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さんかいさんは変な子


 小学校四年生になる春休み明けにやってきた転校生が、なんだか少し変だ。

 黒くて長い髪に黒い服。ランドセルまで真っ黒で、そのくせ目は青い色。なにより、はじめましてのあいさつが変だった。

「今日から小学生します、さんかいすばるです。原郷に恥じぬよう努めます」

 先生が連れてきたさんかいさんは、黒板にぐにゃぐにゃの線を描いて、右の手の平をじっと見ながら自己紹介をすると、私の席の左どなり 窓側の席に案内されて、ランドセルを背中からおろさないまま座って注意されていた。


「すばるちゃんはどこから来たの?」

 休けい時間になれば、恒例の転校生への質問タイムだ。私のと違って新しく、キズのないランドセルを抱えてるさんかいさんの机にみんな群がって、質問の順番待ちをしている。

「家です」

「そうだね、私もお家から来てるけど」

「ねぇ! 前の家はどこだった?」

「表札を見ました。高田さんの家です」

 わざとごまかしているのか、みんなが聞きたい事と少しずれた答えを返すさんかいさん。私はあわててポケットからハンカチを出して、ゆるむ口元を隠した。ふふ……なにあれ、面白い。

「なにして遊ぶのが好き?」

「起こされず寝てるのが好きです」

「前の学校でお友達何人だった?」

「友達はまだありません」

「この町に来る前はどこにいたの?」

 ぽんぽんと答えていたさんかいさんが、その質問で 答えを探すように間を空けた。どうしたんだろ。みんなが静かに見守る中、さんかいさんは しばらく悩んでから、窓の外を見上げて 答えた。

「お(そら)です」

 そして今度は、クラスメイトが悩む番になった。

 そんなさんかいさんも、いまでは立派なクラスのはぶかれ者だ。変な子だし、なにより書く文字が下手なのだ。自己紹介の時 黒板に書いた線は、どうやら“さんかいすばる”と自分の名前を書いたようで。けれどクラスメイトはみんな、文字の汚い人より きれいな人が好きだから。

 だからさんかいさんは、休けい時間に机を囲まれることも、みんなにあいさつされることもない。でも、知り合いくらいはできたんだ。

「おはよ、さんかいさん、今日も黒いね!」

「いいお天気ですね、まちるさん、今日もふわふわです」

 さんかいさんよりはぶかれ者歴の長い、元野(もとの)まちる。つまりは、この私という友達がね! 席順の班と帰り道が一緒だったから仲良くなっただけだけど。

「この上着はふわふわより、もこもこって感じだよ」

「そうなんですか、勉強になります」

「そうだよー?」とさんかいさんの冗談に笑いながら、もこもことかさばる上着を脱いで、教室の後ろに吊るしに行く。席に戻ってくると、さんかいさんは抱えたランドセルに顔をうずめて寝ていた。寝るのが好き、と答えていたのは 本当の事だったようで、さんかいさんは暇さえあればいつも寝ている。やっぱり、さんかいさんは変な子だ。

「さんかいさん、上着置いて来た」

「ああ、まちるさん、おかえりなさい」

 ふあ、と小さいあくびをかみ殺して、さんかいさんが起きる。ぐしぐしとこすった目は、いつも通りに青色だ。

「ずっと思ってたんだけどさ、さんかいさんの目って青いんだね」

「はいですね、神様の色です」

「かみさま?」

「違います。庇護者さんの色です」

「ひごしゃ」

「でなくて、あれです、そう、今日はお宙がいい青色をしてます」

 さんかいさんが不自然に話をそらして窓の外を見る。つられて眺めれば、確かに穏やかな青空だった。目の話は気になるけど、今話してくれないなら今度でもいいか、とさんかいさんに視線を戻せば、さきほどと全く同じ体制で ランドセルに顔をうずめて寝ていた。

「さんかいさん、起きて」

 けれど今度は、声をかけても 肩をゆすっても起きてくれない。たぬき寝入りなのかな。でも、さんかいさんなら本気で寝てそうだ。仕方ないので、ひとまず諦めることにする。

 確かに今日は暖かくって、私までうつらうつらしちゃうような、春の日だ。


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