11話 休養
俺にとって、この世界は前世のゲームの世界で。幾つもの類似点から考えても、ゲームの中に入って生きているかの様な感覚になるのも仕方が無い事。
ただ、ゲームの様に“遣り直し”が出来るとは、微塵も考えてはいない。
少なくとも現状では死者を甦らせる事は不可能。
未知の部分も有るので、絶対とは言いません。
何しろ、ゲームでもRPGパートの中盤から稀に蘇生アイテムが手に入る様に為りますからね。
その可能性が有る以上、絶対とは思いまそん。
ただ、今の所、得た情報では伝説か創作とされる存在でしか有りませんけどね。
しかし、それは飽く迄もゲーム基準の話。
こうして一つの命として生きている今、他人事の様な感覚で生きていけるとは思っていません。
だから、一生懸命になるのは当然の話です。
さて、そんな世界の摩訶不思議の一つ。
それが、“ステータス”の存在です。
ゲームでは普通に有る要素ですが、現実的な事を加味して考えたなら、可笑しな事です。
生まれた瞬間から、誰しもが自分のステータスを把握する事が出来るのなら、可笑しく有りません。
しかし、ステータスは十歳になり、“洗礼式”を経て初めて把握する事が出来る様になるそうです。
その十歳って基準の根拠は何なんですか?。
まあ、同じ疑問を持った方は過去、沢山居た様で色々と試してみたそうですが。どうしても、十歳に成らないとステータスは発現しないそうです。
尚、十歳を越えていれば、洗礼式さえ済ませれば誰でもステータスが発現するそうです。
本当に、どんな条件付けなんでしょうね。
そんな愚痴は兎も角として。
ステータス関連の研究・解説の本を読んでみて、不思議に思った事が一つ。
それは“スキル”に関する事。
ゲームでは、謂わば戦闘技能や必殺技等の意味で設定されていたスキルなんですが。
現実では別の要素も加わっているみたいです。
【暗視】というスキルが有りますが、ゲームでは暗闇のマップが見える様になるだけでした。
所が、現実では“夜目”に近くて、暗闇の中でも通常と変わらず視界が利くという事。勿論、暗闇の度合いによっては見え辛く為るそうですが。
他にも、ゲームには存在しなかった効果として、視覚を封じられる状態異常の一つである[暗闇]に対する耐性・無効化の効力も持ちます。
こんな感じで、ゲームとは仕様が異なるスキルは多々存在するみたいです。
ただ、これらのスキルを獲得する為には、特定の場所──ゲームでのダンジョンマップにて、各々のスキルの獲得条件を達成する必要が有ります。
この辺りは特に可笑しくはないんですが。
実は、スキルは熟練度でも獲得可能。
これはゲームでは何とも思わなかった事ですが。
効率で言えば、圧倒的に前者が良いんです。
何しろ、長い年月を掛け各国が自国内に存在するダンジョンで獲られるスキルの調査・検証がされ、マニュアル化が行われていますからね。
ステータスを獲た後、欲しいスキルを獲得をしに対象のダンジョンに挑む。
これが、世界基準の常識なんです。
また、熟練度による獲得は個人差が有りますから指標となる一定値を設定出来ません。
つまり、効率が悪い方法なんです。
だから、此方の方法は知られていません。
ええ、専門書にも一言も記載されていません。
ただ、かなりマニアックな個人研究者の記録には謎の現象と推測として載っていました。
どうやら、祖父が厄介払いとして別邸に移した物みたいです。曾祖父の収集品でしょうね。
そんな訳で、将来的なスキルの獲得の事も考え、フォルテと一緒に鍛練をする事に。
【剣技】や【拳技】という、戦闘手段や各系統の強化補正の効果を持つスキルが有ります。
これらを熟練度で獲得出来れば役立ちますので。二人で地道に頑張っています。
フォルテにも本を見せた上で俺の考察という形で熟練度による獲得の可能性を説明しました。
仮に、スキルの獲得自体は出来無かったとしても遣った事は技術として身に付きますからね。
無駄な訳では有りません。
ただ、そういう鍛練を幼い頃からする人は決して珍しい訳では有りません。それなのに、居ないのは熟練度によるスキルの獲得は難易度が高いと思った方が自然なんでしょうけどね。
まあ、無駄な事だと思わなければ平気です。
「いいですね?、今日は大人しく御休み下さい」
「……はぁ……判りました」
そうメレアさんに睨み付けられ、了承する。
自分では気付かなかったけど、ダイエット成功で調子に乗っていた様で、オーバーワークになって、身体に負担が蓄積していたみたいです。
冷静に考えてみれば判る事なんですけどね。
症状や実害が出ないと、中々気付かないもの。
だから誰にでも起こり得る事な訳です。他人事と思ってる皆さん、気を付けましょうね。
それで、どうして気付いたのかと言うと。
今朝、日課のランニングをして戻り、汗を流して皆で朝食を──という所で、倒れました。
ブラックアウトする意識の中で聞いたフォルテの悲鳴は一生忘れる事は出来無いでしょう。
先程まで心配して泣き付かれていましたから。
メレアさんが激怒するのも仕方が有りません。
まあ、風邪や感染病等ではないので、今日一日、安静にして過ごせば、治るでしょう。
──とか考えていたら、メレアさんに睨まれた。優秀なメイドさん相手には嘘は吐けませんね。
もう一度念押しされ、寝室の扉が閉められます。
フォルテは看病したかったみたいですが、それでフォルテの負担に為っては負の連鎖ですからね。
今日はフォルテも休養日です。メレアさん達も。そうじゃないと俺も落ち着けませんから。
女性三人で楽しく姦しく過ごして下さい。
一人時間も、女子会も大事な気分転換ですから。
「…………とは言え、暇なんだよなぁ……」
一寝入りして昼食を済ませたら、身体は気怠いが意識ははっきりしているから、眠れない。
そうなると暇で暇で仕方が有りません。
フォルテが居ればイチャついたり、一緒に昼寝をしたり出来るんですけど。
流石に今日はメレアさんが恐いので無理。
……大人しくしているしか有りませんか。
「………………いや、待てよ」
ふと思い出したのは父上に押し付けられる格好で持たされた曾祖父の遺品、智求解匣の存在。
静かに、ベッドを出て、自分用のクローゼットを開けて持ってきた私物を入れてある引き出しを開け奥に仕舞ってあったのを探し出す。
自分でも“不要品”認定していた様です。
他にも、本邸の自室に有った本棚から持ってきた未読の本を数冊──とメモ用の紙と付属品のペンも忘れずに持って、静かにベッドに戻る。
ベッドに座り、膝の上に智求解匣を、本をサイドテーブルに置いて準備完了。
智求解匣の表紙を開く。
じっくり見ても、紙にしか見えない色艶と感触。しかし、決して捲る事の出来無いページ。
本に見せ掛けた見事なフェイクアートです。
其処に刻まれている五つの数字と縦横各9マス。左上に縦横の矢印が有るので、多分、斜めは無視で縦横に重複しない様に1~9の数字を並べればいい形なんだと思います。
だから、難しい事では有りません。
ただ、それを見て改めて思います。
説明文も問題文も無く、それだけが有る状態だと一見しただけでは意味不明でしょう。
正直、製作者の意図が判りません。
ただ、暇潰しには為ります。
メモ用の紙に同じ様にマスを書き、刻まれている数字を写して、解いていきます。
……大して時間も掛からず解けましたが。
そう言えば、こういうのが小さい頃から大好きでよく遣ってましたっけ。懐かしいです。
「微妙な暇潰しだったな……本でも読むか……」
そう言いながら智求解匣をサイドテーブルに置こうとして──ふと、考える。
付属品のペンは普通に使えると父上は言った。
俺は普段使ってる物で紙に書いたけど。
このペンは一体何の為に有る?。
単なる作品の一部?。
いや、そんな理由で凝った造りはしない。
その辺に売ってる物や使い古した物を置いた方が生活感が出るから、芸術品としては味になる筈。
偉そうに語れる程、詳しい訳でもないけど。
値段当てクイズなんかは正解率は高い方ですから多少の目利きは出来る方だと思います。
儲けようとか雑念が入らなければ。
このペンが作品の一部だと考えるなら。
その役割は一つしかないと思う。
普通に考えると有り得ない事だけど。その普通は前世の世界での普通の話。
この世界には魔法が在り、魔道具が在る。
だから、「もしかしたら……」という予感が。
「……よし、俺が貰ったんだし、遣ってみよう」
誰に断る必要も無いけど、こういう時に一人言で自己肯定するのって、よく有りますよね。
自分しかいないから反対・否定は無いのに。
そんな事を考えながら、ペンを使い数字を書く。インクも何も付けてはいませんけど、コレが本当に魔道具であるなら。書ける筈です。
その推測は的外れではなかった様で。
空白のマスに新たに数字が刻まれました。
それさえ判れば躊躇する理由は無くなりますから解いた内容を書き写していきます。
そして、最後の数字を書き込んだ時──ページが捲れる様に、内容が変わりました。
縦横3マスの枠。その四角が別の縦横3マス枠と重なる格好で、賽子の五の目の形に並ぶ。
重なった部分は縦横斜めで9マスだから、其処も対象に入るんでしょう。
「名も知らぬ製作者よ、その挑戦、受けて立つ!」
そう言ってメモ用の紙に書き写して解き始める。
まだ何問も出題されるなら、暇潰しになります。個人的にも楽しめますからね。最高です。
解いてゆくと、出題される問題は次第に難易度を増していき、単なる数字並べれから、魔方陣だとか複合計算式だとか色々と変化。
更には数字から離れ、なぞなぞ・クロスワード。それから何故かピクロスまで。
難易度も大きく上下します。
製作者も出題する問題のネタが尽きてきたのか。遂には詰め将棋や詰碁の問題まで。
此処までくるとね、製作者に日本人の気配がして怪しさしか感じません。
そんなこんなで一万問目を解いています。
百問、千問では終わらなかったので。
それは一万問も考えてたらネタも尽きますよね。何れだけ製作時間を費やしたのかは判りませんが。最後は意地になって数を出して埋めたんでしょう。出題された問題が、そう物語っていましたから。
その一万問目は数字のクロスワード。数字以外の答えは一切無い問題ばかり。
一問位は引っ掛けが有るかと思っていましたが。名も知らぬ製作者さん、疑って御免なさい。
「──ト様、アルト様、起きて下さい」
「…………あれ?、メレアさん?」
「夕食の御時間ですが、どうなさいますか?」
「え?、もう?……あ、日が暮れてる……」
「ぐっすりと御休みになられていた様ですから」
「夜に目が冴えそうだなぁ……
夕食は皆と一緒に取るよ」
「畏まりました」
そう言って部屋を出るメレアさん。
気が付いたら、窓の外は夕焼けを越えて暗い。
流石に集中し過ぎてたかな。
──と、視界に違和感を覚えた。
別に変な物が見えたり、像や色彩に異常が起きたという訳ではない。
何か、奇妙な引っ掛かりを感じた。
「………………あれ?、智求解匣は?」
サイドテーブルの本は最初に置いた時のまま。
しかし、ずっと触っていた筈の智求解匣だけは、ベッドの上にも見当たらない。
念の為、ベッドの下、ゴミ箱の中、クローゼットの中も引き出しも含めて確かめる。
それなのに、部屋の何処にも見当たらない。
寝ている間にフォルテやメレアさん達が片付けた可能性も無い。それなら一言言う筈だから。
ただ、取り敢えず今は夕食。
頭が碌に回りません。




