初めてエルフに出会った!
俺はエレンに引っ張られるまま、再び水の出ない噴水の広場までやって来た。フードをかぶって出て行ったので、俺が失敗した勇者だという事はあまり気付かれてはいないようだ。
その紙芝居は人気のようで、町の子供だけでなく大人もちらほらと見に来ている。その様子はまるで、閑散とした街の通りに突如現れたオアシスだ。
「さーあ、みんな集まって! 紙芝居を始めるよー!」
「いこういこう! そこに座ろうよ!」
帽子をかぶった男が福引き所に置いてあるようなハンドベルを鳴らす。俺とエレンは真ん中の、端っこあたりの方に身を寄せ合って座った。
帽子の男は人が集まったのを確認すると、合図をするかのようにおほんと咳払いをする。
「今回お話するのは、この街に伝わる伝説です! 老いも若きも、この街の者なら知らぬ者はないこの伝説! 今一度、この私めがご紹介いたしましょう! それでは、はじまりはじまり~!」
むかしむかしいにしえのむかし、すごい占い師がおりました。
占い師は気さくでなんでも占い、大体のことは的中させていました。
日に日に彼の名前が高くなっていくそんな中、占い師を疎く思った者たちが、彼を捕えようとします。
絶体絶命の占い師! そこで彼を救ったのは、なんと野生の狼でした。
救われた占い師は自らの力を疎んじ、自分の力を一つの指輪に封じ込めました。狼と共に野を越え山越え、森の中で花を愛でる事にしました。
彼が生涯を終えた後、彼を慕う者たちが集まって、一つの街を作りました。それがここ、星と占いの街なのです。
「彼ほどの力を以てしても、未来を完全に見通すことはできません。しかし、彼はより良い未来のために、この街の礎を作り上げてくれたのです。おしまい」
ぱちぱちぱちぱち、と周りから拍手が起こった。観客のほとんどが笑顔を浮かべている。
「なるほど、なかなかテンポのいい紙芝居だったな」
この街の民ならみんな知っていると帽子男は言ったが、日本出身の俺からすれば当然初耳だった。とはいえ紙芝居なので絵が付いており、わかりやすく歴史を学ぶことができた。
特に気になったのは狼の描き方だった。その絵は勇猛だが、占い師が小さく見えるほどの体躯はどこかおどろおどろしく見えた。
なんとなく、あの狼に似ているような。
「そういえばその占い師なんだが、墓とか残ってたりはするか?」
人々が帰り支度をしている中、俺は帽子男に聞いてみる。
「はい。すぐそこの森に、お墓が残っていますよ。最近は魔物が棲みついてしまったそうですがね」
「やっぱりか……それでお供の狼なんだが、人を襲ったりはするのか?」
「まさか。この狼は偉大な獣だ。人を襲うはずがあるもんか」
しかし、俺にはなんとなく考えがあった。人々が敬う偉大な狼こそ。俺を襲った怪物ではないのか、と。
だとしたら、どうしてあんなに獰猛になったんだ? 俺は考えてみることにした。
しかし。
「むー、考えがまとまらない……」
こういう時は景色でも見て落ち着こう。
人々は去り再び殺風景な広場に戻ってしまったが、このヨーロッパのような街は景色だけは綺麗だ。広場の石畳の隙間から青い花も生えている。なるほど、根性のある花だ。そういえばこの花、どこかで見たような……
「……!」
そうだ。森の中のあの石碑。この花。閃きが電光のように俺の脳裏に迸った。
「ゆうしゃさま、どうしたの!? びくっ、てしてたよ?」
俺を待ってくれていたエレンが駆けより、心配そうに聞いてくる。
「なあエレン。エレンはどんな時に怒る?」
「わたしはそうだなあ、おばあちゃんやお店にどろぼうが来たりしたときかなあ」
「そう。きっと、それだ。……勝てる。勝てるかもしれない!」
俺は太陽に抗うように、ぐっと上を向いた。
「ありがとうエレン。俺は、もう一度戦う!」
「元気、出してくれてよかったよ。いってらっしゃい! ケガ、しないでね!」
エレンを魔法屋まで送り届けてから、必要な準備を済ませる。その後、俺は再び服を着替えた。俺の命を守ってくれた、アイドル服に再び身を包む。
俺は再び酒場にやって来る。もちろん、依頼をもう一度受けるためだ。
すると、何故か酒場が騒がしかった。俺がクエストに出発する時は、もっと静かだったはずなのだが……
「冒険者様が来てくれたのか!?」
「そうらしいぞ! しかも、滅多にお目にかかれない人らしい!」
耳をすませてみれば、どうやら新しい冒険者がやってきているようだ。それを一目見ようと、人々が詰めかけているらしい。俺は小さい身体を活かして、人々の間を抜けて行った。
そこで俺は、はじめてエルフを見た。
尖った耳に、流れるような金髪。冒険者らしい軽鎧に包まれた身体はすらりとしながらも肉付きがよく、しなやかと形容するのがぴったりだ。そして、何より肉付きが良いのは。
「すっげぇ巨乳……」
ステラに勝るとも劣らないたわわな双丘が、これでもかとばかりに存在を主張している。
「おやおや? 私の胸がそんなに珍しい?」
俺の視線はエルフに嗅ぎ取られてしまっていたらしい。いつの間にか彼女が目の前にやって来て、俺を見下ろしていた。
「私はリアネー! エルフの冒険者なんだ! よろしくね!」




