12話 発覚
突然の休養日から三日。体調は良いです。
今日も日課のランニングを終え、汗を流す。
こういう時、家に御湯の出る魔道具が有るのって便利ですし、贅沢だなって思います。
流石に朝から浸かったりはしませんけどね。
例の智求解匣の行方ですが、判らないままです。少なくとも別邸の中には有りませんし、フォルテ達も知らないでしょう。
だって、存在自体話してないんですから。
だからこそ、勝手に片付けたりはしません。
奥さんや彼女に見付かったら即捨てられてしまう類いの疚しい品という訳でも有りませんしね。
片付けた場合は必ず一言有ります。
その辺は三人共、しっかりしていますから。
記憶としては、一万問目を解いた所まで。
新たな問題が表示されなかったので、遣り切った達成感と解放感から、寝転んだ。
其処までは覚えている。
全力で集中していたからか、眠気が凄くて。
気が付いたら、メレアさんに起こされてました。
「…………いや、ちょっと待てよ、確か……」
そうだ、あの時、寝転んでウトウトし始めたら、問題が表示されていた所に鍵穴が現れたんだった。
ただ、既に集中力が切れてたし、疲労感も有って好奇心よりも眠気が勝ってて。
意識が朦朧としてた中で………………そうだ。
鍵穴の形がペンの装飾側と同じに見えたんだ。
それで差し込んで………………回した?。うん、回した。回したら、カチって音がして。
………………そうだ、開いたんだ。智求解匣が。
そうしたら中から、何て言うか……光る玉がね。そう、光球が出てきたんですよ、確か。
その後は…………記憶に御座いません。
……あ、でも、そう言えば、何か声が聞こえてた様な気がする……様な……何だっけ?。
「………………ま、ま、ま~……魔?、魔道具?、あっ、そうそう、【魔道具創造】だ────ぇ?」
微かに記憶の海に漂っていた欠片を掬い上げて、それを口に出した瞬間でした。
視界に、ウインドウが現れました。
半透明な、見覚え──と言うか、馴染みの有る、ゲームのウインドウ画面。
それが、目の前に出現した。
使っているのがシャワーだったら暫く頭から被り続けていたかもしれません。
御湯じゃなく水を溜めてたから、溜まって溢れた水の冷たさで我に返り、慌てて止めましたが。
取り敢えず、水で顔を洗います。
ウインドウは掌で端を押す様にして横に退けたら移動してくれました。有難う御座います。
──とは言え、風呂場で、しかも朝食前です。
落ち着いて確認も出来ません。
だから、一旦消してみようと試み、取り敢えず、声で命じてみようと思います。
「ウインドウ・オフ?、ウインドウ・クローズ?、ウインドウ・ダウン?、ウインドウ・デ──は駄目危ない危ない、違う意味で消えたら勿体無い……
ウインドウが余計なのかな?
オフ、クローズ、ダウン……でもないか~……
……スキル・オフ?──あ、消えた!
──って事は、コレ、スキルっ?!」
いやまあ、一応、ゲームのシステム的に考えてもスキルなのが妥当な訳ですけど。驚きはしますよ。
それに、こんなスキルが有るなんて知りません。
まあ、飽く迄も、ゲームでの話ですけど。
取り敢えず、もう一度ウインドウが出せるのかを確かめ、改めて閉じる。口に出さなくても閉じれるみたいですから、良かったです。
皆と朝食と畑仕事を済ませた後、俺とフォルテは日々の鍛練を、メレアさん達は仕事を終わらせて。
昼前、臨時会議を開催致します。
「唐突な質問なんだけど、メレアさん達はスキルを持ってるんだよね?」
「はい、有り触れた物ですが、幾つかは」
本当に唐突な話題だから、メレアさん達も思わず顔を見合わせていたけど、隠す様な事ではない為、内容は言わずともスキルの所持は肯定。
当然と言えば当然だけど、メレアさん達は俺達に単身付き添っているから世話役だけでなく護衛役も兼ねられるだけの実力が有ります。
つまり、ある程度の戦闘力は有る訳です。
そうなると、幾つかはスキルを所持しているのが普通だったりするそうです。
スキルの獲得には仕えている家も協力してくれるそうですからね。
スキルの有無でも立場や評価が変わりますから、獲得出来るなら獲得したいのが普通です。
勿論、皆が皆、必ず獲得出来る訳ではないから、その差が付加価値を生む訳ですけど。
「それじゃあさ、持ってるスキルの中に、目の前に文字等が並んでる画が見えたりする物は有る?」
「……いいえ、その様な物は有りません」
「そういうスキルに心当たりは?」
「…………いいえ、私は記憶に有りません」
「………………あの、確かな訳では有りませんが、一つだけ、その様な話を聞いた事は有ります」
「クーリエさん、それはどんな話なの?」
「私の亡くなった祖母は、ノーザィラスの北東部の山奥に有る小さな村の出身だったのですが、其処に古くから伝わる話で……
“その眼が映す万物の全てを知る事が出来る”と、語られていて“賢者の眼”と呼ばれていたそうです
祖母の話では、その眼が映す対象の真実──情報が目の前に示されるそうです」
「……成る程ね」
思わず、「それは【鑑定】だな」と言い掛けた。気が緩んでいたら危なかった。
【鑑定】のスキルはゲームでは、RPGパートの序盤に誰のルートでもイベントで入手出来る。
自動ではなく、隠し要素に近い為、入手出来ずに進めてしまうと後々苦労させられます。
一方、現実では【鑑定】はスキルとして世間には認知されておらず、名前も登場しません。
秘匿されている可能性は否めませんが。
少なくとも、クーリエさんの話の様に輪郭自体がぼやけた話として残る程度みたいです。
「……もしかして、そのスキルをアルト様が?」
「ごめん、勘違いさせるつもりは無かったんだけど言い方が悪かったな
そういうつもりじゃないんだ
ただ、全く無関係って訳でもないんだ」
「……と仰有いますと?」
「何かね、俺、【魔道具創造】って名前のスキルを獲得したみたいなんだよね」
「「「…………………………え?」」」
「うん、そうだよね、そうなると思うよ
俺自身、訳が判らないから」
「あの、アルト様?、それは一体……いえ、一応、名前から想像は出来るのですが……」
「メレアさん、取り敢えず落ち着こう」
「……そうですね」
メレアさんに限らず、三人が落ち着くのを御茶を飲みながら待ちます。あ~……美味しい。
少し位、現実逃避でもしないと落ち着けません。厄介で面倒な話なのは判りますからね。
しかも、智求解匣の事も話題に出来ません。
アレ自体がクライスト家の負の遺産でしたから。それで獲得出来たなんて……言えませんて。
「アルト様、それは今日の事なのですか?」
「いや、先日のぶっ倒れた日の事だよ」
「……何も伺っていませんが?」
「俺もね、今朝思い出したんだよ
当日は昼食の後、部屋でうとうとしてた時に遠くで声が聞こえてた様な気がしてたのを」
「……アルト様、それは“啓示の天声”です
スキルの獲得時等に当事者にのみ頭の中に直接語り掛けられるものです
声は人により、老若男女様々な様ですが」
「へぇ~、そうなんだ……殆んど覚えてないけど」
「……まあ、仕方が有りませんね
本来、それは洗礼式で初めて経験する事ですから」
「そうなんだ」
「はい、洗礼式の際は祝音とされています」
一応、本で読んでいたから用語としては判る。
ただ、未経験だし、実感が無いのが本音です。
だって、寝落ち寸前の時の事なんだもん。
少しでも覚えてた自分を褒めてあげたい位です。普通なら思い出しもしませんよ。
まあ、洗礼式を終えたら、判るでしょうけど。
ステータスを見られますから。
そんな風に他人事みたいに考えていたら、高鳴る気持ちを抑える様にフォルテが訊ねてくる。
そうだよね~、好奇心を擽られるよね。
「アルト様、それは魔道具を造れるのですか?」
「ちょっと待って……うん、多分、そうだと思う」
「アルト様、多分とはどういう事なのでしょう?」
「スキルを使用すると先ず最初に何を製作するのか選択・決定する様に求められるんだ」
「つまり、製作可能な魔道具の一覧表の様な物が、アルト様の目には見えている訳ですか?」
「そうなるんだろうね
今、此処に半透明な書類みたいな感じで浮いてるんだけど……皆には見えてないんだね」
「スキルは個々に与えられる物ですから……
それで、今、アルト様が製作可能な物は?」
「ちょっと待って、え~と……………………」
「……アルト様?」
「……御湯と水、トイレ、道具袋とランプだね
多分、俺が直接見たか、触れたか、使用したか
その辺りが一覧表に表示される条件なんだと思う」
「何か気になる事でも?」
「各魔道具の正式名称って知ってる?」
「……聞いた事も有りませんが……まさか?」
「“湯ーちゃん”に“水ーちゃん”……
“スイッレット”って出てるんだよね」
「「「………………」」」
あんまりな正式名称に唖然とする三人。
俺のセンスじゃないのに、俺がスベったみたいで物凄い不本意なんですけど。
──と言うか、これって一種の特許登録な訳?。
だから、最初の登録名が今でも有効とか。
そうだとしたら、これらの製作者って智求解匣の製作者と多分、同一人物だよね?。
そう考えると、俺がスキルを獲得したのも一万問解いたからって一応の説明が付くから。
変な雰囲気の中、フォルテが空気を読んで提案。その健気さに涙が出そうです。
「と、取り敢えず、凄い事ですよね!
アルト様、何か製作されてみては如何でしょう?」
「そうしたいんだけど……材料が無い」
「材料、ですか?」
「製作する物を選んだら、材料──素材かな?
幾つかの名称と数が表示されたんだ
その辺りは詳しくは判らないけど……
多分、モンスターから得られる物や、ダンジョンで入手する物なんだと思う
唯一判るのが“魔石”だからね」
「そういう事なら仕方有りませんね
モンスターやダンジョン等に関連する詳細な情報の多くは洗礼式を終えてからでないと閲覧制限が有り見る事が出来ませんので」
「あー……あの何をしても開かない本か……」
「危険だから、という事も有りますが……
それは一覧表には入っていないのですね」
「多分、それは条件が厳しいんだと思うよ」
「アルト様、どうされるのですか?」
「どうって……あー、そっか、こんなスキルを俺が持ってると知られたら御家騒動になるなぁ……」
「寧ろ、王女様との縁談が出てきますね」
「もうしてるけど?」
「フォルテ様ではなく、メルーディアの、です
判ってらっしゃいますよね?」
「考えたくないけどねー」
「まあ、確実に紐付きでしょうから」
「メ、メレアさん、それは流石に……」
「大丈夫です、アルト様にしか言いませんから」
「それ、大丈夫なんでしょうか……」
「試してみたい気持ちは有るけど、その所為で色々目立っても面倒だし、当分は無視かな
試すにしても、せめて洗礼式を終えてからだね」
「それが良いでしょうね」
「……ですが、宜しいのですか?」
「俺の正妻はフォルテだし、フォルテ以外を正妻に迎えるつもりは無い」
「アルト様……」
主導権を握れる政略結婚は美味しい話です。
しかし、柵は面倒ですし、蜜に集ってくる連中が鬱陶しいので御免です。
俺達は結婚はしましたが、まだ結婚式──周囲に顔見せとなる披露宴をしていません。
だから、今だと捩じ込まれ兼ねないので。
そんな真似はさせません。
メレアさん達も今は俺達夫婦に仕える身ですから俺達の意思と幸せを第一に考えてくれますからね。
情報漏洩の心配は有りません。




