18話 誕生日
何かもう色々疲れまくった秋楽祭から早一ヶ月。
あの後、アプロベリーの件は同じくラプワナロに行く前に寄って渡した実家からも質問されまして、何やかんやと有りましたが商品化される事に。
件のアプロチュットはメルーディア王国の中でもクライスト伯爵領の固有種なので独占状態。
発見者という事で、俺達が生きている内は商品の売り上げの一割をクライスト家から貰える事に。
物が物な為、稀少で単価は高くなります。
しかし、それでも売れるのが嗜好品・贅沢品。
まあ、若くても貰える年金みたいな物だと思えばラッキーでしょう。これで今後の最低限の収入源は保証されたのも同然なんですから。
父上達よりも兄上達から感謝されましたしね。
役に立てたなら俺達としても良かったです。
もう二度と秋楽祭には行きたく有りませんけど。
そんなこんなで、今日はディファの月、24日。
本日はフォルテの九歳の誕生日です!。
──とは言え、四人暮らしの中でのサプライズは殆んど不可能に近いですし、こっそり打ち合わせや準備したりする事は出来ません。
でも、初めての愛する妻の誕生日なんです。
祝いたいのが男心、夫心ってものなんですよ。
其処で俺は考えました。
こっそり遣るのは無理なんだから、もう最初からフォルテに「誕生日パーティーをしよう」と伝え、一緒に準備をする事を楽しもう、と。
どうせバレたら御互いに気不味くなるんだから、最初っからオープンにした方が気楽です。
そんな訳で、四人で色々と準備をして来ました。
ただ、フォルテにも予想外だった事が有ります。
「おめでとうございます、フォルテ様」
「……有難う御座います、皆さん」
思わず涙ぐむが、笑顔で答えるフォルテ。
その目の前には見慣れた人達が笑顔で集まる。
誕生日パーティーにはクライスト家のサポートを担ってくれている村の皆にも参加して貰った事。
基本的にフォルテは俺と一緒に居ましたからね。そういう素振りは一切見せていません。
メレアさん達も村に行っても直ぐに戻りますからフォルテも予想はしていませんでした。
作る料理の量とかも、飽く迄も四人分と少々。
だからこそ気付かれずに事を進められた訳です。
例のアプロベリーのジャムの話は村にまで拡がり尊敬する眼差しが痛いです。
だって、「いや、魔法で調べただけだから」とか本当の事は言えないんだもん!。
仕方無いじゃない!、目立ちたくないんだし!。
そんな厄介な認識を誤魔化す為に、そのジャムを惜し気も無く振る舞います。
どうせ正規品ではなくて、個人の試作品ですから売れもしませんから。気にする事は有りません。
今日はフォルテの誕生日を祝うんですから。
大盤振る舞いです。
気兼ね無く話し、料理を楽しみ、歌を歌い。
御酒こそ有りませんが、賑やかに進む。
そして、一段落した所で、皆からのプレゼント。
プレゼントはリボンやリース少し付ける程度。
前世の様に、包装したり箱に入れたりする場合は王公貴族の特別な祝いの時だけ。
例えば、戸籍持ちの男子の八歳の誕生日とかね。
「フォルテ様、此方等は私達からです」
「メレアさん、クーリエさん、有難う御座います」
二人がフォルテに送ったのは御手製のエプロン。だが、只のエプロンではなく、その生地は冒険者の衣装や防具にも用いられる頑丈な代物。
その為、長く使え、料理人やメイドには大人気の逸品であり、憧れの品でも有ります。
フォルテも一目で気付き、嬉しそうです。
その生地は、ブルバッフという牛と犀の混ざった様なモンスターの革を使用しているそうです。
丁寧に処理し、一年程寝かしてから、生地として漸く使える様になる物なんだそうです。
フォルテの物は何でも三年物だそうで、下世話な事を言えば、滅茶苦茶稀少で高級な代物。
本来なら自分達が欲しい品でしょう。
そんな物をフォルテに贈るという事は、それだけ二人がフォルテを大切に想ってくれている証。
夫として、主として、嬉しくて仕方有りません。
因みに、ブルバッフは食材としても有名です。
価格はピンキリですが安い物は普通に買えます。一般的にも馴染みの有る肉の一つです。
「フォルテ、俺からはコレを」
そう言って手渡したのは桃色の木彫りの像。
高さ28サニタで、男女が寄り添ったデザイン。
コーラルベインという紅珊瑚の様な色と姿をした植物型のモンスターから取れる素材を使った物で、腐蝕しないし虫食いの心配も有りません。
ただ、そんなに良い物も使用可能な量が一体から採取出来る量が少なく、サイズも小さめな上に不揃いの為、建材として用いる事は少なく、装飾用や小物・家具が主な用途。
ゲームとは違い現実ではモンスターにも個体差が生じているのが常識。大量生産品ではないので。
値段はピンキリですが、桃色の物は稀少で高価。今回はアプロベリーのジャムの開発料という事で、父上達に出して頂きました。
フォルテに気付かれない様に、夜中にコツコツと想いを込めて彫りました。
客観的に聞いたら、「重っ!、怖いって……」とドン引きしてるんでしょうけどね。
俺としては至って真面目で、真剣ですから。
「アルト様と私、ですね……?、これは……っ!」
「ああ、軈て産まれてくる俺達の子供を彫った物だ
気が早いと思うのかもしれないけど、あの時話した俺の望む事に変わりはない
フォルテと一緒に幸せな家庭を築く事だ
長い長い人生、まだまだ歩き始めたばかりだけど、この先、楽しい事も辛い事も有るだろう
その全て共にし、支え合い、歩み、生きてゆこう
これからも宜しくね、愛してるよ、フォルテ」
「──はいっ、宜しく御願いします、アルト様っ」
両手で木像を大事に抱える笑顔のフォルテ。
そのフォルテを抱き締める俺、と。
その構図は木像に近く。木像が俺達の子供の姿と重なる為、周囲の拍手にも感動と感情が滲む。
二人きりではなく、メレアさん達に村の皆の前で公開プロポーズをする様に、今一度、愛を誓う。
これは俺なりの決意表明・意思表示。
必ず、フォルテを幸せにする。
必ず、フォルテとなら幸せになれる。
そう心から思っているのだと。
同時に、それを周知させる事でフォルテに対する一部の連中の誹謗中傷や陰口を潰す為の布石。
先の秋楽祭の件も有り、陛下達の俺とフォルテに対する印象や評価は良いでしょうしね。
縦社会で御偉方を敵に回す様な真似を考えも無く遣る様な輩は消えて行くのが社会の道理。
そう遣って少しずつ、しかし確実に外堀を埋めて防衛機能を高め、構築していきます。
社会に属する以上、社会のルールを蔑ろにすれば自分達に返ってくるだけですからね。
遣るならルールを守り、何も出来無い様に。
伊達に何でもかんでも直ぐに訴える大訴訟社会の前世で生きてはいませんでしたからね。
そういう正しい自己防衛方法は判っています。
性善説程、セキュリティが穴だらけの怖い思考は世の中に有りませんからね。
そんな不確かな物を信じる気は有りません。
信頼は自ら築き、時間と結果で成るものです。
それを俺も実践し、フォルテと成していきます。
明るく楽しく賑やかで穏やかな誕生日パーティーも終わり、片付けも済んで御風呂も済ませてので、後はもう眠るだけ。
その前に、四人だけのアフターパーティー。
まあ、パーティーというよりかは御茶会ですね。でも、ティーパーティーって言うんですから、一応パーティーでも間違いではないと思います。
俺達にとって、メレアさん達は家族の一員。
夫婦と同様に長い時間を一緒に歩いてゆくので、そういう意味も含めて、別枠で、という事。
尚、「俺の時は質素に」と希望を出しました。
八歳の誕生日パーティーで十分。懲り懲りです。俺にはフォルテ程の社交性は有りませんから。
御開きとなり、後片付けを済ませた俺達は部屋に戻り、明かりが照らした時、フォルテが気付く。
ベッドの上に置かれているのは綺麗に包装された一目でそれだと判るプレゼント。
驚いた様にフォルテが振り返った。
既にプレゼントは貰っているのだから当然だな。だからこそ、サプライズには気付かれない。
とっておきは、こう遣って隠すんですよ。
「あの、アルト様、これは?」
「開けてみて」
「は、はい………………ぁ……」
玉葱包みをした布地の包装はリボンを解くだけで自重で蕾が花開く様に広がる。
その中央には金属製の盆栽の様な作り物が有る。
台座となる大地から伸びる二本の木。それが上で交わり、絡み合って、一つに成っている。
その一つ成った幹の部分には綺麗に並ぶ四葉が。この世界でも四葉は“幸福を招く”とされます。
「俺達は別々の木として生まれ、今は夫婦となって一緒に生きてゆく
それを型にした物で、四葉は験担ぎかな
勿論、“二人で幸せな家庭を築く”っていう意味も含めてはいるけど
其処に指環みたいなのが有るだろ?」
「はい、此方等ですね」
「内側を見て」
「…………ぁ……アルト様と私の名前が……」
「それを幹に通して四葉の上に乗せて」
「はい……あ、ぴったりです」
「これは誕生日プレゼントと言うよりも、結婚した記念の──いや、“誓いの樹”だと思って」
「誓いの樹……」
「今填めた環は結婚指環であり、俺達の過ごす時を表す年輪の様な物で、それを積み重ねていく事で、樹は少しずつ成長してゆく
最初だから金属製だけど、これから毎年、結婚日に金属に木や石、布とか色んな物を使って環を造り、名前を刻んで重ねて行こう
その一つ一つに、大切な想いや時を刻む様にね」
「アルト様……はいっ、立派な樹に育てましょう」
「ああ、誰が見ても驚く超大作にしよう」
笑顔で未来を誓い、そのまま誓いのキス。
ある意味、これは二人だけの結婚式でしょう。
まあ、選定の儀が正式な訳なんですけどね。
やっぱり、結婚は恋愛を経てする物だと思うので個人的には今の方が結婚した感が有ります。
祝福してくれた大聖女様には申し訳有りませんが仕方が無い事だと思って見逃して下さい。
ちゃんとフォルテと一緒に世界の危機を乗り越え幸せな家庭を築きますから。
「アルト様、これでしたら二人目以降の方も一緒に時を重ねて幸せに成れますね」
「……ん?、フォルテ、ちょっと待とうか
二人目って何?、子供の数じゃないよね?」
「子供は……その、出来れば十人は欲しいです」
「よし、それは任せなさい、一緒に頑張ろう」
「他の方達も五人ずつなら、三十人は出来ますね」
「いやいや、フォルテさん?、それ、本気?
──と言うか、何で俺が側室娶る事が確定?」
「……え?、アルト様もカルニバー秋楽祭の際に、キラルド陛下から御聞きしたのでは?」
「いや、これっぽっちも
──と言うか、その話はカタリナ様から?」
「はい、可能ならば、アルト様には王家から一人は側室を娶って貰いたいそうです
まだ二歳ですが第四王女のメアリー様が候補として一番可能性が高いと仰有っておられました」
フォルテの話に軽い目眩がする。
メアリー王女はカタリナ様の直子で、陛下の子の末娘になり、兄姉の中でも最も魔力が高い。
だから、将来的に選定の儀で嫁入りする可能性は確実視されています。
──が、何故その王女様が俺の側室候補に?。
……え?、もしかして、俺のスキルの事とか全部バレてます?。
「披露宴の際、御二人共にアルト様が私を妻として選んで下さったのは計算等ではなく、純粋な想いでという事に感動された事と、その在り方や考え方に大きな将来性を感じられたそうです
ですから、最低でも側室を四人は──んっ……」
フォルテは純粋だし、その価値観も正しい。
正しいけど、俺的には想像したくない事なので。取り敢えず、キスで黙らせて誤魔化します。
さっさと寝て嫌な事は忘れてしまいましょう。




