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35話 訪人


 前世の6月に当たるニュエの月、27日。

 メアリー様の滞在も無事に終了し、母上と一緒に御帰りになられました。

 短期間とは言え、随分と早い新婚生活は楽しんで過ごせて貰えたみたいですし、俺達も無理はせずに御互いを知る事が出来たと思います。

 母上が居る手前見せられない事は有りましたが。それは仕方が無い事ですからね。


 まあ、フロイドさんとの手合わせという予想外の事態で本気の戦闘を見せる事に為りましたからね。仕方が無い事ですが、出来れば知られたくはない事だったのは間違い有りません。

 だって、母上の「ちょっと、御話が有ります」が滅茶苦茶恐かったですからね。笑っていない笑顔を見るのは初めてではないとは言え。あの時の母上に逆らう気は微塵も起こりませんでした。

 そうは言っても誤魔化す所は誤魔化しましたが。俺達の生活が少しでも平穏である為にはね。


 尚、フロイドさんは本当に手合わせをしただけで納得して帰られました。

 御土産に渡したジャム等を喜んでくれましたし、もう会う事も無いでしょう。

 ライガオン獣王国に用が無い限りはね。


 それと、メアリー様の好感度──と言うか俺への尊敬の眼差し具合も爆上がりでした。

 まあ、それ自体は悪い気はしないんですけどね。そんな真っ直ぐで純粋な眼差しを向けられるとね。居心地が悪いと言いますか、嬉し恥ずかし照れ臭いと言いますか。擽ったいと言いますか。

 何かね、背中がムズムズするんですよ。

 流石に「御願いだから止めて」とも言えません。だからね、それから解放されて心地好いんです。



「嗚呼、素晴らしきかな、この平穏(日常)



 朝の畑仕事を終え、畑を眺めながら口にする。

 いやもう本当にね。俺は貴族社会から離れたいと心底思っているんですけどね。本人の気持ちなんて無視して離れさせて貰えません。畜生ーっ!。


 まあ、大分諦めてますけど。抜け道が有るなら。絶対に逃しはしません。

 現実的に考えて無いんでしょうけどね。

 メアリー様と母上が宅に来たのも、それを素早く潰してしまう為でも有るんでしょうから。

 政治的な柵って本当に嫌になります。


 だからね、メレアさん?。そんなに睨まないで。まだ俺は九歳の御子ちゃまなんですから。



「いい加減、御自覚下さい

アルト様に限っては一般常識は当て填まりません」


「いやいや、一般常識って大事だよ?」


「御仕えする私達が常識を捨てているのです

アルト様にも御自覚頂けなければ困ります」



 こんな遣り取りも暫くは出来ませんでしたから。漸く、日常が戻ったという気がします。

 でも、あれですよね。普段遣っている事に制限が掛かるとストレスが半端無い。勿論、仕方が無い事では有ったんですけどね。溜まる物は溜まります。可笑しくなる程の事じゃ有りませんでしたが。


 そう考えると中毒症や依存症って怖いですよね。人としての在り方なんて忘れてしまう位に無い事に耐えられなくて気が狂う訳ですから。

 昔──まあ、前世での話になりますが。

 そういうのは薬物・アルコール・煙草が代名詞。しかし、科学技術が進歩・発展したら、情報社会の中では情報が無い事が不安になる情報中毒、或いはデジタル依存と言うべき人が増加する一方な訳で。解決方法も見出だされないまま技術の進歩・発展は進んでゆくのだから恐ろしい世の中だったと思う。


 今、客観的に考える事が出来るから言えますが。当時の自分は考えもしなかった事です。

 ニュース等で報じられる常識を疑う様な出来事を見て他人事の様に思っていましたが。

 それらは全て、狂い過ぎて顕現し始めた世の中の破綻を告げていた事なんだと今なら思えます。


 まあ、今は本当に他人事なんですけどね。

 だって、別世界の事なんで。今の俺に無関係。

 思い出して気にしている暇は有りません。

 今は今の問題と向き合わないといけないので。



「──わ、若様っ!、大変で御座いますっ!」



 ──と、ちょっと真面目になったら、コレです。俺は一級建築士の資格は持っていませんが?。

 そう胸中で愚痴りながら慌てている村長から話を聞いて────え?、どういう事?。



「つまり、俺を出せって暴れている訳?」


「い、いいえ、飽く迄も怒鳴ったり、持参(・・)している丸太や岩を砕いて見せているだけで……」


「村の人達に危害は加えてはいない、と……」



 頷く村長は「どう致しましょうか?」と困り顔。まあ、当然と言えば当然でしょうね。

 主──ではないんだけど、主家の息子の居場所を簡単に教える真似は出来無い。それで、もしも何か起きてしまったら責任重大では済まされない。

 だからと言って、勝手な真似も出来無い訳で。

 ……成る程。母上の言う通りですね。

 大分先の話になるとは言っても。俺達の留守中に何か起きた場合には、こういう感じになる訳です。それは留守を預かる側室()が必要ですよね。


 ──って、感心してる場合じゃなかった。


 因みに、村長を始めとして一部の村人は何故だが俺を「若様」と呼びます。家を継ぐの兄上だよ?。其所の所、判ってて遣ってます?。ねえ?。



「それで、どんな人なの?」


「見た目は可愛らしいズゥマの御嬢さんです」


「…………え?」


「年の頃は若様方と同じ位ではないでしょうか」


「…………そんな女の子が、丸太や岩を?」


「はい、バッキバッキ、ズガンッズガンッ、と」


「………………メレアさん?」


「アルト様を御指名なのですから、直に御会いして差し上げるのが宜しいかと思われます

熱烈なアルト様の支持者かもしれません」



 村長の手前、あまり巫山戯た事は言えない。

 それを判っていて……何という巧みな押し付け。メレアさん、恐るべきメイドです。

 ──なんて、巫山戯ている場合でもないか。

 心当たりは無いし。取り敢えず、会ってみた方が話が進む事だけは間違い無いかな。


 そんな訳で着の身着のままに村へと向かう。

 貴族としての体裁?。そんな物、問題解決の方が優先されるに決まってるじゃないですか。

 決して、面倒臭い訳では有りませんから。


 村に近付くと何やら歓声と拍手が聞こえてきた。そして、気合いの入った掛け声と──破壊音。

 再び、歓声と拍手が上がった。

 …………コレはアレかな?。大道芸的な旅芸人が訊ねて来ているのかな?。

 思わず、そう思ってしまった俺は可笑しくないと言いたいです。


 村の中央に出来ている人集り。

 此方等に気付いた村人が軽く会釈をしながら前を開けてくれたので中の様子が見えた。

 確かにズゥマの子が居る。燃え盛る炎を思わせる黄金味を帯びた赤い髪。背中の中程まで有る為か、もう少しで尻尾と繋がりそうに思えてしまう。

 猫耳・犬尾の所為なのか狼の様な印象を受ける。ただそれは周囲に散乱している丸太や岩の残骸から感じる攻撃的な雰囲気も有る為かもしれない。


 村長の話した通りなら、遣り方自体は攻撃的では有るのかもしれないが、無差別に人を傷付ける様な野蛮さは無いだろうし、実際に取り囲む村人達には被害は出ている様子は見られない。

 寧ろ、大道芸人の様な感じで盛り上がっている。それを考えると、短絡的な所は有るんだろうな。

 軽く脅し、俺の居場所を聞き出す為に小道具まで用意しながら、今は盛り上がりに流されている辺り根は良い子なんだろう。


 パッと見の外見的な情報は少ない。

 丁度、背中側だったみたいで顔は見えない。

 身長は俺と同じか、少し低い位という感じだし、確かに歳が近い可能性は高いと思う。

 まあ、性別までは判りませんけど……ああいや、訂正します。話の通り、女の子みたいですね。

 フォルテには敵いませんが、膨らみが有ります。彼女位が年相応なんでしょうね。


 尤も、フォルテの場合は愛と勇気と優しさと絆が詰まっている結果なのかもしれません。

 やはり、女神と呼ぶに相応しい愛妻です。


 服装はデザインや色使いも含めて初めて見る物。ライガオン獣王国やズゥマの伝統衣装なのかも。

 フロイドさんは尻尾用の工夫はしてあったものの此方等の服装でしたからね。

 ただ、前世のチャイナドレスに似た印象も受ける事も有ってか、若干の懐かしさと親近感が湧く。

 深いスリットから見えているのは生足ではなく、ズボンなのが残念です。

 いや、ロリコンだとかは関係無くて。やっぱり、其所は生足じゃないと駄目でしょう。

 それがロマンって物だと思います。


 それにしても……歳上なら洗礼式を済ませているだろうから可笑しくはないんだけど。

 同い年以下だったら洗礼式前という事になる。

 それで、この膂力──破壊力を誇るなら。

 とんでもなくハイスペックという事だ。


 ズゥマの人々は身体能力が俺達ヒュームより高いという話では有るんだけど。

 それでも、此処まで誰が見ても判る程に力の違うズゥマの子供というのは滅多に居ないらしい。

 そう、側で敏腕メイドが教えてくれます。


 そんな感じで本の少し様子を見ただけでも彼女の本質的な部分は垣間見えました。

 特に問題らしい問題も起こしてはいませんしね。正直、村長が言う程、大変な感じはしません。

 だから、「放置してても大丈夫でしょ?」という視線を村長に向けたらね、「それでは困ります」と泣きそうな顔をされてしまいました。

 いい大人が九歳に縋るって、どうなの?。

 まあ、村長の立場からした当然の事なんですが。ついつい意地悪な事を考えてしまうのも前世という異なる価値観と人生経験が有る所為ですかね。

 要は捻くれてるって事です。


 ただ、被害は無いし、問題も起こしてませんが、このままにしておく訳にもいきませんか。

 いや、別に放置でも全然良いんですけどね。

 多分、焦れに焦れて勝手に探し始めたら、簡単に見付かるでしょうからね。

 結局の所、彼女と向き合うのが早いか、遅いか。それが違うというだけの事ですから。

 仕方無く彼女に声を掛けます。



「あー……ちょっと良いですか?」


「何?、握手や記念筆(サイン)は駄目よ?」



 振り向いた彼女はアイドルか女優の様な事を言い俺を驚かせてくれます。

 アイドルという概念は有りませんが、舞台役者や歌手・演奏者という方向での有名人は居ます。

 その人達のファンサービスとして、その握手等は用いられていますから珍しくは有りません。

 久し振りに生で聞いたので驚いただけです。


 まあ、それは兎も角として。

 美人だけど可愛さも同居するフォルテに対して、彼女は凛とした格好良さを持つ美少女。

 姉上の雰囲気にも似ているので同性からもモテるタイプだと思います。飽く迄も個人的な主観では。

 円らだけれど、鋭さの有る切れ長の金色の眼。

 幼いながらも、はっきりとした顔立ちは自立心が年齢よりも強そうな印象を受ける。

 事実、一人で此処に居る訳ですからね。行動力は母上や姉上に近いかもしれません。



「あー……いや、そうではなくて……

私を探しているのでは?」


「…………え?」


「初めまして、私がアーヴェルト・ヴァイツェル・フォン・クライストです」


「………………──っ!?、~~~~~~っっ!!!!」



 暫しの沈黙の後、見事な瞬間沸騰。

 その毛色に負けず劣らずな赤さで顔を染める。

 うんうん、かなり恥ずかしい勘違いでしたよね。俺を出せと意気込んでたのが、何時の間にか村人の歓声と拍手に乗せられて目的を忘れていたなんて。しかも、それを探していた相手に指摘されて気付くなんて恥ずかし過ぎますよね。

 でもね、そんな貴女は可愛いですよ。

 こんな大胆な真似を遣っていたとは思えない程、その初々しくて素直な反応は眼の保養になります。これも一種の癒し効果でしょう。

 思わず、ほっこりしたのは俺だけではない筈。


 取り敢えず、この散乱している後片付けをして、場所を変えて話しましょうか?。

 そう耳元で優しく提案すると小さく頷いた彼女。これで袖や裾を小さく摘ままれた日には……って、それは男に効果抜群です。




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