16話 果報
激闘の披露宴から早二週間。
王都観光もせず、翌日には別邸に向けて出発し、寄り道せずに真っ直ぐに帰りました。
ええ、もう不用意なフラグは要りませんから。
さっさと引っ込んでイチャイチャライフに戻ってフォルテと楽しい日々を送るんです!。
──という決意から、「あ~、これだよこれ」と慣れ親しんだベッドでフォルテと抱き合って眠る。これが幸せなんですよ。マジで。
俺には英雄願望も自己顕示欲も承認欲求も無い。フォルテさえ居てくれれば、生きていけます。
「──え?、姉上、結婚が決まったんですか?」
「ええ、そうなのよ、もう私も吃驚でね~」
そう答える姉上は、幸せ一杯という満面の笑顔と雰囲気で完全な惚気武装中。
俺の御願いでアイリーン様に姉上達の結婚相手を見繕って貰う話はしましたが。
正直、話が急展開し過ぎてて追い付けません。
フォルテ達は思考放棄し、祝福していますが。
流石に事の発端である以上、看過出来ません。
ただ、下手な仕掛けは長話になります。
だから慎重に攻めなくては。
──とは言え、気になる事も有ります。
普通、婚約が先に有る筈なんですが?。
話を聞く限りでは本当に結婚するみたいですし、その御相手はアイリーン様の御孫さんだそうです。
マステディオさんと言い、魔力評価が無空の為、平民なんだそうですけど。姉上に気にする様子は有りません。
俺はフォルテの事を知っているから別ですが。
普通、その縁談は有り得ないんですけどね。
まあ、姉上が幸せなら構いませんが。
「しかし、どういった経緯で結婚まで?
普通に考えると其処まで話が行きませんよね?」
「そうね、客観的に考えると有り得ない話だわ
ただ、色々な事が重なって、という事よ」
聞ければ、俺達の披露宴の際に知り合ったそうで初対面で彼が泣いた為、抱き締めたとか。
彼の将来の話に感心したとか。
やはり、小一時間程、惚気られました。
フォルテ達は楽しそうに聞いていましたが。
其処は男女の感性の差なんでしょうね。
男からしたら、身内でも他人の惚気話は聞く気が起きないというのが本心です。
恋バナで盛り上がれるのは女性ならではです。
「貴男がアイリーン様に御願いしてくれた件でね、どんな相手がいいのか訊ねられたの
その時、自然と彼の事が思い浮かんでね
「──あ、こういう事なのね」って気付いたのよ
それでアイリーン様に御話ししたら、驚かれたけど直ぐに彼を御呼びになられて……
彼も私の事が忘れられなっかったみたいでね
でもほら、私達って身分違いでしょ?
だから彼も苦悩していたの
諦めたくはない、そう私が言ったから……
けれど、現実は非情で、私達は────」
再び姉上の一人舞台が始まったので放置。
観客は三人も居ますから十分でしょう。
今の内に姉上が持ってきた書状に目を通す。
父上、兄上、アイリーン様──にキラルド陛下。うん、最後のは可笑しいよね?。何故?。
正直、読みたく有りません。
読まない訳にはいきませんけど。
前者三名の書状の内容は予想通り、姉上の件で。父上達にしても吃驚の急展開な様ですが。
当事者達が物凄く積極的なので進行が早いらしく二ヶ月後には結婚する予定だとか。
ただ、少々ややこしいのが、戸籍の問題。
魔力評価が無空のマステディオさんには、戸籍が有りませんが、姉上には戸籍が有ります。
しかも、血筋という意味ではクライスト伯爵家は現王国の建国以前から続く王家と並ぶ超名門。
母上も実は公爵家の出身だったりして、意外にも自分達の血筋は滅茶苦茶優秀なんです。
魔力の低下は同盟国全体の問題なので、局所的に起きている事では有りません。
これは多分、血が薄まっている為でしょうから、簡単には解決出来無い問題だと言えます。
話を戻して、戸籍の件ですけど。
もう一つ、アイドリー子爵家の御家事情が此処に絡んで来たりします。
アイリーン様が当主なのは既知ですが、跡取りは一人娘さんだったそうです。
身体が弱かった為、既に亡くなられています。
ですが、御結婚され、子供は男の子が二人。
御嫡男と、マステディオさんだそうです。
旦那さん──アイリーン様の娘婿、つまり義息に当たる方は御健在ですが、継承権が有りません。
側室も居らっしゃるそうで、御子さん達にも戸籍持ちが居るそうですが、その子供達というのは全員アイドリー家の戸籍ではなく、父方の実家の戸籍に入るのが王国法で定められています。
要は直系以外には継承権が発生しない仕組みで、直系とされるのも現当主から三親等まで。
他家に嫁いだり、婿入りした者や血筋は継承権を得る事が出来ません。
そんな訳で現在、アイドリー家の継承権を持った直系の方というのがマステディオさん達兄弟のみ。
御兄さんは既に御結婚されていて、側室も四人と一族の数を増やす事が求められているそうです。
前世なら「死ね!、リア充野郎!」とか嫉妬から罵倒されている所でしょうね。
俺も他人事では有りませんけど。
そういう事情が有り、姉上がマステディオさんと結婚して産んだ子供にはアイドリー家の戸籍に入る形が望ましくなる訳で。
しかし、マステディオさんには戸籍が無い。
この点に関しては「融通が利かないな!」なんて思うかもしれませんが、これも王国法の一端。
長きに渡り遵守されている事で今に繋がっている以上は簡単に例外を認可する訳にはいきません。
──という事で、形式上のみ、姉上が嫁入りして戸籍が変更される方向で進めるそうです。
姉上自身には継承権は発生しませんが、子供達が戸籍持ちとなれば継承権は発生します。
本当、ややこしい話ですよね。
「──という訳で、話が纏まったのよ
勿論、まだ色々と準備が有るから結婚は二ヶ月後と随分と先の話になるんだけどね」
「いえ、二ヶ月後なら滅茶苦茶早いですから」
「そう?」
「選定の儀とは違いますから
それに姉上って正妻として、ですよね?
その事を考えても二ヶ月後は早いです」
「そう言われると確かにそうね」
「まあ、何にしても姉上、おめでとう御座います」
「有難う、アルト、これも貴男の御陰よ
貴男がアイリーン様に御願いしてくれていなければ私達の結婚は先ず有り得なかった事だもの
本当に感謝しているわ」
「姉上が幸せに成ってくれるのなら良かったです
……因みに、ユー姉さんの方は?」
「ユーの方は相手探しの真っ最中ね
私の方が急に決まったから……どうしてもね」
「平行して遣るよりは纏まる方を先に片付けた方が効率も良いですし、注力出来ますしね
良い相手が見付かると良いですね」
「そうね……まあ、多分、大丈夫でしょう
ユーは私よりも貴族の娘らしいし、そういう感覚は私よりも優れているから
多少時間が掛かったとしても、その方が結果的には幸せな結婚に繋がる筈よ」
そう言う姉上から悲観や心配の感じはしない。
その辺りは同じ女性同士、そして姉妹だから判る感覚的な事なのかもしれません。
俺としては姉上達が幸せに成れる事を願うのみ。不幸にして泣かせていたら乗り込みますよ。
その結婚の責任の一端が俺に有る以上はね。
そんな感じで一泊した後、姉上は実家へ。
いきなりの来訪にも驚きましたが、あっさりした帰り際とかも姉上らしいですね。
話を聞く限り、マステディオさんて草食系っぽい感じなので、引っ張って行ってくれる姉上みたいなタイプと相性が良いんでしょう。
──ああ、因みにですが、マステディオさんには側室を娶る予定は有りません。
その辺りも王国法によるものなのですが。
まあ、面倒事を増やさない為なんでしょうね。
マステディオさんや姉上にとっては、結果的には好条件に働くんでしょうけど。
聞く限りではマステディオさんが肉食化するとは到底思えませんからね。
恐らく、姉上一筋な方でしょう。
俺もフォルテ一筋で行きたい所です。
「暫くは静かに暮らせると思ったけど二ヶ月後には姉上の結婚でアイドリー子爵領へか……
自分で振った話とは言え、予想外過ぎる展開だな」
「御義姉様が御幸せそうで良かったですけれど」
「それに関しては俺も良い結果だとは思うよ
でも、予想外に早く話が進んでるのがなぁ……」
「何か気掛かりな事が?」
「いや、姉上の性格と逞しさなら心配要らないよ
ただ、社交の場に出る事が面倒臭い……」
そう言うとフォルテは苦笑。
それでも小さく舌を出し、言外に「私もです」と同意の意思を示してくれる。
本当、良い奥様ですよ、フォルテさん!。
「面倒臭くても、社交も王公貴族の義務です」
「それじゃあ、メレアさんなら喜んで行くんだ?」
「私は戸籍持ちでは有りませんので」
「だから、“たられば”の話」
「私は戸籍持ちでは有りませんので」
……要するに、「考えるまでも有りません」って事なんですね?。
意訳するなら、「嫌に決まってます」ですね?。
そうなんでしょう?、ねえ?。
「それより、陛下からの御招待の件は?」
「あー……それね、どうしようか……
断れるから断りたいのが本音なんだけど……」
「アルト様の御歳で御招待される事は極めて稀です
参加したくても出来無い方の方が多いのですから」
「……つまり、大人しく参加しろと?」
「御決めになられるのはアルト様です」
くっ……気さくな敏腕メイドさんが日増しに俺に厳しく成っていってる気がするんですが?。
いやまあ、実際そうなんですけどね。
それが嫌な訳ではないので構いませんけど。
嫌~な予感がしていた陛下から書状なんですが、ラプワナロで毎年“ゼホゥの月”──前世の九月に当たる月の末に開催されている祭りが有ります。
“カルニバー秋楽祭”と呼ばれる国家行事。
所謂、収穫祭で、農作物・漁獲物がメルーディア全土から集められ、王家に献上されます。
その席に、俺とフォルテが招待された訳です。
参加出来るのは陛下から招待された夫婦三十組。毎年違う面子であり、選出は陛下達御自身が行う。その為、誰もが参席したいが出来無いのが現実。
父上からの情報によると選定の儀で結婚した年に招待された者は王族でも居ないそうです。
あの陛下って【鑑定】みたいなスキル持ってたりしませんよね?。
偶々ですよね?、バレてませんよね?。
「美味しい物を食べて、感謝して、それで終わる?
そんな気がしないのは俺だけなのかな?」
「流石にアルト様の秘密が知られている可能性は、低いとは思いますが……」
「無いとは言い切れないしなぁ……
そういったスキルが有るとしたら、王家──国王に即位した者にだけ伝えられている、みたいな可能性だって十分に考えられるしねぇ……
でも、父上達からしたら「行くよな?!」だろうし、不参加って選択肢は無いに等しいか……」
「……やはり、私が原因でしょうか……」
「いや、フォルテとの結婚が理由なら、披露宴でも陛下達は積極的に動いた筈だ
そうはしていないから、両国間の政治的な理由から招待された訳じゃないと思う」
「そうですね、寧ろ、アルト様に興味を持たれたと考える方が自然かもしれません」
「──となると、スキル絡みかな……」
「いいえ、単純にアルト様御自身の言動に対して、陛下達が興味を持たれたのだと思います」
「……え?、俺、そんなに変な事言ってた?」
「そういう事ではなく、年齢以上にしっかりとした御自身の御考えや意志を御持ちだからだと思います
普通、アルト様の御歳では、彼処まで威嚇や牽制の意図を持った言動は致しませんので」
「あー……其方かぁ……」
「まあ、アルト様の場合、変に構えないで自然体で参加された方が良いと思います
余計な意識は逆に目立ちますので」
……つまり、大人しく参加しろって訳だ。
まあ、逃げ道は無いし仕方無い。
此処は素直に楽しもう。




