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14話 母姉


 実家で一泊し、翌朝、王都に向けて出発。

 先のセントランディ王国に向かった時と同様に、ラプワナロまで行きます。

 其処から王都までは馬車で二日──二泊三日。

 地図で見ると、本邸から王都までは三泊四日程の距離に有るんですが、中央にメディット山が有り、越えても迂回しても日数が掛かります。

 その為、海路を使う方が早かったりします。


 また、メルーディア王国──クライスト伯爵領の略真南から流れ込み東西に分かれて行くコルド海流は潮の流れが東のラプワナロ沖までは早く、その後は緩やかに為ります。

 その為、リフシェからラプワナロまでは半日程。帰りは北東からの風に乗る為、一日と早い。

 大陸でも屈指の高速海路だったりします。


 尚、ラプワナロから王都までは早馬で一日有れば着く距離だったりします。

 それを態々、二泊三日も掛けるのは、王公貴族が宿泊する事により各地の経済に貢献する為であり、行動の余裕を以て、心に余裕を生んだり、民に対し寛大な印象を与え易くする為だそうです。

 経済効果は理解出来ますが、余裕の件って結局は個人個人の器量・言動に因る事ですからね。正直、実際に効果が有るのかは怪しい所ですけど。


 フォルテ達もラプワナロからクライスト家までの道程は二回目なので落ち着いたもので。

 緊張感が薄れている分、持ち前の好奇心から色々気になっている様で楽しんでいます。

 母上や姉上達も一緒なので賑やかですしね。


 ラプワナロから王都までは王家の直轄地であり、街道整備も進んでおり、安全性も確か。

 街道も土ではなく砂利や石畳なので馬車の揺れも少なくて、かなり快適です。

 ……唯一、話題の雲行き以外は。



「──貴女達もアルトの様に、長い人生を共にする良い相手を見付けないといけませんよ」



 母上に悪気は無い。他意も無い。だから困る。

 姉上達は自分の状況を理解しているから、一緒に披露宴に行き、婚活(・・)する予定。

 それは母上も判っているし、激励の意味でなのも判りはしますが。俺とフォルテの立場が……ね。

 フォルテが珍しく表情を固くしています。



「もぅ……御母様、そういう事はアルト達が居ない時にして下さい、二人が困っているわ」


「そうですよ、御母様

それに、御母様達も御兄様達もアルト達も御互いに惹かれ合って今が有るのですから

その時が来れば、です」


「あら……そうですね、御免なさい、二人共」


「いえ、御気になさらずに

それよりも、姉上達は結婚相手に対して何か理想や希望する事は有りますか?」



 姉上達が気分を悪くせず、寧ろ窘めてくれたので変な空気になる前に話題を逸らしに掛かる。

 普通に考えれば、そういう話はしないのだけど。宅の家族は意外と平気でしています。

 だから、ちょっと無神経に聞こえる話題ですが、こうして振る事が出来ます。

 当然、他所で遣ったら大顰蹙・大不評物です。



「そうですね……私は逞しい方が良いですね

どんな苦境でも生き抜く強さは大事ですから」


「“ユー”は筋肉が有れば良んでしょ?」


「失礼ですね、姉様、そんな事は有りません

私、脳筋(・・)は嫌いです

抑、生き抜く強さとはズレていますから」



 そう言い切るのは下の姉のユージェニー。ユーが愛称で筋肉フェチなのは自他共に認める所。

 しかし、本人が言う様に筋肉が有れば良いというタイプでは有りません。

 ただ、鍛えて痩せた俺に記憶に無い位に積極的なスキンシップをしてきていましたが。

 アレは飽く迄も姉弟の親愛の情からですよね?。

 訊けませんし、訊きませんし、考えませんけど。



「そう言う“エイラ”はどうなのかしら?」


「私は御互いに必要だと思えれば、それでいいわ

勿論、見た目や能力も有るなら高評価だけれど

それに拘る気は無いもの

何だったら、私が養ってみせるわ」



 そんな男前な発言をした上の姉のエイラゥデラ。エイラが愛称で姉御肌なんです。だから、メイドの中には姉上のファンも居るとか居ないとか。

 女子校だったら絶対にモテるタイプです。

 そして、素直に「この人が姉で良かった」と思う頼り甲斐が有る姉上なんですよ。

 メレアさんに似た雰囲気が有るので、フォルテを盗られないかは心配ですけどね。

 姉上の場合は無自覚でしょうから。


 ──とまあ、そんな感じで難所を乗り切り。

 他には特に問題も無く、四日目も無事に到着。

 明日には王都に入る事になります。

 今日は王都の手前、タギトリスで宿泊。

 しかし、まだ日差しは強く、夕暮れにも早いのでフォルテと二人で街へ。

 街ぶらデートをしようと思います。

 まあ、まだ子供なので母上から御小遣いを貰ってというのが格好悪いと言うか微笑ましいと言うか。個人的には微妙な心境だったりしますけどね。


 別邸の周辺が自分達の生活圏の為、普段こうして前世のデートっぽい事は滅多に有りません。

 以前の山での散策みたいな事は遣ってますけど、遣らかしたから中々二人きりで、とは行かず。

 それでも、それはそれで楽しんでいますけど。

 偶にはフォルテと二人きりで、という訳です。

 服装も普段着を持って来てましたからね。パッと見では大きな商家の子供、という感じでしょう。

 王公貴族は、それっぼい服装ですから、素人でも一目で見分けが付きます

 だからこそ、こうして御忍び(・・・)デートも可能。

 まあ、大抵は堂々とデートしているそうですが。

 俺達は目立ちたくは有りませんからね。こうして普通に振る舞える方が良いんです。


 因みに、出掛け際の「御自重して下さい」という無言の圧を纏うメレアさんの視線は仕方無いです。でも、そこまで俺達も羽目を外しはしませんよ。



「アルト様、此方等も美味しいですよ」


「どれどれ、あ~ん……んっ、確かに上手いな」


街で一番人気(・・・・・・)というのも判りますね」



 そう屈託の無い純真な笑顔で言うフォルテ。

 俺は何も言わず、笑顔を向ける事しか出来無い。

 何故なら、そんなのは商売の常套句で、よく有るキャッチフレーズなんだから。

 事の真偽を追及すれば、「これは当店にしかない商品だから、間違い無く一番人気です」等と。

 そんな屁理屈を捏ねて誤魔化すだけ。

 それは事実としては間違い無い。だから、確かに嘘は言ってはいない事になる。

 ただ、商売として態々、「この街には当店以外に扱っていませんから、一番人気です」等と。

 そんな馬鹿正直な売り文句を使う商人は居ない。基本的に商人とは、売る為に工夫するものです。

 だから、何も可笑しな話では有りません。


 ただ、フォルテの目を見て、真実は言えない。

 折角のデートに、楽しい一時に。

 水を差す様な不粋な真似は出来ませんから。

 だから、其処の店主。罪悪感が有るなら、謝罪の意味も込めて何かサービスしなさい。

 純真無垢な少女を謀った償いとして。


 ──という俺の無言の笑顔の圧力が効いたのか。店主は本当にサービスしてくれました。

 まあ、本当にフォルテの反応に対して、罪悪感を感じたんでしょうけどね。

 それで、めげない・懲りない・正さないのが商人という生き物だったりもしますから。

 明日には忘れて元気に商売している事でしょう。


 そんな裏事情をフォルテが知る必要は無く。

 楽しいデートは順調。母上達への御土産も買い、そろそろ帰ろうかな、と考えていた時でした。

 目の前で女性が躓く様に転けました。



「大丈夫ですかっ?!」


「え、ええ、大丈夫よ、少し躓いただけで……」



 反射的に駆け寄った俺達。

 茶色味の有る金髪の女性──四十代前半位だろう彼女は笑顔を見せて立とうとするが、力が入らない様で膝から崩れ落ちる。

 それを地面に落ちる前に抱き止める。

 その瞬間、女性の顔色と呼吸の感じから思い付く症状が有り、直ぐに抱き上げた。

 流石に八歳の子供に抱えられるとは思いもしない事だろう女性は驚いていたが、今は無視する。

 周囲を見回し、良さそうな場所を見付け、移動。

 山の木々とは違い手入れされた街中の木だけど、古木の様で立派な幹枝は頼もしく見える。

 そして、その影の濃さが何よりも意味を持つ。

 綺麗に整形された石を積んで組まれた縁石の上に仰向け寝かせ、木陰から適当な大きさの石を探す。

 見付けた石を服で拭き、女性の両脇に差し込み、ハンカチを被せた石を首の下に置く。

 フォルテに持っていた手製の扇子を使って女性を扇いで貰い、その間に俺は水を探す。

 「宅なら“水ーちゃん”が有るのに!」といった愚痴は飲み込み、買い食いした店を見付け、コップ一杯程の飲用水を分けて貰って戻る。


 それから、“何か有った時の為セット”の入ったウエストポーチから丸薬の入った小瓶を取り出す。

 普段、フォルテ達と山に入る事も多い。

 その為、こういう事も想定し、作った物。

 脱水症状(・・・・)が出た時の応急処置。

 水に溶かすだけの、即席なんちゃって経口水。

 要は、スポーツドリンク擬きです。


 それを少しずつ女性に飲ませ、フォルテと交代し扇子で仰ぎ、温もった石を冷たい石と交換。

 他愛無い会話をしながら、色々不安だろう女性の気持ちにも配慮します。


 そんなこんなで──約1時間程。

 女性の容態も落ち着き、一安心した。

 其処に見計らった様に「奥様っ!」と息を乱して駆け寄ってきた女性よりは一回りは上だろう男性。

 身形からして使用人っぼい。


 それから起き上がった女性に御礼を言われ、一応注意事項を伝えて、二人と別れた。



「商家の方でしょうか?」


「そうだね、その可能性が高いと思うよ」



 宿に帰りながら、そうフォルテと話す。

 女性は勿論、使用人らしき男性も雰囲気や言動に窺える品の良さ等から考えても、かなりの力が有る豪商辺りの奥さんでしょうね。

 少なくとも、着ている服装からは貴族感を感じる事は有りませんでした。

 王公貴族って服装で判りますからね。



「……ぁ……アルト様、どうしましょうか……」


「ん?、何を……って、あ~……忘れてたな……」



 フォルテの呟きに顔を向け、その視線を辿って、自分の服を見て、思い出した。

 冷やす為に使った石の泥を拭うのに服で拭いた。

 流石にフォルテにはさせなかったけど。

 俺の方は汚れが畑仕事の後みたいだった。


 母上達はいい、多少の小言で済むでしょう。

 しかし、クーリエさんが怒る。滅茶苦茶怒る。

 基本的には優しい彼女だが、事、洗濯物にだけは滅茶苦茶厳しいし、妥協しないんですよ。

 俺とフォルテは勿論、時にはメレアさんでさえも怒られる事が有りますからね。


 宿に泊まる為、洗濯物は後回しが基本。

 魔法の道具袋に入れて置いて洗濯は帰ってから。それが王公貴族の常識だったりします。

 ですが、クーリエさんは違います。

 早く落とさないと赦せない彼女は必ず宿に頼んで水場を借りて洗濯するでしょう。

 何しろ、愛用の洗濯道具一式を、魔法の道具袋に入れて持って来ている位ですから。

 「帰ってから」は通用しません。

 はぁ……覚悟しましょうか。

 フォルテに手を握られて宿に戻る俺は、牧場から売られてゆく仔牛の様に見える事でしょう。




 翌日、特に何も無く昼前には、王都メルザントに到着しました。ええ、今日は(・・・)平穏です。

 初めてとなる王都の別邸は、俺達が暮らしている別邸とは大きさが段違い。正しく別邸です。

 出迎えてくれたのは執事やメイドではなく笑顔の父上で、一言言った後──母上と抱き合う。

 そのまま見詰め合い堂々とキスをする両親。

 それを見て、この両親の血を俺は引いている事を否応無しに理解する。イチャついて何が悪い。

 ただ、キスまでは出来ませんけどね。


 兄上達に促され、姉上達は笑顔でスルー。

 メレアさん達も当然スルー。クーリエさんだけは気にしていましたが。その辺りは仕方無い事。

 俺達も、二人の空間でイチャつく二人を放置して別邸に入る事にします。長くなりそうなので。



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