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19話 姉嫁


 選定の儀で俺とフォルテが夫婦となって約半年。早いもので、あっと言う間に過ぎた様に思う。


 ……まあ、考えたくない事も色々有りますけど。考えても仕方が無いのも事実なので今は無視です。未来は未定で未知なんですから判りません。

 ですが、基本的には回避方向に全力で舵を切って不可能と言われる天災級の暴風雨だろうが乗り越えハッピースローライフを掴んで見せます!。

 どうにも為らなかったら、その時に考えます。



「アルト、フォルテ、来てくれたのね、有難う!」



 俺達を見るなり抱き付いてくる姉上。

 王公貴族の女性の殆んどが普段からドレスを着て生活していますが、今の姉上のドレスは別格。

 普段着は動き易い作りだし、装飾や色も控え目。

 しかし、今の姉上のドレスは超キラキラしていてゴテゴテ~の、フリフリ~の、とても豪華な仕様。

 それも当然と言えば当然でしょう。

 何しろ今日、姉上は結婚するんですから。


 ただ、姉上?、喜んでくれるのか構いませんが、貴女の後ろには角の生えた御多福顔の母上が静かに近付いて来ていますよ?。

 ──という俺の心の忠告も虚しく、母上によって耳を引っ張られてゆく姉上。

 他だと後に響くでしょうから流石です、母上。


 さて、今、俺達が居る場所はアイドリー子爵家の本邸だったりします。

 アイドリー子爵領は王国の北西部に位置していて子爵三家と領地を接しています。

 クライスト領の北北西に在り、メディット山側で向かうと子爵領を二つ経由する為、経由一つで済む西側のコクマー子爵領ルートで移動。

 また実家経由だと回り道なので、今回は此方等に父上達が向かう途中で合流する形です。

 その為、陸路ですが、四日目の今日、到着。

 馬車を走らせれば、二日目の夜には入れますが、そんな強行軍は誰も遣りたくは有りません。

 だから、ゆっくりでいいんです。

 今日はアイドリー子爵家に御世話になり、明日、俺達は父上達と帰る事になります。

 ええ、相変わらず観光する時間は有りませんが、今は早く帰って引き籠りたいので構いません。


 当事者の姉上なんですが、母上・義姉上と一緒に先入りしていまして、俺達は父上達と一緒に。

 初めて娘を嫁に出す父上がね……もう、兎に角、鬱陶しいったらなかったです。

 ユー姉さんが居てくれたから少しは楽でしたが、ユー姉さんが嫁ぐ際には娘は皆無に。

 参加するのは戸籍持ちの子供だけですからね。

 フォルテのストレスに為らないといいな。

 まあ、嫁いでいても姉上が来てくれる筈ですが。


 俺達はアイドリー家のメイドさんに案内されて、一室に通されます。

 普段は応接間に当たる場所でしょうか。

 今日はメイドさん達が複数控えている状態。

 ある意味では、臨戦(・・)態勢だと言えます。


 俺達が部屋に入って椅子に座るよりも早く、扉がノックされ、アイリーン様が御見えになられます。

 姉上程では有りませんが、アイリーン様も含めて女性陣は綺麗なドレスを着ています。

 ええ、女性がドレスを新調するのは判りますよ。やはり、着飾った女性というのは素敵ですから。

 しかし、何故、男まで新調する必要が?。

 男物なんて大して違いはしません。主役以外なら使う色は限られますしデザインも似たり寄ったりで奇抜さや面白味を出す訳にもいきません。

 つまり、無駄遣いでしょうがっ!──と。

 そう声を大にして言いたいです。



「皆様、ようこそいらして下さいました」


「アイドリー卿、此度は私共の娘・エイラゥデラを迎え入れて下さいまして、有難う御座います」



 アイリーン様に父上が挨拶をし、跡取りの兄上も黙ってはいますが、同じ様にします。

 この辺りは王公貴族特有の社会性なんでしょう。中身が一般人の俺にはハードルが高過ぎます。


 それよりもアイリーン様と一緒に遣って来ている男性の方が気になります。

 事前に言われないと見落としてしまいそうな程、存在感が薄い──と言うか、目立たない感じの方が居るんですけど。

 白い衣装だから多分、新郎──マステディオさんなんだとは思います。

 初対面なので断言は出来ませんが。

 基本的に結婚時で白い衣装を身に付けられるのは新郎新婦に限られていますから。

 先ず間違いないと思います。


 ただ…………うん、地味な方です。派手な外見が好みだとか良いという事ではなくて。

 何と言うか……地味なんです。

 でも、容姿は悪く有りませんし、優男って感じで戸籍持ちなら人気が出ていたと思いますよ。

 まあ、覇気や貫禄からは縁遠い方でしょうね。

 はっきり言って、姉上の方が男前です。


 ──なんて考えている内に、形式的な遣り取りは終わってアイリーン様達が俺達の方へ遣って来る。



「御久し振りです、アイリーン様

その後、御身体の方は如何でしょうか?」


「あれから色々と気を付ける様にしていますから、今は以前よりも身体の調子が良いです

後二十年は元気で過ごせますよ」


「今から曾孫と過ごす日々も楽しみですね」


「ええ、それはもう」



 そんな事を普通に言っていたら、父上達の視線が引き気味な事に気付き、自重する事に。

 つい、前世の世間話の感覚で言ってました。

 客観的に考えると、可笑しな八歳児ですよね。

 ……それが原因で厄介事が起きてる訳ですから、もう少し意識した方が良いんでしょうけどね。

 逆に、今から遣ると不自然になるんですよ。

 本当、こういう時に“後悔先に立たず”の意味を正しく実感する事になるんですよねぇ……。



「そう言えば、まだ紹介していませんでしたね

此方等が私の孫のマステディオです」


「初めまして、マステディオと申します

その節は祖母を助けて頂き有難う御座いました」


「初めまして、アーヴェルトです

此方等は妻のフォーコリュナーテです」


「初めまして、宜しく御願い致します」


「私達は当然の事をしたまでです」



 そう言って話題は広げさせない。もう十分です。これ以上は過剰ですから不要です。


 ただ、こうして話しながらも、俺としては幾つか注意する事が有ります。

 戸籍の有無で、俺達とマステディオさんの立場は明確に区別されるのが貴族社会。

 姉上が結婚し、義兄になる相手でも、その辺りを無視すると俺達よりも姉上達の方が困る事に。

 姉上とは今まで通りで問題有りませんが。

 マステディオさんが相手の時には要注意。

 本当、貴族社会って面倒臭いですよね。


 それから少しばかり談笑して、アイリーン様達は部屋を出て準備に戻られました。


 姉上が結婚する訳ですが、選定の儀とは違って、大聖女様の像に誓う訳では有りません。

 選定の儀と違い、魔力を持たない相手との結婚は聞く限りでは前世の結婚と大して変わりません。

 神父の代わりを主体となる現当主が、両家からも離れる場合には家格が上の現当主が、務めます。

 その上で宣誓し、指輪の交換、誓いのキスと。

 戸籍持ちとの違いは披露宴が無い事でしょう。

 それを羨ましく思ったのは内緒ですけど。


 因みに、選定の儀に倣い、結婚指輪は男性は左、女性は右の中指に付けるのが伝統です。


 応接間で寛ぐ事、一時間程。

 その間にアイドリー家の嫡男夫婦も挨拶に。

 意地が悪そうだとか、兄弟仲が悪そうという様な印象も無く、奥様方も仲は良さそうでした。

 正妻と妾では立場が違いますし、それを崩す様な攻撃的な女性というのは毛嫌いされます。

 正妻も側室への寛容さを求められますしね。

 腹の中では兎も角、表に出す事は有りません。

 共に夫を、家を支えなければ破滅ですから。


 そして、暫くするとアイドリー家の執事──例の苦労しているだろう老執事の方が呼びに来ました。

 貴族の本邸には必ず設けられるという小さな教会みたいな一室に移動し、中央を開けて左右に両家が分かれて並んで立ちます。

 前世みたいな長椅子に座る事は無い様です。

 そんなに長々と遣らないからですけどね。


 新婦を父親が連れて、という事は無く。

 父上も、合流した母上達も一緒に並びます。


 そして、頃合いを見計らって待機する執事二名が閉じられた扉を開けると、新郎新婦の登場です。

 兄上の時の披露宴は記憶に有りませんし、多分、幼いから参加しても居なかったでしょう。

 だから、客観的な立場で見るのは初めての事。

 それが実姉の結婚ですからね。

 身内補正有り有り増し増しになるのも当然。

 自分の知る姉ではなく、一人の女性として新しい自分の人生をスタートさせる、その姿に。

 自然と目頭が熱くなります。

 父上みたいに声を殺して号泣する、という器用な真似は出来ませんけど。


 姉上の横顔が大人びて見えたのは、化粧や衣装がそう思わせるのではなくて、姉上自身の意志。

 これから、マステディオさんと二人で支え合って生きてゆく事に対する確かな覚悟が有る証。

 それ故に、特別に美しく見えます。


 マステディオさんにしても、先程よりも凛々しい顔付きに見えますからね。

 やはり、結婚というのは紙切れで交わす契約書と違って、御互いが心を交わすべきですよね。




 そんな訳で、姉上は無事に結婚。アイドリー家の別邸で新婚生活を始めています。

 俺達も家に帰り、平和な日常へと戻っています。


 今回の件で両家が縁戚関係となった訳ですけど、この縁戚関係は当事者が存命中の関係だそうで。

 姉上や兄上達、俺が亡くなると切れはしなくても疎遠になるし、維持する必要性も薄れるとか。

 まあ、それでも直系の血筋が健在なら、俺達から三代先辺りまでは縁戚関係が続くでしょう。

 あまり関係が近過ぎるのも血統的な偏りを生み、付き合いも閉塞的に為り易いでしょうから。

 そういう意味では適度な距離感が大事です。


 尤も、今の姉上達にとっては新婚生活が大事で、邪魔する輩は等しく敵でしょうけどね。

 まさか、実姉の「はい、あ~んっ♪」を目の前で見る事になろうとは思いませんでしたからね。

 フォルテが羨ましそうだったので、こっそりと。後で俺達も遣りましたけど、何か?。



「アルト様、エイラ様から御荷物が届きました」


「姉上から?」



 フォルテと一緒に栗を剥いていた手を止めると、メレアさんが持つ荷物を見ます。


 ──あ、この栗なんですけどね。

 “イェトの月”──前世の十一月に当たる今だと本来は時期的に遅いんですが。

 別邸の辺りは旬が一ヶ月程遅い為、今が収穫期。山に入れば自生している木が沢山有りますからね。夏場に少し手入れをしただけで大豊作です。


 これも食用と認識されていなかった物でしたが、調理法や料理レシピを添えて実家等に送りました。

 今回は母上が直に遣ってきたので驚きましたが、母上が栗の甘さを気に入った為でした。

 実家の方でも採取したそうですが、此方等に比べ旬が一ヶ月程早く、今年の収穫は一回のみ。

 その為、父上を従えて本気で栽培し、商品開発も力を入れるみたいですね。

 もう今更なので気にしません。他人事です。

 美味しいは正義、料理は文化なんですから。


 今、此方等では第二回収穫分を処理している所。少し日保ちする様にしたら、母上に送ります。

 送らなかったら後で母上が恐いので。


 尚、この栗なんですが【アナライズ】で調べると名前が“シュロー栗”と出ました。

 小麦や大麦もですが、普通に和名が使われている辺りは原作(ゲーム)の影響なのか。

 或いは、別の要因なのか。

 定かでは有りませんが、奇妙な感じです。

 判り易い点では助かりますけどね。


 それはそれとして。

 こう遣って家族で物を送り合うというのは前世と変わらない習慣です。

 俺も実家や姉上に送ってますから、今日みたいに送られても来ます。

 流石にフォルテの実家には送るのは難しいので、其方等には実家の方から正規品を贈って貰います。魔法の道具袋も万能では有りませんから。


 でも、姉上が嫁いでからは初めてですね。

 アイドリー子爵領の名産とかですかね?。

 ちょっと楽しみです。



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