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人〇しまでは先が長い

 探索者という危険が伴う職業柄、人殺しは珍しいものでは無い。中には懸賞金をかけられ、ギルドのブラックリストに載っている元探索者もいる。


 だけど、俺はまだ人を殺めたことはない。


 それは今後も今のところは変えるつもりは無い。


『でも、さすがに強っ!?』


 バスターソードがやばい。

 直撃を喰らえば普通に腕1本砕けるし、胴体の方にまでヒビが入る。【鉱物吸収】を使って回復はしているが、一撃でやられる可能性がありありだ。


 それに後衛の2人がウザったい。

 バスターソードの前衛を援護するようにホーミング弾のような魔法を使ってくる。大したダメージにはならないのだが、体制を崩される。その隙を逃してくれる相手ではない。


 そして、リーダー格だった大盾とメイスの前衛は恐らく地面を操作することの出来る特質者だ。土壁が草木を掻き分け隆起し、進行方向が制限される。


 いいチームワークだ。上層組と呼ばれるだけの実力を肌で感じられる。


「ミドルゴーレムにしては硬いわよ! どーなってんのよ。それに動きが上層域のゴーレム並よ」

「だが、亜種ってわけでもなさそうだ。……問題ない、後衛2人はそのまま援護に徹してくれ」


『っ、いい加減ほっといてくれよ!!』


 俺は攻撃せず、逃げに徹している。だが、このまま反撃しなければ殺られるのは時間の問題だ。


「エイン! 魔法使え、カバーは俺がする」

「りょーかいっす!!」


 リーダーが大楯を構え、後衛二人の前に立つ。バスターソードを構えたエインと呼ばれた男が一人で前に出てきた。


「ドラゴニックソウル!!」


 その場に風が吹き荒れた。赤い、目に見える風だ。その風がエインが持つバスターソードに集まっていく。


「いっくぜぇ!」


 これは、ダメなやつだ。かかってくる圧力がけた違いだ。マテリアルゴーレムも一撃で粉砕できるだけの威力を持っているのを感じる。

 バスターソードを振り回すことのできるだけの筋力があるのが見てわかるごつい体だったが、今はそれが一層大きく見える。体の大きさでは俺の方が大きいはずなのに、オーラのようなものに圧倒される。


 これがAランク探索者、竜殺しのエインの本気か。


『退路は……断たれてるよな』


 土壁によって後ろにも左右にも逃げ場はない。


 エインは地面を蹴り、一気に俺を攻撃範囲圏内に捉えた。


『【鉱物吸収】!!』


 両手を体の前で盾代わりにしてバスターソードを正面から受け止める。

 ボッコボコに粉砕されるのは覚悟の上だ。その上で【鉱物吸収】による回復に全力を注ぐ。


「おりゃあぁ!!」

『火力高すぎる!!』


 このままじゃ、死ぬ。



『特質能力が確定しました。現在、特質能力として【魂王】【鉱物吸収】を所持しています』

『【魂王】の効果により魔法適正・魂を獲得しました。第1魔法・ソウルチェンジを習得しました』



 ピンチを見兼ねた神様が慈悲をくれたのか、天の声が聞こえた。

 …………分からん!

 結局何が変わったのかが分からないじゃないか。


 壁にしていた腕の半分までバスターソードがめり込み、胴体の方にもヒビが入っている。


 効果は不明だが、一か八か、覚えたての魔法に望みを託すしかない!



『ソウルチェンジ!!』



 少し体力が削られた感覚があった。

 そして、目の前にはゴーレムがいた。


「入れ替わりか!?」

「どうしたエイン!?」


 とりあえず俺の腕の半分くらいまで刺さったバスターソードを抜き、遠くに投げ飛ばす。

 そして、リーダーの構える盾に向かってタックルする。


「くっ、操られたか!? ゴースト系のモンスターはここにいないはずだぞ!?」


 体が徐々に自分の支配下から離れていく感覚がある。ミドルゴーレムの方を見るが動いていない。エインの魂が今どこにあるのは今後のためにも確かめたかったが、その余裕はなさそうだ。


『離れたか』


 体はひび割れたゴーレムに戻っていた。ミドルゴーレムの身体能力よりもエインの身体能力の方が高かったのは驚きを隠せない。Aランク探索者、化け物だ。


『【鉱物吸収】』


 体のヒビを治しながら一目散に逃げる。


「待てっ!! 今は、俺の体かっ!?」

「追うなエイン! 無理に追わなくていい」

「でも!」

「あれは厄ネタみたいなもんだ。こんな中層にいるレベルのモンスターじゃない」


 第1魔法・ソウルチェンジ、その名の通り相手と魂を入れ替える魔法のようだ。


 相手が引いてくれるのは、この上ないことだ。

 エインが俺を追いかけようとするのをリーダーが必死に止めているようだ。その間に逃げさせてもらお。


【鉱物吸収】で完全回復し、俺はとりあえずあのパーティーから離れることだけを目標に全力疾走した。


『ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろ』


 なんとか攻撃せずに逃げきることが出来た。

 人間は殺したくないし、攻撃するのも怖い。いざとなった時にその決断が出来ないのは探索者失格なのだが、Dランクの俺ではそんな決断ができる実力もなかった。


『自己分析』


 《ミドルゴーレム(特質者)》

 身長・変化可能

 体重・変化可能

 魔法適正・魂(第1魔法まで使用可能)

 鉱物ランク・B+

 進化・???(103/250)

 特質能力・【魂王】【鉱物吸収】


『進化先が……減ってるな』


 この前までは???以外の進化先もあったのだが、消えている。これも【魂王】を取得したからだろうか。


 ただ【魂王】っていうのがよく分からない。今まで特質能力だと思っていたものは第1魔法で、今さっき特質能力を得たのだろうか?

 人間の時は特質能力っていう項目に何も無かったし、あること自体この前知ったばかりだ。


『まぁのんびりモンキー狩りするか!』


 第1魔法の射程や制限など試したいこともいくつかあるし、コアも貯めて早く進化してみたい。


『楽しくなってきた!』


 ………ゴーレム姿でスキップすると、周りへの被害がデカいんだな。


 ◇


 数日後、ギルド受付


「新種のゴーレムが出ました」

「上層でですか?」

「いえ、27階の入口で遭遇しました」

「詳細をお願いします」

「姿はミドルゴーレムで、硬度は亜種と同等かそれ以上でした。行動速度がゴーレムとは思えないほど速く、回復手段も持っていました」

「回復手段を持つゴーレムが中層域に現れたんですか!?」

「……それだけではない可能性があります」

「なんですか?」

「短い間でしたが俺らのパーティーのエインと中身が入れ替わりました。本当にそんなことが起きたかは定かではないですが」

「……かなり危険ですね。情報ありがとうございます、すぐにギルド長に報告させていただきます」

「お願いします」


 そんな能力を持ったゴーレムなんて聞いたこともないわ! ゴースト系のモンスターでもこんな能力、持っていないはず。


「ギルド長!」

「何だね慌ただしい」


 やはりこの方は雰囲気がある。多くのコアで強化され寿命も伸びているだろうが、見た目は初老のおじいちゃん。それなのに、上層組と呼ばれる探索者達と変わらない圧力を感じる。


「27階に危険なゴーレムが現れました」

「27階ってことは26階から迷い込んだか。どれどれ」


 報告書を渡すと、段々表情が強ばっていく。


「……こいつぁ、ユニークモンスターだろうな。だが、それにしても強そうだな」


 中層のモンスターが上層組から逃げることができること自体ありえない話だ。それに相手は竜殺しのエインだったというし、普通なら間違いなく瞬殺される。


「こいつに懸賞金をかけろ。早めに狩らせるんだ」

「分かりました」




 エアの知らないところで事態は動き始めていた。

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