9話 新生活
いよいよ、始まった新婚生活。
そして、まさかまさかの転生ライフ。
果たして、俺の明日は何処に向かうのか。
そんな俺に今、最も必要な事は何か。
将来の為に強くなる事?。
イチャラヴ生活の為に妻の好感度上昇?。
貴族としての務めを果たす為に、メイドさんとの秘密のレッスン?。
家族を養う為に今から投資して資産を増やす?。
──否!、何れも必要だけど、今は断じて否!。
今の俺に必要な事、それは!。
この甘ったれた、ゆとりボディに喝を入れる事。そう!、つまりは、ダイエットです!。
まあ、実際には誕生パーティーの翌朝から地道に始めてはいたんですけどね。
本格的には身体を苛める事が出来無かったんで。だって、色々有って、落ち着けなかったんだもん。だから仕方無いじゃない。
自主的に食事制限する位しか出来ませんから。
そんな訳で先ずは朝、なんちゃってヨガから。
いきなり激しい運動は身体に悪いそうですから、身体を起こす所から。
30分程したら、1時間のランニング。
このランニングもスピードや距離は必要とせず、坂道の登り降りと、止まらない事を重視。
体重を落としつつ、程好く筋力を付けたい。
体脂肪率一桁とか高過ぎる目標は有りませんよ。其処までストイックには為れませんし、寒いのって場合に因っては死活問題ですから。生きる上では、適度な脂肪は必要なんです。
──なんて偉そうな事は言えませんが。
だって、前世では一度も遣った事が無いですし、飽く迄も聞き齧っただけの俄ダイエット方法。
ただ、何もしないよりは増しでしょうからね。
頑張ってみようという訳です。
ランニングの後はシャドーボクシングを30分。
以上、2時間のメニューを終えたら、汗を流して愛妻の手料理、ダイエットメニューを頂きます!。
因みに、アルト君ダイエット計画を話した当初はフォルテも一緒に遣ると言っていましたが、彼女にダイエットは不要なので料理を頼みました。
メレアさん達が渋い顔をしましたが、フォルテの笑顔の前には強くは言えません。
一応、洗濯等も有る為、朝はフォルテに任せる。
そういう建前で納得して貰いました。
済みません、でも、俺は美少女の愛妻の手料理が食べたいんです!。
だって男の子だもん!、仕方無いじゃない。
フォルテにはヘルシーな内容を頼んでます。
元々、料理等は習って身に付けているフォルテ。俺以外のメニューは標準仕様です。
早く、その標準の手料理が食べたいっす。
だったら、頑張るしかないでしょう。
健康第一、安全も第一、愛は最優先!。
御馳走様でした。
朝食を終え、暫く休憩してから外に出ます。
見上げた空は晴れながらも雲も有り、適度に日を遮って翳ってくれるのは有難いですね。
俺もフォルテも基本的にはインドア育ちなので。
予め用意されていた汚れても平気な洗い易い様に作られている作業着に着替え、庭の畑へ。
使われている生地こそ違いますが、作業着の形はオーバーオール。メレアさん達のスタイルの良さが男の目には眩し過ぎます。
ですから、邪な煩悩を祓う様に、別の話題を振り意識を逸らす事にします。
「此方がトマトで、其方がキュウリ?」
「はい、何方等も夏野菜の定番です」
そうクーリエさんに説明される二種類の苗。
それらは前世でのトマトとキュウリと味は勿論、同じ姿・名前だったりします。
でも、可笑しな事では有りません。
原作内にも登場する物だからです。
その辺は設定の省略、イメージのし易さを理由に現実のままで採用していたんでしょうけど。
専用のイラストや説明を省けば、日常会話の中で問題無く使用出来ますからね。
そういった意味では、前世の感覚が活かせるので助かっています。新規情報量が減りますから。
──とは言え、必ずしも全てが同じという訳では有りません。似た物や未知の物も有ります。
「此方等は“ナス”に“ピーリカ”に“アプテ”の苗になるのですね」
「はい、今朝、村の方で分けて頂いた物ですから、何れも状態は良いですね」
フォルテとメレアさんが話している先に有るのは名前と形と味はナスだが、色は青い野菜。
ピーリカはピーマンとパプリカの混合品種みたい感じの野菜で、成熟度で色と味が変化する。
アプテはピンク色のミニトマトみたいな実が成る野菜なんだけど、実は硬い。味も辛味が強い事からトマト感は無い。例えるなら……小さい蕪、かな。根菜じゃないんだけど。
ゲームに出て来ない部分が補われてる感じがして面白いのと違和感とが混ざって変な感じです。
まあ、美味しく食べられるなら気にしませんが。豊かな食事は大事ですからね。
豪華・高級・稀少って意味ではなくて。
栄養バランスとかの意味で、です。
苗を確認し、畑の何処に植えるのかを聞く。
野菜の特徴によっては、隣同士にしない方が良い組み合わせなんかも有りますからね。
それから此方等も用意されていた新品の鍬を持ち耕されていた畑に畝を作ります。
小さい頃、母方の実家の祖父母に倣って真似して遣ってた事は有ったけど、その理由とかはテレビで遣っているのを見て、初めて知りました。
多分、そういう物なんだと思って遣っている人は少なくないと思うんです。
だって、それで結果は出てますから。一々理由を詳しく追究しようとは考えないものです。
それが良い事か悪い事かは論点に因りますが。
無駄な事ではない。
それだけは確かだと思います。
「……アルト様、器用ですね」
「そう?」
「はい、初めてで其処まで綺麗に畝を形作れる人は中々居ません、意外な才能です」
「意外は余計じゃない?」
「貴族としては、役に立ちませんので」
「没落したり、戸籍が抹消されたら役に立つよ?」
「そういう事は冗談でも言わないで下さい
フォルテ様を路頭に迷わせるおつもりですか?」
「私なら平気です、アルト様と一緒に居られるならどの様な状況でも生きていけます」
「フォルテ……」
「こんなに素敵な奥様を路頭に迷わせますか?」
「そんな訳有るか、フォルテは俺が幸せにする」
「アルト様っ」
抱き付いてきたフォルテを受け止めつつ、視線を先程まで軽口を叩き合ってたメレアさんに向ければ笑顔で「口は災いの元です」と言う様に頷く。
成る程、下手なフラグは立てるな、ですね。
バッドエンド行きフラグは何処に潜んでいるのか判りませんしね。気を付けます。
そんなこんなで四人で畑仕事を終え、小休止。
こうして実際に体験すると農家の皆さんの日々の努力と苦労が身に染みて理解出来ます。
自分は祖父母の家での経験から、好き嫌いはせず残さない様にする事が普通に為っていましたが。
幼少期に農業を経験するのは大事ですね。
食べないと生きてはいけない以上、食材を自分の手で育てる大変さを知る事は重要です。
極端な話、農業は世界平和への第一歩でしょう。狩猟とは違い、御互いに協力し合って拡充する事も出来ますからね。
奪い合うのではなく、共有・分与の精神。
農業は争う事無く、共存する為には必要不可欠。農業こそが世界を救う鍵だとも言えるでしょう。
まあ、この世界では違ってきますけど。
それはそれとして。
所謂、“異世界転生あるある”で思い付くのが、生活技術の水準の差、ではないでしょうか。
前世では、当然の様に大量の電気が供給されて、それを利用した電化製品が生活の中に有った。
しかし、そういう物が、或いは代替品となる物が異世界に存在するとは限りません。
勿論、異世界にも因るでしょうけどね。
この世界では電化製品に当たるのが“魔道具”と呼ばれている代物。本邸には勿論、別邸にも幾つか備え付けられています。
ただ、それらは殆んどが水回りの物です。
水を生み出す蛇口の魔道具。
同様に御湯を生み出す蛇口の魔道具。
有難さは別格、水洗トイレの魔道具。
──と、何れも馴染み深い物ばかりな訳です。
これらの魔道具は今から二千年以上前から存在し今に受け継がれている品ばかりで、新品は皆無。
誰かによって製造されたのだは思いますが。
その辺りの記録等は何処の国にも無いそうです。勿論、それは表向きな話で、代々の王等にしか伝承されていない秘匿情報の可能性も有りますが。
それを確かめる術は有りません。
ただ、同じ魔道具に分類される物でも、ゲームで御馴染みの“魔法の道具袋”や“魔法のランプ”は何れも宝箱から獲られる物なんだとか。
そう考えると、生活用の魔道具も同じ様に大昔に宝箱から獲た品である可能性も有ります。
今の所、それは一説に過ぎませんが。
そして、魔道具の製造技術は研究こそされているみたいですが、まだまだ実用化には程遠いそうで。
「この先、百年は掛かる」と言われています。
電化製品にも百年以上の歴史が有りますからね。当然と言えば当然でしょう。
どんな技術も段階を飛ばして発展するという事は普通に考えて、有り得ませんから。
ただ、時に偶発的な結果により、そういう発展の切っ掛けが生じる事も有ります。
だからこそ、継続する事に意味が出る訳です。
そんな生活用魔道具に冷蔵庫は有りません。
魔法の道具袋は有りますが、時間軸から隔離され長期保存が可能、という事は有りません。
飽く迄も、収納されているだけです。
その辺りは無駄にシビアなんです。
もう少し、御都合主義で緩くてもいいのに。
「もう少しすれば一気に夏らしくなりますね」
そう景色を眺めながら呟いたのはメレアさん。
この世界での暦は、一年が十二ヶ月、四十八週、四百三十二日で、一ヶ月は四週間、三十六日です。一週間は九日になります。
時間の概念は同じですが。暦は違います。
四季は有りますが、季節感は地域により様々で、メルーディア王国は日本の気候に近い様です。
現在は日本の五月に当たる“メィヴェの月”で。俺は四月に当たる“シーリェの月”の生まれ。
尚、フォルテは十月に当たる“ディファの月”の生まれなので、姉さん女房になります。
「ノーザィラスは雪が多いんだっけ?」
「はい、王国の北部と東部は特に寒さが厳しく雪が溶ける事は先ず有りません
比較的暖かい王都の有る南部でも一年の半分近くが雪に被われています」
「なら、フォルテ達にとっては初めての暑い夏か」
「そうですね、だから、不安ですが、楽しみです」
「無理だけはしない様にな
慣れていないからこそ、少し敏感な位で良いから
「これ位なら、大丈夫」が一番怖いんだからさ
無理をしても誰も喜ばないし嬉しくもないんだ
だから、そういう時には正直にな」
「はい、アルト様」
「……クーリエさん、フォルテには厳しめにね」
「──え?、ア、アルト様?」
「フォルテは我慢してる自覚が無いと思うから」
「そんな事は…………むぅ~……」
「ふふっ、畏まりました」
俺の指摘に反論出来ずに、拗ねる様に睨んでくるフォルテの仕草が可愛い。
「意地悪です」と言いた気な態度は年相応で。
その様子が、クーリエさんにも、メレアさんにも微笑ましく思えるから、自然と笑顔になる。
何気無い会話、何気無い日常。
ただ、そんな当たり前の事が出来無かった日々をフォルテは生まれてから送ってきた。
過去は変えられず、遣り直す事も出来無い。
だけど、現在は、未来は変えられる。
ゲームでは“人形姫”と揶揄されていたが。
フォルテは人であり、心を持ち、生きている。
その心が鮮やかに、彩られてゆく様に。
暗闇に震え、凍えていた蕾が開き咲く様に。
もっと、もっと!、もっとっ!。
フォルテと共に色んな事を積み重ね、紡ぎたい。
まだまだ始まったばかりだけれど。
今この瞬間を惜しまないで。




