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花の匂い 〜恋愛・ラブコメ・短編集〜  作者: 忍野木さりや


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雨よ止め


 ハナカミをくるくると丸める。白い服を作ると、マジックで可愛らしい笑顔を描く。

 高校生にもなって、てるてる坊主なんて。

 山崎智香は一人で照れ臭くなって長い髪を弄った。壁に掛かった時計を見上げると、既に太い針は天辺に到達している。三浜英治とのデートを明日に控える智香。天気予報では晴れ模様だったが、それでも心配で、祈るようにてるてる坊主をカーテンに吊るした。

 布団に潜った智香は止む気配のない雨音に耳を傾ける。いつもなら心地良い梅雨の子守唄。今夜はやけに耳の奥を震わす。一階の屋根に響く雨垂れ。鉄琴を指先で叩いたような鈍い音。一秒より僅かに早い間隔でリズムをとる雨粒を、智香は数え始めた。

 十八……四十五……九十七……。

 鋭い雷鳴が窓を揺らした。ドキドキと高鳴る心臓。内に響く鼓動をしばらく数えた智香は、再び、雨垂れに意識を向ける。

 百三……百三十八……三百七十五……。

 眠れない。

 智香はイライラと起き上がった。暗い部屋でカーテンを開くと、夜の街に降る雨を睨む。無意識にアイフォンを取り上げるとラインを開いた。おやすみ、という英治からのメッセージ。いつもなら夜遅くまで連絡を取り合う二人。いつもより早いおやすみは寂しくもあり嬉しくもある。

 雨足は強い。てるてる坊主を三つに増やした智香はカーテンを閉めた。アイフォンを枕の下にセットするとギュッと目を瞑る。だが、やはり眠れない。どうしても英治の声が聞きたくなった。時計の針は一時を回っている。迷惑かなと思いつつ、智香はラインの通話ボタンをタップした。

「智香ちゃん、どうしたの?」

 英治は起きていた。なんだかホッとする智香。

「ううん、ちょっとね、雨止まないから心配になっちゃって」

「ああ、大丈夫だよ、明け方から止むらしいから」

「そうなんだけど、なんか天気予報って外れることあるからさ。ほら、小学生の頃、遠足の日に限って雨だったりしなかった?」

「あはは、そうだったかも。じゃあ、雨だったら水族館に変更しよっか?」

「うん! そうしよ!」

 智香は心が晴れやかになっていくのを感じた。雨なら雨で、いい思い出になるだろう。

「私ね、てるてる坊主作ったんだけど、英治くんは効果あると思う?」

「うーん、どうだろうね?」

「私はあると思うんだ。ねぇ、てるてる坊主の顔って笑った顔かな? それとも怒った顔かな?」

「あれ? 確か、てるてる坊主って顔描いちゃダメだったような」

「え、そうなの?」

「うん、先に書くと雨になっちゃうらしいよ? 願いが叶った後に顔を描くんじゃなかったかな?」

 だから雨が止まないんだ。

 智香は愕然とした。可愛らしい三体の白い坊主頭を見上げる。

「……描いちゃった。どうしよう」

「あはは、描いちゃったなら仕方ないよ。僕が代わりに顔無しのてるてる坊主を用意するから、安心して、智香ちゃん」

「三体作っちゃった」

「じゃあ僕は四体作ろう」

「うふふ、ありがと」

 電話を切った智香は立ち上がる。てるてる坊主の頭を撫でると「晴れにしちゃってもいいからね」と微笑んだ。

 降り頻る雨。止む気配のない雨音。布団に潜り込んだ智香はスヤスヤと寝息を立て始めた。

 

 

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