25話 魔法力
突発的な迷宮挑戦から早十日。
フォルテは勿論、メレアさん達にも説明しておく必要が有ったので話しましたが……驚きますよね。
だって、現実では一瞬に等しい時間で、スキルを結果的に三つも獲得した訳ですから。
ただね、「どうしてこう……」と言われましても俺にだって説明出来無い事なので。愚痴る気持ちは理解出来ますが、無理な物は無理なので寛大な心で御理解下さい。
──で、獲得したスキルなんですが。
先ず、【鑑定】は概ね予想通りでしたね。詳しく話したらクーリエさんが驚いていました。「伝説を私は目撃しているのですね……」とか。恥ずかしいから言わないで下さい。
人前で使用しても俺が視線や言動で下手な反応を見せなければ、先ず気付かれはしません。
ただ、【アナライズ】との併用が必要です。
【鑑定】ではゲームの説明文みたいに開示される情報量が少ない。それでも十分なんですけどね。
【アナライズ】を使い慣れているだけに情報量の多さは無視出来ませんので。
次に【亜空間収納】ですが。
魔法の道具袋とは違い、容量制限は無く、収納のサイズ限界も無く、出入口を任意に指定可能、更に内部では時間凍結されるという破格過ぎる仕様。
しかも、スキルなので殆んど発動に気付かれずに使用する事が出来ます。加えて俺が魔法の道具袋を持っていれば怪しまれません。
これでも一応は貴族の端くれなので持っていても何も可笑しくは有りませんしね。
因みに“【亜空間収納】内に有る物を対象にしてスキル・魔法の発動は可能なのか?”という疑問の検証を行った結果──出来ました。
しかも、【鑑定】は勿論、【アナライズ】の方も発動時のエフェクトが見えなくなるんです!。
まあ、冷静に考えると当たり前なんですけどね。
対象を指定し、解析する魔法が【アナライズ】。
つまり、対象が亜空間に有る以上、対象に指定したとしてもエフェクトも見えない。
だから気付かれる可能性は先ず有りません。
勿論、俺自身やフォルテ達の反応・言動から察し推測する事は可能性としては有り得る事でしょう。ただ、それには知っている事が大前提。
その為、先ず有り得ない話な訳です。
だからと言って油断はしませんけどね。
取り敢えず、以前よりも使い易くなりました。
最後に【天魔拳】ですが……何ででしょうね。
何度試しても発動すらしません。
まあ、もしかしたら、洗礼式を終える必要が有るのかもしれません。
正確には、ステータスが、です。
今の俺には、スキルの威力の決定基準となる筈のステータスが存在しませんからね。
ただ、原作とは違うみたいですが。
今は関係無い事なので。
結論としては死蔵、という訳です。勿体無い。
それから、もう一つのクリアボーナス。
神器・銀月晶の聖短剣。これは【亜空間収納】の空間内に入っていました。
その事は特に重要では有りません。
問題は、神器という点です。
──と言うか、原作には存在しない物です。
調べてみた所、かなりチートな装備品です。
見た目は石像の攻略に使った短剣に近いですが、背の部分の鍵用の凹凸が無くなり、鞘付きに。
その名前通りの月をモチーフにした上品な装飾が加わって神聖さが増しました。
ゲームの装備には付き物の攻撃力・防御力という数値は存在しない様ですが、“評価”が有ります。最低のFから始まり、E・D・C・B・Aと上がり一般的な最上位はS。伝説の品がSSという事で。この神器さんの評価は“SSS”だそうです。
ええ、俺も含め、皆ドン引きでしたよ。
勿論、貰える物は貰いますけどね。
それよりも気になったのが、短剣の状態を基本に変形出来るんですが……それが日本刀なんです。
いや、ゲームとしてなら可笑しくはないですよ。でも、現実的に考えると……ねぇ……。
もう、どう考えても、この世界の過去に日本人が関わっていた可能性は高そうです。
だからと言って、何の証拠も有りませんし、特に意味の有る事でもないんですけどね。
まあ、それは兎も角として。
聖短剣には“契約主”登録が有りました。
自動的に俺が登録されていましたが、変更可能なみたいだったので、どうなるのか試してみた所。
“現在、後継者が存在しません”と。
そう表記されたんですね。
これはつまり、俺の血を引く者にしか、継承する事は出来無い、という事なんでしょうね。
そして、生前に継承しておかないと駄目っぽい。随分と先の話になるので忘れない様にしましょう。
──とまあ、そんな感じですかね。
基本的には特に変わりは有りませんので。
あっ、でもね、山に行って持ち帰れる量や種類が増えたのは嬉しいですね。
欲張り過ぎて死蔵する様な真似はしませんが。
さて、それはそれとして。
あの迷宮での経験から──という訳ではなくて。以前から試行錯誤し、頑張っていた事が有ります。
魔法を使える、という事はです。
所謂、魔法力の消耗が発生する訳で。
それなら、その感覚を掴み、魔法力を把握出来る様になれば、魔法力自体を制御したり、感じたり、扱ったり出来るのではないか、と。
そんな風に考えていた訳なんですね。
ただまあ、その魔法力の減る感覚を理解する事が本当に難しくて……滅茶苦茶大変でした。
魔法を使い続ければ、一定を越えた辺りから急に倦怠感を感じ、最終的には気絶します。
枯渇すれば、という事です。
でも、繰り返して慣れれば、そう簡単に気絶する事は無くなっていきました。
「そんな慣れ方は普通は考えもしません」と。
それで気絶してはメレアさんに怒られましたが、挫けずに続けた結果、耐性が出来ました。
そして其処から少しずつ感覚を突き詰めて行き、魔法力へと辿り着いた訳です。
──が、此処からが大変でした。
感覚は掴めても直ぐに意識的に魔法力を扱う事が出来る様になる訳ではなく。
寧ろ、「……え?、これ、どうなってるの?」の連続で訳が判らなくなりましたからね。
当然と言えば当然なんですけど、魔法力を自力で制御しようと考えて成功させた前例は皆無。
歴史の欠片すら残っていない遥か昔の時代になら有ったのかもしれませんが、確かめられません。
なので、全て手探りで遣るしかないんですよ。
だから、今の形になるまで本当に長かったです。
異世界転生なら、あっと言う間に出来るのにね。やはり、創作と現実では違うって事ですね。
「──もう、さっさとメアリー様を娶りましょう」
「いや、意味が判らないから、何故そうなる訳?」
「意味が判らないのは此方等の方です
アルト様は何処を目指しておられるのですか?
何故、この様な事ばかり……はぁ~……」
「これは……ほら、自衛手段?」
「私に訊かないで下さい」
そう、頭が痛そうなメレアさんに一刀両断され、側に居るフォルテは目を輝かせて、クーリエさんは開いた口が塞がらない状態。
三者三様の反応です。
今、俺が何をしているのか。
努力の成果──魔法力の放出と保留の実演です。
右掌に浮かぶ直径10サニタ程の半透明の光球。輪郭線の様に虹色の輝きが無ければ見難い所です。
──と的外れな事を考えられるのも今だから。
ちょっと前までは、そんな余裕は皆無でしたよ。
魔法力を放出すると言っても、ただ出すだけだと穴が空いて漏れているのと同じ。栓は開けれたけど閉められず垂れ流しているのと同じ。
その開閉を意識的に行えて第一歩。出量の調節が出来る様になって二歩目です。
実際の話、魔法力の放出自体は去年の内に出来る様にはなっていました。
ただ、魔法力を放出出来ても意味が有りません。魔法力自体は不可視ですし、空気の様に融解する。つまり、無駄に魔法力を消耗しているだけです。
そんな魔法力を魔法に至らせるのが“術式”。
平たく言えば、使いたい魔法という型に入れる。それが術式という訳です。
飽く迄も俺の個人的な解釈ですけどね。
ただ、この術式というのは数字的や文章的な方式により構成されている訳では有りません。
もう本当にね、魔法に対して最適な型を使う。
そういう天才職人の感覚任せみたいな感じでね。他の魔法を参考にして取っ掛かりを得るなんて真似ですら出来無かったんですよ。
だから、この保留──魔法力を無属性で行使するというのがマジで難しかったんです。
こうして何とか成し遂げましたけどね。
因みに、威力は微妙です。
多分、これもステータスの関係でしょうね。
実際、【アナライズ】の様な魔法なら今の俺でも全く問題無く扱えますが、【ファイアボール】等の戦闘に直接関係する魔法は滅茶苦茶ショボいです。魔法力は一定量持って行かれるのにね。詐欺です。誰を訴えればいいのかも判りませんけど。
取り敢えず、一つの結果と成果は得られたので。今は十分だと言って置きます。
不満や愚痴を言えば切りが有りませんから。
──とは言え、全く無意味な訳でも有りません。
意識的な魔法力の制御が可能になった事により、普段から使用している【アナライズ】等の魔法での魔法力の消費量を削減出来る様になりました。
これは地味に嬉しい事なんですよ。
だって、削減した分、使用回数が増えますから。
“割り引きセール”や“安売り”に沢山の人達が集まり、群がるのと同じ様にです。
「……?……あの、アルト様、宜しいですか?」
「はい、何ですか、フォルテ君」
「魔力と魔法力は、どう違うのでしょうか?」
「良い質問ですね、素晴らしい着眼点です」
「ぁ、有難う御座いますっ……」
よく判らない俺のノリに動じないフォルテだが、急に誉められる事には流石に動揺する。
しかし、誉められて照れながらも嬉しそうにする仕草や表情が一々可愛い。この娘、俺の嫁だから。
──とか、脳内で惚気ていると、メレアさんから視線で「それは後にして下さい」と催促されます。
少し位、脱線して寄り道したって良いじゃない。そういった経験が人の感情や思考を豊かにするものだと俺は思うんですよ?──ァ、ハイ、話します。
「ズバリ!、はっきり言って判りません!」
「…………え?」
「ほら、前の魔力計測の魔道具で計測しているのが魔力の強さなのか、量なのかって話」
「魔力の評価と成長に関しての考察ですね」
そうフォルテが答え、メレアさん達も思い出す。
以前、何気無く話題になった事。
まあ、俺が魔法を使える様になり、魔力評価とのギャップが大きくなっていたからなんだけど。
「魔力評価の基準は?」という話になった。
フォルテの様に、無空の場合は判り易い。
では、九等級の判断は何でしているのか。
定説では“個人の魔力というのは生まれた時点で決まっていて滅多に変わる事は無い”との事。
魔力の強さも量も、考え方によれば、変わらない可能性は有り得るし、潜在値を指していると考える事も出来る。
魔力計測の魔道具は稀少だし、下手に計測をして目立っても嫌だから試す事も出来無い。
だから、今の俺の状況の説明は難しい。
ただ、俺個人からすると、ステータスを得てからレベルを上げれば能力値は上昇する。
その感覚で言えば、定説の方が可笑しくなる。
でも、何方等も立証出来ず、確証も無い。
だから何とも言えません。
「魔法を火、魔法力を薪とすると判り易いと思う
そして、魔力を空気とすれば、分別は出来る
ただ、実際には魔力と魔法力の区別は難しいな
説明の便宜上、使い分けているだけで、実際の所は物凄く感覚的で曖昧だからね
気にし過ぎると眠れなくなる」
「そういう物なのですか……」
「そういう物だと思うよ」




