の中に件の人物の姿を捉え──確認した。

 自分の勘違いではなかった事を。


 「どうして彼女が此処に居るのっ?!」と。

 そう叫び、思わず頭を抱えたくなる。

 そうはしなくて済んでいるのは客観視したままで居られるから。自分を心から誉めて遣りたいです。普通だったら二度見したり凝視する所ですから。


 視界に捉えているのは一人の美少女。一般人用の婚活パーティーには不釣り合いな人物。

 エクリノワース・フォン・ラピノ・パーゼイル。ダルタルモア帝国の伯爵家の五女で俺達と同じ歳。

 晴れ渡る心地好い春の日を思わせる空色の長髪。それを結い上げてポニーテールにし、付ける装飾は彼女の銀色の双眸を際立たせる為の脇役(エキストラ)

 シンプルながらも白いドレスが彼女の褐色の肌をコントラストにより引き立てる。

 その為、其処に立っているだけで目立つ。


 それなのに、彼女に話し掛ける男は居ない。

 だが、それも当然だと言えば、当然なのだろう。参加者の多くはセントランディ王国の民。それなら知らない方が珍しいと言える。


 その褐色の肌は日焼けではなく、曾て帝国により攻め滅ぼされ、吸収されたムーヴァリア王国の王族直系の血を引いている証。

 既に百年近く経ってはいるのだが、戦利品(・・・)として数名の王族の女性が捕らえられた。

 こういう話は戦争等では珍しくはないのだが。

 この二百年の間で他国に侵攻し、戦争を起こした国はダルタルモア帝国だけ。

 そして、戦争によって滅亡したのもムーヴァリア王国ただ一つだけだったりする。

 国土が減少したり、従属国となった国々は有るが滅亡はしていない。

 更に、ムーヴァリア王国はセントランディ王国とダルタルモア帝国の間に位置していた事も有って、複雑な感情から、彼女を避けていると言える。


 何故、そこまで詳しいのかと言えば、彼女もまた原作(ゲーム)のヒロインの一人だから。

 ゲーム開始当初、選択可能なヒロインは六人で。その内の二人をクリアすると、追加で新たに六人が選択可能になる。その内の一人が彼女だった。

 また、フォルテを除く十二人のヒロインの中では彼女のストーリーが最も過酷だったという事も有り強く印象に残っている。

 原作(ゲーム)ではセントランディ王国に移り住むのだが、フォルテ以外のヒロインで唯一、ストーリー上では後半パートでダルタルモア帝国が絡んでくる。

 フォルテの次に広いマップ領域を誇る為、非常にタフな内容だったりもしましたから。


 当然ながら、彼女も俺達と同じ選定の儀に居て、俺が話し掛けはしなかったが、気になった人物。


 そんな彼女が何故、一般の婚活パーティーに参加してるのかは不明だが。

 彼女が他人の空似という事だけは無いでしょう。原作(ゲーム)の設定通りなら、直系は彼女だけなので。


 ──と、一通り情報を思い出した所で、気持ちを落ち着ける為に手に持つ飲み物を口に運ぶ。

 つい先程まで冷たかった筈なのだけれど、今では微妙な温さになっている。そう感じてしまっているだけなのかもしれないが。それだけ、時間が経ったのかもしれない。或いは、自分で思っている以上に手に熱が籠ってしまったのかもしれない。

 ただ、違う事に意識を向け、思考を切り替える。それが出来れば問題無い。……味は残念だけど。


 一息吐き、堂々巡りしそうな思考は放棄する。



(……取り敢えず、状況を整理しないと……)



 彼女の存在に気を取られ過ぎて本当に重要な事を見落としてしまったりしては笑えない。

 だから、最初に遣ろうとしていた様に会場全体を然り気無く見回して客観的な情報を集める。


 集めてはみたけれど……彼女の存在感が強過ぎて他の人達が普通に見え過ぎて困ります。



「…………いや、ちょっと待てよ……」



 原作(ゲーム)の彼女の事を思い出そうとして。

 ふと、脳裏に浮かんだ疑問。


 原作(ゲーム)では、基本的にヒロイン達が御互いに関わるという展開は無い。

 しかし、フォルテを選んだルート──つまりは、所謂トゥルーエンドのルートだけは別で。

 十二人のヒロインとの物語の舞台となった全ての国々を巡る事になる。

 その中で、各ヒロイン達が登場してくるのだが、彼女は登場しない。

 勿論、彼女だけが登場しないという事ではなく、他にも未登場のヒロイン達は居る。

 十二人のヒロインは全員が王公貴族ではない為、直接的な関わりが無いと考えれば登場していない事自体は何も可笑しな事ではない。

 ただ、彼女はダルタルモア帝国唯一のヒロインで五女とは言え、伯爵家の娘だ。それが未登場だったという事は、改めて考えると不自然。


 しかし、もしも、彼女が亡くなっている(・・・・・・・)のなら。


 登場する事が無かった事にも頷ける。

 後半パートに入った時点で存命ではないのなら。登場する事も、名前が出る事も無いだろう。



(……原作(ゲーム)では気にもしなかった現実、か……)



 とても嫌な形で、皮肉にも思い知らされる。

 選ばれなかった少女達の未来。それらが必ずしも無事に繋がっているとは限らない事を。

 その可能性が有る、という事を。


 思わず、自己嫌悪から此処から逃げ出したくなる程に苦々しく。幸せな日常を送る自分が偽善者だと思わされてしまう。

 その感覚も、日常の感覚も、間違いではない。

 ただ、それが現実だという事。

 どんな正義や理想を口にしようとも。その全てが薄っぺらい偽善である事には変わらない。


 だから、その矛盾と向き合い──それでも、尚。自分の在り方を貫くのなら。背負う覚悟が必要。

 その場凌ぎの無責任な善意では、本当の意味では誰も救えはしないのだから。



(……今程、通信手段や瞬間移動能力が欲しいって思った事は無いかもなぁ……)



 それは逃げる為ではなく。

 フォルテとアンに相談する為に。

 …………いやまあ、多分ね、二人が反対するとは思えないんですけど。気持ち的には、です。


 一旦、違う方向に思考を向けた事で鬱になる前に切り替える。これも、ある種の自己防衛です。


 改めて得た情報から状況を整理する。

 今現在、俺の観点から考えると、事件の被害者の筆頭候補はエクリノワース嬢だと言える。

 勿論、まだ確定した訳ではない。


 ただ、ルインベールの花嫁事件はセントランディ王国を舞台にしたヒロインのストーリーに絡む事。ダルタルモア帝国とは関係が無いとされている。

 もし、後の事件の起因になるとすれば、この場で彼女が亡くなり、その影響──冤罪や身代わり等で犯人とされた人物の関係者が怨恨から、とか。

 そういう可能性は十分に考えられるでしょう。

 それなら、彼女が生存しているルートでは事件が起こってはいない可能性が高いと思えます。

 勿論、ヒロインのストーリーに絡む事件の起因はそれだけではないのでしょうけど。

 此処で起こる事に限った話をするのなら。事件の被害者となった場合に影響が大きいのは彼女かと。

 参加者全員の情報が判っている訳ではないので、飽く迄も俺の主観による推測ですけどね。


 他の可能性は……“エルフ”の参加者かな。

 二十名程のエルフの男女が参加しています。

 フロイドさんを含むズゥマの男女も数十名。

 ヒューム以外が一割、といった割合です。


 ただ、フロイドさんに話し掛けていた女性の話を参考にするなら、ライガオン獣王国からの参加者はフロイドさんだけでしょう。

 そして、メルーディア王国から参加している者は登録上は(・・・・)居ないみたいです。

 その事には、色んな意味で少し安堵します。


 ただ、問題は何も解決していません。……まあ、今はまだ(・・・・)何も起こってもいませんけどね。


 兎に角、一応は被害者の目星は付きました。

 但し、これは飽く迄も転生者()だから出来る推測。フロイドさんにも誰にも説明しようにも出来無いし納得させられる説明は不可能だと言えます。

 だからと言って無理矢理に彼女の身柄を確保する様な真似も出来ません。遣ったら国家間問題です。


 そうなると、俺に出来る事は限られてきます。


 先ず、事が起こってから動くか、起きる前か。

 確実なのは事後──つまりは、後の先を取る事。しかし、その場合、最悪、彼女が死亡するリスクは0には出来ませんし、害される可能性は高いです。

 その為、事が起こってからでは遅いでしょう。

 だから、起きる前に動くしか有りません。


 そうすると次は、どう位置取るのか、です。

 彼女とは無関係な振りをしながらも直ぐに動ける様に出来る限り側に居る。……うん、無理ですね。流石に怪しまれますって。逆に俺が捕まります。

 無関係のままで、という個人的な願望の状態では近付けない以上、婚活パーティーという場に倣って彼女に接触するのが一番妥当でしょうね。


 ええ、それが妥当なんです。判ってはいますよ。でも、事が終わって「無事で良かった、じゃあ」で済ませられると思いますか?。無理です。無理。

 俺が彼女の立場だったら、好感度爆上がりです。そして、立場的・政治的な理由から、結婚です。

 そうなる自分の姿が思い浮かぶから、困る。

 しかも、妻達は反対しないでしょうから尚更に。良い奥さん達なんですが。事、コレに関してだけは前世の価値観が未だに残る俺とはズレが有ります。要は俺自身の気持ちの問題なんですけどね。



(……はあぁぁ~~~…………まあ、こうなる事も覚悟して来てはいた筈なんだけどなぁ……)



 正直、相手が王公貴族だとは考えていなかったし原作キャラだなんて事は微塵も思っていなかった。だって、一般の──庶民の婚活パーティーなんだし想定外です。「こんなの詐欺だーっ!」って叫んでリセットしたい。ボタンは何処ですか?。

 ──という現実逃避をした所で、本線に復帰。

 幾らか愚痴ったから、真面目に考えます。


 エクリノワース嬢に接触し、談笑しながら警戒。これが俺に出来る最善の防衛策でしょう。

 運が良ければ、彼女の付き添いの人達とかが俺を警戒する事で、周囲の人にも意識が向く筈。

 そうすれば、俺が動かなくても阻止出来るかも。御都合展開希望な願望だけど、願うのは自由だし。細やかな我が儘を願ってもいいでしょう?。


 接触する上で一番の懸念事項は身元バレ。

 選定の儀では挨拶もしていませんから、印象には残っていな……いや、逆にフォルテを指名した分、印象は強かったかもしれない。

 まさか、こういう形で裏目に出るとは……いや、それでも大丈夫、大丈夫な筈!。

 選定の儀の時の俺と、今の俺では家族が同一人物である事を疑ってしまう程度に変わっていますから先ず気付かれないでしょう。

 …………結構な自爆ダメージは有りましたが。


 少なくとも、話もしていなかった彼女であれば、声や喋り方は知らない。その上で、今の俺の姿だ。一緒に選定の儀に参加していた者とは思わない筈。自爆さえしなければ、バレる可能性は無い筈。

 ……自分の考えだけど、言い切れてはいないのが頼り無いです。まあ、良い意味に受け取るのなら、慎重な姿勢は油断していない、という事ですけど。それも自画自賛でしか有りませんから。

 ただまあ、自信とは、そういう事でも有ります。だから、ポジティブに考えましょう。


 後は──俺が腹を括るだけです。

 彼女を助ける事は勿論、その後の事等も含めて、背負う覚悟は出来ました。……したくはないけど。楽観的なままでは臨めませんからね。


 軽く深呼吸し、気持ちも含めて意識的に弛緩。

 特別な事は考えず、自分らしく在るが侭に。



「こんにちは、御話しさせて頂いても宜しいか?」



 新しく取った飲み物を片手に。

 選定の儀の時の自分を思い出す様に声を掛けた。




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