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21話 雪兎


 転生という、俄には信じ難い衝撃的な経験をした激動の一年目が平穏無事に終わり、のんびりとした新年を迎える事が出来ました。

 元が日本人だからなのでしょうかね。寒くなると炬燵が恋しくて仕方が有りませんでした。

 ええ、その欲求に抗えずに自作しましたとも。

 まあ、昔の掘り炬燵みたいな感じの物ですけど。実用的であれば問題有りませんので。


 その炬燵なんですが、意外にもノーザィラス王国には無かったんだそうです。

 暖房器具としては暖炉が一般的な物なんだそうでストーブも無いみたいです。

 開発して売れば、市場独占で儲けられそうです。何しろ、独禁法なんて存在しませんからね。商売は基本的に早い者勝ちです。


 因みに、炬燵はクライスト家、メルーディア王国と経由してノーザィラスに技術提供されました。

 炬燵の様に懐が暖かくなるのは有難いんですが、要らぬ関心と注目を集めるのが悩み所です。


 まあ、そんな嫌な事は忘れるとして。

 炬燵に入って、ふにゃぁぁぁ…と蕩けている姿のフォルテが可愛くて仕方が有りません。

 そうなる気持ちも判りますしね。

 炬燵の魅力こそ、真の魔性でしょう。炬燵に抗う事が出来る者なんて中々居ないと思います。


 そして、そんなフォルテと炬燵でイチャつく。

 ええ、冬の醍醐味ですし、最高の贅沢です。

 フォルテの温もりと、炬燵の暖かさ。異なる熱の奏でる交響曲は俺を誘い、沼底に引き込みます。


 あと、鍋料理が恋しかったので町の工房を訪ね、頼んで土鍋(・・)を造って貰いました。

 この世界では鍋料理は未発達の為、鍋はスープを作る金属製の物ばかりでしたので。

 ──あ、ちゃんと実家と姉上にも送りましたよ。使い方等の説明文付きでね。

 それとアイドリー家にも姉上経由の形で。姉上が嫁いでいるからの繋がりだと強調する為でも有り、姉上を窓口にする為です。

 ワンクッション挟むだけでも違うんですよ。主に俺の精神的な負担や疲労感という面で。


 ただ、土鍋の件により母上の二度目の直訪問には驚かされましたけどね。

 その御陰で、もう次からは驚かないと思います。リアクション芸は三度続けたら白けますから。

 あと、土鍋は王家にも献上され、クライスト家の領内に有る良い粘土質の土が取れるだけだった町に新しく工房を設けて生産していくそうです。

 鍋ブームの到来は近いでしょう。

 ……王家の反応?。そんな物は知りません。

 俺は継承権の無い次男で、冒険者志望ですから。貴族社会からは遠ざかって行きたいんです。


 ──とまあ、そんな感じで年を越しまして。

 現在は前世で二月に当たる、サラヴェの月の八日になります。

 日本に近い気候環境であるメルーディアですが、クライスト領は西日本──中国地方の様な気候で、俺達が暮らす辺りでも雪が積もっています。

 環境破壊や温暖化に頭を悩ませる事も無いので、童心に戻って冬を楽しんでいます。

 まあ、リアルに子供なんですけどね。


 尚、バレンタイン的な風習は御座いません。

 なので、フォルテからの本命手作りチョコを俺がゲット出来る日は来るのか判りません。

 まあ、そんな風習が無くても俺達が相思相愛な事は確かめられますし、伝え合えますけどね。


 ああ、それから、姉上に新婚旅行の御土産も色々頂きました。やはり、物流・交通網が前世程までは発展していないので珍しい物は多いですね。

 ……まあ、ノーザィラス王家からの感謝状とかが付属していなかったら良かったんですけどね。

 如何にフォルテを嫁にしていても、ガッチガチの魔力主義の方々とは御付き合いしたく有りません。まだ我がメルーディア国王夫妻の方が良いですよ。関わらないで済むのなら、それが一番ですけどね。



「──ぁ……アルト様、出てきましたよっ……」


「……ぉぉ……噂に違わず可愛いなぁ……」


「……はい、とっても可愛いです……」



 そう小声で言いながらフォルテと二人で見詰める先には雪の中で跳び跳ねている仔兎達の姿が。

 真っ白な雪の中に、もふもふした真っ白な仔兎。色だけで考えると見難そうですが、実際には意外とはっきり見分けられるものです。

 だって、雪と毛では質感が違いますからね。


 ──とまあ、そんな事は置いといて。

 人も動物も子供の時って本当に可愛いですよね。それ自体も自己防衛の手段なんでしょうけど。

 そう考えると、やはり、“可愛いは正義”です。


 そんな可愛い仔兎達はメルーダ雪兎と言います。名前の通り、メルーディアの固有種です。

 数は多いですが、棲息域は雪が積り、夏と冬との気候の差が有る、一定以上の標高を越えている山に限られるという事も有り、小さな仔達兎の姿を見るという事は、かなり大変。

 しかも、何故か出産は冬場に限られているので。雪山に登らなくてはなりません。


 尚、メルーダ雪兎は環境条件が変わる場所では、飼育する事が出来ず、直ぐに死んでしまいます。

 条件が整っていれば飼育は出来ますが、何故かは判明していませんが、繁殖しないんだそうです。

 まあ、それも一種の種の保存(・・・・)の為でしょう。

 人工的に飼育・繁殖が出来無いなら、自然下での繁殖を妨げる訳にはいきませんからね。

 そう考えると、ある意味物凄く賢いと言えます。自分達の価値を武器にして自由を勝ち取っていると言える訳ですからね。


 そんなメルーダ雪兎ですが、冬は白、夏は茶色の毛に生え変わり、保護色で生活しています。

 ですから、遠目からは見付け難い相手です。


 そんな訳で、一番有効なのが“待ち伏せ”です。

 先ず、メルーダ雪兎の巣を探し、使われていれば出入口周辺の様子から仔兎が居るかを判別。

 仔兎が居ると判ったら、巣の出入口を見易い所を探して、()を掘ります。

 土までは掘らず、雪を踏み固め、“かまくら”の土台と壁を造る様にします。

 それから特製の防寒布を天井として張ります。

 この時、雪が自然に積もった様に雪を上に盛って小さな窓穴だけを残し、密閉。

 後は、寝袋に二人で入って温め合いながら待機。只管、出て来るのを待つだけです。


 なので、メレアさん達は来ませんでした。

 「寒いから嫌です」と笑顔が物語っていました。まあ、その辺りは年齢的な感覚の差でしょうね。

 俺は今は八歳児なので。


 ただまあ、そうは言っても長丁場は無理です。

 食事は勿論、トイレという切実な問題が有るので事前準備をして、挑んでいます。

 因みに、連続三日は頑張る予定でした。

 運良く、いきなり成功しましたけどね。


 フォルテと頬を寄せ合う格好で、小さな窓穴から覗き見ている仔兎達の戯れ合う姿は正に癒し。

 余程、心の捻くれている人でなければ誰が見ても癒される光景の筈です。


 ふわふわとした、見るからに柔らかそうな綿毛の様な仔兎達を見て、思わず抱きたくなるのは仕方が無い事だと思います。

 しかし、相手が野生である以上、下手に手を出す真似は出来ません。此方等の匂いが移った所為で、その仔兎が育児放棄されたら可愛いそうですから。

 勿論、抱こうと思えば出来ますけどね。

 モンスターという訳ではないので。

 ただ、俺もフォルテも仔兎を不幸にしたいという気は微塵も有りませんから。ちゃんと自重します。

 脳内では、存分にモフって遣りますが。


 ただね、今は「可愛いな~」と思っているのに、あの仔達が成長したら、「あ、美味しそう」と皆が思うのだから世知辛とも思います。

 メルーダ雪兎を飼育・繁殖しようとしていたのは愛玩動物(ペット)としてではなく、家畜(・・)としてです。

 少々値段はしますが──美味しいのは確かです。

 だから、大人(・・)を見ると、そう思います。

 昨夏には俺もフォルテも何の躊躇も無く、平然と狩っていましたからね。

 そういう意味では人って身勝手だと思いますよ。




 暫しの癒しを堪能し、帰り道で鹿を一頭仕留め、俺達は無事に帰宅しました。

 フォルテがメレアさん達に仔兎達の様子を笑顔で話ながら鹿を解体しているのを見ても可笑しいとは思わないのは実は今更だったりします。


 前世で祖父が遣ってるのを解体の説明や世間話を聞きながら見たり、手伝ったりしていましたから。はっきり言って抵抗感は全く有りませんでした。

 残さず、美味しく頂き、感謝。

 それだけは忘れない様にしています。



「それなら、今度は皆で行ってみる?」


「そうですね、是非、そうしませんか?」


「そうしたいのは山々なのですが……難しいですね

人数が多くなれば気付かれ易くなります

それに御二人だけなら大人一人分程ですが、私達が加わると確実に大人三人分ですからね

息を潜めるだけでも一苦労だと思います」


「野生の、それも警戒心の強い子育て中ですから、今回の御二人だけの時の様には行かないと思います

それを考えると……どうしても、ですね」


「そうですか……残念です」


「フォルテ様、今回の事は御二人の思い出です

ですから、私達は御話を聞けるだけで十分です」


「はい、メレアさんの言う通りです

御二人の大切な思い出であり、御経験です」



 そうフォルテに言うメレアさんとクーリエさん。

 素直なフォルテは納得し、笑顔を見せる。


 だが、それは嘘ではないが本音とは違う。

 二人は「フォルテ様は妻なので問題有りませんが私達はメイドですから……」と言いたい筈。

 密着するとか、未婚の女性が、とかではなくて。最たる問題はトイレでしょう。

 一人では危ないので下手に遠くには行けません。しかし、近くで済ませるというのは……ねぇ……。

 消音の魔道具なんて持ってませんし、臭いにより気付かれる可能性も有ります。

 子供の俺達とは違って、成人している二人だから色々と気にしないといけない事が有る訳です。

 だからこそ、やんわりと断っていた訳です。


 フォルテも必要以上には拘りませんしね。

 この話は、これで御仕舞いです。

 だからね、「絶対に態とですよね?」と二人して睨まないで下さい。

 フォルテを納得させる為だったんですから。



「そう言えばさ、イラヨウチも子育てしている時期だった筈だよね?」


「そうなのですか?」


「はい、イラヨウチもメルーダ雪兎と同様に、今が子育ての時期になります

……いえ、今はもう巣立ちが近いですね」


「巣立ち間近のイラヨウチ……」



 興味深そうにしているフォルテ。

 その隙を見計らい「上手く誤魔化しましたね」と言いた気なメレアさんの視線からは目を逸らす。

 其処は追及しないのが御互いの為ですよ?。


 ──で、件のイラヨウチなんですが。

 イラヨウチは見た目は鶉に近い山鳥の一種です。

 此方等もメルーディア王国の固有種で、棲息地もメルーダ雪兎と被ります。

 灰色と白の羽毛は斑模様で、体長30サニタ程。春から夏に掛けては低地に下り、秋が来ると生まれ育った山に戻り産卵し、雪が降り積もる頃に孵化、二ヶ月程で巣立ちを迎える為、時期的には今が丁度新しく生まれた子供達の巣立ちの直前。

 此方等は棲息数も多く、一度の産卵で十羽前後の子供が産まれ、巣立つので値段は安目です。

 前世の鶏肉に一番近い味や肉質なので個人的には大好きな獲物だったりします。

 流石に、巣立つ前の雛や、巣立った直後の若鳥を狙ったりはしませんよ。

 ──と言うか、何方等も美味しくないそうです。ええ、何処の世界にでもチャレンジャーな探究心と好奇心と向上心を持った人は居るんですね。

 そして、そんな先人達の情報の蓄積という恩恵を後世に生きる俺達は受けている訳ですから。

 本当に有難い事です。



「明日からイラヨウチの巣を探してみようか?」


「はいっ、とても楽しみです」



 そう言って好奇心を弾ませる様に屈託無く笑ったフォルテに俺達も笑顔を浮かべる。

 俺もメレアさん達も、この笑顔には勝てません。そして、とっても大切で大好きなんです。

 だから、フォルテの笑顔を曇らせる輩が出たら、俺達は──少なくとも俺は躊躇無く修羅となろう。




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