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40話 会場


 イェトの月、5日。

 セントランディ王国に入国し、パーティー会場のルインベール商会の所有する屋敷が有るライセテマの街に到着しています。


 当然ながら、出入国に関しては万が一の時の為に偽名を使う事は出来ません。立派な犯罪なので。

 ただ、前世の出入国管理の事を思えば楽なので。それだけ平和なんだとは思います。

 それでも犯罪は無いという訳では有りませんが。その辺りは人が人である限り、絶えない事なので。その事実に苛立ってしまう方が無駄に疲れるだけ。ある意味、「人とは、そういう物だ」と割り切った考え方をした方が楽だったりします。


 そんな話は置いておくとして。

 件の婚活パーティーですが、参加者は千人近く。その内の四割が女性で、被害者候補。逆に、六割の男性が容疑者候補です。まあ、容疑者という点では参加する女性達は勿論、関係者は全て容疑者候補に含む事にはなるんですけどね。

 だって、事件は勿論、被害者や犯人に関する情報自体が一切有りませんから。全て手探りです。

 原作(ゲーム)に出ては来ますが、詳細不明。その状況下で潰さないといけない訳ですから。

 名探偵的な御助けキャラが出て欲しい所です。


 そんな事を考えながら、「馬子にも衣裳髪形」と思わず言いたくなってしまう程に、落ち着きの無いフロイドさんを見て、声を掛ける。



「……もしかして、何気に緊張しています?」


「ぅぐっ…………わ、悪いか……」


「いえ、そういう初な反応も女性ウケ(・・・・)するかと」


「何だよ、それは……」



 物凄く嫌そうに、そして、恥ずかしそうに。

 今日の為に仕立ててきた一張羅を着ている姿を。アンや皆に見せられないのが残念です。


 映像通信とまでは言いませんから、動画で記録が出来る魔道具が欲しいです。

 洗礼式が済んで冒険者として堂々と活動する事が出来る様になったら、真っ先に創ろうと思います。フロイドさんの為に、じゃなくてフォルテ達の事を記録しておく為にです。

 そして将来、子供達や孫達に見せて、懐かしみ、照れるフォルテ達を見たいんです。ええ、もう既に老後の隠居生活まで俺は見据えていますので。


 それはそれとして。

 フロイドさんが場違いな感じで緊張しているのも仕方が無かったりします。

 何でも、ズゥマの文化では女性は兎も角として、男性は着飾るという事は、あまりしないそうです。全くない訳では有りませんが、それは他国や他種族との交流上、合わせて行うものなんだそうです。


 当然ながら気儘な冒険者として一人旅をしていたフロイドさんが着飾る様な事は一度も無くて。

 だから、最終調整をメレアさん達にして貰う為に皆の前で着て見せた時も居心地が悪そうでした。

 アンが意趣返しに「まるで夫婦みたいですね」とフロイドさんとメレアさんを揶揄っていました。

 免疫の無いフロイドさんは初な男子学生みたいな反応で普通に面白かったですが、メレアさんの方は無反応──でしたが、実は全く意識してはいない、という事は無いと、俺とフォルテとクーリエさんは付き合いの長さから感じ取りました。

 勿論、その想いが実るのかは別の話です。


 尚、俺の衣装の最終調整はフォルテとアンが。

 「一緒に行けないのなら、せめて……」と二人でメレアさん達を押し切りました。

 我ながら、本当に良い娘達に愛されています。



「アル──ジャック(・・・・)の方が慣れてるだろ?」


「そうでもないですよ、機会は限られてますから」


「そうなのか?…………そうは見えないが……」


「まあ、フロイドさんよりかは、場数が有ります」


「それでも羨ましい…………羨ましいのか?」



 何気無く言い掛けた自分の言葉が引っ掛かって、そのまま腕を組んで首を捻るフロイドさん。

 真面目に答えるなら、「羨ましくはない」です。だって、そういう生活に、どっぷりと浸かっている事に為りますからね。俺としては考えられません。


 “俺”になる前のアルト君は出不精で勉強嫌い。我が儘では有りませんでしたが、家族に甘やかされポチャってましたからね。社交の場に出た経験自体今の俺の方が多い位です。マジで。

 それに、抑が戸籍持ちでもギリギリの次男です。期待とかもされていませんでしたから。

 そういう意味では、ノーマークのダークホース。超大穴だったのは間違い有りません。


 だから、俺にとって初めての大舞台は選定の儀。余程期待されたり、恵まれた立場でなければ、大体同じ様な感じなんでしょうけど。

 正直、選定の儀の経験は論外だと思います。


 選定の儀は選択権を持つ男子主体ですし、女子は女子でギラついていましたからね。正直、一般的なパーティーの場とは全くの別物です。

 男女の比率は兎も角、八歳前後の子供の集まりの筈なのに異様な空気でしたから。

 寧ろ、あの場に居て、平気な男子達が凄いです。中身が元は大人だった俺でも引く位ですから。

 ちょっと気弱な子だったら女子の異様な雰囲気に気圧されて女性恐怖症になる所でしょう。

 しかし、必ず選択しなければならないというのが参加している全ての男子の義務です。それなのに、参加しておいて妻を選ばないという選択肢を選べる胆力が有るなら、問題無く選べるでしょう。

 つまり、何が何でも選ばされます。


 ただ、そういう状況で引ける(・・・)女の子は強か。

 他の女子が押して圧してな状況で、一歩引いて。自らを際立たせて印象付けられたなら。

 相手の男子は一殺(イチコロ)でしょう。

 砂漠を彷徨う自分の前に現れたオアシス。

 その娘を疑いもせずに選び、愛する事でしょう。

 そういう意味でも参加していた彼女達は逞しいと称賛として言う事が出来ます。


 さて、先程フロイドさんが言った“ジャック”が今の俺の名前です。当然、偽名ですが何か?。

 設定上は、俺はフロイドさんの従弟になります。しかし、戸籍持ちではなくて、魔力持ちでもない。その為、こうして参加している、と。

 まあ、そんな感じにしています。尚、年齢自体は洗礼の有無が有りますから、誤魔化していません。だから九歳での参加です。


 普通に考えると「九歳が婚活パーティーに?」と思うかもしれませんが。それは俺の前世での(・・・・)価値観からすれば、という話で。現世では普通の事です。

 選定の儀への参加資格の無い者の方が多い以上、こういった場が設けられる事は、ある意味、必然。

 そして、政治の中核を担う者達が若くして結婚し生きて行く事が当然な以上、その価値観が世間一般にも浸透しているのが普通ですから。

 俺の様に洗礼式前の子供でも参加している事自体何も不思議な事では有りません。


 一方で、フロイドさんの様に、十代後半の人達の参加者も多かったりもします。

 彼等彼女等は様々な理由で縁や機会が無いまま、独身でいる人達。その為、かなり積極的に会場でも相手探しをしています。

 特に二十歳を越えた女性や二十五歳以上だろうと一目で判る男性の本気具合は恐い程です。


 「別に無理に結婚はしなくても……」等と考える事が出来るのは、前世の様に社会全体の経済水準が高い為であり、独立して生きられる環境が有る為。

 しかし、現世の社会では一般的には難しい話で。繋がりを持たずに生きる事は自殺に等しい事です。だから、結婚という形で人々は繋がりを持ち合って御互いに助け合って生きる訳です。


 そういった事情から、こういう婚活パーティーは意外と彼方等此方等で開催されています。

 勿論、怪しい人物が主催する様な事は先ず無く、主催側の情報は明確にされています。

 これも一種の社会福祉事業ですから当然です。


 参加者の中にはメレアさん達の様に王公貴族等に仕えている様な人達も居ます。

 それには職業柄、どうしても間が悪くなる人達が出てしまう為で。救済措置という意味も有る事は、暗黙の了解だったりします。


 因みに、フロイドさんは俺に仕える前の立場での参加という形にして貰っています。

 他国とは言え、貴族や商人の情報網を甘く見ては痛い目に遭いますからね。念の為です。



「こんにちは、ライガオン獣王国の方ですか?」


「──っ!?、え、ええ、やはり珍しいですか?」


「ズゥマの方自体は特には珍しくは有りませんが、ライガオンの方は一目で判ります

文化や習慣に対する違いが現れますから」



 そう言いながらフロイドさんの襟元に手を伸ばし慣れた手付きで素早く崩れていたのを直す女性。

 身長はフロイドさんよりも低い為、密着とまでは行かないのだけれど、然り気無く自分の必殺武器を獲物に見せ付ける辺り、かなりの猛者でしょう。

 しかし、そんな場慣れしているのに独身ですから一癖二癖有るんでしょうね。容姿という点でなら、独身なのが不思議な位の方ですから。


 ──という訳で、御邪魔虫()退散(フェードアウト)

 フロイドさんの言い訳()にされる前に逃げます。

 アンから「兄様には厳しく御願いします」というスパルタ教育──と言うか、“千尋の谷”的な形で女性に対する免疫を付けさせて欲しいとの事。

 だから、俺も主として、義弟として、心を鬼に。決して、俺が居ない事に気付いて慌てている様子を見て面白がったりはしていません。

 これは飽く迄も、愛する妻の兄の将来を思っての優しさなのですから。


 フロイドさんには自力で頑張って貰うとして。

 俺の方も自力で頑張らないといけません。事件の発生を阻止する為の協力者なんて居ませんから。

 それに大きな騒ぎにしてしまう事も出来ません。会場の混乱は愚策。また、仮に事前に中止させても別の形で犠牲者が出る可能性は否めませんから。

 兎に角、情報収集と参加者等のチェックです。

 「事件解決の基本は現場百回」と言いますから。昔の刑事さんに倣い、地道に捜査しましょう。


 フロイドさんから離れ、飲み物を片手に中央から端の方に移動し、会場を見渡す。

 会場はガーデンパーティー形式で彼方等此方等に料理や飲み物の置かれたテーブルが設置されている立食スタイルで、自由に移動しながら話したい人を探すという、俺が選定の儀で遣っていた感じ。

 選定の儀とは違い、御互いに選択権が有る事から回数を重ねる内に次第に今の形に成ったのも納得。効率的な意味でも自由度が高い方が良いので。


 事前にメレアさん達に聞いた話によると、これが婚活パーティーではスタンダードな形式らしいので参加経験が三回以上有る人は慣れている筈。

 少なくとも、こういった場所で犯行に及ぶのなら初見では難しいので入念に下見をしたり、似た様な会場で開催されるパーティーに参加し実行する事を想定したシミュレーションを頭の中でだとしても、何度か遣っている可能性は高い筈です。

 そう考えるなら、犯人は慣れている人物であると絞り込む事も出来ますが──止めて置きます。

 その先入観や思い込みが今は恐いので。



(──と言うか、本当に情報が無さ過ぎる……)



 犯人や被害者は勿論、事件の概要や手法、犯行の動機や背景すらも不明。

 飽く迄も、“ルインベールの花嫁”事件が将来、別の事件を引き起こす要因の一つとなる、という事以外の情報は無いんですから。

 ある意味、無理ゲーでしょう。


 どんな名探偵や名刑事、天才であろうとも。

 須らく、起きた事件を解明するのであって。

 起きてもいない事件を事前に防ぐ事は先ず無い。偶々、不審者に気付いて取り押さえる事は有れど、計画的や犯行や衝動的な凶行は防げない。

 それこそ、未来から来たり、過去へと遡ったり、予知の類いの能力が無い限りは無理だと思う。


 その無理な事を俺は遣ろうとしているのだから。真面目に考えると自分でも、どうかしているとしか思えません。英雄(ヒーロー)願望なんて無いんですけどね。

 まあ、何を言っても今更なんですけど。



「………………ん?………………────っ!?」



 そんな風に胸中で愚痴っていた時。視界に入った一人の人物を見て、思わず手に持っている飲み物を溢し掛けてしまった。




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