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4話 舞踏会


 “エリェージュ選定の儀”という仰々しい名とは無関係な様に目の前には華やかな舞踏会の光景。

 着飾った二百人近い少女達に一流シェフ達による料理にデザート。ザ・社交界って感じです。


 実際の所、当事者達は堅苦しくは考えていない。ただ、参加する女子達の雰囲気は真剣そのもの。

 幼くとも、女性は女性なんだと感じさせられる。

 出来れば、もう少し穏やかにしませんか?。

 古い表現だけど、セール品を争う女性達みたいな獰猛さと攻撃性を感じてしまうので。

 尤も、それ位でなければ王公貴族の女性としての務めは果たせないんでしょうけど。

 可愛い笑顔の筈なのに。

 瞳の奥が怖くて、正面に目を合わせられません。

 まあ、今の所、話し掛けてきた女子は一人として居ませんけど。悔しくなんて有りませんから。


 ──という自虐と負け惜しみは置いといて。

 一番人気は、やはり主人公というべきでしょう。セントランディ王国の第三王子であるエリクシス・リハイン・ウォルザー・フォン・センテリュオン。

 母親は平民出身ですが、五人兄弟の中では一番の魔力の持ち主で、参加する男子の中でも一番。

 十段階の魔力評価では中の上。

 王位継承権は正妻の子に優先権が有り、側妻間は母親の出身身分が影響するそうです。

 その為、エリクシス王子は継承位は最下位。

 それだけに婿養子として欲しい家は娘に積極的にアプローチさせているみたいです。

 角砂糖に群がる蟻の様に女子達が集まっていて、王子の姿は殆んど見えませんから大変ですね。

 客観的に見れば、モテモテなんですが。実際には嫌なモテ方だと言えます。僻んでませんよ?。


 ノーザィラス王国のポールシェル侯爵家の次男で三番目に高い魔力を持つロマーナ君も人気だ。

 少々ナルシストな感じだが、家柄・魔力が良い。だから引く手も多い。「まあ、イケメンかな?」な感じだが、悪くはないと思う。


 指名順二番のハルモナ王国のカルデピオ公爵家のレオナルド君は自分よりも、大分ぽっちゃりさん。痩せる気も無い様で食べまくっています。

 しかし、嫡男だから人気が有る。魔力も六番目に高いのも好材料だろう。イケメンは人気が高いが、決して絶対的な条件ではないという証拠だな。

 女子達は食べっぷりや幸せそうな表情を褒めて、笑顔でヨイショしているのが何とも言えない。

 それで本人達が良いのなら良いんですけどね。


 ──で、指名順四番の自分はというと。伯爵家の四男で、魔力は十六番目。ブービー賞でした。

 事前計測は遣った記憶が無い為、以前の事。

 つまり、今の魔力(・・・・)は不明です。

 ──という淡い期待は当日計測にて打ち砕かれ、実際に十六番目だった訳です。

 当然の様に魔力評価は下の下です。


 ただ、事前計測が一ヶ月前だったそうで。

 それはつまり、一ヶ月でも伸びる可能性が有る、という事を意味している訳です。

 勿論、それは稀なケースなんでしょうけど。

 可能性が有る事には違い有りません。

 それが判っただけで十分です。


 まあ、だからと言って此方等を気にしているのは僅かですし、明らかに安牌狙いなのが見え見え。

 取り敢えず、予定通りに目標に接触しましょう。



「初めまして、アーヴェルトと申します」


「初めまして、アーヴェルト様

セレサティーナ・アラン・フォン・エルロックです

どうぞ、宜しく御願い致します」



 そう言って丁寧に返す少女。当然だが、無作法な女子は先ず居ないと言ってもいい。

 だから何も可笑しくはない。

 ただ、それでも幼いながらに群を抜く綺麗な所作だった事だけは間違い無い。


 そんな先ず俺が声を掛けた相手はセントランディ王国の公爵令嬢で、一人娘のセレサティーナ嬢。

 父親のエルロック公爵は今年で五十二歳。息子が二人居たらしいが病気で幼くして亡くなったそうで産んだ正妻も精神的に病み、亡くなったとの事。

 彼女は後妻が産んだ跡取り娘。

 その為、婿養子を取る事が大前提の参加。

 魔力評価は中の中。参加女子では二番目。

 ゆったりとしたウェーブの有る亜麻色の長い髪。大きく愛らしい緑色の眼。自分より拳一つ分程低い身長は二人で並べば丁度良い感じだろう。

 礼儀正しいだけではなく、自分に対して蔑視する高慢な部分は無いのも素晴らしい。

 ゲーム後半の成長した姿が彼女の到る未来と全く同じに成るのかは判らないが。

 それでも参加女子の中では三指に入る可憐さ。

 正統派ヒロインという位置付けだけの事は有る。

 現実としては、誰もが主人公・ヒロインだけど。



「エリクシス王子とは幼馴染みなのですよね?」


「はい、幼少の頃よりよくして頂いています」


「それでは、個人的にはエリクシス王子と?」


「それは…………そう成れれば嬉しいですね」


「成る程、貴女は誠実な方ですね」


「……その、御気を悪くされたのでは?」


「何故?、それを訊ねたのは此方等です

貴女は偽る事無く、自分の気持ちを答えてくれた

共に歩むのなら、そういう人が好ましい

それに──」


「……それに?」


「──今は王子への気持ちが有っても、貴女の心を私一色に染めて埋め尽くすだけですから」


「────っ!!」



 少しだけ顔を近付け、真っ直ぐに見詰めながらの一種の宣戦布告。

 「他の男になど見向きもしなくなる程に、自分に夢中にさせる」と言ったのも同然。

 聡いセレサティーナ嬢は言葉の意味を理解すると顔を真っ赤にして俯いた。

 その初々しさが彼女の魅力を更に際立たせる。


 一方で、俺はと言うと。前世でなら黒歴史確定の絶対に言えないキザな台詞だったけど、今の俺には恐れる事は何も無い。

 黒歴史?、上等。それで最高の嫁が手に入るなら喜んで遣りましょう。

 ……まあ、いたいけな少女を誑かす様だけど。


 その後、少し話してからセレサティーナ嬢の側を離れて次の候補者の元へ。

 別の男は近付いていないが、彼女一人だけに絞りアプローチするという訳にはいかない。

 指名順が最初なら、それも可能なんですけどね。俺は四番目なので、先に指名されたら終わりです。だから最低限でも四人にアプローチはします。


 セレサティーナ嬢の場合には指名確率が高いので俺に指名権が来る可能性は無いに等しい筈。

 ただ、後々の事を考えたなら。

 こうして彼女に好印象を与えておく事が役に立つ場合も有るでしょうからね。縁繋ぎ目的です。

 勿論、指名出来れば指名しますけど。



「初めまして、少し話しても構いませんか?」


「──っ!?、は、はいっ、構いません!

──って、ぁぁああのっ、申し訳──ンッ!?」


「はい、ゆっくり息を吐いて……吸って……」



 声を掛けただけで慌てる少女を落ち着かせる様に優しく接し、深呼吸させる。

 会場内でも一際小さく、浮いた(・・・)感じ。

 だが、それは仕方が無い事。

 彼女はマリナ・ルマーノ、最年少組で六歳。

 セントランディの平民出身だが魔力評価は上の下という破格の存在で、参加女子の中では一番。

 近年、一族の魔力が低下している家だったなら、魔力を強化したい為、彼女を嫁に欲しいと思う筈。

 そういう意味では注目度は高い。

 何しろ、大人でも魔力評価が上級な者は僅か。

 それが六歳で、ですからね。

 それに家族の魔力評価は関係無く、彼女が一族の新しい母親となる事が重要。

 だから彼女も指名確率は高いと言える。


 ──とは言え、彼女自身は一般人ですからね。

 事前に礼儀作法等を習っていても、俄仕込み。

 その事を本人が一番理解しているから健気。

 女子は身分を問わず、魔力を測定され、中級以上であれば国から補助され、強制参加。

 可哀想だが、これも国事であるが故の決まり。


 “優しい貴族の御兄さん”の体で軽い世間話。

 二歳しか違わないが、幼過ぎてアプローチしようという気持ちには為れませんでした。

 でも、可愛い娘なのは間違い有りません。

 一応、自分が指名する可能性は有りますが。

 幸せになって欲しいと思います。



「私、マーリャイェン・ウィンスバー・アモンドと申します、宜しく御願い致します」


「私はアーヴェルト、宜しく」



 側に来た俺を見るなり自分から挨拶してきたのはハルモナ王国の豪商を父に持つ七歳の少女。

 商家の娘だからか、人をよく見ていると思う。

 丁寧に、下手に対応する事は出来るが、伯爵家の息子である以上、家が恥かしい真似はしない。

 御互いの身分の違いを、はっきりさせておく。

 魔力評価は中の下で、五番目と高い。

 長女だが兄が居るので普通に嫁ぐ事になる。

 人を観察する癖が有るのか、視線は鋭い。下手な会話は墓穴を掘り兼ねないから気を付けよう。


 それでも人と話し慣れているみたいで油断すると踏み込まれそうになるから末恐ろしい。

 結婚すれば心強い反面、気が抜けないかもね。

 嫉妬深いとかじゃなくて、自分がミスをした時に容赦無く追及・指摘されそうだから。

 それ自体は別に悪い事だとは思わないんだけど。家庭では気を抜きたいのが個人的な意見です。

 寧ろ、妻の前だからこそ、有りの侭で居たい。

 格好付けるのは人前と、必要な時で十分です。


 ただまあ、御互いに話し上手・聞き上手といった事も有り、かなり楽しかったのは確か。

 女子の方が精神的に成熟するのが早いとは言え、此方等は中身は三十代半ばだった訳ですから。

 それに合わせられる七歳って凄いですよね。



「アーヴェルト様も伯爵家の方でしたね?」


「ええ、国は違えど同じ伯爵家という事で貴女とは話し易い様に感じます」


「ふふっ、御上手ですね

でも、私も同じですから、嬉しく思います」



 そう言って微笑んでいるのはノーザィラス王国の伯爵家の一人娘、ステファニー・カルセル・フォン・ワーゲリック。

 同じ年の八歳で、魔力評価は下の上で九番目。

 本来なら、彼女は嫁ぐ立場だったのだが、長兄は病弱で将来性も低く、跡取りの次兄が事故で急逝。しかも父親も一緒に亡くなってしまった。

 その為、此処で婿養子を見付ける事が急務に。


 女子からは嫡男が人気だが、彼女達の様な事情の女子は男子にとっては好条件。

 しかも伯爵家に婿入りだから滅多に無い事。

 セレサティーナ嬢と比べてはいけない。彼方等は極めて稀なケースなのだから。

 俺も跡取りではないから、婿入りに抵抗は無い。

 病弱な長兄も長くはないなら、父親も居ないから余計な干渉を受ける事も無い。

 精神的にも楽な環境だと言える。



「ノーザィラスに御興味は御有りですか?」


「そうですね、話や書物ではなく、自分自身で直に行って確かめたいとは思います

私達の歳では国境近くで生まれ育ってでもいないと他国に行くというのは、コレ(・・)が初めてでしょう

だから、此処までの旅路も楽しかったです」


「アーヴェルト様は行動的なのですね」


「見た目からしたら意外でしょう?」


「その様な事は……少し、思ってしまいました」


「はははっ、どうぞ、御気になさらずに

私が貴女の立場でも同じ様に思いますからね」


「……アーヴェルト様は心が広い方なのですね」


「そうでもないと思いますよ?

ただ、事実を事実として受け入れているだけです

信念や意志の強さは大事ですが、過度な自尊心には価値を見出だせない方なので」


「……貴族としては、賛否両論な話題ですね」


「否定したり、嘲笑したりする方が多いでしょうね

まあ、気にもしませんけど」


「……私に選ぶ権利が無い事が悔やまれます……」


「縁が有れば、私達の運命は結ばれるでしょう」


「そうなる事を私は心から祈っています」



 そう言って手を重ねてくるステファニー嬢。

 普通に考えれば、御世辞や社交辞令でしょう。

 しかし、ゲームという知識から、彼女の価値観の一端である可能性を俺は知っています。

 ゲーム中に有る各ヒロインの好感度上昇選択肢を一通り覚えていますからね。

 だから、これが彼女の本心なのは確かでしょう。絶対とは言いませんけど。



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