30話 叙勲
シーリェの月、29日。
今日は俺の九歳の誕生日です。
フォルテの誕生日の時、「俺の時は地味にね」と御願いしていたのですが……。
いや、フォルテ達は、そのつもりでしたよ?。
でもね、空気を読まない大人達が遣ってくれた。
……何?、王家主催の誕生日パーティーって。
俺にとっては最上級の嫌がらせなんですが?。
「……大丈夫ですか、アルト様?」
「正直、うんざりしてる」
正妻として傍に居るフォルテが周囲に聞こえない様に顔を近付けて心配してくれるのが唯一の癒し。それでも漏れ出す本音は抑え切れませんが。
フォルテにだから、言える事なんですけどね。
本来なら、王家の慶事や王国の記念行事等でしか使用する事の無い王城の大ホール。
着飾った各家の現当主・次期当主夫妻が勢揃いし正に、ザ・華やかな社交界といった状態。
俺達の御披露目パーティーの時以上です。まあ、参加規模が違いますから当然なんですけどね。
王公貴族だけではなく、有力な商人達等も王国の各地から参加していますから。
軽く千人は超えているでしょう。
其処にカルニバー秋楽祭を思わせる様々な料理が用意されています。
第三者なら、気軽に楽しめるんでしょうけどね。はっきり言って楽しめてはいません。
主役──主賓の筈なのに。
此方の意思や希望が蔑ろにされていますからね。寧ろ、客寄せ用の見世物に為っている気分です。
また付き合わせる格好になっているフォルテにも可哀想な事ですし、申し訳が有りません。
「私はアルト様と一緒に居られれば、何処ででも、何をしていても楽しいです」
──とか考えていると、曇りの無い笑顔で答えて俺の荒んだ心を優しく抱き締めてくれます。
嗚呼、その貴女の真っ直ぐな愛が沁みます。
いや本当にね。フォルテを見習って下さいって。皆さん、いい大人なんだから空気を読んで。
そして、九歳に何を期待しているんですか。
少し冷静に考えてくれませんか?。客観的に見て九歳に集る大人達の姿って如何な物ですか?。
そう物凄く言いたい気持ちを、グググッと堪えて心身深くへと飲み込みます。
終わったら躊躇無く打ち撒けますけどね!。
何故、こんな事になったのか。
それは月始めのイトッファでの一件が原因です。後日、彼方等此方等から送られてきた御礼の品々。
それだけでも呆れる量だった訳ですが。
その件で王国からも勲章を賜る事と成りまして。誕生日の今日、叙勲式が執り行われました。
まあ、それだけなら良かったんですけど。
いや、出来れば放置して欲しかったんですが。
勲章だけじゃなくて、爵位まで賜るという事態に発展した時は「聞いてませんけどっ?!」と叫びたくなってしまった俺は可笑しくないと思います。
それだけ特殊な事例だと言えますから。
現在、家督の継承以外で新たに爵位を賜るという事は王族ですら無い事だったりします。
分家や予備扱いで各家で養っている事は有っても領地を分与して、という事も許されません。
ただ、“王公貴族の責務”という事で魔力持ちを増やす為の措置や援助は有ります。その為、特には何処も困ったりはしていないそうです。
それよりも、魔力の低下や魔力持ちの減少の方が大問題なんだそうですから。
優先順位が低ければ気にもしませんよね。
そんな感じなんですが。俺は叙爵した訳でして。否応無しに注目され、人が群がってきます。
爵位──貴族家の増加は現状では国費を圧迫する原因でしか有りませんから。王族の為でも簡単には増やす事は出来無いそうです。
しかし、俺はフォルテを正妻にし、それを含めてクライスト家のみならず、メルーディア王国全体、民の為にと色々と貢献している。
そんな感じの尤もらしい理由からで。
大人達が強引に俺を貴族に仕立て上げた。
被害者からしたら、そう言いたくなります。
どんなに名誉な事だろうとも有難迷惑ですから。
ただね、明らかに外堀が埋められていました。
首謀者は陛下達でしょう。先ず間違い無く。
ただ、コレって絶対に母上や父上、それに多分、アイリーン様辺りまで絡んだりしてますよね?。
そうじゃないと説明出来無い事が多いので。
田舎に引き籠っている生活が裏目に出ましたか。まあ、逃げ道は潰されて無かったでしょうけど。
これからは情報収集が出来る様に考えないとな。踊らされてばかりでは面白く有りませんから。
それはそれとして。
メルーディア王国の爵位は公・侯・伯・子・男の五階級制です。
俺は独立する形なので男爵位を賜りました。
勿論、まだ洗礼式も受けてはいませんから実家に属する形を取っています。領地は有りません。
当主には王国から年金──年間給付金が出ます。爵位毎に固定されていますが、普通に生活するには十分な額だと言えます。
領地持ちの場合は、その運営如何で収入が追加で増えますが、負債を抱え過ぎると没落。
爵位も領地も取り上げられます。
その為、御互いに協力し合うのが貴族です。
ええ、両親も兄上達も貴族だって事ですね。
「ほら、頑張って顔を作りなさい、アルト」
「無理です、姉上」
漸く、一息吐ける状況になったのを見計らっての姉上達の登場。御義兄さんは相変わらず大人しいが今は構ってあげられません。赦して下さい。
爵位を賜ろうとも姉弟の仲は変わりません。
勿論、そういった配慮や振る舞いが必要な場なら姉上も遣るんでしょうけど。
姉上は空気を読めますからね。俺が嫌がっている事に気付いていればこその第一声だと言えます。
そして、出来れば助けて下さい。
「それは無理ね、そんな力は私達には無いもの」
「少しは傷心の弟を慰めて下さい」
「それこそ私の出る幕じゃないでしょ?
可愛い義妹の、貴男の愛妻の役目だもの、ね?」
そう言って姉上がフォルテにウインクをすれば、照れながらもフォルテは否定せず、笑顔で首肯。
そういう事なら今夜は存分に慰めて貰いますか。黒歴史上等な勢いで甘えまくって遣りますとも。
まあ、姉上の御陰で気が紛れた気がします。
持つべきは同類の姉ですね。
「それはそうと、アルト
貴男、今年も選定の儀に参加するの?」
「………………は?」
「やっぱり、只の噂話だったのね」
「あの、姉上?、どういう事ですか?、一人で納得していないで説明して下さい、切実に」
「フォルテが正妻なのは揺るがないでしょうけど、これから貴男が迎える事になる二人目以降の相手を探す上では「国内に限らず広く求めるべきだ」って意見が有るみたいでね
それなら……って事で、今年の選定の儀への参加が噂されているのよ
そういう相手を探す場としては最適な訳だから」
「滅茶苦茶初耳なんですが……いえ、言いたい事は判りますよ、効率的な意味でもね
でも、流石に二年連続で参加って……」
「女性側に限れば珍しくはない話なんだけどね」
そう苦笑しながら姉上が言って、視線を向けるとフォルテも苦笑。まあ、そうなるよね。
フォルテは初参加で俺が見初めたけど、選ばれず残っていれば今年も参加していたでしょう。
まあ、来年の参加は微妙な所でしょうけど。
歳上と結婚すると言っても、殆んどは男が歳上。女性が歳上の場合、三歳差位までが主流です。
ただね、前世みたいに五歳以上、十歳以上と歳が離れている結婚が無い訳では有りません。
しかし、それは一般人──平民同士での話で。
王公貴族では先ず聞きません。
男社会・男性優位主義だからなんですけど。
勿論、それ以外にも明確な理由が有ります。
王公貴族の結婚というのは、政略的な意味合いも含まれはしますが、子供を成す事が最優先事項。
だから、当然と言えば当然な訳です。
如何に魔法の有る世界でも不老な訳ではないし、妊娠・出産のリスクは医療技術や知識が発展・普及していた前世よりも格段に高いんです。
そういった理由から危険な高齢出産となる結婚を態々選んで遣る真似を王公貴族はしません。
社会的な経済の保証と安定。高水準な民間医療。これらが実現している世の中でなければ、恋愛重視という結婚観は王公貴族の間には根付かない。
寧ろ、選定の儀の様に、一緒になった相手の事を理解し合い、愛し合い、支え合う。
そういった夫婦関係や恋愛事情の方が主流である現実の方が建設的で誠実だと言えますからね。
恋愛観・結婚観は社会を映す鏡だと思います。
「──と言うか、もう二人目以降は確定ですか」
「それこそ今更な話ね
フォルテを正妻にしただけでも貴男の二人目以降に成る事には大きな意味が生まれるわ
それなのに色々と遣らかしちゃったもの
どう足掻いても貴男は逃げられないわよ」
「ぅぅっ……言わないで下さい……」
「それにね、私は女だから貴男とは立場が違うけど兄さんには新しい縁談の話も来ているみたいよ
私自身、予想外に早く結婚出来たから良かったけど相手探しをしてるユーの方も大変みたいね」
「その件に関しては軽く愚痴られました」
「そうでしょうね、私でも愚痴ると思うもの
まあ、それでもユーだから大丈夫でしょう
そういう事を見極めつつも、芯は強固だから
自分にとって一番良い選択が出来る筈よ
寧ろ、貴男の御陰でユーの方が選択権を持てたから感謝していたわね」
「成る程……そういう考え方もできますか」
「だから、愚痴も気にする程の事じゃないわよ」
「兄上の方は?」
「それこそ私達の出る幕じゃないわよ
兄さんはクライスト伯爵家の継承者だから、それも避けては通れない事よ
……まあ、私達の事業の件も有るから、全く無関係と言う訳にはいかないんだけどね……」
「あー……まあ、兄上には頑張って貰いましょう」
「ええ、それしかないものね」
そうですよね、兄上。
兄上も男だし、嫡男だから他人事じゃない訳で。沢山群がってくる立場なんですよね。
また何か送りますから頑張って下さい。マジで。兄上の頑張りが俺を守ってくれますから。
そう祈りを捧げながら思う事。
つい、自分が被る損害や不利益・面倒事ばかりを考えていると気付けない事ですが。
俺の実兄姉も確実に巻き込まれる訳でして。
結婚した姉上は兎も角、既婚者でも嫡男の兄上や未婚のユー姉さんは俺と同じ様に大変なんで。
本当、貴族社会って面倒臭いですよね。
「それで、実際の所はどうなの?
既に決めた相手が居るなら話は早いでしょうけど」
「あー……それは居ませんね」
「選定の儀の時にフォルテ以外で気になった娘は?
一人位は残っているんじゃないの?」
「実はフォルテを含めて六人としか話してません
そして、他の五人は指名されています」
「駄目じゃない」
「まあ、フォルテと話して前向きに考えてはいます
後は……そうですね、自然と縁が有れば、と」
「自分から動いた方が良いんじゃない?」
「姉上だって色々な縁が有って、ですよね?」
「それは……まあ、そうよね
成る様にしか成らない、という事も有るわね」
「ええ、だから自然な流れに任せる事も必要です」
そう言えば、姉上もフォルテも苦笑。
明らかに何かを企む大人達に対する痛烈な皮肉。その意味を察したから。
人の人生を何だと思ってるんですか。
他人事だからって物事には限度が有りますから。巫山戯るなって話です。
そう面と向かって彼等に言えない非力な我が身が恨めしいです。無念。
「でもまあ、貴男なら大丈夫でしょうね」
「そう思う根拠は何なんですか?」
「貴男はフォルテを選び、フォルテが幸せだから
だから、フォルテを泣かせる事はしないし、貴男が選ぶ相手はフォルテとも仲良く出来るし、手を取り貴男を支え、愛してくれるわ」
「…………恥ずかしいですよ、姉上」
「素直じゃないわね~」
何故か姉上に言われると滅茶苦茶恥ずかしい。
顔が熱くて堪りません。フォルテ見ないで。




