88話 成長
日没前に目標地点である転移の魔法陣に到着し、先へと進む。門番?、瞬殺でしたが何か?。
転移した先は、見た目が煉瓦の様な建材を使った少し古びた小さな家の中。
親子一家族が暮らすには十分な広さで、トイレに御風呂まで完備しています。
……この家、丸ごと持っていけないかな?。
………………くっ、残念。無理か。
──とか遣っていると、俺が転移してきた場所に魔法陣が浮かび、フォルテ達が出現。
成る程、そういう感じなんだ。
俺に気付いたフォルテ達が駆け寄り、抱き着く。しっかりと受け止め、キスし合う。
アンとエクレが家の中を見ている間にフォルテとティアから別行動中の話を聞く。
フォルテから受け取った魔法の道具袋から新たに手に入れた魔素材等を【亜空間収納】に移しつつ、消耗品の補充もしながら。
……結構、量が有るな。いや、仕方が無いけど。こうなると判ってるから渡したんだから。
自然下に在る魔獣と違い、ダンジョンが生み出す魔物は超攻撃的。いや、ある意味では超守備的。
当然と言えば当然ですが、侵入者を駆除する事が魔物の使命であり、存在理由なので。
だから、接近すれば襲い掛かってくるんです。
ただ、それにしても入手している魔素材等の量が多い。「まあ、四人分だからな~」なんて思うのは認識がズレています。ええ、明らかにフォルテ達が意図的に多く倒した結果だと物語っています。
そんな俺の思考を察したのか、少し気不味そうにフォルテから寄り道の報告が。
通りで俺よりも到着が後だった訳だ。
ああ、別に怒ったりはしません。それも含めての別行動であり、フォルテ達の判断な訳ですから。
それに、ちゃんと日没前までに魔法陣に到着して此処に居る訳ですからね。問題有りません。
一通り話が終われば、料理を作ってから晩御飯。外は日没を向かえ、真っ暗ですから。
ああでも、月と星空が綺麗です。
御風呂に入って、しっかりと休む。ダンジョンで休憩所は有難いです。
まだ夜が明けきらない内に起床し、手早く朝食を済ませてから外に出る。時間は有限ですから。
【時間感覚】のスキルは経過時間等を把握出来る物なので、ダンジョンでも重宝します。
ただ、時間軸の違いは判りません。
それを補うのが【体内時計】のスキル。此方等は俺達が存在する世界の時間軸を基軸にしている為、亜空間や亜世界に居ると時間が停止、或いは停滞し時間軸が違う事を教えてくれます。
──とは言え、それを知っているのは俺達だけ。既存のダンジョンで亜世界等に転移する仕掛け等が確認されている所は有りません。
その副次効果は、経験者である俺が初めて発見し確認した訳なので。
尚、歴史上に残ってはいない範囲では、です。
一軒家の外に広がるのは雄大な自然の風景。端を山脈の様に岩山が取り囲み、頭上は青空。
円形の中央には雲の中に入る程に高く聳える塔。其処が最終的な目標地点。
その点は原作と同じなので。
【方向感覚Ⅹ】【空間認識Ⅹ】【座標把握Ⅹ】の見解からすると、現在地は島の中央の山の中。
俺達からは見えている空も、山に登った場合には地面でしかないでしょう。当然、掘っても此処には辿り着けません。何しろ、ダンジョンですから。
同様に、此処から空に向かって魔法を放っても、見えない壁に掻き消されるだです。その為、外への合図等も不可能という訳です。
それはそれとして。
目指すべき場所は中央の塔ですが、原作の此処を知っている俺からすると、真っ直ぐ塔を目指しても結局は一周する必要が有る事が判っています。
塔の扉を開けるには八方に配置されている遺跡の仕掛けを動かす必要が有る為です。
其処で、「確かに塔が目を引くけど、だったら、何故、塔の周囲が無駄に広いのか」と疑問を言い。続けて「塔の目の前に家を置いてもいい筈だ」と。フォルテ達の思考を誘導する。
それから【直感】を使い仕掛けが有るかを確認。確信を得て、先に一周する事に。
特に怪しまれる事も無く仕掛けを作動させてから塔に向かえば、扉は難無く開く。
フォルテ達からの尊敬の眼差しに対して、若干の罪悪感を感じながらも塔の中へ。
外見では直径10ミード程の太さの塔でしたが、ダンジョンなので内部の広さは別物です。
そして、塔型の定番だと言いますか。迷路構造と落とし穴の罠が歓迎してくれます。鬱陶しい。
無駄ですが。無駄に精神力を削られますからね。一人だったら、暴れている所です。
まあ、途中で外の景色を見られたのは良かった。島の海岸に居るフロイドさん達が見えましたから。空間を隔てているので逆は無理でしょうけどね。
向こうも無事な様で一安心です。
さて、塔型のダンジョンの定番は他にも。
例えば、複数階に渡り、登り降りを繰り返しての進行や仕掛け操作。
戦闘ではなく、クイズやパズル等の頭脳要素。
逃げるターゲットを追い掛ける──等々。
原作を知る俺でさえ苦労する現実。
故にフォルテ達の疲労の蓄積は避けられません。アンですら、大人しくなっています。
其処で休憩所で一休み。
仮眠中のフォルテ達に抱き枕にされています。
四人は【休眠】のスキルを使い短時間での回復を行っています。精神疲労にも効果が有りますから。加えて、その手の効果の有る魔法薬等も使用する。少しでも状態を整えないと大変ですから。
(……原作通りなら折り返しだな
ただ、同じだとしても此処からは戦闘も激化する)
原作では、この塔は全108階だった。
その内、53階まではフロアボス等は居ないし、出現する魔物も数が多いだけ。
仕掛けがメインのエリアだった。
今居る54階が休憩所で。
ある意味、本番は55階から。
行く手を阻む雑魚ですから手強くなる。
(────筈なんだけどなぁ~……)
目の前では、ハイペースで魔物を倒す四人が。
…………うん。何か、敵に申し訳無くなります。妻達が強過ぎて御免なさい。
──という感じで、仕掛けが減った事も有って、進行速度は前半よりも速い。
既に95階を突破。55階からは5階毎にフロアボスが行く手を阻み、90階からは毎階となる。
それなのに。フォルテ達の快進撃は止まらない。寧ろ、勢いが増している位です。
いやまあ、それだけ経験値を稼いでレベルアップしているんで当然と言えば当然なんですけどね。
それに、どんなにレベルが高く、能力が有っても仕掛けが容易くなる訳では有りませんから。
そういう意味では、ゲームではエンカウントする度に苛っとしていましたけど、現実となると如何に仕掛けが厄介なのかが判ります。
勿論、一般的にはモンスターは脅威です。
ダンジョンの中では最も死に直結する存在なので警戒し、忌避されるのが当然な訳です。
しかし、今の俺達にとっては、モンスターの方が何倍も仕掛けより楽な訳でして。
進行速度が上がるのは必然だと言えます。
そんなこんなで100階を越え、今は107階。目の前には敵意剥き出しのフロアボス。
原作では、それなりに倒すまでに時間が掛かった記憶が有るんですけどね~。
しかし、実際には何もさせて貰えずに叫びだけが響き渡っている、という状況で。その叫び声もね、憤怒や苛立ちというよりも、自身の存在価値自体を必死に訴える掛けて嘆きに聞こえます。
正直に言って、憐れです。
此処までの道程で磨き上げられて隙が無くなったフォルテ達の苛烈な連携に手も足も出せずに居る。思わず、「そんな姿を見たくは無かった……」と。そうフロアボスに言いたくなってしまいます。
戦闘に参加している手前、そんな事を言う権利は俺には有りませんし、フロアボスからしても同情で時間を与えて貰う方が残酷でしょう。
そう思うと、これが一方的な蹂躙であろうとも。行く手を阻む存在として散る。その在り方こそが、唯一の救いであり、存在意義かもしれません。
──っあ、ティアの一撃が止めになった様です。フロアボスが倒れ、消え去って行きます。
魔素材等を回収し、上へと続く階段を進む。
階段の突き当たりには巨大な扉が。これをまでの道程の終着点だと物語る様に仰々しい造り。
フォルテ達を見て、状態を確認。戦闘後に一通り確認して回復等も済ませているので、念の為。
「大丈夫です」と頷くフォルテ達に頷き返すと、最後となる筈の扉を両手で押し開く。
ダンジョンに物理的な構造を求めてはならない。
そんなダンジョン関連の研究者の言葉が有る様に扉の先には周囲に壁など無い大パノラマの景色が。上がってきた階段は何処に有るのか判らない。
一目で判る最上階。
その中央に、通った扉が開かれている。
勿論、その扉も俺達が通り抜けると自動で閉まり最初から存在していなかった様に消え去る。
退路は存在しません。
最上階は直径50ミード程の円形で飲み物の蓋の上に立っているかの様な感じ。
壁や柱等は一切無く、空と雲だけが見える。
気になるとすれば、頭上に太陽が無いという事。流石に下に有る、という事は無いでしょう。
ただまあ、此処はダンジョンですからね。あまり気にし過ぎても無駄で、疲れるだけです。
「ぅわぁ……地上が全く見えない……」
「これは落ちたら即死確実ですね」
「──と言うか、人の姿を止められるの?」
「普通に考えれば無理だと思います
ただ、これ程の高さから人は勿論、地上の飛べない生物が落下した事例は無いでしょうから、実際にはどうなるのかは定かでは有りませんね
判る事が有るとすれば、普通は死ぬという事です」
最上階の端を見に行き、下を覗くアンとエクレの会話を聞きながら、あの二人の剛胆さに感嘆。
マイペースだと言えば、それはそうなんですが。どんな状況でも普段の自分のままで居られる事には素直に感心します。良い意味で緊張しないので。
まあ、アンに限っては獣人族としての本能から、戦場で臆するという事は死を呼び込むという事だと理解しているのかもしれません。
エクレの場合は、この場に一人で居る訳ではないという事から好奇心が勝るのでしょう。日常生活の中でも度々見られる事ですから。
そんな二人を見ながらも、俺達は最上階を一通り調べ終わる。特に仕掛けは有りません。
しかし、魔宮主が出てきません。
原作だと、直ぐに出て来た筈ですが。
何かしらの儀式でも必要なんでしょうか?。
「──────っ!!」
──なんて考えていたら、頭上に暗雲が現れて。それが晴れていた青空と白雲を飲み込んだ。
雨は降らないまでも、風向きの定まらない強風が遮蔽物の無い場所で容赦無く吹き荒れる。
俺は兎も角、まだまだ小柄なフォルテ達は簡単に飛ばされても可笑しくは有りません。フォルテ達を守る様に防風壁となる魔法結界を展開。
激しい雷光と雷鳴により、これでもかとばかりに演出が盛り上がる中、暗雲が繭の様に塊になって、俺達が見上げる中で閃光を放って弾け飛ぶ。
結界を張っていなければ、その爆風と衝撃により戦う前に脱落していたかもしれません。
それ程に強烈な登場をした魔宮主。
その姿を見て、思わず口角が上がるのと同時に、冷や汗が頬を伝い流れてゆく。
歓迎の咆哮を上げる、その姿は異常個体だった。




