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ステラと裸の付き合いをした!

「私も全力でサポートします。何でも申し付けて下さいね、何でもします! そう、何でも……」


 またステラの悪い癖が始まった。俺はすぐさま、話題をそらそうと試みた。


「そ、そんなことより、どんなモンスターなんですか? 戦うのであれば、情報が欲しいです」


「うーん……私にはわかりません。お役に立てなくて申し訳ございません……そうだ、トレリャならご存知かもしれません」


「と、とれりゃ? どなた?」


「トレリャは長である私の補佐官として働いてくれている者です。主に治安維持の任務を任せておりまして、この街の騎士の指揮権も持っています。何かパトロールの騎士から情報を持っているかもしれません。ちょうどこの宴にも来ていますから、お呼びしますね」


 しばらくして、ステラは一人の男性を連れてきた。彼が街長補佐のトレリャらしい。

 短い金髪で、恰幅のいい中年の男だった。補佐官でありながら金色の肩章のついた、ステラよりも豪華そうな服装だった。


「これはこれは小さな勇者様。はじめましてですな。このトレリャ、お力添えできるなら光栄ですな」


「あなたがトレリャさんですか?この街の近くの森にいるっていうモンスターについて教えてほしいです」


「うーむ、はっきりと見た者はおりませんな。しかし森に住んでいる事だけは確かですな。そして、とんでもなく邪悪で、目に見える者全てを食らおうとする恐ろしい化け物ですな」


「もっと他にないのですか?」


「申し訳ございませんが、私とてもこれ以上は……ですな。無駄な犠牲を減らすためにモンスターが出て以来、騎士も森には近づけていません故ですな」


 邪悪だの恐ろしいだの、それくらいのことなら容易に想像できる。もっとモンスターの弱点や習性を聞きたかったものだが。


「勇者様。期待しております、ですな」


「は、はい」


 変わった語尾のせいで調子が狂う。会話のリズムが独特というか何というか。まあ、これから慣れていくしかないだろう。




「ふぅー……」


 宴会が終わり、俺は屋敷の風呂で汗を流すことにした。湯に身を沈め、一息つく。

 縮んだり、勇者になったり、訓練したり、女装したり。異世界生活初日の今日は色んなことがあって疲れた。


「それにしても、いい湯だなあ」


 異世界であるからまともな風呂なんかは期待していなかった俺には、これは嬉しい誤算だった。この街の下には下水道が通っており、現代人の俺でも問題なく生活できた。

 

 街の散策や鍛錬で凝り固まった疲れが、湯の温かさで溶けていく。


 ふと、水面に映る俺の顔に気が付いた。元々の年齢からは考えられないくらい童顔だ。それにつられて改めて自分の身体を見てみると、小さい身長、弱い筋力、威厳もない顔。いろいろ小さくなっている。


「不思議なこともあったもんだな……」


 そもそもこんな異世界に来ていること自体が大きな謎だ。いつかこの謎が解ける日は来るのだろうか。


「ま、悩んでてもしょうがないよな。せっかく来たんだから、この世界を楽しんでいくとするか」


「レイさーん!」


 そこで俺は戸の奥に誰かの気配を感じた。この声は、まさか。


「まさか……まさかっ!?」


「入りますよ!」


 扉が開き、俺の予想通りステラが入ってきた。勿論、風呂に入るのだから服は脱いでいる。目のやり場に困った俺は、慌てて下を向いた。


「な、なんでここに!?」


「私の家だからいいじゃないですか。お背中、お流ししますよ!」


 彼女のスタイルのいい身体を隠すのはバスタオルのような大きく薄い布一枚。それも大きな胸に押し上げられて、身体の形がくっきり強調されている。いや、裸より逆にエロくないか?

 勿論美人の半裸が見られたのはとんでもなく嬉しい。しかし、例えば唐突にものすごい額の大金を目の前に放り出されたら、嬉しさよりも狼狽えたりはしないだろうか。今の俺はそんな感じだったように思う。


「い、いいですよ、お構いなく……」


彼女の横をすり抜けて、何とか風呂場から出ようと試みる。


「何言ってるんですか、あなたは勇者様、この街の希望なんです!さぁさぁ、私に任せてください!」


俺は彼女にぶつかり、ぽよんと押し戻されてしまった。


「は、離してください!」


「暴れないでください……ああもう、かわいいですねぇ!」


 はあはあ言うステラに捕まえられ、じりじり押されていく。相手は女性と言えども、子供の力ではかなわない。

 仕方がない。俺は抵抗をやめた。


「もう……ちょっとは我慢できないのですか……?」


「……わかりました。今回は我慢します」


 ステラの顔がすっと真顔になる。意外にもいう事を聞いてくれたらしい。いきなりなんでだ?


「では、そこに座ってください」


 彼女は椅子に俺を座らせる。石鹸でタオルを泡立てると、優しくマッサージするように俺の背中を洗ってくれた。


「ん、んっ……」


 いかん、気持ち良すぎて変な声が出てしまった。彼女の手つきはマッサージ店の腕前に勝るとも劣らない快感だった。

 ステラの手によって、俺の身体にこびりついた汚れが洗い流されていく。


「凝ってますね。身体の前も如何ですか……? もちろん、変な事はしません」


「ま、前は自分でやります!」


 俺は慌ててタオルを貰う。

 もっとぐいぐい来るのかと思っていたが、彼女は素直に渡してくれた。


「すいません。明日の前に話しておきたいことがあるんです」


「な、なんです?」


 そしてステラは突然こんな事を言いだした。


「ごめんなさい。いきなり召喚して、こんな風に勝手に勇者にしちゃって。さぞかし驚いている事でしょう。身体が小さくなっているのも、私達の未熟な召喚術であなたを呼び寄せたからなのです」


「そうなんですか?」


「はい。召喚術はとても難しい魔法で、成功しても何かがおかしくなったりするんです」


 彼女はうつむいたまま続けた。


「私、罪の意識があったんです。街と人々を救うにはこれがいいと思って、占って、やったことですけれど。結局街の為にあなたを犠牲にしてしまっている。これは長として、果たして正しい事なのかなと、ずっと思っていたんです。だけど、街の事を思うとやっぱり、と思ってしまって……堂々巡りになって……」


 彼女の声は暗く沈んでいる。これは本当にあの、興奮して上ずった声を上げていたステラなのだろうか。もしかして妙に世話焼きっぽかったのは、興奮半分罪悪感半分だったりしたのだろうか。


「……見ず知らずの僕を心配してくれているんですね。ありがとうございます」


 俺は少しだけステラの方を向いた。肩にぽん、と、優しく手を置く。


「そんなことないですよ。こちらこそ装備を買ってもらったりいろいろ教えてくれたりして、感謝しています。それに、これくらいの歳の時の方が体力もありましたしね。絶対にやりとげますよ」


「……! ありがとうございます……!」


 ステラは感極まった声で答えてくれた。


「はい。僕もこの街の人たち、好きになってきましたから!」


 こんな風に誰かに頼りにされたのは久しぶりだ。そして何より、俺を慕ってくれる住民たちの姿は、守りたくさせるのに十分だった。


「それではお礼として、今夜は添い寝マッサージを……」


「それは結構です」


 ……あんた反省してるのか興奮してるのかどっちだ。


危うく一日が終わりそうでした。

外に出ると少し涼しい風が吹いてきました。秋の訪れでしょうか。

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