すばるちゃんは 私の友達だ
すばるちゃんとお友達になった次の日、集団登校の集合場所にやってくると、先に来ていたすばるちゃんとクラスの子が楽しそうに話していた。でも、今日の私はひと味ちがうのです。
「おはよ、すばるちゃん、平戸さんもおはよう」
「まちるちゃん、おはようです」
話に割り込んじゃったけど、きっとお友達なら許される、はず。
「あ、元野さん」
「元野さん?」
すばるちゃんが不思議そうに首をかしげた。……もしかして、これは……? いや、すばるちゃんなら言いそうだ。だって、
「元野さんって、誰でしょう?」
「え、すばるちゃん、本気で言ってるの? 元野さんって、この子だよ」
だって、すばるちゃんは変なのだ。
「どうせ名前でしか呼んでなかったから、私のみょうじ忘れてたんでしょ? ひっどーい」
「ごめんなさい。正解です」
両手を上げて降参のポーズを取るすばるちゃんに、ふっと小さく笑ってしまう。
「もう忘れないでね、元野まちるです」
「うん、覚えます。さんかいすばるです、漢字はこう書きます」
そう言って渡された紙に、またかと少し笑ってしまう。すばるちゃんもめげないなぁ、どうせ読めないメモだけど、いちおう開いてみた。
「あ、すごい。読める文字だ」
そこには“傘海素晴”と、きれいな文字で書かれていた。
「それ、庇護者さんの文字なんです。昨日はまちるちゃんが読めなかったくさいんで、帰ってから書いてもらいました」
「そうなんだ」
「すばるちゃん、もうちょっとで出発だって! いっしょに並ぼうよ」
「平戸さん、そうですね。それではまちるちゃん、またあとで」
「あ、うん。またね」
お友達になっても連れて行かれちゃうのか、まあ、しょうがない。そう思って、手をぎゅっとにぎると、手元で紙が擦れてかさっと音が鳴った。
「うわ! せっかくもらった紙が、しわになっちゃう」
引っぱって折れ目をのばしていると、すばるちゃんの名前が書かれた紙が、もう一回折りたたまれていたらしいことに気づいた。そこには 同じ文字で、ていねいに 手紙が書かれていた。
まちるさんへ
どうもこんにちは。すばるからどんな紹介をされたか分かりませんが、
僕はすばるの保護者の代役をやっている者です。
さいきん、すばるからよくまちるさんのことについて話を聞いたり、
逆にまちるさんとどうやって関わればいいかと聞かれたりします。
すばるはまだ人と関わることが得意ではなく、色々な経験をして、
たくさん学んで、いっぱい考えて、行動しています。
おそらく、考えすぎて迷ったり、まちがったり、
まちるさんを困らせてしまうこともあるでしょう。
ですが、すばるが今日とてもうれしそうに、
まちるちゃんにお友達だって言ってもらったと、僕に報告してきました。
まだまだ勉強不足のすばるですが、どうかよろしくお願いできないでしょうか。
僕は、すばるが家に帰って来てから、どうすればいいのか、
どうすればよかったのかという相談には乗れますが、
学校でのことに直接関われるわけではありません。
ですから、まちるさんに頼みたいのです。
無理にとは言いませんし、まちるさんが気づいたときに、
すこしだけ助けてやってくれればそれで十分です。
それとは別に、すばるのお友達として、どうぞ仲良くしてやってください。
それでは、失礼しました。 すばるの庇護者さんより