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魔法が使えるか試してみた!

 文字通り地獄の二時間だった。なんとか訓練が終わった。俺は満身創痍だった。


「はっはっは、筋がいいな。俺から教えられるのはこれで全部だ」


「あ、ありがとう、ございま…」


 基本の姿勢や素振りだけでなく、彼を相手取った軽い模擬戦のようなことまでした。そしてその全てに「構え方が違う!」「相手を見ていない!」「力の入れ方がヘタクソだ!」というような、厳しい指導が入った。カーロフの太い腕から繰り出される攻撃も強く、受け止めた腕のしびれがまだ取れない。もう俺なんかじゃなくてこの人が戦えばいいと思う。

 それにしても、すっかり体力を使い果たしてしまった。足に力が入らない。大の字になって芝生の上に倒れ込み、しばらくは青い空を、流れる白い雲を見上げていた。


「……俺、このやっていけるのかな……」


 それにしても、訓練だけでこんなに疲れていて、本当に大丈夫なのだろうか。


「大丈夫に決まってるだろ」


 俺の心を見透かしたようにカーロフが言った。


「うちの武器はいつだって最高だ。それに、お前は俺の修行に良く耐えたすごい子だ。きちんと使いこなせば、絶対にお前を守ってくれるさ」


 彼は親指を挙げると、にっと笑った。


「……ありがとうございます」


 俺は再び剣を手に取った。鍛錬の成果か、この短剣と出会って二時間ほどしか経っていないにもかかわらず、腕の延長であるかのように手になじむ。太陽を受けきらきら輝くその刀身は、他のどんな武器よりも頼もしい相棒のように思えた。


「これで武器は完璧だ。だけど、もう少し何か欲しいような……」


流れる雲を見ながらぼんやり考えると、ピカンと閃いた。


「そうだ、魔法だ! 魔法、出来るよな!?」


 剣が使えるようになったとはいえ、せっかくファンタジー世界に来たのだから魔法は使ってみたい。


「ええ、魔法。ここでは盛んな技術ですよ。学ぶには不自由しないとは思いますが、ただ、素質が……」


「ほんとか!? 是非とも案内してくれ!」


「は、はい。とにかく行きましょう!」


 ステラの話は再び湧いてきた興奮にかき消されてよく聞こえなかった。魔法が使えるなんて、前の世界ではゲームの中でしかできなかったことだ。


「どうしようかなー、炎とか雷とか出してみたいなー! いや、クールに氷なんかもいいな、暑い時に便利かも! いい感じに呪文を唱えてド派手にドカーンてやるのは、やっぱり少年の永遠の憧れだよな!」


 少年になったとはいえ年甲斐も無く浮かれきった末に案内されたのは、星のマークの看板が出た店だった。ここが魔法の店なのだろうか。

 店内は薄紫の煙が充満していた。ぐうぐつ煮え立つ怪しげな鍋や壁のごとく並ぶぎっしり詰まった本棚、何に使うかわからない瓶や干物と、俺のイメージする魔法屋にぴったりだった。


「……いらっしゃい」


 奥からしわがれ声が聞えた。そこには小さな、フードを被った老婆が座っている。その合間から鷹のように鋭い眼光が俺を捉えた。その迫力に浮かれていた俺はぞわりとして、慌てて背筋を伸ばした。


「オドおばあさん、こんにちは。この勇者様に魔法を教えてあげてほしいのです」


 ステラが老婆に話しかける。どうやら彼女はオドという名前らしい。


「……あれが召喚したっていう勇者かい? 魔法は素質のある者にしか使えない。試しにそこの杖を持ってみな」


 オドは骨ばった手で、壁に立て掛けてあった杖を指さした。何の変哲もない、六〇センチくらいの木製の棒だ。

 俺はとりあえず手に取ってみたが、うんともすんとも言わない。本当にただの木の棒だった。


「ただの木の棒じゃないです?」


「……十分だよ。駄目だね。素質無しだ」


「は!? なんで!?」


「……素質がある者が触るとね、その杖は反応するんだ。貸してごらん」


 しぶしぶ木の棒を渡すと、オドの手に触れた途端に変化があった。杖が寒さに凍えたようにぶるぶる震えはじめたのだ。そして、ぼんやりした淡い光を全体から放ち始める。


「……素質があればこうなるんだ。だけどあんたは何もない。それだけだよ」


「くそっ……」


「勇者様……」


 思わず悪態をついてしまった。ステラが不憫そうな目で見ている。魔法抜きのファンタジー世界なんて飯抜きの炒飯と同レベルじゃないか。一気に楽しみが無くなってしまった気分だ。


「……そういう顔をしなさるな。これを持ってお行き」


「ん……これは……?」


 オドから巾着袋を渡された。とりあえず開けてみると、小さな薬瓶が三本入っている。瓶の中には奇妙な輝きを放つゲル状の物体が詰まっていた。ステラもそれを眺めてくる。


「それは、簡易魔法の瓶ですね」


「かんい……魔法?」


「簡易魔法というのは、素質の無い人でも魔法が使えるように固めた魔力を瓶に詰めたものなんです。このオドおばあさんは簡易魔法の発明者なんですよ。街の特産品です!」


 ステラは誇らしげに説明する。要は使い捨ての魔法の缶詰のようなものらしい。缶ではなく瓶だけど。


「閃光の魔法が一つ、火炎の魔法が二つだ。割れば発動するから、取り扱いには十分気を付けるんだよ」


「ありがとうございます。お代は……」


「……ただでいいよ。始めて見る顔だからね、お試しだ。期待はしてないが、せいぜい頑張んな」


 オドはこちらを見ずに告げる。最初に睨まれた時は驚いたが、意外と優しいようだ。


「あ、ありがとうございます!」


 簡易魔法の瓶と言う収穫を得て、俺達は魔法屋を立ち去った。

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