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さんかいさんと私


 給食の時間。おとなり同士のさんかいさんと私は、毎日向かい合って食べている。今は、4人ずつの班で 一緒だからいいけど、次の席替えで離れちゃったらどうしよう。

「まちるさん? なにしてます、カレー好きです?」

「うん、好きだけど」

「ではどうぞ」

 私がスプーンを持ったままぼんやりしていると、さんかいさんが声をかけてくれた……のはいいんだけど、さんかいさんはなぜか私に自分のカレーを食べさせたいようだった。さんかいさんは少食で、お皿の中身をはじめに減らすから、他の人より元々量が少ないのに。けれど、さんかいさんは「えんりょなさらず」とでも言いたげなふ()()きで、カレーをずずいとこちらに差し出してくる。でも、人のを代わりに食べると先生に怒られそうだから、断ることにした。

「だめだよ、さんかいさん。毎回へらしてるんだし、そのくらいは食べないと」

「そうですか、頑張るです」

 さんかいさんは少しもしょんぼりしていない様子で カレーの入ったお皿を手元に下げると、もくもくと食べはじめた。

 さんかいさんはいつも、食べ物を綺麗に端からスプーンで削るように切り分けてから食べる。そしてなぜか噛まずに飲み込む。また食べる やっぱり飲み込む という事を繰り返している。カレーだけならいいけど、サラダのキュウリやデザートのパイナップルも、さんかいさんは噛まずに飲み込んでいる。やっぱり、さんかいさんは変だ。硬いものをそのまま飲んだら痛そうなのに。

「まちるさん、考えてたら食べ終われませんが」

「え、ああ、そうだね! カレー残したらもったいないもん」

 さんかいさんと違ってご飯と混ざってるカレーをすくって、噛んで、飲み込んで。うん、おいしい。カレーは好きだから、もっとたくさん食べたく思えて、さんかいさんの分のカレー、くれるんだったらもらっとけばよかったかな、と ちょっとだけもったいなく思った。


 さんかいさんと並んで帰り道。一人だと寄り道ばかりして家に着くのが夕方くらいになっちゃうけど、さんかいさんは家に向かって一直線だから、気を抜いてたらあっという間に置いて行かれる。さんかいさんはどうやら、私を待つことが苦手みたいだ。前に私が花の散った桜の木を見上げていたら、それに気づかずに先に行っちゃうし、私を探して戻って来てくれた後も すごくそわそわして落ち着かなかったから。

「さんかいさん、今日の学校どうだった?」

「昨日掃除がなかったので、ゴミ箱のゴミが溜まっていました。あとはいつもの学校です」

「そうなんだ、よく気が付くなぁ。私はね、今日の算数がだめだったの。上手に計算できなくって」

「計算に上手いも下手もありません。正しければそれで正解です」

「でもね、へたっぴだと正解にならないんだよ? 途中で計算間違っちゃうの」

「それはたぶん、自分の書いた数字の6と0を読み間違えるからです」

「きっと字が汚いせいだよね……っていうかそれは、さんかいさんだけでしょ!」

 さんかいさんは変な子だけど、返答がいつも面白い。ちょっとずれた答えも、さんかいさんなりにとっても真剣に答えてるところも。なにより、他の子達と違ってさんかいさんと私なら、ただの褒め合いにならないのが 良い。

「まちるさん、家を通り過ぎますよ」

「そうだね、もうちょっとでさよならかな」

 さんかいさんは毎日、家に着くを“通り過ぎる”と言う。そういう言葉のチョイスが、さんかいさんらしい。でも、今日は少しいじわるを言ってみることにした。

「さんかいさん、これは通り過ぎるじゃなくって、家に着いたって言うんだよ?」

 にやっと笑いながら言うと、さんかいさんは感心したように「そうなんですか、勉強になります」と返してきた。

 あれ? 冗談ですよ、とか初耳ですね、とかそんな笑いが詰まった言葉が返ってくると思っていたのに、どうやら真面目に言いまちがいらしい。ふつうだったら、ここはとぼけてひと笑いが当たり前だけど……そうだった。さんかいさんは、ふつうじゃないから 変なのだ。

「まちるさん、すっとんきょんな顔してなにしてます。帰らないですか?」

「ねえ、さんかいさん。よく言いまちがえるの、わざとなんだよね?」

 少しの不安と確認の気持ちでそう聞けば、さんかいさんは、少し考えて、

「あたし、何か言いまちがいしましたか?」

 と、すごく不安そうな顔をして聞いてきた。


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