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37話 夏山


 前世の8月に当たるキゥレの月、5日。

 二度目の夏ではありますが、暑いものは暑くて。前世の文明の利器が恋しい。

 まあ、子供だから大人よりは増しなんですけど。それでも暑いものは暑いんです。

 真剣に空調の魔道具を創ろうと思います。

 今は将来的な目標の一つですけどね。


 そんな夏の日の朝。

 目が覚めた俺の左腕には寝息を立てるフォルテ。そして──右腕には寝息を立てるアン(・・)

 ええ、アンゼリカ嬢で御座います。


 もうね、俺の周りは敵だらけでした。


 裏切りの敏腕メイド、メレアさんに嵌められて。アンゼリカ嬢と婚約する事になりまして。

 その報告の為、俺に仕えたいフロイドさんの事も説明する為に実家に赴いたら、偶々アイリーン様と姉上達が訪れていまして。

 その後、王都に向かって陛下達にも説明。

 怒濤の展開でした。でも、すんなりと話は通り、滅茶苦茶各所の協力・連携が有り、一ヶ月で結婚。姉上達のスピード婚以上でした。


 アンとフロイドさんの御家族は、話に聞いていたイメージとは違って温和で。でも、芯は強そうだと感じさせる方々でした。

 それと、アンの事は滅茶苦茶感謝されましたし、末長く宜しくと頼まれました。

 まあ、話を聞く限りでは俺以外に貰い手が居ない可能性は高いのでしょうし、そうなりますよね。


 そんな中、救いが有るとしたら──アンに対してフォルテは勿論、メアリー様も意外と好意的だったという事でしょう。──と言うか、何か、昔からの幼馴染みの様に仲が良かった。初対面の筈なのに、滅茶苦茶話が盛り上がってましたからね。

 何を三人で楽しそうに話していたのか。

 訊きたいんですけど、怖くて訊けません。まあ、訊かない方が良いんでしょう。そういう事は。


 そんな感じで話は纏まり、慌ただしく結婚準備。

 それと、実はアンはズゥマには珍しく、かなりの魔力の持ちである事が判明。

 ズゥマの人達は不思議と魔力が少ない種族ですがアンは飛び抜けて高く、上の下という測定結果。

 ただ、ズゥマにとっては魔力の多い少ないは然程意味が無い事なんだそうです。

 だから、其処での判断──格付けは有りません。そういう意味では好感が持てます。これで脳筋的な極端な価値観が無ければ……いや、贅沢ですね。


 それと、稀ではあるけど、アンという実例が居る事実から、一部では「今後はライガオン獣王国にも選定の儀への参加を打診しよう」という意見が出たみたいなんですが。それは陛下達が一蹴。

 ズゥマの価値観から考えて、その婚約は将来的な不和の火種にしか成りませんから。当然の事。

 俺みたいに勝ってなら大丈夫でしょうけど。

 多分、洗礼式前のヒュームの男の子が、同じ様に洗礼式前のズゥマの女の子に勝てる可能性は低い。だって、種族的に身体能力で劣りますから。

 現実的に考えて有り得ない事でしょうね。


 そういった訳で結婚式まで一直線でした。

 側室ではありますけど、フォルテと同様、儀式を二人で行いました。

 神聖な儀式じゃないんでしたっけ?。

 そう、思わず言いたくなりましたが、飲み込んで無事に儀式も終了しました。


 因みに、儀式の重複誓約は極めて稀な事ですが、過去に例が無い訳ではないんだそうです。

 ただ、王族でも確実に認められる事ではないとの話でしたからね。細かい条件は不明だそうです。


 あと、メアリー様とも儀式は行うそうです。

 つまり、二年後にはメアリー様も妻になる、と。うん、微塵も逃がして貰える気がしません。


 ──という事を思い出してしまうのも当然の事。だって、やっと昨日帰ってきたんですから。

 やっぱり、我が家が一番落ち着きます。


 寝息を立てる二人を起こさない様に頭を動かすと部屋のカーテンの向こうは暗い様子。

 昨日までの事で緊張が完全には無くなっていないままだったのか。目が覚めたみたいです。

 こういうのって、あるあるですよね。


 妻の二人に腕枕をしながら眠っていた訳ですが、両腕とも痺れてはいません。そんなに柔な鍛え方はしてはいませんので。

 まあ、大人になったら判りませんけどね。


 フォルテは一年以上一緒に寝起きしていますから御互いにイチャつけるんですが、アンは初です。

 何と無くね、「キャラ的にツンデレだろうな」と思っていましたが……うん、滅茶苦茶可愛い。

 だって、あの天使なフォルテが思わず揶揄った程なんですもん。アンさん、貴女、可愛過ぎです。

 その為、昨夜はキャッキャウフフな盛り上がりで俺もフォルテもアンも思い出したら恥ずかしい程にイチャイチャしてました。若さって凄いですよね。


 そんな感じだったから、まだ二人が起きないのも可笑しくは有りません。

 フォルテは俺に合わせた習慣で朝が早いですし、アンはアンで種族的に朝が早いらしいので。

 普段なら、俺が起きない事を感じる筈です。


 ただまあ、昨日のフォルテの知らなかった一面は新鮮でしたし、アンも可愛くて良かった。

 特に、メアリー様とは違って、恋敵(ライバル)で、友人で、家族で、妻同士。

 そんなアンの存在がフォルテに良い意味で変化を与えた事は間違い有りません。

 だから、裏切りの敏腕メイドには感謝します。

 結果論としては、ですけどね。

 アンも根に持ってるみたいですし、遣り返す事も考えています。フロイドさんとくっ付けるとかね。ええ、覚悟して置いて下さい。




 二度寝を経由し、起きたら日課の鍛練。

 今までは一人だったけど、フロイドさんが参加。アンは早朝はフォルテと一緒に料理をする。

 朝食が済めば、俺とフォルテとアンの鍛練。

 俺に仕えるフロイドさんには御仕事が有ります。今に到る経緯で大きな借りが有る為、彼も我が家の敏腕メイドさんには頭が上がりません。

 ある意味、彼女が我が家の裏ボスでしょう。


 日課となった山に散策はフロイドさんを加えての四人パーティーに変化。フロイドさんは参加したり不参加だったりも有るでしょうけどね。その辺りは御仕事の関係なので仕方が有りません。



「思っていた以上に豊かな山なんだな……ですね」


「今は身内だけですから、砕けてて構いませんよ」


「正直、そう言って貰えると助かる」



 メレアさん達に言動の件で注意されている為か、反射的に出た訂正した丁寧な言い方。

 ただ、こう言っては可哀想ですが……下手です。そして、違和感が半端無いです。

 俺の方はメレアさん達にも同じ感じですからね。特に気にしてはいませんけど。

 無言で兄を見るアンの視線は意外と厳しい。

 フォルテは静かに苦笑しています。


 フロイドさんにしても、妹の旦那──義弟という立場の俺に敬語を使うのも変な感じなのか。其処は苦労しているみたいです。力には為れませんが。

 だって、メイドさん達が怒りますから。

 その辺りの線引きは大事です。

 メレアさん達も内と外では使い分けていますし。そう出来る様に成って貰わないと困りますからね。まあ、その辺りは慣れでしょう。



「俺は他の場所を知りませんから簡単には比較する事は出来ませんけど、特に困ったりはしませんね

勿論、狩り過ぎ・採り過ぎには注意していますが」


「いや、その意識を持っているだけでも凄い事だ

旅をしながら色んな場所、色んな人達を見て来たがアルト様程に高い自然との共存意識を持ち実践する事が出来ている者は稀だ

しかも、まだ洗礼もしていない身で、だからな」


「アルト様ですから」



 フロイドさん()の称賛に胸を張るアン。

 その様子が可愛らしく、微笑ましい。

 俺が誉められると我が事の様に誇らしい様だ。


 ただ、其処にアンのブラコンの名残が窺える。

 今は対象が俺に変わった為、夫自慢な感じ。

 そういう意味でなら俺も妻自慢な夫ですけどね。フォルテは勿論、アンも良い妻です。

 特に害も無い事ですからね。


 ──なんて事を考えていると鹿とエンカウント。当然、狩るに決まっています。大事な食材です。

 特に合図もしなくても俺が気を引き、フォルテは鹿の死角に回り込んで弓矢で狙撃。

 矢が命中した所で鹿の意識が俺から外れる。

 その瞬間に一気に肉薄し、鉈で首を斬る。

 苦しませず、一瞬で終わらせます。



「アルト様、良いサイズの鹿ですね」


「夏場だけど痩せ過ぎてないしな

今年の夏も山の状態は良さそうで安心したよ」


「はい、良かったです」



 そうフォルテと話しながら手早く下処理をして、堂々と【亜空間収納】で回収。

 二人にも俺のスキルの事は一通り説明済みです。勿論、秘密厳守は言わずもがな。

 アンの俺を見る眼が眩しかったのは内緒です。


 それはそれとして。山の状態が悪くなれば俺達の生活にも明確に影響します。だから、山の状態には気を配る様にしています。

 前世で、人が自分達の都合で手を入れていたのに時代の変化、文化・技術の発展で勝手に管理を止め歪めた自然環境を放置し、動植物を苦しめていた。それなのに“獣害”と宣うのだから人とは罪深い。そう思うからこそ、その辺りには配慮します。

 こうして新しい人生を送っている以上、そういう人には成りたく有りませんから。



「それにしても……流石に驚くしかないな

アルト様は兎も角として、フォルテ様もヒュームの洗礼式前の子供とは思えないな」


「そうなのですか?」



 こてん、と小首を傾げるフォルテ。

 フロイドさんの言葉に実感が湧かないのだろう。だって、フォルテのコンプレックスって根深いし。今でこそ周囲からの評価は気にしなくなったけど。反面、世間ズレしてしまってもいる。

 まあ、その元凶は俺なんですけどね。

 だって、フォルテって優秀な生徒なんですもん。色々教えてたら楽しいんだもん。これぞ魔改造。

 冗談じゃないから、口には出せませんけどね。



「あー……アルト様が傍に居るからだろうな」



 そして、フロイドさんは直ぐに察した。

 ええ、俺が教えているだけじゃなく、フォルテの一番近くに居る目標が俺ですからね~。フォルテの基準の半分は俺になってます。

 言い換えると残り半分は常識的なんです。

 ……自業自得ですが、改めて考えると凹みます。悪い事をしている訳ではないんですけどね……。



「アルト様、私も狩りの腕には自信が有ります!」


「それじゃあ、次の獲物は俺とアンで遣ろうか」


「はいっ!」



 私に構って!、私を褒めて!、私を見て!、と。そう言わんばかりに積極的なアン。

 だから、俺の提案には笑顔で即答する。

 尚、大事なポイントは一緒に遣るという事です。此処で「なら、次はアンに任せるよ」は駄目です。アンは俺と一緒に遣りたい訳で、実力を自慢したいという訳では有りませんから。

 それにね、それは裏を返すと「フォルテには俺が付いていないと駄目だからね」と言っている様にも聞こえない事も有りませんので。

 間違ったら二人を同時に傷付ける事になります。だから、要注意です。


 アンが積極的な事には決して、フォルテに隔意や敵意が有る訳ではなく純粋に自分を見て欲しい為。

 そういう意味ではフォルテと似ている訳です。

 フォルテは力が無くて。アンは力が有り過ぎて。思い描いていた様な幸せは諦めていた。

 それが、俺というイレギュラーな存在の登場にて状況が一変した、と。そう考えると仲良くなるのも可笑しくは有りません。

 御互いを認め合い、しかし、譲る気は無いので、切磋琢磨しながら、協力し合いながら共に歩む。


 客観的に見たら珍しい位に恵まれていますから。妻達に対する不満や文句は有りません。

 「俺は本当に良い妻達を貰った!」と胸を張って言い切れます。


 ただね、俺は政治とかからは遠ざかりたいので。その辺りを周囲の大人達は察してくれませんか?。

 …………そうですか、無理ですか。


 不意に見上げた夏の空は青く澄んでいるけれど。山の天気は変わり易いもの。

 今にも泣き出しそうだと判る事も有れば、唐突に涙するという事も有るのだから。

 常に配慮し、気を付けないといけません。




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