24話 攻略
先ず目を引くのが規則正しく一定間隔に立ち並ぶ沢山の白い柱。
古代遺跡の神殿の石柱を思わせる造形と、子供の自分では目一杯に両手を広げても半周にも届かない巨大さは圧巻の一言。高さも5ミードは有る。
そんな柱の支えている天井は扉が有った壁際から中央に向かってだろう。徐々に高くなっている。
飽く迄も目測で、推測だけど、ドーム状の空間。
だって、俺が入って来た場所の側には曲線を描く壁面が有りますからね。半球状だと思います。
柱は勿論、床や壁・天井まで全てが真っ白。
“白亜の神殿”と言っても過言ではない。
ただ、大理石の様で全く違う物らしい白い建材。岩石なのかも解りません。何しろ【アナライズ】で調べようとしても対象に選べないので。迷宮自体がそういう存在なのかもしれません。
それと、床や壁・天井には切れ目や継ぎ目が一切無い事から一枚物なんでしょうね。
それだけを見ても前世では考えられない事です。だから、魔法等の特別な方法で創造されている事は間違い無いと思います。
警戒しながら、形状を頼りに部屋の中央に向けて静かに進んで行きます。
気を抜くと容易く足音が響く静寂の中ですから。感音系の反応式の罠とかには要注意です。
また柱は身を隠せますが、死角を生みもします。その辺りにも注意をしながら。
歩いてみた感じ、半径300ミード程ですかね。中央と思える柱の無い開けた空間が見えました。
用心しながら、ゆっくりと近付きます。
「……?、アレは……──っ!?」
あと数歩で柱の森から出る、という所で。
突如、視界の中に光点が発生しました。
悪寒と共に思考を放棄し、その場から飛び退き、手近な柱の影に身を隠した。
直後、自分が居た場所に黒と白の絡み合った様な不可思議な閃光が迸った。
その閃光の軌跡は白亜から灰色に変わっていた。
「──っ、やっぱり、“メデューサ”って事か」
迂闊に顔は出せない状況。だが、瞬間記憶が俺を助けてくれます。
深呼吸しながら、直前に見た景色を思い出す。
開けた空間の中央には石像が有った。
高さ3ミード程の大きさだが、中央部分は天井が10ミード程まで高くなっている。その為、初見の印象は実際よりも小さく感じられたと言える。
女神を彫った様なデザインの石像。ただ、直ぐに妙に髪がうねっている事に気付いた。
フォルテの髪のウェーブとは違う、蠢くかの様な生々しさを感じさせるもの。
芸術的な観点で見れば、物凄い表現力と技術力で感嘆して見入ってしまうだろう迫力と魅力。
しかし、緊張感と危機感が途切れてはいなかった御陰で異変に対し即座に反応する事が出来た。
蠢く髪、不可思議な閃光、そして──石化。
【アナライズ】を灰色になった部分に使ったら、見事に反応してくれました。
それらから、メデューサだと当たりを付けます。
まあ、正確にはメデューサ仕様でしょうけど。
それは兎も角、どう攻略するかです。
石化の閃光は光速では無かった。
近距離での回避は困難でも、遠距離なら出来る。
ゲームの様な予備動作も有る。
何より、軌道は直線で範囲も狭い。射程は壁近くまで達しているので無視します。
どの道、遠距離での攻略方法は俺には無いので。
手っ取り早い攻略方法は石像の破壊でしょう。
ただ、その術が俺には有りません。
まだ実際に使ってみて、属性や効果範囲等を確認していない【天魔拳】を一か八かで使うには流石にリスクが有り過ぎます。
──と言うか、ちゃんと攻略方法は有る筈です。
【天魔拳】は唯一無二でしょうから。
そうなると、先ずは部屋全体の調査からですね。
現状、“達磨さんが転んだ”で行ける筈。
試して無理そうなら次の手を考えましょう。
──という訳で、石像の閃光を回避しつつ。
部屋を探索した結果、幾つかの仕掛けを動かして最終的に手に入れたのが、半透明な刃の短剣。
全長約40サニタ、刃長約28サニタ。日本式の小太刀の様な片刃の直刀。
正直、「え?、メデューサには鏡の盾では?」と思ってしまうのは俺だけではない筈。
暗に「逝け!、突貫だっ!」と言われている様で何か嫌な気分になります。
因みに、短剣も【アナライズ】の対象外でした。
ただ、石像を観察していて判った事も。
石像は動かない──いや、動けないのだと。
頭は正面から左右に90°まで。身体は台座ごと動く仕様らしく、此方も90°毎の可動域。
180°以上の方向転換の際には必ず一度、停止しなければならず、頭が正面を向いている事が必要みたいだという事が判りました。
だから、此処までは簡単でした。
この短剣を入手した途端、石像が台座から離れて人の様に動き始めるまではね。
俺を探して徘徊する姿は野獣の様です。
何処ぞの黒服さんですか、貴方は。
まあ、あんな風に急加速や走って追跡したりするという事は有りませんが。厄介さでは同等です。
──とまあ、そういった状況なんですが。
問題はメデューサの倒し方です。
今は消えてしまいましたが、短剣を入手する間に壁面の四ヶ所に出現した壁画が有りました。
第一の壁画は「仕掛けを動かせ」と。
第二の壁画は「短剣を入手せよ」と。
そして、第三の壁画は「背後から心臓を貫け」と読み取る事が出来ました。
実際、確認した所、背中の左胸の位置には短剣の身幅と同じ大きさの小さな穴が有りました。其処に鍵の様に挿し込むという事なんでしょう。
短剣の背は真っ直ぐではなくて、鍵の様に複雑な凹凸が施されていますから。
ただ、第四の壁画では“首級を掲げている”のが気になります。
物語を刻んだ壁画なら判りますが、この四壁画は攻略の為のヒントです。
態々、勝利を壁画で表すとは思えません。
「……だとすると、二段階攻撃かな?」
先ず、背後から差し、動きを止める。
その僅かな停止中に、首を斬り落とす、と。
そういう感じなのかもしれません。
ただ、それが読み間違っていても、合っていてもミスったら致命的──石化して終わりです。
まあ、だからと言って長引かせても此方が不利な状況になるだけですからね。思い切るのみです。
歩き回っているとは言え、その動き自体は機敏と言う事は難しい感じ。
頭の可動域は変わらず、同条件の可動域を持った腰が新たに加わった。
ただ、頭・腰の可動時には停止する必要が有る。また方向転換時には正面を向いた状態で片足を引き回転して最大180°まで一度に回れる。
尚、引いた足の方にしか回れない仕様らしい。
以上の事から、左右に揺さ振り、隙を作る。
先ず、姿を見せ閃光を撃たせる。
それを柱を使って回避し、左に誘導。
再び閃光を撃たせ、右に戻る振りをして左へ。
“回れ、左”をする様に仕向け、方向転換をする僅かな間に利用して肉薄。
態と石像の視界の右端に入る様に動き、腰、頭と可動域の限界まで動く様に誘う。
そして、その状態で閃光を撃たせる。
完全に肉薄すれば石像の周囲は死角だらけ。
ある意味、安全地帯でしょう。
尤も、それは石像が閃光以外の攻撃をしないし、防御する様子も無いからなんですけどね。
閃光を撃ち、技後硬直している石像の背後に回り込んで背中の穴に短剣を挿し込んだ。
ガッチャンッ…と、奥まで届いた手応えと同時に石像は動きを止める。
此処までは読み通り。次は首を切り落とす。
──そう考えながら、短剣を抜こうとした時。
強烈な悪寒がした。
短剣が鍵であるなら、そう使うべきだ。
その思考は一瞬だった。
石像の身体を踏み台にしながら、身体ごと回転。それが正解であった様に強い抵抗。そこから体重を掛ける事で強引に回す。
短剣を挿した位置から半回転。
身体が止まるのと同時に、石像を蹴って飛び退きながら強引に短剣を引き抜いて、着地。
首の真横に新しく穴が出現。
間髪入れずに石像に飛び乗り、短剣を挿し込む。
短剣の刃が穴を貫通した瞬間、首が砕けた。
支えを失った頭が地面へと落ちて行く。
それを見ながら──反射的に左手を伸ばした。
髪の部分を掴み、地面に落ちる前に止めた。
「…………ふぅぅ~…………疲れたぁ……」
何事も起きない状況に、大きく息を吐く。
あの時、瞬間的に脳裏に浮かんだ第四の壁画。
アレが正しいのであれば。
「石像の頭は落下させてはならない」と。
そう読み解く事が出来る。
例えば、石像の頭に特殊な仕掛けがしてあって、一度身体から離れた後、床に落ちると、再通電して仕込まれた回路が反応し、起爆するとか。
そういう罠が有っても可笑しくはないと思う。
だから頭を掴んだ。本当に反射的な判断だった。
宛ら、石像の肩に担がれている様な格好で休み、一息吐いていると、ファンファーレが鳴った。
そのまま視界が、意識が、白く染まってゆく。
《──スキル【鑑定】を獲得しました》
《──隠し条件、“迷宮内時間で二十四時間以内に迷宮をクリア”を達成している為、攻略達成者にはクリアボーナスが贈られます》
《──スキル【亜空間収納】を獲得しました》
《──神器“銀月晶の聖短剣”が贈られました》
「………………────っ!?」
転た寝しそうになって、気が付いたみたいに。
唐突な意識の覚醒を強要された。
目の前のテーブルに倒れ込みそうになった。
それを何とか堪え、周囲を見回した。
見覚えの有る部屋に、テーブルの上に並べられた二十冊近い本。そして──御茶を淹れてくれているフォルテの後ろ姿が其処に在る。
俺にとっては、略一日前の状況。
加えて、滅茶苦茶濃厚な一日を過ごしていたので元の状況を正確に思い出すのは中々に難しい話。
何気無い日常の一場面って特に難しいですから。
ただ、記憶が正しければ、今、フォルテが淹れて部屋に広がってきた紅茶の香りは無かった筈。
だから、タイミング的に考えても、あの迷宮内に入っていたのは五秒にも満たない時間でしょう。
五秒も経てば、俺が消えているという異常事態にフォルテは気付きます。
何しろ、フォルテと“隠れんぼ”をしたら、俺は何処に隠れていても直ぐに見付けられますから。
まあ、俺も直ぐにフォルテを見付けますけど。
仕方が無いじゃないですか。
だって、愛しているんですから。感じるんです。判るんです。求めるんです。だからです。
──いやまあ、それは一旦、置いとくとして。
フォルテに気付かれない程、短い間の事だったら心配させなくて済んで良かったです。
この感じだと、攻略に失敗していたら、関係する記憶を強制的に消去されて、本を開く前の状況へと戻されていたんでしょうね。
攻略したからでしょう。あの本は見たらないので消えてしまったみたいです。
少なくとも俺の存命中は二人目は出ませんね。
(でも、アレが現実では一瞬だったって事か……
ちょっと濃過ぎるわぁ……)
胃凭れする様な濃さですよ、マジで。
肉体的な疲労感も感じられるし、精神的な疲労は疾うに限界を超えているかもしれない。
まあ、こういう風に考えられる時点で、ある程度余裕は有ると言えるのかもしれませんが。
…………ああいや、前言撤回。コレ、無理だわ。視界が揺れ出したし、頭がクラクラしてきた。
「アルト様、どうぞ」
「有難う、フォルテ
実はさ、ちょっと頼みたい事が有るんだけど……」
「何ですか?」
「コレを飲んだらさ、膝枕してくれる?」
「はい、それは構いませんが……」
「有難う、詳しい話は後でするから……
取り敢えず、今は寝ないと無理みたいだわ」




