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 15話裏


 私、エイラゥデラはクライスト伯爵の正妻の母の長女として生まれ、今年で十二歳になる。

 本来であれば、兄や最近結婚した実弟・アルトの様に伴侶が居るべきなのだけれど。

 私も、実妹のユーも未婚なのが現実。

 ──とは言え、王公貴族の子供の男女比が大きく偏っているという訳ではない。

 子供の数だけを見れば、寧ろ六割が男の子。

 私達の様に相手の居ない娘が居るという事自体が可笑しいとさえ言えるでしょう。


 ただ、そうなっている理由が有る訳です。

 王公貴族の社会に置いては魔力が何より求められ自身の価値を決めると言っても過言ではない。

 その魔力持ちとなると、実は男の子の八割近くが王公貴族の戸籍に入れず外れてしまう。

 結果、私達の様に女の子が余ってしまう。

 そのままだと血筋も勿体無い為、一夫多妻。

 魔力持ちの王公貴族が複数の妻を娶るのは一種の社会的な義務だとすら言えるでしょう。

 それが正しい事かどうかは別にしてもね。


 特に、魔力を持たない王女を正妻としたアルト。

 その妻となったフォルテ。

 当の二人を見ていると魔力の有無に拘る社会性が馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

 それ程に御互いを愛し、認め、支え合う姿からは悲観的な感情や雰囲気は微塵も感じられない。

 寧ろ、辛い環境で育っただろうフォルテは本当に真っ直ぐで可愛らしくて良い御嫁さん。

 見初めたアルトの見る眼も確かでしょうけれど。フォルテのアルトに対する信頼と恋愛の強さは一切疑う余地が無い程。

 同じ女性として、羨ましい程に純真無垢。

 我が弟ながら、良い娘を掴まえたものだわ。


 ただ、「アルトの立場で彼女を選べるのか?」と訊かれたら、百人が百人、無理でしょう。

 それ程に魔力主義の価値観は根深いのだから。


 そういう意味でも、フォルテがアルトを慕うのは理解出来る気がする。

 私がフォルテの立場でも幸せ過ぎるもの。

 本当、八歳を、結婚を機に人が変わったみたいに良い男に成っちゃったわね、アルトは。

 まあ、弟と結婚する訳にはいかないのだけれど。ちょっとだけ、フォルテが羨ましくもあるわ。


 そんな訳で、私もユーも頑張って相手探し。

 「誰でもいいから貰って!」とは言わないけれど気持ち的にも年齢的にも少しは焦りが有るわ。

 十五歳過ぎてからの結婚は立場が低くなる。

 本気で惚れた相手なら、気にもしないけれど。

 結婚する為の相手だと、それだと辛いわ。

 ──と言うか、私もユーも無理でしょうね。

 それなら戸籍を抹消して平民として生きるわ。

 その方が幸せな結婚が出来るでしょうから。


 まあ、この“幸せ”を何だと考えるのか。

 それにより、意見は分かれるでしょうけれど。


 それは兎も角として披露宴の賑わいは凄い。

 御兄様は跡取りだから人が集まるのは当然だけどアルトの立場でなら、これは異常だと言える。

 ただ、それも当然と言えば当然の事。

 フォルテはノーザィラス王国の王妃の娘。

 魔力主義とは言え、同じ王女でも正妻の娘という肩書きが有るだけで雲泥の差になるもの。


 事実、私達にも腹違いの兄姉弟妹は居るけれど、戸籍持ちは正妻の御母様の子供ばかり。

 これには世間を知ってから驚かされたけれど。

 御父様って凄いのか凄くないのか判らないわ。

 父親としては尊敬しているけれど。


 アルトが王女のフォルテを正妻としている事。

 それ故に、普通ではない規模になっている。

 御兄様達は色々と大変だったでしょうね。


 本日の主役である二人──特にアルトは大変ね。

 王国陛下御夫妻も御見えになるでしょうし。

 側室狙いで近付く親娘も多いでしょうから。


 尚、この側室は自国の相手である事が多いわね。御父様の側室も皆メルーディア国民。

 御兄様の側室も同様にね。

 だから、アルトにも群がってくる訳よ。

 ……本人は物凄く嫌そうだけれど。

 それも仕方が無いわよね。まだ新婚なのに側室の話をされれば不機嫌にもなるわ。

 フォルテが居るから頑張っているでしょうけど。ふふっ、そういう所も仲睦まじいわね。


 ただ、それはそれとして。

 弟達に付き添う訳でもなく、招待客に挨拶をするという訳でもない私達。

 遣る事と言えば、相手探ししかない訳で。

 最初から居て遣っていると嫌になってくるわ。

 その点、ユーは私よりも貴族向きよね。

 ちゃんと、らしく(・・・)振る舞えるから。

 私はアルトと同じで油断すると素が出るもの。


 だから、こうして気分転換する事が必要。

 会場の喧騒から離れ、庭で静かに涼む。

 実家よりも北に有る王都は夜が涼しいから。

 少し風が有るだけで体感的には大きな違いよね。


 ──と、月明かりの中に人影が見えた。同じ様に外に出て来ている人が居ても不思議ではないけれど此処は会場からは回り道をしないと来れない。

 そう考えると身内の可能性が高いのだけれど……今、会場から離れるのはアルトでもしない事。

 そうなると心当たりが無くなってしまう。


 丁度、雲が流れ、月が暗がりに居た私を照らす。

 私に気付き立ち止まったまま茫然としているのは歳の近そうな男性。身形からして参加者でしょう。



「初めまして、私はエイラゥデラ・ヴァイツェル・フォン・クライストです」


「──っ!?、し、失礼致しました!

わ、私はマ、マステディオと申します!」



 私の挨拶に慌てながら姿勢を正し、答える男性。その様子が少し可愛らしくて笑いそうになります。

 ただ、それよりも気になった事が一つ。

 私が正式に名乗った事に対し、彼は名前だけ。

 この場合、余程有名な相手──此方等が名を知る相手でなければ、同じ様に名乗り返すのがマナー。そうしないという事は、平民(・・)を意味します。

 今日の披露宴に参加する平民は、我が家の関係者以外は一切居ません。

 招待客は全て王公貴族の戸籍持ちです。


 なので、彼が何者なのか。気にするのは当然。

 それを察したのか、彼は慌てて頭を下げた。



「も、申し訳御座いません!

私はアイドリー子爵家の者で本日は祖母──いえ、アイリーン様に御付き添いして参りました!

そのっ、少し夜風に当たろうと外に出る道を探して歩いていましたら此方等に……」


「あら、そうでしたか、それは運が良いですね

此処は一番心地好く夜風が感じられる場所です

家の者でも中々知らないのですよ?」


「そ、そうなのですか……」



 邪魔をしている可能性を考えているのでしょう。彼は居心地が悪そうにしています。

 しかし、此方等が何も言わないのに彼から直ぐに立ち去るのは失礼ですからね。

 葛藤している、という訳。

 その様子が面白いから、暫く見ていたいわね。

 ──とは言え、彼は気に事も言っていた。



「マステディオさん、貴男はアイリーン様の?」


「ぁ……はい、その……孫になります

私は魔力評価が無空なので戸籍は有りません」



 そう何処か諦めた様な苦笑をする彼。

 でも、成る程。そういう事なら仕方が無いわね。


 王公貴族の中でも魔力が無くても戸籍が有るのはフォルテの様に基本的に王女のみ。

 それは血統と政治的な価値が王女には有る為。

 逆に王子は魔力が無ければ王子には成れません。戸籍も地位も一切与えられはしません。

 そこまで王家が厳格にし、徹底しているからこそ下の者も倣い、遵守する訳ですから。


 如何に直系の孫であろうとも魔力を持たない者は戸籍を与えられませんから名乗る資格も無い。

 だから、彼が名前しか名乗らなかったのは必然。

 それが正しいマナーなのですから。



「披露宴に参加しているという事は相手探しを?

それとも御結婚されているのですか?」


「い、いえっ、()なんて全然ですから!

結婚も出来るか判りませんし、相手探しも……」



 ふむ、一人称は僕、と。

 一番、振られたくはない話題に彼の素が出る。

 私の個人的な見解では、一人称が僕の男性達には自信が無いか、虚栄心の強い人が多い印象。

 あと、親離れ出来ていない人もね。

 勿論、全員がそうではないのだけれど。

 飽く迄も、私の個人的な印象では、という話。


 ただ、何にしても根底に有るのは劣等感。

 そして、その気持ちは私にも理解が出来るわ。

 私の場合、家族や環境に恵まれているから大して気にし過ぎる事無く、こうして居られるけれど。


 初めて会った時のフォルテは痛々しかった。

 それでもアルトの存在が彼女を確かに変えた。

 アルトにしても同じなのでしょうけれど。

 僅か数ヶ月で、こんなにも変わるものなのだと。感心せずには居られなかったわ。

 可愛い義妹の幸せ一杯な笑顔は魅力満点。

 アルトが大切にしくなるのも頷けるもの。

 ──って、今は関係の無い話よね。


 ただまあ、誰しもが大なり小なりの劣等感を持ちながら生きている、という事は確か。

 それ故に、人の差は、覚悟や意志の強さの現れ。そう私は考えているわ。



「将来はどうなさる御予定ですか?」


「え~と……その、出来るなら、国や民の為になる仕事をしたいと思っています

具体的には昨今、王国でも問題視されている作物の出来が安定しない事に関して携わりたいと

天候等に左右される事は仕方有りませんが、其処を解決しないと孰れは貧窮する事に繋がります

動ける内に動き出さなくてては手遅れです

だからこそ、今が大事な決断の時だと思います

──と言うのは口が過ぎますけどね、ははっ……」


「あら、何故です?」


「ははっ………………ぇ?」


「高い目標、大きな志を持つのは良い事です

そして、その実現の為に努力する方を、どういった立場であろうとも、私は笑ったりはしません

そう出来るだけの意志の強さが有ればこそ

その方を、私は心から尊敬します」


「………………」



 驚いている彼を見詰めながら、私は思う。

 父や兄、そして弟の様に。

 愛に生きる、というのは大変な事ですから。

 口にはしませんが、素直に尊敬しています。

 勿論、御母様や御義姉様、義妹(フォルテ)の事もです。

 だからこそ、何か一つで構いません。

 誰かの為に真剣になり、尽力出来る事。

 それは本当に凄い事であり、素晴らしい事です。

 それが愛であろうと、社会貢献であろうと。

 その違いは些細な事でしか有りません。

 大切なのは、その想いを実行に移せるか否か。

 ただそれだけなのですか。



「少し御話しを聞いただけですが、貴男には貴男の考えで目指し、歩んでいる道が有る

それを、はっきりと感じる事が出来ます

それは貴男の意志が、きちんと実を伴っているから

口先だけではなく、努力し、歩んでいるから

その方の歩みを、私は侮辱する事は有りません」


「………………──っ、あ、有難う御座いますっ」


「此方等こそ、御話を御聞き出来て良かったです

魔力の有無が全てとされるのが私達の社会ですが、日々の生活を支えているのは魔力の無い人々です

だからこそ、貴男の様な方の存在は重要です

近い将来、貴男が国と民を救う時が来たなら、私は今日の出会いを誇りに思います

それは決して平坦な道では無いでしょう

それでも、諦めず、頑張って下さい

その一歩は確かな一歩で、前に進んでいます

道を諦めない限り、可能性は有るものですから」



 そう伝えると──何故か泣かれてしまいました。ええ、私としても吃驚の反応です。

 普通、遣る気を見せる所よね?。


 同い年以上の男性が、本気で泣いている姿を見る事は初めての経験で。

 私も戸惑っていたのは仕方が有りません。

 ただ、抱き締めたのは軽率だったかしら。

 何と無く、アルトとフォルテの関係が思い浮かび遣ってしまったのだけれど。

 これって、立場的には逆よね?。

 私が泣いて、彼が抱き締める所よね?。

 遣ってしまった事は仕方が無いけれど。


 取り敢えず、人目に付かない場所で良かったわ。

 彼の立場が悪くなるでしょうから。

 こういった時に程、魔力社会の価値観が鬱陶しく思う事は無いもの。



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