17話 秋楽祭
何気無い、けれど充実している日々というのは、大凡、時が経つのが早く感じるものな訳で。
フォルテと結婚してからの日常は、本当に毎日が楽しくてキラキラ輝いて宝物の様です。
……いや、間違ってはいないけど、この台詞ってショタだろうと、男の言う事じゃないですね。
考えてただけで気持ち悪くなりましたから。
まあ、そんなこんなで、あっと言う間に過ぎ去る時は非情にも死刑宣告の到来を意味する。
ええ、例のカルニバー秋楽祭ですよ。
こうして、ラプワナロに遣って来ています。
後、また衣装を新調させられたんですけど?。
どうして収穫祭なのに着飾る必要が有るの?。
寧ろ、農作業着とかが正装だと思いませんか?。だって、収穫祭なんですから!。
そこの所、どう思われますか?。
──という愚痴を、昨夜は吐きまくりました。
ええ、メレアさんに一刀両断にされましたけど、それが何か?。愚痴だからいいんだもん。
流石に愚痴位は吐かないと遣ってられません。
「本日は私達、若輩者の身で有りながらカルニバー秋楽祭に御招き頂き、有難う御座います
貴重な経験の機会を頂き、感謝しか御座いません」
「そう言って貰えると招待した甲斐が有る」
──というかね、何?、この状況は何なの?。
何で俺、キラルド陛下と差し飲み状態な訳?。
ねえっ、誰か教えてよーっ!。
……まあ、現実逃避しても状況は変わりません。
何故こんな事になっているのか。
カルニバー秋楽祭は二部構成になっていて、昼は街の劇場で毎年違う演目が披露されます。
それを観覧し、夜が話に聞いていた晩餐会。
その昼前と、昼夜の間に。
陛下達は招待客と歓談したりするそうですが。
俺達は最年少だろうからと早めに入りました。
だって、新参者ですからね、立場は弁えます。
そしたら、まだ他の方は来ていないとか。
いや、正確には昼前に集まるのは招待されている御夫人方で、一種の女子会を開くそうで。
言うまでもなく、フォルテはカタリナ王妃と共に其方に強制参加となりまして。
残ったのが、陛下と俺。
うん、その話からすると陛下が昼前に此処に居るという事自体、不自然ですよね?。
これって態と予定の一部を抜いてましたよね?。陛下、絶対に確信犯ですよね?。
そんな事を思っていても「では、我等は向こうで話すとするか」と言われれば否とは言えません。
其処まで計算もしている事でしょうし、王妃様も一枚噛んでいるのも間違い有りません。
……本当にバレてないよね?。
──と、内心警戒しまくっていた俺でしたけど、陛下の振る話題は普通の事ばかり。
時には男同士の、或いは親戚の伯父と甥みたいな感じで他愛無い話題。
それで毒気を抜かれたんでしょうね。きっと。
「──我も多くの若者を見てきたが、其方達の様に早くから御互いに尊敬し合える夫婦は稀だ
我自身、カタリナと本当に御互いを理解するまでに相応の時間が掛かったものだ
勿論、今では懐かしく良き思い出だがな」
「共に歩んだ分だけ、御互いを知り、共有してゆく思い出や経験、想いが増えますからね」
「そうだ、夫婦は結婚すれば成り立つ訳ではない
だからこそ、其方達の在り方には懐く想いが有る
長く続く選定の儀は必要な事だ
ただ、その場に集う者が若過ぎる気もする
勿論、そうする意図は理解してはいるがな」
「それは私も実際に参加して感じました
男子優位な状況も理解は出来るのですが、女性側の立場との差が大き過ぎる気が致します」
「うむ……子を成し、血を繋ぐ為には御互いに必要不可欠な存在ではあるが、どうしてもな……」
「どうしても政治の場は男社会に成り勝ちです
それは女性には妊娠・出産といった事が有る以上、絶えず職務を継続する事が難しい為です
ただ、男社会では視点や価値観も偏ります
ですから、女性の意見や視点や価値観に耳を傾け、汲み取り、取り入れる事も必要だと思います
政治とは、決して男の物では有りませんから」
──と言ってから、遣らかした事に気付く。
明らかに八歳児の言う事じゃないですよね!。
「──と、父が言っていました」と付け足すのは態とらしいし、責任転嫁でしかない。
結局は自分の所に巡り巡って来ますしね。
だから、もう開き直る事にしました。
吐いた言葉は飲み込めない。
……本当ね、その通りだと思います。
──が、陛下の反応は予想とは違っていて。
何と言うか……涙脆くなった父親みたいな?。
ええ、軽く目が潤んでいらっしまいます。
「……クライスト卿の教育か、素晴らしい事だな
我が子は其方の上にも下にも居るが、同じ様に話をしても、その様な答えは返ってくるまい」
「私も選定の儀以前は何処の家の子供とも変わらぬ感じだったと思います
ただ、自ら妻を選び、その将来を背負うという事、自分の将来を背負わせるという事
その事実が、そして妻との出逢いが
私を変え、成長させてくれている一番の理由です
その根幹に有るのは、両親や兄夫婦を見てきた事で培った夫婦としての理想像や覚悟といったものが、確かな形に成っている途中なのだと思います」
「成る程な、男は女で変わる、とも言うからな」
「それは女性も同じだと思いますから、王妃様には仰有らない方が良いですよ?」
「ハハッ、確かにな、言えば思い知らされるな」
「老若男女問わず、人との逢別、生活環境の変化で誰しもが変わる可能性に直面するでしょう
ただ、それを如何に捉え、考えるのか
その差が、成長の差として表れるのだと思います
私の上の姉が結婚する事になりましたが、その件も普通では考えられない経緯でしたので
事実は小説より奇なり、という事だと思います」
「そうだな、確かに其方の言う通りだ
件のアイドリー子爵家に嫁ぐ其方の姉の話を聞いて正直、我も妻も驚いたが、素直に感動もした
今時、純粋に愛を貫ける王公貴族は稀だ
実際、その立場が複雑な事も有り、調整する為にと本人とも話したが、頼もしい限りだったぞ
彼処まで真っ直ぐに人を想う事が出来るのは美徳だ
アイドリー卿も良き娘だと喜んでおったしな」
「家族の前では止まる事無く惚気ていますが」
「ハッハッハッ、それは重畳、正に良縁組みよな」
姉上の話題も有り、どうにか昼の演劇観覧までの地獄の一時を乗り越えました。
観覧前、思わずフォルテを抱き締めてしまうのは仕方の無い事、不可抗力です。
俺の豆腐メンタルはグッチャグチャでしたから。何で国王と差しで話さないといけないんですか!。責任者出て来ーいっ!
──あ、いや、やっぱり出て来なくていいです。だって、秋楽祭の責任者って陛下だもんっ!。
秘薬“フォルテの愛”で完全回復した俺。
演劇観覧は普通に、平和に楽しめました。
ただ、内容がロミジュリっぽいと言うか。まあ、ラストはハッピーエンドなんですけど。
……何かね、俺とフォルテをモデルにしたっぽい内容な感じが滅茶苦茶したんですけど?。
怠け者王子と無空の伯爵令嬢って……ねえ?。
出来れば、もう少し設定を捻って下さい。
途中、何度も視線を向けられたんですから!。
あと、陛下?、知ってて俺達を招待しました?。
「何を演るのかは我も知らぬ故、楽しみだ」とか仰有ってましたよね?。
あれ、嘘じゃ有りませんよね?。
唯一の救いはフォルテが楽しんでくれた事です。
……俺?、楽しめる訳が無いでしょうがっ!。
──と言うか、どんな情報網なのっ!?。
俺とフォルテ、或いはメレアさん達しか知らない様な会話は気障な台詞を言うなーっ!!。
それはもう愛云々よりも黒歴史ですからーっ!!。
──と、再度精神を削られまくった俺は御姫様のキスと膝枕で悪夢から目覚めたのでした。
畜生っ、飯食ったら即帰宅してやるからな!。
「──ベロートガ産キルマの香草焼きです」
シェフ──ではなく、専属の司会者の男性の説明ん聞いて小さく歓声が上がる。
キルマというのは雉の様な鳥型モンスター。
聞いた所では雄雌の特徴等も似ています。
ただ、やはりモンスターはモンスターで。体長が1ミードと中型犬並みで、動きも素早く、鳥の癖に飛ぶよりも走る方が多いとの事。
警戒が強く、中々仕留められない為、稀少。
尚、決して個体数が少ない訳ではなく、飽く迄も仕留められない為、稀少価値が有るそうです。
中でも、アイドリー子爵領のベロートガ山で育つキルマはメルーディアは勿論、同盟国間でも高値で取引されている最高級品なんだそうです。
妙な所で縁を感じますがクライスト伯爵領からも既に数点出ているので可笑しな事では有りません。何しろ、王国中から厳選された食材達が集うのが、カルバニー秋楽祭なんですから。
因みに、使われている香草等も一級品です。
本当、贅沢三昧な美食の祭典ですよ。これなら、色んな人達が参加したがるのも納得です。
「スリェチト産小麦のバタートースト、シーブォ産オニオンのスープです」
見た目はシンプルなトーストとスープ。
しかし、使用されている食材は最高級品。
スリェチトは王家の直轄地で国内でも三指に入る小麦の産地として有名です。
シーブォはクライスト伯爵領の一つで、野菜物の栽培が盛んな大農耕地です。
シェフの腕も確かなのでマジで美味い。きっと、メレアさん達が居たら調理場に乗り込みますね。
だって、隣のフォルテが料理人モードに入ってて料理を真剣に分析していますから。
今でも上手なのに更に上を目指すとか。
胃袋を掴まれる所か、染め浸けにされますね。
もうフォルテの料理無しでは生きていけません。
「──おおっ!、これはトーストに合うな
スープの味も邪魔せず、品が良く、しかし、奥深い
微かな酸味がバターの濃厚さとも合い、かと言って匂いが強い訳ではなく、柔らか……素晴らしい」
陛下が声を上げ、饒舌に誉めているのは付属する小皿に用意されているジャムの事ですかね。
透明感の有る薄いピンク色からして苺系かな?。
俺達も色々と自家製のジャムを作っているので、良い物に触れる事は勉強にもなります。
あ、マジで美味い。
このバターと合うな~……って、あれ?、何か、この味に覚えが有るような……。
「其方等のジャムはアーヴェルト様御夫妻が此度の招待の御礼にと、趣旨に沿って陛下達に贈られた品となっております
折角なので皆様にも、との陛下の御厚意です」
そう司会の説明が有った途端、俺達に向けられる視線と賛辞に顔が引き吊りそうになるのを堪える。
流石にフォルテも経験した事が無い状況らしく、珍しく戸惑いを見せているが──それが可愛い。
──と言うか、覚えが有る筈です。
寧ろ、何してくれてるんですか、陛下っ?!。
御土産は御土産なんで、御土産として扱って!。こんな場で振る舞う様な物じゃないんですから!。
このジャムに使っている材料は、裏山で発見したアプロベリーという果実なんですが。苺と桃を掛け合わせた様な物で、熟成度で味と食感が変化。
ただ、見た目が木の瘤みたいな感じなので、態々取って食べようとは考えなかったみたいで一般的に食材とは認識されていません。──と言うか食べる意欲も湧かないし、果実と思われてもいません。
その発見は実は【アナライズ】を習得出来た為、練習の過程で彼是試していたら偶々発見した物。
以前から存在するアプロチュットという低樹木が付ける果実なんですが、建材等にも使われず、庭の観賞用植物としても用いられない為、実が付く事も知られていませんでした。
それで、情報によれば“食材”と出ていたので、ジャムを作ってみて美味しかったので、珍しいから趣旨にも合った御土産として持参した訳ですが。
こんな筈じゃなかったのにっ……。
日本人の気遣い対質が裏目ったーっ!。
取り敢えず、嘘は言わず、でも、全ては話さず。
フォルテと力を合わせて切り抜けなければ。




