とうとう女装してしまった!
次の目的地へは、ステラに連れてきてもらった。なんでも彼女が言うには、俺に来てほしいところがあるらしい。
「勇者様、最後にもう一つ、お渡しするものがございます」
「ん? まだあるのですか。何をくださるのですか?」
「今からお渡しするのは防具です! この街の秘術の粋を集めて作った、特製の防具ですよ! 軽くて堅い、最高級品です! すぐそこの服屋に預けてありますので、どうぞお召しください!」
「おお! それは助かります!」
そういえば鍛冶屋でも、武器にかまけすぎてすっかり防御の事を忘れていた。とはいっても盾を買ったところで、剣を使うのにやっとな俺には使いこなせないだろうが。
いったいどんな防具なのだろうか。服屋というからには、軽くて強い魔法の服か何かだろうか。それとも、メタリックでゴツゴツな、スーパーロボットみたいな鎧だろうか。期待に胸を膨らませながら、俺は彼女の言う店にやって来た。
「勇者様、こちらです!」
「……ん? これ……か?」
「はい!」
「……」
そこで差し出されたのは、布の服だった。
ここで俺が疑問に思ったのは、防具と言われたのに鎧ではなく服が出てきたことではない。服屋に行くと 言われた時点でわかっていたことであるし、、ゲームの中のファンタジー世界なら、水着ですら防御力があったはずだ。その辺はたぶん何とかなっているだろう。
問題はデザインだ。水色の長袖のブラウスにリボンタイのついたチェック柄のベスト。下半身にはピンク色のフリルつきスカート。まさに、俺の世界の若々しい女性アイドルが、きらびやかなステージ上で着ているような衣装。デザインが、明らかに女物なのだ!
「え? 私、男ですよ!? こんな……女の子みたいな服を……」
「男でも着られます、大丈夫です! ただの布と侮るなかれ、防御力は折り紙つきですよ!」
「いやそうじゃなくてですね……ていうか、サイズ合うんですか!? 採寸とかしてませんよ!?」
「勇者様は、何を着てもお似合いだと思います! それに、たぶんサイズは大丈夫です!占いで測らせてもらいましたから!」
「あなたたちの占いはそんな事に使うものなのですか!?」
駄目だ、通じない。いくら身体が子供に戻っているとしても、さっきまで二十代だったのは間違いない。抵抗を感じつつもしぶしぶ俺は衣装に袖を通した。
彼女の占いは当たっていたらしい。服は俺から型取りしたかのようにぴっちりとフィットした。
そして鏡に映った自分は、完全に少女の姿と化していた。
「め……めっちゃすーすーする……」
生脚はさすがに不味かろうとニーソックスを履かせてもらったのだが、それでもなお股下から冷ややかな風が脚を登ってくる。野外らしからぬ下半身の解放感だ。世の女性はこんな感覚でいつもいたのだろうかと思う。
「とってもよくお似合いですよ! 女装した少年……ふひひひっ」
心なしか、にやにや笑うステラの息遣いが荒い気がする。頬も紅潮しているし、涎をすする音さえ聞こえる。何よりも、手つきがわきわきとしてなんか怖い。俺の姿を目にしてから、突然様子が変わったようだ。
もしかして、そういう趣味の人だったのか?
俺はひとまず話題をそらすことにした。
「一つ聞くが、これ本当に防具としては優秀なんだろうな?」
「勿論ですよ。試しにやってみましょう」
ステラはすぐそこにあった杖をおもむろに掴むと、野球のバッターのように構えた。
「ちょ、ちょっと、まって」
「せぇーのっ!」
ステラは容赦なく俺の胸に杖をフルスイングした。いきなり何をするんだ……と思ったが、全く痛くない。何か当たったような感覚があるだけだ。
「何も痛くない……す、すごい……」
「すごいでしょう!? 何と言ったって、この街の最高傑作ですから! さっきのオドおばあさんも、これの製作には協力してくれたんですよ! それ以外にも、すごく色んな人がデザインとか、防御力の付与とか、たくさん手伝ってくれて…… みんな、この街の誇りです!」
「は、はい……」
「あとそれを着た勇者様もとっても愛らしくて、この街の新たな誇りになりそうです! ところで、抱きしめて頬ずりして唇を舐めてもいいですか?」
「駄目です」
見た目は問題あるが、性能は本物らしい。かなり複雑な気分だ。
なお、ステラについては結論が出てしまったのでもう諦めていた。
「それでは、次は私の家にご案内します! 勇者様は私が呼んだのですし、泊まって行ってもらって構いませんよ!」
「え……!?」
つまり、このショタコン美女と一つ屋根の下に暮らせという事だろうか。俺は慌てた。
「い、いいですよ。一緒の部屋で寝るなんて、その……」
「おや、同じ部屋の方がいいのですか? 私の家は広いので、いくつか空けようと思えば空けられる部屋もあるのですけれど……もちろん私は同衾でもかまいませんよ! というか、一緒に寝ましょう! よく似合う綺麗なパジャマもありますよ!」
「別室でお願いします」
俺は見た目は子供だが、精神は大人だ。
それにこんな美人の腕の中では、ドキドキして眠れたものじゃないだろう。色々残念だけど。
残暑厳しい日々が続きます。今日は水を持ち出し忘れてかなり苦労しました。




