31話 思慮
メィヴェの月、11日。
昨日は別邸で暮らし始めてから丁度、丸一年。
ささやかながら四人での記念パーティーでした。
皆、大きな怪我や病気もせず、次の一年を迎える事が出来て本当に良かったです。
話に聞く限りでは若い主達との折り合いが悪くて途中で辞めてしまうメイドさんも少なくないとか。まあ、相手は一桁の子供ですからね。メイドからの真っ当な意見や指摘を気に食わない輩も居るかと。それを考えれば、うんざりしてしまうのも頷ける。何気にメイドさんの離職理由の第一位だとか。
そういった情報までをも収集し、統計を取る事で仕事に活かすメイド業界。恐るべし。
フォルテと結婚した選定の儀が開催される1日が所謂“結婚記念日”になる訳ですが。
王公貴族の正妻の方とは殆んどが同じになる為、そういった考え方は馴染みが無いんだそうです。
これから定着していくかもしれませんけどね。
だって、フォルテと二人きりで過ごしましたが、とても喜んでくれたので。続けたいと思います。
さて、それはそれとして。
叙勲に叙爵、更にはメアリー王女との初顔合わせという怒濤の三連コンボを受けた九歳の誕生日。
色んな意味で忘れたくても忘れられません。
メアリー様なんて社交界デビューを前倒ししての俺達との顔合わせだったそうですからね。陛下達が如何に本気なのかが判ります。
ええ、笑顔というのが威圧の為の表情である事を嫌でも実感しました。言外に「判ってるよな?」な雰囲気がビシバシ出てましたから。それに気付かず断って、メアリー様を傷付ける真似は出来ません。例え、ヘタレ男子と呼ばれ様とも。
まだ公表こそされませんが、粗確定でしょうね。公表しなくても何処かから広まるでしょうし。
俺に逃げ道は有りません。
幸いなのは、フォルテと実の姉妹の様に意気投合していたという事でしょう。
何かね、物凄く会話が弾んでいましたから。
男には判らない女同士ならではの感覚と言うか。そういうのが有るんでしょうね。
フォルテ自身、メアリー様自身の人柄も良いので尚更に仲良くなり易いのかもしれませんが。
王女同士だから、とかではないと思います。
まだ其処まではメアリー様は王女としての恩恵や義務や責任というのは判ってはいないでしょう。
少し話した感じだけでも幼いながらに聡明な事は十分に判りましたけどね。
それが痛々しくはないので大丈夫な筈です。
それから、俺に対しては…………うん、まあね。まさかまさかでフラグを立てていたみたいです。
いや、だってほら、如何に王城の中とは言っても三歳の幼い王女様が一人で居ると思います?。
しかも、式の後、誕生日パーティーが行われると知らされた直後の待ち時間にトイレに行った時で。
「多分、この娘も家の都合とかでパーティーには強制参加させられるんだろうな」とか。
そんな風に思ってただけなんで。
パーティーが終わった後、陛下に紹介された時は思わず素が出そうになりました。
ただ、その為なのか。明らかにメアリー様の俺に対する好感度が高い事が端から見ても判りました。三歳でも女性は女なのだともです。
ですから、陛下達や父上達の圧が凄かったです。そんなに脅さなくても判りましたって。
メアリー様を悲しませたくは有りませんから。
フォルテも悲しむ姿が思い浮かびますしね。
もう側室として娶る覚悟は出来ました。
それから爵位を賜り、男爵になった訳ですが。
当面は“クライスト男爵”なんだそうです。
早ければ、十二歳で独立し別の家名を名乗る事に成るんだそうです。
尚、それと同時にメアリー様が側室となります。
……うん、ちょっとね、忘れてました。
選定の儀へは女性は六歳から参加が可能。
つまり、六歳になれば結婚が認められる訳で。
そういう事になるみたいです。
後三年……しかも、それまでに更に一人は側室を見付けて迎えて置かないといけないんだとか。
他人事みたいに思えば他人事になるのなら。
俺は本気で幾らでも思いますけどね!。
その辺に側室が転がってるみたいな言い方をする王公貴族特有の感覚。どうにか成りませんか?。
まあ、言って直るとも思いませんけどね。
因みに、今年の選定の儀には参加していません。参加したいとも思いませんので。
だって、明らかに去年とは目の色の違う女性陣が群がってくるのが判っていますから。
自ら飢えた獣の群れに飛び込みはしませんよ。
「しかし、それでは側室探しが進展しませんが?」
「いや、まだ三年も有るし」
「いいえ、あと三年しか有りません」
バチバチと火花を散らす俺とメレアさん。
客観的に見れば、主の少年と年頃の美人メイド。有り勝ちな設定と組み合わせですが、其処が良い。九歳差?。そんなもの、関係有りません。
寧ろ、だからシチュエーションとしては面白い。
少年が歳上のメイドを蹂躙するギャップに萌え。或いは王道の御姉さんの特別な授業・御奉仕展開。または意外にドストレートな方がキュンキュンする純愛増し増し・身分差・歳の差盛り合わせとか。
ちょっとしたエッセンスで味変を楽しめます。
まあ、俺とメレアさんに恋愛感情は有りません。フォルテとの本番前に経験して置きたいと思うなら御相手を御願いするかもしれませんが。
生憎と前世で普通に経験が有りますので。
はっきり言って、そういう必要は有りません。
ただまあ、フォルテとなら。主とメイドの秘密の関係プレイとかは遣ってみたいです。
だってね、フォルテのメイド服姿ってば滅茶苦茶可愛いんですもん。堪りません。
あと、意外とフォルテもノリが良いので楽しい。その辺りも似た者同士な夫婦なんでしょうね。
──という話は置いておくとして。
期間としては同じなのだけれど。
言い方・捉え方で、こうも真逆になるんです。
言葉や表現って面白いですよね~。
「現実逃避していても何も片付きませんが?」
「むー……じゃあ、メレアさんが側室になって」
「本気で仰有って頂いているのなら喜んで」
「──え?、マジで?」
「勿論、辞退させて頂きます」
「フォルテっ、メレアさんが苛めるーっ」
そう言って隣のフォルテの胸に抱き付く。
身長は俺が高いんですが。胸囲は負けています。ええ、九歳って、こんなにも育つんでしたっけ?。少なくとも前世の同級生の比では有りません。
そんな感じで「もう無理!」と白旗を上げます。フォルテが優しく抱き締め、頭を撫でてくれ。
メレアさんが溜め息を吐きながらテーブルの上を片付けに掛かる。
トンッ、トンッと。
テーブルの面を使って揃えられる束。
それが前世で見飽きた書類なら嫌ですが。今なら書類の方が増しだと言えます。
それは実家を通して送られてきた御見合い写真。正確には写真ではなく似顔絵なんですが。
用途は同じなので、そう俺の中では認識中。
まあ、要するに「早く選べ」という催促ですね。本当、空気を読まない大人達って嫌ですね~。
まだ俺達は新婚二年目に入って間も無いんです。もっとイチャラブさせてくれたっていいじゃない。だって、愛し合ってるんだもん。
そんな愚痴を虚空に発射している俺を見ながら、クーリエさんが珍しく戸惑っている。
いや、こういうクーリエさんは久し振りですね。最初は色々と戸惑っていましたから。
……そう考えるとメレアさんの順応力ってマジで半端無いですよね。本当に凄いと思います。
「ですが……その、アルト様……その、ですね……
大変、申し上げ難い事なのですが……」
「え~と……そんなに言い難い事なの?」
「はい……あまりにもメルーディア国内での側室が決まらない様であれば、他国も動くと思います」
「………………ぇ?」
意を決した様に言ったクーリエさん。
その言葉に思考停止し──再起動と同時に理解。フォルテとメレアさんを見れば首肯されました。
そのままフォルテの膝に沈没します。
「エイラ様達、アイドリー子爵家を介してはいてもアルト様の功績はノーザィラスでは非常に大きく、フォルテ様が正妻という縁も御座います
ですから、他国から募る場合、筆頭国は間違い無くノーザィラス王国になると思います」
「それは…………出来れば避けたいなぁ……」
そう言うと苦笑と溜め息が返ってきました。
いや本当にね、それだけは御免です。
決して、ノーザィラス王国が嫌いなのではないし不仲という訳でもない。
ただ、フォルテを蔑ろにしてきた国や連中です。勿論、皆が皆、そういう訳ではない。
ステファニー嬢の様な正面な人も少なくない。
だから、フォルテの功績となる形でなら技術やら商品やらで協力したりはします。
しかし、フォルテを馬鹿にしていたのに掌返しで褒めたりして近寄って来る人達は信用出来無い。
当然、側室にしようだとは微塵も思いません。
まあ、この点に関してはフォルテと結婚した時に三人には、はっきりと言った事ですからね。
通りでクーリエさんが躊躇う筈です。
「アルト様、直接御話しされた方は居ないにしても気になっていた方は居らっしゃらないのですか?」
「んー……まあ、手渡された資料を──って、あ、今のって話しても大丈夫だった?」
「はい、皆様御承知の事ですし、御渡しした資料は当日の朝、全て回収されて処分されています
ですから、個人が覚えている内容に関しては仕方が有りませんので問題有りません」
「良かった……で、まあ、その資料を見た中でなら確かに居なかった訳じゃないよ」
「それは何処の何方ですか?」
「個人、というよりも、その国、になるけどね
ダルタルモア帝国からの参加者だよ」
「「「────っ!!」」」
これには流石にフォルテも吃驚したみたいです。今は膝枕状態なのでダイレクトに伝わります。
決して、俺が悪戯した訳では有りませんから。
「それはまた……何故、帝国の方々を?」
「表向きは魔力低下──いや、魔力持ちの減少って尤もらしい理由を言ってるけど……
帝国の価値観から言えば、戦争で勝って奪い取る
そうするのが一番確実な筈だしね
だから、セントランディ王国狙いの切り崩しだって思ってたんだけど……
実際には指名が無かったみたいだし、今年は不参加だったみたいだから、正直、よく判らないな」
原作では真のヒロインのフォルテ。
其処に到る為に攻略する十二人のヒロイン達。
その中で最も難しいのが唯一の帝国のヒロイン。
舞台は主人公が王子という事でセントランディとダルタルモアの二国を使った広大さ。
費やしたプレイ時間も嵩みましたからね。
だから、結構細かく覚えています。
──とは言え、それは飽く迄も選択した場合。
選択しなかった場合の展開というのは基本的にはヒロイン全員、結末は不明です。
予想し易いヒロインも居ますが。それは飽く迄も予想でしか有りませんからね。判りません。
だから、こうして現実として生きている今では、全くの無関係という訳にもいかなくなるでしょう。
その為に、フォルテ以外にも伝手を作って置いて損の無い相手に接触していた訳ですから。
これでも、ちゃんと考えてるんですよ。
「──って、どうしたの?」
「……アルト様は、それを御承知で帝国の方を?」
「…………へ?……──え?、あっ!、違うから!
別に変な意味や深い意図は無くてね?、ただ単純に気になってたっていう話だから、いや本当に!」
フォルテとクーリエさんは兎も角、メレアさんに本気で尊敬の眼差しを向けられると焦る。
だって、優秀なメイドさんは優秀なスパイです。男爵になっても、まだまだ半人前の身なんですよ。
だから今も尚、メレアさんはクライスト伯爵家と深く繋がっています。
迂闊な事、余計な事を言えば伝わりますから。




