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13話 慣習


 俺達が結婚し、別邸での生活を始めてから季節は夏真っ只中、暑さが厳しい日が続く今日この頃。

 それでも別邸の有る場所は比較的涼しく、前世の同時期に比べれば増し。エアコンも要りません。

 それでも暑いものは暑いんですけどね。


 そんな中、二週間程前にフォルテの嫁入り道具が漸く到着しました。まあ、空路──飛行機の類いは有りませんからね。必然的に運搬は陸路・海路に。距離も有りますし、それは仕方有りません。

 ただ、時間が掛かっているだけあって豪華絢爛。使われている素材は勿論、製作に携わった職人達の腕前の高さも細部にまで丁寧に造り込まれた装飾や使い易さから窺えます。

 今は勿論、成長しても使い易くなる様にと考えた王家の伝統的な形なんだそうです。

 つまり、王家御抱えの職人達さんにしか造る事が許されていないし、出来無い訳ですから。

 一から造り始めれば時間も掛かりますよね。


 フォルテやクーリエさんからすると、訳有り(・・・)でも一国の王女が正妻として嫁ぐ訳で。

 降家だし、嫡男でもない相手だろうが。

 対外的に体裁を整えなくてはならない。

 フォルテ自身、正妻──王妃の娘ですからね。

 その立場を軽んじれば、自ら王族・王家の価値を下げる事になりますので出来ません。

 そういった事情から、準備には相応の時間が。

 有力視されていれば事前に準備されていますが、フォルテは違いましたからね。

 寧ろ、全てを最優先させて準備したのだろう事が窺えるそうです。


 中には調理用の魔道具“コンロ”が有りました。名前が正面だった事に安堵したのは内緒です。

 これは王家からの感謝の品なんだそうです。

 王公貴族にとっては魔力が何よりも重んじられ、魔力が存在価値を決める訳です。

 だから、魔力評価が無空のフォルテを正妻として迎えるという事は普通は有り得ません。

 それ故の感謝、という事らしいです。


 尚、そうして贈られた魔道具を売ったりしたら、その王家に対する反意と見なされ攻撃されます。

 物理的に、という意味でだけではなく、経済的に政治的に社会的に、と。

 まあ、一種の横流し防止策なんでしょうけどね。


 因みに、その慣習は伯爵以下には無関係ですし、正妻の娘にしか適用されないそうです。

 その辺りにも魔力主義が窺えますよね~。


 ──とまあ、そんな事も有りまして、新婚生活も四ヶ月目に入った頃、実家から手紙が届きました。

 まあ、手紙と言うよりか、書状ですけどね。

 それは俺達の結婚式──披露宴の開催の事。

 要は御披露目パーティーなんですけどね。


 決して、忘れていた訳では有りません。

 ただ、俺もフォルテも貴族社会から離れた生活が物凄く性に合っていると言えますので。

 日々が楽しくて充実していたので、そういう貴族社会のイベントに疎くなっているだけです。

 ええ、二人して「あ、あー……」な反応でした。

 メレアさん達に呆れられても仕方有りません。

 だって、積極的に関わる気が有りませんから。

 俺とフォルテ、メレアさん達が問題無く、普通に生活出来さえすれば良いんで。



「こんな感じで良いかな?」


「……え~と……その…………」


「……はぁ……アルト様、もう少し自然に」


「自然にすると、こうなる」


「それは笑顔ではなく、不機嫌な顔です」


「……貴族って難しいな」



 「スマイルはプライスレス」って、よく考えると凄いフレーズですよね。

 “愛想笑い”もそうですが、此方等は字の割りに良いイメージは持たれません。

 ただ何方等も凄いと思いますよ。

 誰が相手でも笑顔で対応するのって。

 俺なんて今は無理ですから。前世や転生直後なら普通に出来ていた事が僅か数ヶ月で不可能に。

 本当、人体って不思議ですよね~。


 何を遣っているかと言うと、笑顔の訓練です。

 「有りの侭の自分で在ろう」とフォルテに言った以上は俺も嘘偽り無く生きようと思います。

 実際、普段は嘘偽り無い生活をしていますから。まあ、隠し事・秘密は有りますけどね。

 フォルテ達との生活に見栄や強がりは不要なので御互いに頼り、支え合い、笑い合えています。

 ただ、その結果がコレです。

 解放された本音を抑え切れなくなりました。

 我慢するのって社会では大切な事ですけど。

 そういう意味の自制心は働いています。

 ただ人間関係に関しては、無頓着になっただけ。


 尚、フォルテも女性という生き物なんですね。

 切り替えや使い分けが普通に出来ています。



「まあ、何とかなるよ、多分」


「事、こればかりは不安が拭えません」


「大丈夫、俺自身もだから」


「止めて下さい、尚更に不安ですから」



 そんな軽口で話せる主従は滅多に居ないと思う。それだけ、本来は厳格な関係になるのだから。

 フォルテもクーリエさんも苦笑するだけ。

 別邸で暮らし始めた頃のクーリエさんだったら、おろおろしている所でしょう。

 それが、コレですからね。人の適応力って本当に凄い能力だと思います。


 そんな他愛無い事を話している内に、乗っていた馬車は久し振りの本邸──実家へと到着しました。

 ただ、実家で開催する訳では有りません。

 別邸でも遣れない事は有りませんが、その場合は滅茶滅茶参加者を絞って身内規模になります。

 実際には、社交の場なので規模も大きいそうで。披露宴も実家ではなく王都の別邸で行うのだとか。王都にも別邸が有るのって初耳ですけど。

 フォルテ達が驚きもしないから、それが此処では常識であり、普通の事なんでしょうね。


 出迎えてくれた執事・メイド・騎士の皆さん。

 何故、俺を二度見・三度見してるんですか?。

 言いたい事が有るなら、はっきりと。

 ちゃんと聞いてあげますから。


 不機嫌さは飲み込み、母上と姉上達の所へ。

 尚、父上と兄上夫婦は一足先に披露宴の準備と、招待客の選定の為に王都入りしているそうです。

 そういう仕事は当主の役目で、兄上達は手伝いをしながら学ぶ為だとか。大変ですね。

 母上達は俺達と一緒に向かうそうです。


 母上達の居る部屋の扉を開けて貰い、中へ。

 王公貴族って一々仰々しいですよね。



「御久し振りです、母上、姉上」


「元気でした、か……アルト?、アルトなの?

大丈夫?、何処か具合が悪い様なら言いなさい

直ぐに医者を呼んで貰いますから」



 挨拶した俺を見て、母上が直ぐに駆け寄った。

 伯爵夫人ではなく、母親として。

 それは直ぐに判りましたが……母上もですか。

 俺が痩せたのは、そんなに不自然ですか?。

 嫁も貰えば、少しは色気付くものでしょうっ!。



「はぁ……母上、痩せたのは健康の為です

妻のフォルテを、仕える二人の生活を背負う以上、自堕落な生活は送れません

その為に、身体を鍛えて痩せただけです

病気等では有りませんから心配無用です

寧ろ、体調は以前よりも良いですから」


「………………フォルテさん、有難うっ……」



 俺の言葉に呆然とした後、涙ながらにフォルテを抱き締めて感謝するって……喧嘩売ってます?。

 母上?、それは以前の俺に対する嫌味ですか?。俺自身、八歳児にしては危険だと思いましたけど。危惧していたなら、対処して下さいよ。


 そんな「不満です」と言う視線を母上に向ければ此方等を見ていたフォルテが苦笑。

 姉上達を見ても苦笑していました。


 まあ、フォルテとの結婚を機に俺が変わった様に見えるでしょうから、仕方有りませんが。

 その言動は如何に親子でも酷くないですかね?。そんな風に育てたのは貴女方ですよ?。

 ──という愚痴は思っても言いません。

 親子関係を険悪にするつもりも有りませんしね。何だかんだで良い両親・兄姉ですから。


 挨拶を簡単に済ませたら俺は本邸の中を徘徊。

 間違ってはいないけど、徘徊って言うと印象的に悪い気がするのは使われ方なんでしょうね。


 フォルテは母上達と、メレアさん達はメイド会。うん、見たい聞きたい、でも怖い会ですよね。



「……やっぱり、増えてるなぁ……」



 当然だが、魔道具は別邸よりも本邸の方が多い。だから、それを目当てに動き回ってるんですが。

 本当に製作可能品が増えたのは想定内ですけど、悩みの種を増やす事にも為りました。

 スキルを使わなきゃバレませんけど。


 ただ、それが目的のメインでは有りません。

 魔道具の確認は飽く迄も事の序でです。

 ゲームでは【鑑定】が有って大助かりでしたが、現実には存在するかどうかも判りません。

 ただ、それなら世の人々は、手に入れた魔道具や素材等を如何にして判別しているのか。

 その答えが、【アナライズ】の魔法(・・)です。

 詳細に、というよりも、簡易鑑定の魔法です。

 ただ、それで名称・分類・効果は判ります。

 ゲームの鑑定みたいに補足解説は有りませんが、それで十分と言えば十分。


 そして、この魔法を覚える事が俺の目的です。


 本来なら、洗礼式を受けてからでなければ魔法の習得は出来無いとされています。

 しかし、それはスキルにも言える事。

 イレギュラーなケースだったとは言え、こうして俺はスキルを獲得した訳ですから。

 魔法も習得出来る可能性は有ります。

 其処で、実家の書庫に再び御邪魔します。


 スキルは“獲得”で、魔法は“習得”。

 この違いは、魔法は魔導書を介して理解と練習で身に付ける技術(・・)とされている為です。

 勿論、魔法の習得にも適性等の条件が有ります。だから、必ずしも誰もが望む魔法を習得出来るとは限りません。その辺りは運ですね。


 魔導書もモンスター関連の本と同様に、洗礼式を済ませていなければ開く事は出来ません。

 ただ、洗礼式前でもスキルを獲得している俺は、例外である可能性が有りますから。

 出来無くても問題は無いですし、それが出来たらラッキーという事で。いざ、実践!。



「…………開いちゃったなぁ……」



 【アナライズ】の習得、始めれました。

 夏だけに。いや、夏関係無いけどね。

 一先ず、魔導書を読み、棚に戻します。


 それから隣の棚に並ぶモンスターに関する情報が記載されている本を手に取り、開いてみます──が開きません。ビクともしませんけど?。

 どうやら此方は洗礼式を受けてステータスを得る事が開示条件みたいです。


 取り敢えず、実家に有る魔導書を片っ端から開き頭に叩き込んでいきます。

 父上や兄上達が不在で、執事・メイド達も一緒に出掛けていて、母上達はフォルテが引き付けてて、メイド会も開催中の今が一番怪しまれない絶好機。この機を逃す理由は有りません。

 目撃されても面倒なので速読と瞬間記憶に感謝。君達の活躍を私は永遠に忘れませんよ。これからも宜しく御願いします。


 ──という内緒の行動が有って、母上達と夕食を共にして暫しの家族団欒。

 母上にも姉上達にも御腹を触られましたが、今は摘ままれると普通に痛いだけです。

 太ってた時は摘まんでも平気だったんですが。

 人の身体って面白いですよね~。


 でもね、姉上、フォルテが顔を真っ赤にする様な何を耳許で囁いたんですか?。

 俺としては其方が気になって仕方有りません。



「──それでは、魔導書を?」


「開けたね~、自分でも吃驚

半分──いや、一割位は期待してたけど

実際にそうなると、開き直るしかなかったな~」


「まあ、実際に習得出来るのかは判りませんしね」


「そうだね、帰ったら練習も頑張らないと」


「習得出来れば歴史的な偉業に成りますね」


「そうですね、フォルテ様

アルト様の御名前は永遠に歴史に刻まれます」



 そう言って主従して浸っているフォルテ達。

 対して此方の主従は超現実的で冷めています。

 「バレたら面倒だから表に出ないけどな」と俺が視線を向ければメレアさんも頷いて同意。

 態々水を差しはしませんが。

 ある意味、門外不出の機密情報でしょう。

 メレアさん達には生涯、仕えて貰わないとね。

 その為にも色々と頑張りますか。



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